【絵本の紹介】「きょうはなんのひ?」【177冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

先日、林明子さんの絵本原画展へ行きました。

 

≫林明子原画展へ行ってきました。

 

林さんの作品の素晴らしさを再確認して帰ってきましたが、今日は彼女の絵本の中でも、最高に幸せになれる一冊を紹介しましょう。

きょうはなんのひ?」です。

作:瀬田貞二

絵:林明子

出版社:福音館書店

発行日:1979年8月10日

 

文は絵本界の重鎮・瀬田貞二先生。

数々の名作絵本の翻訳を手掛け、絵本というものを知り尽くした瀬田さんによる、渾身の物語。

 

日常の中のドラマ、家族間の絆、優しい気持ち……。

それらに、謎解きの要素を加えて練り込んだストーリー。

 

もちろん、林さんの絵の魅力も最大限に発揮されています。

ほら、表紙絵からすでに物語は始まっています。

 

食事中の両親を窺うように、後ろ手に赤い紐のついた包み紙を持ち、こっそり居間を横切る女の子。

続く扉絵では、女の子がその手紙のような包みを、父親の上着のポケットにそっと忍ばせています。

 

そして、まみこという女の子は、

おかあさん、きょうは なんのひだか、しってるの?

と、玄関を出るときに母親に尋ねます。

しーらないの、しらないの、しらなきゃ かいだん 三だんめ

と歌いながら、学校へ行ってしまいます。

 

お母さんが階段を見ると、赤い紐を結んだ手紙(表紙絵でまみこが持っていたものと同じ)が置いてあります。

ケーキのはこをごらんなさい

ここから、謎解きスタート。

これはまみこが仕掛けた一種の「宝探しゲーム」なのです。

お母さんは手紙の指示する場所へ行っては、次の手紙を見つけます。

傘立ての中、まみこの部屋の本棚、庭の池、花瓶……。

中には結構難しい隠し場所もあって、読者も一緒に絵の中の手紙を探すことになります。

 

最後の手紙は、お父さんの上着のポケットの中。

扉絵でまみこが忍ばせていたのはこれだったのですね。

 

お母さんはお父さんに電話して、手紙を読んでもらいます。

夕方、お父さんはバスケットをさげて帰宅。

お母さんとお父さんはまみこの前で、郵便箱に届いていた包みを開きます。

 

すると中には、まみこから両親への素敵なプレゼントが。

 

そして、お父さんからもまみこへプレゼントがありました。

それはバスケットの中の子犬。

まみこは大喜び。

 

そして最後のページで、まみこの手紙の「もうひとつの仕掛け」が明らかにされます。

 

★      ★      ★

 

アイディア・構成・文章の素晴らしさは言うに及ばず、林さんの細部にわたる家の中の描写が、物語にリアリティを吹き込んでいます。

この作品が発行されたのはもう30年以上昔のことですから、描写がリアルである分、時代を感じることもあります。

昼休みに、夫の会社に黒電話で電話を掛ける妻の姿とか。

 

絵を隅々まで見ると、新たな発見や楽しさが生まれてくる作品です。

階段に手紙と一緒に置かれていた犬のぬいぐるみは、まみこの机にあったものです(ちなみに、林さんはこのぬいぐるみも実際に作ったそうです)。

まみこの部屋に落ちている折り紙の切れ端は、きっとプレゼントを作った時に出たものでしょう。

まみこが一番好きな絵本は、「マドレーヌといぬ」で、これも瀬田貞二さんの翻訳による絵本で、一種の遊びですが、前述のぬいぐるみと共に、まみこが犬好きであることを示唆しています。

 

それにしても、まみこの笑顔の反則級の可愛さといったら。

こんな大掛かりなプレゼントを、まみこはきっと両親の喜ぶ顔を思い浮かべながら用意したのでしょう。

子を持つ親としては、思わず涙が出そうになります。

なんていい子。

 

けれど、この話が素晴らしいのは、まみこが自主的に楽しんでこの遊びを仕掛けたことです。

最近、幼稚園や学校で、先生方の指導の下、「両親への感謝の手紙」なんてものを書かせる行事があるそうですが、はっきり言ってそれは違うだろ、と思います。

 

この絵本の素敵な夫婦が最高に幸せな贈り物をもらえるのは、彼らが娘に対し、惜しみない愛情を注いだ結果です。

そしてこの夫婦は、きっと、娘からの見返りなんて何一つ求めていなかったのだと思います。

その証拠に、両親は自分たちの記念日に、娘に対するプレゼントを考えていたのです。

 

互いが互いを思いやる、まさに絵に描いたような幸福な家庭。

時代は変わっても、こんな気持ちは変わらずに続いて行って欲しいと願います。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

まみこの天才度:☆☆☆☆☆

 

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