【絵本の紹介】「100万回生きたねこ」【187冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「愛と死」という普遍的なテーマを描いた大ロングセラー「100万回生きたねこ」を紹介します。

作・絵:佐野洋子

出版社:講談社

発行日:1977年10月20日

 

紹介など不要かもしれないくらい有名な絵本です。

 

100万年も しなない ねこが いました

100万回も しんで、100万回も 生きたのです

 

という、印象的なフレーズで始まる物語。

何度でも転生するという形での「永遠の命」を持つねこが主人公。

 

単純計算すると、「100万年」の間に「100万回」も死ぬのだから、ほとんど生後一年以内には死んでることになります。

恐ろしい無限ループ的な死。

もはや強力な呪いをかけられているとしか思えません。

100万人の ひとが」そのねこを可愛がりますが、ねこは必ず飼い主より先に死にます。

老衰で死んだ描写はおばあさんに飼われていた時のみで、基本的には事故死です。

それも、かなり壮絶な。

 

こんな恐ろしい呪いがあるだろうかと戦慄しますが、意外にもねこは「しぬのなんか へいき」なのです。

飼い主たちは一人残らずねこの死を悲しみ、泣きますが、ねこのほうでは飼い主に対する愛着はなく、泣いたこともありませんでした。

 

ある時、ねこは初めて野良猫として転生します。

ねこは誰のものでもない自分が大好きでした。

 

このねこはモテまくりで、ほっといてもめすねこがどんどん寄ってきます。

しかし、誰よりも自分が好きなねこは、誰のことも愛しません。

しかし、そんな中に「たった 1ぴき、ねこに 見むきも しない、白い うつくしい ねこが いました」。

ねこはこの白ねこが気にかかり、「100万回も しんだ」ことを自慢しますが、白ねこはつれない態度。

 

むきになるねこでしたが、やがて自分の中の気持ちに気づき、「そばに いても いいかい」とプロポーズします。

 

やがて二匹の間にはたくさんの子ねこが産まれます。

ねこは、白いねこと子どもたちを、自分よりも大切に感じます。

時は流れ、白いねこは静かに息を引き取ります。

 

初めて経験する喪失。

ねこは動かない妻を抱き、「100万回も」泣きます。

 

そして、そのまま妻の隣で、後を追うようにこの世を去ります。

ねこは もう、けっして 生きかえりませんでした

 

呪いは解けたのです。

 

★      ★      ★

 

たくさんの人たちを感動させた、深い味わいのある絵本です。

「100万回」転生し、そのたびに誰かの飼い猫になるというのは無理があることは佐野さんも承知の上で、「ひゃくまんかい」という言葉の響きを優先させたのでしょう。

あるいは、古典名作「100まんびきのねこ」を意識してのことかもしれません。

 

さて、この作品に関しては色んな人が色んな解釈をしています。

ここでどんな感想を述べたところで今さらかもしれませんが、少しばかり私個人の考察を。

 

どうしてねこは100万年もの間、誰も愛さなかったのでしょう。

ねこの飼い主たちは、あんなにねこを可愛がっていたのに。

 

単に「押されると引きたくなるけど、引かれると押したくなる」性質だから、というだけではない気がします。

考えてみれば、ねこは野良猫として生まれ変わるまで、自分のことすら好きではなかったとも読めます。

 

「自分の生が、自分自身のものである」ことを実感しない間は、自分への愛も生まれない。

ということかもしれません。

 

ねこを可愛がっていた人間たち。

彼らがねこに向けていたものは、本当の愛でしょうか。

自分の心の欠落を埋める存在として、コントロール可能なペットとして、あるいは単純な所有欲の変形としての「愛」だったのかもしれません。

 

本当に誰かを愛するのなら、その相手が自分の生を主体的に生きていけることを願うはずです。

ペットを飼うことと子どもを育てることは全く違うことなのです。

 

ペットを飼ったことのない私が言っても、説得力ないかもしれませんが。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

死亡シーンの多さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「100万回生きたねこ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

〒578−0981

大阪府東大阪市島之内2−12−43

URL:http://ehonizm.com/

E-Mail:book@ehonizm.com

コメント