2017.08.31 Thursday
【絵本の紹介】「なみにきをつけて、シャーリー」【174冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は久しぶりにジョン・バーニンガムさんの絵本を取り上げます。
「なみにきをつけて、シャーリー」です。
作・絵:ジョン・バーニンガム
訳:辺見まさなお
出版社:ほるぷ出版
発行日:1978年9月10日
イギリスを代表する人気絵本作家のバーニンガムさん。
奥さんは同じ絵本作家のヘレン・オクセンバリーさん。
毎回実験的な絵本作りを試みるバーニンガムさん。
この作品でも、変わった趣向を凝らしています。
最初と最後のページを除き、全編が右と左のページで、まったく違う世界を描いているのです。
両親と海へ行ったシャーリーは、海賊と宝を巡っての大冒険を空想します。
両親は浜辺に腰かけ、娘にくどくどと小言を言い続けます。
シャーリーと両親、それに犬が海辺にやってくる冒頭。
「みずが つめたくて とても およげないわよ」
と母親が言っているところを見ると、少々時季外れのようです。
たぶん、シャーリーがどうしても行きたいとねだったんでしょう。
両親は折り畳み式の椅子に腰かけ、新聞を読んだり、編み物をしたり。
シャーリーは波打ち際に立ち、すでに空想の世界へ入り込んでいます。
母親はシャーリーに対し、あれこれ口を出さずにはいられません。
靴を汚さないように、石を投げないように、飲み物はいらないの? 等々。
一方のシャーリーは、すっかり自分の世界に入っています。
シャーリーの想像世界の中では、彼女は犬を連れてボートで海賊船に乗り込み、海賊どもを相手に大立ち回りを繰り広げ、宝の地図を奪って脱出し、ついに宝の島を探し出し、財宝を手に入れるのです。
★ ★ ★
文章の(いい意味での)素っ気なさはいつも通り、というか、母親のセリフのみ。
ですので、読む側が想像力を働かせなければ、この絵本は読めません。
バーニンガムさんは度々こういう手法を用います。
何を言われても上の空のような子どもと、何かを言わずにはおれない親。
誰もが思い当る光景ではないでしょうか。
しかし、バーニンガムさんは何も、シャーリーの両親を「子どもに無理解な、ひどい親」として描いているわけではありません。
ただ、「そういうものだ」ということを、両者の見ている世界の対比によって際立たせているのです。
子どもと大人との間には、こうした「溝」が存在するのだということ。
その「溝」を認識できれば、子どもに対してイライラしたり、「どうしてわからないの!」とキレてしまうことも減るんじゃないでしょうか。
それに、注意深く読んでみると、シャーリーは決して母親を無視しているわけではありません。
母親のセリフが、彼女の空想世界に、何らかの波紋を投げかけています。
「あたらしいくつを きたないタールで よごしちゃだめよ」
と言われると、次のシーンではシャーリーは(現実とは違い)真っ黒な靴を履いています。
「いぬを ぶったりしちゃ だめよ」
と言われると、犬が海賊に噛みつき、活躍します。
「いそがないと おそくなっちゃうわ」
と聞くと、空想世界は真っ暗な夜に変化します。
子どもが、現実と空想の「境界」を漂うように生きるというのは、こういうことでしょう。
親から見れば、全然こちらの話を聞いていないように見える子どもは、こんな形で「聞いている」のです。
だから、「お母さんの話を聞いてるの!?」と怒鳴られると、たいていの子どもは憮然とした表情になるんでしょうね。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆
犬はどこ行ったの度:☆☆☆☆☆
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