2017.06.22 Thursday
【絵本の紹介】「ふしぎなえ」【143冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は安野光雅さんの代表作「ふしぎなえ」を紹介します。
作・絵:安野光雅
出版社:福音館書店
発行日:1971年3月1日
毎回、やさしいタッチの絵でありながら知性を刺激する実験的な絵本を手掛ける安野さん。
この作品は氏が美術教員を退職して初めて発表したデビュー作にして、海外でも話題を呼んだ一冊です。
全編通して文字はなく、タイトル通りの「不思議な絵」が並ぶ画集のような絵本。
いわゆる「不可能図形」で描かれた奇妙な世界を、おなじみの小人たちが動き回ります。
表紙は平面なはずのレンガを階段にして上る小人たち。
そして裏表紙はタイトルも含めて表紙を反転させたものになっており、鏡を使って見ると子どもは喜びます。
上っても上っても、元のフロアに戻ってしまう階段。
どっちが下かわからなくなる建築物。
下から上へ流れる川の水。
などなど、まるで次々に目の前で手品を操られているよう。
だまし絵の画家と言えばエッシャーが有名ですが、安野さんはエッシャーの絵に魅了されてこの作品を作ったのだそうです。
こういう絵は緻密な計算がなければ描けないもので、数学分野にも造詣の深い安野さんならではの作品と言えるでしょう。
「ペンローズの階段」や「ネッカーの立方体」といった代表的な不可能図形の概念を絵本の世界に持ち込んだ安野さん。
これらはいわゆる人間の「目の錯覚」を利用したトリックですが、大人がこういうものを前にすると、「騙されないぞ」と、つい力んでしまうのに対して、子どもの反応は実に素直で、自分の錯覚を楽しんでいるように見えます。
それを見ていると、「錯覚」というのは必ずしも「欠陥」とばかりは言えないのかもしれない、と思います。
むしろ、「錯覚できる能力」によって、人間は様々な空想を広げ、不可能に思われていたことを成し遂げてきたのかもしれません。
錯覚能力がなければ、絵本の中で繰り広げられるファンタジーを、現実の世界の出来事のようにリアルに楽しむことはできません。
他人の痛みを、我がことのように共感することはできません。
一方に数学的で厳然とした法則に貫かれた世界があり、もう一方に詩的で空想的な世界があり、それらが重なり合って私たちの「リアルな」世界が存在しています。
こうした認識を子ども時代の間に身に付けないと、私たちは世界や人間に対し、本当に血の通った理解を示すことはできません。
どうして安野さんがこれらの美術作品を「画集」ではなく、子どもにも向けた「絵本」という形にしたのか。
私は何となく、上のような理由を思い浮かべるのです。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
美術的価値度:☆☆☆☆☆
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