2017.06.26 Monday
【絵本の紹介】「まよなかのだいどころ」【145冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はモーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を取り上げます。
作・絵:モーリス・センダック
訳:神宮輝夫
出版社:冨山房
発行日:1982年9月20日
20世紀を代表する絵本作家、モーリス・センダックさんと言えば「かいじゅうたちのいるところ」が真っ先に挙げられますが、もちろん、それ以外の作品もそれぞれに魅力的です。
センダックさんはわりと作品ごとに手法を変えるタイプの作家で、この「まよなかのだいどころ」では、フェルトペンによるはっきりとした線と色彩を用い、フキダシやコマ割りなどのコミック的スタイルを採用しています。
瓶・缶・牛乳パック・ポットなどを模したビルが建ち並ぶ夜の街並みは、未来的でありながらどこかレトロな香りが漂います(たぶん、日本語訳の看板のせいでしょうけど)。
そして内容が、かなり難解です。
いや、単純と言えば単純なんですが、「かいじゅうたちのいるところ」でセンダックさんのファンになった多くの方にとっては、この作品にはかなりの違和感を覚えるのではないでしょうか。
ともかく、一度読んでみましょう。
主人公・ミッキーがベッドで寝ていると、どこからか騒がしい音が聞こえてきます。
「うるさいぞ しずかにしろ!」
と怒鳴ったら、突然「くらやみにおっこちて、はだかになっちゃって」、3人の太ったパン職人たちがケーキを焼いている「まよなかのだいどころ」に落っこちます。
職人たちはボウルに落ちてきたミッキーをねりこと一緒に混ぜてオーブンへ。
「ミッキー」と「ミルク」を間違えたという、かなり無茶な展開。
「ミルクがないと、あさのケーキが つくれない!」
と慌てる職人に、ミッキーは、
「あまのがわには ミルクがいっぱい」
と、ねりこで作った飛行機に乗って、夜空へ飛び立ちます。
「あまのがわ」(Milky Way)と言ったけれど、ミッキーが向かった先は、巨大なミルク瓶。
ミッキーが取ってきたミルクで無事にケーキは焼き上がり、ミッキーは夜明けとともにベッドへ戻ります。
「ミッキー、どうも ありがとう。これで すっかり わかったよ」
「ぼくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけが」
という、さっぱりわけのわからないナレーションで終わります。
★ ★ ★
私自身がこれを初読したときの感想を率直に申し上げると、
「なんか、気持ち悪い」
でした。
まず3人の太ったパン屋さんが不気味だし、ミッキーが彼らにケーキにされてしまう図は、ほとんどホラーです。
それなのに、登場人物すべてがやたら陽気に、ミュージカル風に(センダックさんの作品はどれもそうなんですが)歌い上げる様子は、どこか観客である読者を置いてけぼりにした自己満足の学芸会じみています。
確かにここには「狂気」が存在しています。
センダックさんは「子どもの狂気」を「想像力」によって制御するという形式の物語を好んで選ぶようです。
その構図は「かいじゅうたちのいるところ」においては大変な成功を収めています。
翻って、この「まよなかのだいどころ」では、どうしても「かいじゅうたち」に比較して落差を感じずにはいられません。
その理由は、「かいじゅうたち」が、ある種普遍的な子どもの衝動(親に対する怒り)を描いているのに対し、この「まよなかのだいどころ」は、より作者自身の個人的な物語だからという気がします。
センダックさんは子どものころ、「みなさんが寝ている間に焼き上げます!」というパン屋の広告を見て、それをどうにかして起きて見てやりたいという想いを抱いたそうです。
つまりこれは、「真夜中」という、子どもにとっての憧れや好奇心の入り混じった時間に行われている「秘密」をのぞき見たいという願望から生まれた作品なのです。
そう考えれば、特に難解な主題とは言えないでしょう。
それを見えにくくし、この単純な作品を難解に見せているのは、やっぱり絵のインパクトのせいでしょう。
この作品を発表した当時、主人公の男の子が服を着ていないことに対し、いわゆる「良識派」の大人たちからクレームが殺到したそうです。
しかし、そういう不自由な見方を取り払えば、この作品と「かいじゅうたちのいるところ」は、本質的に同様のテーマを取り扱っていることに気づきます。
センダックさん自身はこの作品を気に入っているようで、その証拠に、主人公の名前を、彼の大好きな「ミッキーマウス」から取っています。
(余談ですが、センダックさんは作品の主人公の多くに、自分と同じ『M』の頭文字の名前を付けています。彼の作品を手に取る際は、気を配って見てください)。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
街並みの楽しさ度:☆☆☆☆
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