2017.06.29 Thursday
【絵本の紹介】「しょうぼうじどうしゃ じぷた」【147冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は、久しぶりに山本忠敬さんの乗り物絵本を紹介しましょう。
山本さん作品の中でも人気の高い、「しょうぼうじどうしゃ じぷた」です。
作:渡辺茂男
絵:山本忠敬
出版社:福音館書店
発行日:1966年6月10日(こどものとも傑作集)
山本さんの、写実的でありながら血の通った乗り物絵については、過去いくつかの紹介記事の中で触れていますので、ここでは省略。
「とらっくとらっくとらっく」と同じく、渡辺茂男さんとの名タッグを組んでの今作。
乗り物そのものへの深い憧憬や慕情はそのままに、今回はよりストーリー性も重視した作品になっています。
主人公の「じぷた」は、古いジープを改良した小型の消防車です。
小さくても、ポンプもサイレンもついた、高性能の消防車です。
しかし、誰もじぷたのことを気にかけません。
同じ消防署の、はしご車の「のっぽくん」や、高圧車の「ぱんぷくん」や、救急車の「いちもくさん」は、大きな火事の時には勇ましく活躍し、町の子どもたちからも大人気なのに。
じぷたはひそかに、
「ぼくだって、おおきな ビルの かじが けせるんだぞ!」
と思っていますが、そういう大火事のときには自分には出動命令が出ないのです。
じぷたはのっぽくんの背の高いはしごや、ぱんぷくんの力の強いポンプなどを羨ましく思い、劣等感で悲しい気持ちになっていました。
そんな時、ついにじぷたにも活躍の時が巡ってきます。
山小屋で火災があり、放っておくと山火事になりそうとの電話が。
署長さんは狭い道でも走れるじぷたが適任と見て、出動命令を下します。
何しろジープですから、山道は得意。
すぐに現場に駆け付け、山火事を消し止めます。
その活躍が新聞に載り、それからはみんながじぷたに一目置くようになります。
★ ★ ★
ジープを改良した消防自動車は、1950年代には実際に活躍していたそうです。
当時はまだ、戦後で未舗装のでこぼこ道が多かったのですね。
しかし、この絵本が発表された1960年代には、じぷたのような消防車は、すでに姿を消しつつあったようです。
が、近年になってから、震災対策などの視点から、再び小型消防車が見直されつつあります。
小さいことで周囲から軽く見られ、悔しい思いをするじぷたが、ある日ついにスポットライトを浴び、大活躍をして認められる。
この話型は絵本における王道のひとつですが、それだけに、いつの時代も子どもたちから支持されるタイプのストーリーだということです。
子どもはどんなに幼くても、ちゃんと自尊心を持っています。
しかしそれは人生経験不足ゆえに脆弱で、ナイーブな感情です。
大人は(特に教育に携わる人間は)、このことをよく理解する必要があります。
本人はそのつもりがなくとも、何気ない言動のひとつひとつが、小さな自尊心を傷つけているかもしれません。
人前で失敗を叱る。
幼さゆえの間違いを笑う(可愛いのはわかりますが)。
「あんたは小さいんだから」
「どうせできないんだから」
「だから無理って言ったでしょ」
等々の言葉。
何故わざわざ、伸びる芽を摘むようなことを繰り返すのでしょう。
その一方で、「やればできる!」と、見当違いの激励を浴びせる。
こういう大人を見ていると、潜在的には「子どもの成長」を望んでいないのではないかとさえ疑いたくなります。
子どもが求めているものは大人から「敬意を示される」ことです。
上から目線ではなく、対等な存在として認められる経験です。
その経験が、その後の人生に大きな影響を及ぼします。
子どもは無意識的であれ、そのことを知っているし、だからこそその経験を渇望しているのです。
そしてもちろん、大人にだって、じぷたの気持ちがわからないはずはないのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
のりもの以外の絵柄の変遷度:☆☆☆
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