【絵本の紹介】「しょうぼうじどうしゃ じぷた」【147冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、久しぶりに山本忠敬さんの乗り物絵本を紹介しましょう。

山本さん作品の中でも人気の高い、「しょうぼうじどうしゃ じぷた」です。

作:渡辺茂男

絵:山本忠敬

出版社:福音館書店

発行日:1966年6月10日(こどものとも傑作集)

 

山本さんの、写実的でありながら血の通った乗り物絵については、過去いくつかの紹介記事の中で触れていますので、ここでは省略。

 

≫絵本の紹介「とらっくとらっくとらっく」

≫絵本の紹介「のろまなローラー」

≫絵本の紹介「ひこうじょうのじどうしゃ」

 

とらっくとらっくとらっく」と同じく、渡辺茂男さんとの名タッグを組んでの今作。

乗り物そのものへの深い憧憬や慕情はそのままに、今回はよりストーリー性も重視した作品になっています。

 

主人公の「じぷた」は、古いジープを改良した小型の消防車です。

小さくても、ポンプもサイレンもついた、高性能の消防車です。

しかし、誰もじぷたのことを気にかけません。

 

同じ消防署の、はしご車の「のっぽくん」や、高圧車の「ぱんぷくん」や、救急車の「いちもくさん」は、大きな火事の時には勇ましく活躍し、町の子どもたちからも大人気なのに。

じぷたはひそかに、

ぼくだって、おおきな ビルの かじが けせるんだぞ!

と思っていますが、そういう大火事のときには自分には出動命令が出ないのです。

 

じぷたはのっぽくんの背の高いはしごや、ぱんぷくんの力の強いポンプなどを羨ましく思い、劣等感で悲しい気持ちになっていました。

そんな時、ついにじぷたにも活躍の時が巡ってきます。

山小屋で火災があり、放っておくと山火事になりそうとの電話が。

署長さんは狭い道でも走れるじぷたが適任と見て、出動命令を下します。

何しろジープですから、山道は得意。

すぐに現場に駆け付け、山火事を消し止めます。

 

その活躍が新聞に載り、それからはみんながじぷたに一目置くようになります。

 

★      ★      ★

 

ジープを改良した消防自動車は、1950年代には実際に活躍していたそうです。

当時はまだ、戦後で未舗装のでこぼこ道が多かったのですね。

 

しかし、この絵本が発表された1960年代には、じぷたのような消防車は、すでに姿を消しつつあったようです。

が、近年になってから、震災対策などの視点から、再び小型消防車が見直されつつあります。

 

小さいことで周囲から軽く見られ、悔しい思いをするじぷたが、ある日ついにスポットライトを浴び、大活躍をして認められる。

この話型は絵本における王道のひとつですが、それだけに、いつの時代も子どもたちから支持されるタイプのストーリーだということです。

 

子どもはどんなに幼くても、ちゃんと自尊心を持っています。

しかしそれは人生経験不足ゆえに脆弱で、ナイーブな感情です。

 

大人は(特に教育に携わる人間は)、このことをよく理解する必要があります。

本人はそのつもりがなくとも、何気ない言動のひとつひとつが、小さな自尊心を傷つけているかもしれません。

 

人前で失敗を叱る。

幼さゆえの間違いを笑う(可愛いのはわかりますが)。

あんたは小さいんだから

どうせできないんだから

だから無理って言ったでしょ

等々の言葉。

 

何故わざわざ、伸びる芽を摘むようなことを繰り返すのでしょう。

その一方で、「やればできる!」と、見当違いの激励を浴びせる。

こういう大人を見ていると、潜在的には「子どもの成長」を望んでいないのではないかとさえ疑いたくなります。

 

子どもが求めているものは大人から「敬意を示される」ことです。

上から目線ではなく、対等な存在として認められる経験です。

その経験が、その後の人生に大きな影響を及ぼします。

子どもは無意識的であれ、そのことを知っているし、だからこそその経験を渇望しているのです。

 

そしてもちろん、大人にだって、じぷたの気持ちがわからないはずはないのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

のりもの以外の絵柄の変遷度:☆☆☆

 

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