【絵本の紹介】「シオドアとものいうきのこ」【151冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本でも人気の高い絵本作家、レオ・レオニさんの作品を紹介します。

シオドアとものいうきのこ」です。

作・絵:レオ・レオニ

出版社:ペンギン社

発行日:1977年9月

 

レオニさんの人物や来歴については、以前「スイミー」の紹介記事で取り上げましたので、そちらもどうぞ。

 

≫絵本の紹介「スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし」

 

さて、レオニさんと言えば上記の「スイミー」や、詩人ねずみの「フレデリック」が特に有名です。

それらに比べれば、この「シオドアとものいうきのこ」は、知名度はやや低いかもしれません。

 

しかし、コラージュ(切り絵)による立体的で美しいイラストや、鮮やかな色彩に加えて、なんとも解釈しづらい、咀嚼しきれない内容など、個人的にとても気になる一冊なのです。

 

(少なくとも表面上は)単純で受け入れやすい「スイミー」の物語に対し、この作品はどこか暗く、後味が悪く、一般受けしにくいと言えます。

「スイミー」を音楽CDのA面とすれば、「シオドアとものいうきのこ」はB面です。

アーティストの、より個人的な方向性や嗜好は往々にしてB面に現れるものです。

その意味で、この「B面」絵本はレオ・レオニという作家を知る上で重要な位置を占めているのではないかと思います。

 

では、内容をざっと紹介しましょう。

 

ねずみのシオドアは、「とかげ」「かえる」「かめ」と一緒に、古い切り株に住んでいます。

仲間たちはそれぞれの特技を自慢しますが、臆病者のシオドアは逃げることしか取柄がありません。

そんな彼を、仲間たちは馬鹿にして笑います。

 

ある日のこと、シオドアは「はちがつの そらのように」青いきのこを見つけます。

すると、なんとそのきのこは「クィルプ」と、謎の言葉を発します。

シオドアは驚きますが、どうやらきのこは喋っているわけではなく、単に「クィルプ」と発声するだけだと気づきます。

 

そこでシオドアにある考えが浮かびます。

彼は仲間のところへ行って、こう言います。

ぼくは ものいうきのこを みつけた。せかいに ただひとつしか ないんだ。それは しんりの きのこで、ぼくは そのことばが わかるように なった

 

シオドアは仲間をきのこのところへ案内し、「きのこよ かたれ!」と命令します。

クィルプ

呆然とする仲間たちに、シオドアはきのこの言葉を通訳します。

すべての どうぶつの なかで ねずみが いちばん えらいって いみさ

噂は広まり、シオドアは遠くの動物たちからも、王様のように崇められます。

 

すっかりいい気になっていたシオドアですが、仲間たちと遠出をしたとき、破局が訪れます。

丘を越えた先の谷間に、何百もの青いきのこが生えていたのです。

クィルプ」の大合唱。

仲間たちは騙されていたことに気づき、シオドアを口々に罵ります。

うそつき!

いんちき!

にせもの!

 

シオドアは逃げ出し、その後、仲間たちは二度と彼の姿を見なかったのでした。

 

★      ★      ★

 

常に深いメッセージが込められたレオニさんの絵本。

しかし、この作品に関しては、「嘘はいけない」という、わりとわかりやすいテーマが扱われている……という書評を見かけますが、私はそうは思いません。

 

「あの」レオニさんが、そんな単純な道徳めいた話を書くはずがない。

私は何度もこの絵本を読み返し、そのたびにどこか釈然としないものを感じ、モヤモヤしていました。

 

その理由は、「この絵本には、良い人物(動物)が一人も登場しない」からです。

確かにシオドアは一種の詐欺行為を働きましたが、もとはと言えば仲間たちがシオドアを馬鹿にし、嘲笑したことがきっかけです。

 

シオドアの嘘は、「自分をよく見せたい」という他愛のない欲求から生まれたものです。

誰かを傷つけようという種類の悪質さはありません。

 

が、シオドアの仲間たちは、シオドア以上に醜悪です。

あれほどシオドアを馬鹿にしていたのに、「ものいうきのこ」という「未知の権威」を前にすると、途端に態度を翻し、シオドアを王様扱い。

しかし、ひとたび嘘が明るみに出るや、またも態度を豹変させ、凄まじいまでの集中バッシングを浴びせかけるのです。

 

なんだか、現代社会でも見かけるような光景ですね。

 

「小さな嘘が大きな破滅を呼ぶ怖さ」という、「表向きのテーマ」の裏に隠されているのは、この「大衆」的な愚かさや醜さではないでしょうか。

 

レオニさんは意図的にこの作品を「二重底」構造にしたのではないでしょうか。

彼なら、十分にありうると思います。

 

もちろん、これは私の個人的な見方です。

それに、まだまだこの物語には三重・四重の深みがあるような気もするのです。

 

私がそう思う一番の理由は、あの美しい青いきのこの存在です。

この物語では単にシオドアの権威のための道具として扱われていますが、真相はどうなのでしょう。

実は、あのきのこは本当に「真理を語るきのこ」だったのかもしれません。

だとすると、「クィルプ」の意味は……?

 

などなど、どこまでも想像力を刺激してくれる絵本なのです。

 

ちなみに、ここで紹介したのはペンギン社出版のものですが、現在は好学社から新装版が刊行されています。

訳は谷川さんのもので変わりはありませんが、「クィルプ」がより珍妙なレタリングになってます(そして、価格が1.5倍に跳ね上がっております)。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

きのこの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「シオドアとものいうきのこ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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