2017.08.03 Thursday
【絵本の紹介】「魔術師ガザージ氏の庭で」【166冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は「魔術師ガザージ氏の庭で」を紹介します。
作・絵:クリス・バン・オールスバーグ
訳:辺見まさなお
出版社:ほるぷ出版
発行日:1981年2月15日
オールスバーグさんの絵本を取り上げるのは初めてですね。
彼を知らない方でも、映画化された「ジュマンジ」や「急行『北極号』」ならピンとくるかもしれません。
クリス・バン・オールスバーグさん(現在では『ヴァン・オールズバーグ』と表記されることの方が多いですが、ここではこの作品での表記に従います)は、絵・文、ともに非常に独特な作品を多く発表し、既成の「絵本」の枠組みを越え出て、年齢を特定しない読者層を掴みました。
作品の多くはモノクロームで、陰影やアングルを計算して効果的に使い、一枚一枚のカットが細部まで描き込まれています。
この「魔術師ガザージ氏の庭で」は、オールスバーグさんの処女作であり、発表直後から大変話題を呼んだ作品です。
現在はあすなろ書房から村上春樹さんの翻訳による新版(タイトルも変更され、『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』となっています)が刊行されています。
さて、その内容ですが、とても不思議な気分になる物語です。
アラン少年は、ヘスター嬢に犬のフリッツの面倒を頼まれます。
午後の散歩に出かけたアランは、橋むこうの立札に、
「ぜったいに、どんなわけがあっても、このさきの庭にいぬをいれてはいけない!」
「引退した魔術師アブドゥル・ガザージ」
と記してあるのを見ます。
アランは引き返そうとしますが、フリッツは行儀の悪い犬で、首輪を切って門の中に駆け出してしまいます。
アランは慌ててフリッツを追いかけます。
ここのカットが、実に凄い。
不安を煽るような構図、何かを暗示するようなポーズを取る彫刻。
読者は、否応なしに非日常の門をくぐることになります。
犬を追って彷徨った末に、アランは大邸宅に辿り着き、そこでガザージ氏と対面します。
怪しげな風貌、不気味な佇まいのガザージ氏。
事情を説明し、犬を返してもらえるよう頼むアランを、ガザージ氏は芝生へ案内します。
そこにはひと群れのあひるがいました。
犬が大嫌いだというガザージ氏は、一羽のあひるを示し、
「これがきみのフリッツだよ」
と告げます。
アランはフリッツをもとの姿に戻してもらえるよう頼みますが、ガザージ氏は、この呪文はいつ解けるか自分にもわからない、と冷たく突き放します。
悲しみのうちに、あひるに変えられたフリッツを抱いて帰路につくアラン。
その途中、あひるのフリッツは、アランの帽子をくわえて飛び去ってしまいます。
重い気持ちでヘスター嬢の家に戻ると、アランはヘスター嬢に今日の出来事を打ち明けます。
すると、台所から犬の姿のフリッツが現れます。
驚くアランに、ヘスター嬢は笑いながら、あなたはガザージ氏にまんまと騙されたのだと言います。
アランは馬鹿馬鹿しいやら悔しいやらで、二度とこんな騙され方はしないぞ、と決心して、自分の家に帰って行きました。
しかし、その後でフリッツが口にくわえていたのは……。
★ ★ ★
オールスバーグさんの作品内容の特徴として、結末がはっきりしない「オープンエンド」であることが挙げられます。
それが、前述の絵の効果と相まって、現実と幻想の境界が曖昧な、それでいて怪しい美しさのある独自世界を構築しています。
アランはガザージ氏の庭の門を通り抜けた時に、足場のしっかりした現実世界から、不思議で不気味な幻想世界へ迷い込んでしまいます。
そこでガザージ氏に出会い、魔法をかけられたような気分になるのは、読者も同じです。
元の姿のフリッツを見て、見知った現実に帰って来たのだと、アランとともに読者も安心します。
しかし実はガザージ氏の魔法は、この日常世界に小さな「ひずみ」を残していることを、ラストシーンは暗示しています。
この落ち着かなさは、読者の心そのものに奇妙な爪痕を残します。
そしてその「魔法」の正体は、計算され尽くした絵の力であり、この絵本の作者こそが「魔術師」であることに気づかされるのです。
推奨年齢:8歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
魔術的絵度:☆☆☆☆☆
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