2017.08.25 Friday
【絵本の紹介】「リサ ジャングルへいく」【172冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
夏休み=8月31日まで。
と、漠然と思い込んでいたんですが、昨今はそうでもないようで、今日が2学期の始業式という小学校も結構あるみたいですね。
世知辛い世の中ですな。
大人になってしまうと一か月なんてあっという間ですが、子どもにとって一か月以上の夏休みはとても長く、大きな意味を持ちます。
目まぐるしい心身の成長もあり、新学期に久しぶりに会う友達なんて、ほとんど別人のように変化している(実は自分が変化していたり)ような気になるものです。
夏休みが終わってしまう寂しさと、久しぶりに友達に会える嬉しさ、それぞれの休み中の出来事を語り合う楽しさ……。
あの新学期特有の空気は、大人になるともう味わえない種類のものです。
今回紹介するのは大人気「リサとガスパール」シリーズより、「リサ ジャングルへいく」です。
文:アン・グットマン
絵:ゲオルグ・ハレンスレーベン
訳:石津ちひろ
出版社:ブロンズ新社
発行日:2002年11月
夫婦による合作で、世界中で人気を集めている「リサガス」。
以前「リサとガスパールのクリスマス」を紹介しました。
作品ごとにリサ視点・ガスパール視点を入れ替えて語られます。
今回はリサの物語。
新学期。
夏休みどこにも行かなかったリサは、ガスパールがヨットの写真をみんなに見せているのを(「ガスパール うみへいく」のエピソードですね)羨ましく思います。
そこで思わず、「わたしは ジャングルに いったの」と口走ってしまいます。
みんなに注目されて、リサは調子に乗ってホラ話を続けます。
ありませんでしたか、こんなこと?
私はよくありました。
みんなが自分の話を聞いてくれるのが嬉しくて、ついつい話を盛ってしまうという状況。
「嘘だよ」と白状して笑い話にしてしまえば済むのに、幼さゆえにそれができない。
こういうのは、バレないギリギリのラインの見極めが重要なのですが、リサのホラはスケールが大きすぎ。
ジャングルでヒョウの飼育をしているおじさん、高い木のてっぺんにある家、ゴリラの出迎え、ゾウに乗ってのお出かけ。
ワニの背中を渡り、ピラニアのいる湖を越えて、ヒョウの世話をしに行きます。
リサは完全にノリノリですが、こういう時に必ず、聴衆の中に一人、冷静なヤツがいるんですよ……。
突っ込んだのはクラスメイトのバスティアン。
「リサのはなし ぜったいに おかしいよ!」
「ジャングルにいってたわけないさ」
「だって うちのちかくのプールで いつもおよいでたじゃないか!」
ひゃー。
嘘がばれそうになって焦るリサですが、今度は動物園でたくさん証拠写真を撮ろうという、姑息な隠蔽手段を思いつくのでした。
★ ★ ★
キャラクターの可愛らしさが注目される「リサガス」ですが、絵本としての質を問う評論はあまり見かけません。
でも、私は結構好きです。
教訓臭くならないところが、特に。
「嘘は良くないことを、ちゃんと伝えて欲しい」などという親の意見があるかもしれませんが、リサがペナルティを受けたところで、子どもは喜びません。
もちろん、嘘はいけません。
しかし、子どもがちょっとした見栄からポロッとついてしまう嘘を、とことん追求し、逃げ場を奪い、糾弾するようなことは、子どもの成長にとっては決して有益ではないと思います。
どうにかして子どもに「罪の意識」を持たせよう、という教育を行っている人を見かけますが、私はむしろ逆で、どうすれば子どもが「罪の意識」に苛まれずに成長できるか、と考えています。
幼いうちから「罪悪感」を植え付けることは、様々な可能性を摘みかねないと思うからです。
リサは子どもそのものですが、「いい子」ではありません。
そういう子どもの分身体としてのキャラクターの失敗や恥は、子どもにとっては「救い」なのです。
「こういうことをしてしまうのは、自分だけじゃない」と思うことで子どもは「ホッ」とし、そして心を閉ざしたり強張らせたりする危険を回避して、正しく己を見つめ直すきっかけを掴めるのです。
作者はちゃんとそういうことを理解しています。
大人にも受ける可愛らしいキャラクター性はあっても、大人に媚びた絵本ではないのです。
見返しや扉絵にもちゃんと意味があり、絵本の面白さというものをきっちり抑えた良作です。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
リサの即興力度:☆☆☆☆☆
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