【絵本の紹介】「へびのクリクター」【146冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「へびのクリクター」です。

作・絵:トミー・アンゲラー

訳:中野完二

出版社:文化出版局

発行日:1974年3月20日

 

すてきな3にんぐみ」で有名なトミー・アンゲラーさんの、こちらも人気のロングセラー絵本です。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

以前の記事にも書きましたが、アンゲラーさんという作家は、非常に鋭いセンスの持ち主です。

「すてきな3にんぐみ」では、赤と黒、それに暗い青を実に効果的に用い、色彩的に非常に目を引く作品に仕上げましたが、この「へびのクリクター」では強烈な色を使わず、むしろ落ち着いた薄いグリーンを基調に選んでいます。

そして、テキストはやや多めです。

 

もちろん「センスの塊」アンゲラーさんのことですから、多いと言っても冗長さは皆無で、表面的な無駄の一切を省いた、洗練された文章になっています。

 

むかし、フランスの ある ちいさな まちに、ルイーズ・ボドと いう なまえの ふじんが すんでいました

ボドさんには、ブラジルで はちゅうるいを けんきゅうして いる ひとりむすこが いました

 

たったこれだけの導入部で、なんと想像を膨らませてくれる文章でしょう。

そして、絵も文と同じく、無駄なく、必要なものを語っています。

 

いかにもフランスの上品で知的な貴婦人という佇まいのボド夫人。

写真立てには夫の写真が飾ってあり、おそらく夫はすでに亡くなっていることが想像できます。

また、一人息子はブラジルで爬虫類の研究をしているわけですから、ボドさんは一人で暮らしているのでしょう。

 

この見た目も風変りな息子が、ボドさんの誕生日に、郵便でなんと蛇を贈ってきたのです。

一人で寂しい思いをしているであろう母親に、ペットをプレゼントしようという、変わってはいるけど優しい息子のようです。

 

けれど、ボドさんは何しろ貴婦人ですから、蛇を見たとたん、金切り声を上げます。

当然の反応ですね。

その後で、ボドさんは動物園へ行って、「どくへびか どうかを たしかめ」ます(まあ、普通は毒蛇を送りつけるなんてアサシンみたいな真似はしないでしょうが、何しろ変わった息子ですからね)。

 

毒蛇でないことがわかったので、ボドさんは蛇に「クリクター」という名前を付けて、ペットとして飼います。

ボドさんは子どものようにクリクターを大切に可愛がります。

クリクターのためにヤシの木を何本も買い、専用の長いセーターを編み、長いベッドを用意してくれます。

 

クリクターは大事にされて、幸せに成長します。

学校の先生であるボドさんは、クリクターを学校へ連れて行きます。

クリクターは自分の身体を使ってアルファベットや数字を覚え、子どもたちと楽しく遊び、人気者になります。

 

ある夜、ボドさんの屋敷に泥棒が侵入すると、クリクターは勇ましく戦って主人を危機から救います。

その活躍が認められ、クリクターは勲章をもらい、銅像を建てられ、町には「クリクター公園」が造られます。

 

まちじゅうから あいされ、そんけいされて、クリクターは ながく しあわせに くらしました

 

★      ★      ★

 

「すてきな3にんぐみ」では強盗、そしてこの作品では蛇。

アンゲラーさんは、自分の絵本にちょっと変わった主人公を据えます。

 

しかし、一体どんな蛇かと思って読むと、これが実にいい子なんですね。

賢いし、親切だし、勇敢だし。

 

そんなクリクターが活躍し、愛され、尊敬され、幸せになる。

これ以上ないハッピーエンドの絵本です。

 

しかし、この作品で最も重要なのはクリクターの母親役であるボドさんの存在です。

おそらく、アンゲラーさんが子どもたちに伝えたかったことは、ボドさんの「知性的な振る舞い」ではないでしょうか。

 

上品で育ちの良さそうな婦人であるボドさんは、最初こそクリクターに驚きますが、そこで偏見や差別に囚われることなく、「どくへびか どうか」を確認するという、実にもっともな行為に出ます。

で、毒さえなければ、「蛇である」ことは問題にしないんですね。

もちろん、愛する息子のプレゼントだから、ということもあるでしょうが、この偏見のなさが素晴らしい。

 

真の知性は、偏見や差別思想とは無縁なのです。

 

大事なのは中身であり、評価されるべきは知性・優しさ・勇気といった、人間的美徳なのだということを、アンゲラーさんは子どもたちへ向けて発信しています。

 

アンゲラーさんと言えば、いわゆるエロ・グロな、辛辣な風刺絵を描くことでも知られています。

しかしその対象となるのはいつでも、上流階級やマジョリティーであり、反対に社会的な弱者や子どもたちへ向ける視線は、この絵本のように、限りなく優しいものです。

 

挑発的で、反抗的で、シニカル。

そんなアンゲラーさんだからこそ、その優しさは弱々しいものではなく、「筋金入り」とでも言うべき、本物の真心を感じるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

クリクターの万能度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「へびのクリクター

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