2017.10.12 Thursday
【絵本の紹介】「げんきなマドレーヌ」【188冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは「げんきなマドレーヌ」です。
作・絵:ルドウィッヒ・ベーメルマンス
訳:瀬田貞二
出版社:福音館書店
発行日:1972年11月20日
「パリの、つたの からんだ ある ふるい やしきに」
で始まる、世界中で大人気「マドレーヌ」シリーズの第一作。
内容に入る前に、まずは作者のベーメルマンスさんについて。
ベーメルマンスさんは1898年オーストリアで生まれます。
6歳の時、父親が愛人と駆け落ちします。
この出来事は幼いベーメルマンスさんに少なからぬショックと影響を与えたようですが、かといって彼は父親を恨んでいたわけではなさそうです(後年、再会した父親に支援までしています)。
しかし、母親の故郷ドイツで、ベーメルマンスさんは反抗的で手に負えない子どもとして、周囲を心配させました。
ついには、おじから2つの道を選ぶように宣告されます。
更生施設に入るか、アメリカへ行くか。
ベーメルマンスさんは後者を選びました。
アメリカへ渡ったベーメルマンスさんは、リッツカールトンホテルで働き始めます。
彼はそこで目にするものをスケッチし、風刺の目を磨きました。
やがてアパートの日よけに描いた故郷の風景がメイ・マッシ―という編集者の目に留まり、子どもの本を描くことを薦められます。
そして彼が作った2作目の子どもの本が、この「げんきなマドレーヌ」となり、たちまち大人気となるのです。
パリの寄宿舎に暮らす、12人の女の子の物語。
「2れつになって、パンを たべ」
「2れつになって、はを みがき」
「2れつになって、やすみました」
「なにごとにも おどろかない」先生のミス・クラベルに連れられて、「ふっても、てっても」9時半に散歩に出かけます。
マドレーヌは12人の中で一番のおちびさんですが、活発な女の子。
でも、ある日の真夜中、マドレーヌが起き上がって目を泣きはらしています。
盲腸炎と診断され、救急車で病院に運ばれ、手術を受けます。
十日後、お見舞いに来た寄宿舎の女の子たちが見たものは、「おもちゃに キャンデーに にんぎょうのいえ」。
それに、マドレーヌのお腹の手術の傷。
すっかりマドレーヌが羨ましくなってしまった11人は、寄宿舎に戻ってから、夜中にみんなで、
「もうちょうを きって、ちょうだいよー」
と大声で噓泣きするのでした。
★ ★ ★
絵が最高に素敵です。
表紙のエッフェル塔の他、各場面においてオペラ座やノートルダム寺院、ルーヴル美術館などのパリの名所が美しく描かれています(巻末に解説付き)。
それらと、当時は低く見られていた漫画のシンプルな技法をミックスさせ、多くを語らないリズミカルで詩的な文章で仕上げています。
冗長なセリフを抑制し、短い文と絵のみで必要なことをすべて伝える技術は、絵本としての質そのものに関わってきます。
そしてなおかつ、最も重要で難しい「子どもの目で物語る」ことにも、見事なまでに成功しています。
「われわれは子どものために書いているんです。幼稚な者にではなく」
これは、ベーメルマンスさんが前述の編集者・メイ・マッシ―さんにあてたメモの言葉です。
「マドレーヌ」が世界中の子どもたちに支持されるのも頷けるではありませんか。
最後に、ベーメルマンスさんがホテルでボーイをしていた頃のエピソードを紹介します。
彼はいつものようにメニューの裏側にお客の姿をスケッチしていました。
それは非常に滑稽で風刺的で、おまけにとても本人に似ていました。
ところが、そのメニューを、接客係がお客当人に見せてしまったのです。
お客は怒り、それがまたホテルの一番の上客であったために、ベーメルマンスさんはホテル経営者のケラー氏に呼び出され、こっぴどく罵られます。
しかしケラー氏はその後で、画商の友人2人に例の絵を見せ、
「この子には才能があるかね?」
と尋ねました。
すると2人は口をそろえて、
「あるね」
と答えたそうです。
ケラー氏はベーメルマンスさんを宴会係に配属し、空いている宴会場をスタジオに使って絵を描くことを薦めました。
ベーメルマンスさんは自叙伝で、このケラー氏を「生涯の恩人」であると書いています。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
12人の識別困難度:☆☆☆☆
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