2016.10.24 Monday
絵本の紹介「かいじゅうたちのいるところ」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はモーリス・センダックさんの最高傑作との呼び名も高い、「かいじゅうたちのいるところ」を紹介します。
コールデコット賞という、絵本界では最高の賞を受賞している作品です。
ある日、いたずらが過ぎたマックスという男の子は、お母さんに夕ご飯抜きで寝室へ放り込まれてしまいます。
すると、寝室がたちまちのうちに大きな木の生え茂る森に変貌します(この間、だんだんページにおける絵の比率が大きくなっていくことに注目)。
マックスは船に乗り、「1しゅうかんすぎ、2しゅうかんすぎ、ひとつき ふたつき ひが たって、1ねんと 1にち こうかいすると」「かいじゅうたちの いるところ」に到着します。
このかいじゅうたちの描写がなんとも独創的で秀逸です。
子どもが怖がるのでは……と心配になるほどの迫力。
「すごい こえで うおーっと ほえて」
「すごい はを がちがち ならして」
「すごい めだまを ぎょろぎょろ させて」
「すごい つめを むきだ」すのですから。
しかし、マックスは「かいじゅうならしの まほう」で、かいじゅうたちをあっさり服従させてしまいます。
そしてここから、見開き3連続による、文章のない絵のみのシーンが展開されます。
センダックさんはいつもクラシック音楽を鑑賞しながら創作に向かうそうです。
そのせいか、彼の作品のバックグラウンドには、いつも音楽的な躍動感が流れています。
このシーンも、読み聞かせる側にしてみれば、「どうすりゃいいの?」と困惑するところですが、子どもは絵本の中で流れているはずの音楽を、お祭り騒ぎを、しっかりと感じています。
子どもと一緒に歌うもよし、楽器を鳴らすもよし、踊るもよし。
子どもだけが持つ、原始的な感情のカタルシスは、言葉では表現できません。
踊り、歌い、リズムに乗り、体全体、五感のすべてを使って感情を発散させるのです。
やがて、感情を吐き出しつくしたマックスは、急にさびしくなって、「やさしい だれかさんの ところへ」帰りたくなります。
それで、引き留めようと懇願するかいじゅうたちを残して、マックスは船に乗ります。
これは重要なことですが、この世界ではマックスが完全に主導権を握っているのです。
だから、絵本を読む子どもたちも、かいじゅうたちを恐れる必要がないのです。
空想の世界から寝室に戻ったマックスの、この憑き物が落ちたような顔。
「かいじゅうたち」は、子ども自身の、制御できない恐ろしい衝動的な感情であり、それを手なずける手段は、空想力です。
「もりのなか」の紹介文でも触れましたが、子どもは現実と空想の世界を自在に行き来しますが、それは子どもが成熟するために、必要不可欠の能力なのです。
真の意味での「現実」は、「空想」に支えられて初めて生きた姿を見せます。
現実は空想を生み、空想は現実の理解を助けます。
大半の大人が言う「現実」は、そういう意味では片手落ちなのです。
子どもの空想とは、何でもありのカオスではありません。
そこには厳然たるルールが存在します。
それは、子ども同士の真剣な遊びを見ていればわかることです。
「かいじゅうたちのいるところ」は、そうした子どもにとっての空想、ファンタジーというものを、センダックさんが率直で先入観のない目でとらえ、描いた傑作です。
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