【絵本の紹介】「月おとこ」【183冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

月は古代より神秘の象徴。

様々な影響を地球に与え、月をモチーフにした神話や昔話などは枚挙に暇がありません。

 

月の起源に関しては今のところ、地球から分離して誕生したという説が有力視されています。

してみると、月を仰ぎ見るときに私たちの胸に去来する慕情は、かつて自分たちの一部であり、今は遠く離れてしまった存在に対するノスタルジックな想いが含まれているのかもしれません。

 

今回は秋らしく、月の絵本を紹介しましょう。

トミー・ウンゲラーさんの傑作絵本「月おとこ」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1978年7月10日

 

何やらロマンチックな書き出しをしてしまいましたが、作品自体は少しもロマンチックな内容ではありません。

まことにウンゲラーさんらしい、独創的で滑稽で華やかで、そして狂騒的な物語です。

 

月おとこ」原題は「MOON MAN」。

表紙絵の、何やら顔色の悪い太っちょさんが「月おとこ=ムーンマン」というわけです。

 

この月おとこは、毎晩月に座り込んで地球を見下ろし、そこで踊っている人々を羨ましく思っていました。

いちどでいいから、なかまになりたいなあ

 

ある夜、近くに飛んできた流れ星の尾に掴まって、月おとこは地球に飛来します。

隕石の落下に驚いた人々、警察や消防士、それにさっそく見物人を当て込んだアイスクリーム屋などが集まってきて、月おとこを発見します。

 

役人やら政治家やら科学者やら将軍たちは月おとこを「宇宙からやってきたインベーダー」だと決めつけ、投獄してしまいます。

がっかりする月おとこでしたが、月の満ち欠けと共に身体が瘦せてゆき、鉄格子の隙間から脱出に成功します。

 

晴れて自由の身になった月おとこは、仮装パーティーに紛れ込み、念願のダンスを踊ります。

しかし、気難し屋の通報によって再び追われる身となり、月おとこは森の中の古城に辿り着きます。

 

城の主は、300年も前から月に行くための宇宙船の研究をしていたというマッドサイエンティスト風の博士。

博士は月おとこに、完成した宇宙船の乗客第一号にならないかと誘います。

月おとこも、もう好奇心を満足させたし、地球ではゆっくり暮らせないことがよくわかったので、喜んで宇宙船に乗り込み、月へ帰って行きます。

 

その後、博士は世界に認められ、科学委員会の委員長に選ばれます。

 

★      ★      ★

 

辛辣な風刺画家としても有名なウンゲラーさん。

子どもから見ればただただ楽しい絵本の中にも、大人の目からはちょっとドキリとするような毒気を含ませます。

 

地上に憧れて降臨する月おとこは十分に滑稽ですが、さて、その地上で踊り狂う人々のエキセントリックなこと。

ダンスに興じる紳士婦人、月おとこを一目見ようと集まってくる野次馬、しかつめらしい軍人や役人、科学者、さらには犬に至るまで、地球の住人たちはみんな狂気じみており、作者のシニカルな目が光っています。

こんな狂乱の渦中に迷い込んだ、純真な月おとこに同情せずにはいられません。

 

この月おとこが月の満ち欠けに呼応して痩せたり太ったりするアイディアはとても鮮やかで楽しいものです。

「アンパンマン」シリーズの生みの親であるやなせたかしさんは、この絵本に衝撃を受け、

「ムーンマンのようなキャラクターを描きたい」

と強く思ったそうです。

 

そして誕生したのが「アンパンマン」。

顔が欠けたり新しくなったりする、今では国民的人気キャラクターのルーツは、ウンゲラーさんのこの作品にあったのですね。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

アイスクリーム屋さんのあきんど根性度:☆☆☆☆☆

 

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