【絵本の紹介】「キミちゃんとかっぱのはなし」【185冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はちょっと知名度は低いかもしれませんが、五味太郎さんも絶賛しておられる傑作絵本を紹介します。

キミちゃんとかっぱのはなし」です。

作:神沢利子

絵:田畑精一

出版社:ポプラ社

発行日:1977年2月

 

一言で言えば「主人公の少女がかっぱにナンパされる」という、異色のファンタジーです。

 

それだけでも十分に独創的なんですが、作者の神沢さんが凄いのは、舞台や時代設定が限定的であること。

一般に、絵本は息の長いメディアですので、舞台や時代を限定することを避ける傾向があります。

しかし、この物語は「ヨコハマ」と、はっきり場所を特定しています。

 

さらに、キミちゃん一家は、ハシケで荷物の積み下ろしの仕事をする水上生活者として描かれます。

ハシケは「艀」と書き、大型船から荷物の積み下ろしをする小型の運搬船。

もう今ではいなくなってしまいましたが、1960年代くらいまでは、このハシケに住居を構え、職場兼居住空間にしている水上生活者が多くいたそうです。

 

そういう、現代ではなおさら伝わりにくい設定をあえて選んだところに、神沢さんの勇気を感じます。

しかし、そこに登場する現代的(?)かっぱのキャラクターや、キミちゃんとの会話における筆力は圧倒的で、馴染みの薄い設定を生き生きと想像させてくれるのはさすがの一言。

 

田畑さんの絵も秀逸で、特にかっぱの表情、仕草、すべてが神沢さんの文とぴったり融合して、分離不可能にまでなっています。

 

さて、内容を見てみましょう。

 

前述の通り、ハシケの上に住むキミちゃん。

両親が仕事している間は、「ムク」というぬいぐるみの犬を抱いて遊んでいます。

 

そこへ、水中からかっぱが現れます。

かっぱはキミちゃんの気を引こうと、自分の家の自慢をします。

おらの うちには コーヒーも ある。ジュースも ある

パイナップルも、それから、ダイズも、てつの スクラップも あるんだぞ

スクラップを自慢するあたり、男の子です。

 

ハマの かっぱは、キュウリだって ピックルスに して たべるんだぞ

しかしそれらは全部、船から水の中に落ちたもの。

キミちゃんはかっぱの誘いに応じません。

なかなかガードの固い女の子なのです。

 

それからしばらくして、かっぱはまたキミちゃんの前に姿を現します。

今度は貯まったコーヒーでコーヒー屋を出す計画を話し、

キミちゃん きてくれるか

と言います。

するとキミちゃんは、

そうね、エスカレーターの ある コーヒー屋なら いいわ

エスカレーターの ついている コーヒー屋でないと、わたし、ぜったい いかないから

末恐ろしい小悪魔ぶり。

エスカレーターを知らないかっぱは戸惑います。

 

その後、キミちゃんが父親とデパートに行ってエスカレーターに乗っていると……。

人間の恰好をしたかっぱが、一生懸命にすました顔をして、向かいのエスカレーターに乗っているのでした。

 

それから後、キミちゃんはまだかっぱに会っていません。

代わりに、いつか海に落としたぬいぐるみのムクが、本物の犬になって帰ってきました。

 

かっぱはどうしているのか。

きっと、エスカレーターのあるコーヒー屋を作ってキミちゃんに来てもらうために、一生懸命に働いているのかもしれないと、キミちゃんは思うのでした。

 

★      ★      ★

 

かっぱとキミちゃんの会話が素敵。

背伸びして、自分を良く見せたい男の子と、安く見られたくない女の子の駆け引き。

 

キミちゃんに馬鹿にされまいと頑張るかっぱの姿が健気です。

ほのぼのしていて、甘酸っぱくて、ユーモラスで。

これは上質な児童文学だと思います。

もっとたくさんの人に知ってもらいたい。

 

やや文が多めですが、我が家の息子には3歳のころに読み聞かせ、なかなか好印象でした。

最近になってもう一度読んでみると、かっぱが自慢する「アスパラガスの缶詰」がどんなものか食べてみたいと言い出しました。

 

食卓に出してやると、一口食べて夢は壊れたようでした。

次は「ピックルス」に興味があるようです。

結果は見えてますが。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

キミちゃんの小悪魔度:☆☆☆☆☆

 

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