【絵本の紹介】「漂流物」【170冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

先日水族館に行った時、次はこの絵本を紹介しようと決めていました。

2007年コールデコット賞受賞作品「漂流物」です。

作・絵:ディヴィッド・ウィーズナー

出版社:BL出版

発行日:2007年5月25日

 

稀代の絵本作家、ウィーズナーさんの作品を取り上げるのは2回目。

 

≫絵本の紹介「セクター7」

 

今作も「セクター7」と絵本作りの手法は同様です。

文は一切ありません。

そして、ただ事じゃない胸の高鳴りを呼び起こしてくれる、果てしない想像力。

細部まで丁寧に描き込まれた、圧倒的な画力によるリアリティ溢れる空想世界。

 

大人が読んでも面白い絵本の代表みたいな作品です。

 

友達と海へ遊びに来ている少年。

彼の興味は泳ぐことよりも、浜辺の生き物を観察することのようです。

 

虫眼鏡や双眼鏡、さらに顕微鏡まで持参している素敵な科学少年。

また何か観察対象を探しに波打ち際へ歩いて行くと、大波が打ち寄せます。

 

波が引くと、そこにはとても年季の入った水中カメラが打ち上げられていました。

中を開けてみると、フィルムが入っています。

好奇心を覚えた少年は、ビーチ周辺のプリントショップでフィルムを現像に出します。

 

このシーンは細かいコマ割りで描かれていますが、上の空の店員や、ちゃんと新しいフィルムを買う少年、店のすぐ外で仕上がりを待つ少年など、必要かつ無駄のない表現がなされています。

そして、出来上がった写真に写っていたのは……。

冒頭の虫眼鏡をのぞくカットもそうですが、この少年の「目」のアップが非常にインパクトがあります。

表紙絵も魚の「目」のアップですし、これはこの作品のひとつのコンセプトだと思います。

さて、写真に写っていたのは、深い海の底の様子。

しかし、それは普通では考えられないような幻想世界の光景だったのです。

 

機械仕掛けの魚。

ソファに座って読み聞かせをするタコ。

気球になったハリセンボン。

亀の甲羅の上にある巻貝の町。

深海に観光(?)に来た宇宙人。

背中が島になっている巨大ヒトデ。

 

次々に写真をめくって行くと、最後に意外な一枚が現れます。

 

アジア人の少女が、一枚の写真を手に、記念撮影風に写っているのです。

少女の手の写真をよく見ると、そこには少年が同じように写真を手に写っている。

その少年が持つ写真には、また別の子どもが。

 

無限に続く合わせ鏡のような写真。

 

少年は虫眼鏡や顕微鏡を使い、さらに写真の奥を覗いて行きます。

世界の様々な国の子どもたちが、写真を手にして写っており、辿り着いた「最初の一人」は、かなり昔の時代の子どものようです。

 

少年は、この写真が、世界の海を漂流し続ける水中カメラを発見した子どもたちの「記念写真リレー」であることに気づきます。

 

友達が帰り始めると、少年は水中カメラを使って自らも記念写真を撮影します。

そして、水中カメラを海に放ります。

カメラはまた海を漂い、様々な不思議な世界を旅し、長い時間をかけて、再びどこかの浜辺に打ち上げられます。

そして、次の子どもがそれを見つけます。

 

★      ★      ★

 

子どもが何かに見入っている時の顔は美しいものです。

この世の成り立ちを知ろうとする、純粋な好奇心。

あくなき探究心。

 

そんな時の子どもの瞳を見て、私は息を呑むことがあります。

あまりにも澄んでいて、神的なものすら連想させられるからです。

 

ウィーズナーさんが描こうとしたのは、この瞳に映し出される、純粋なる探究心ではないでしょうか。

 

推奨年齢:10歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆(テキストなし)

水中カメラの高解像度:☆☆☆☆☆

 

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