2017.06.19 Monday
【絵本の紹介】「ロージーのおさんぽ」【141冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
絵本界の大御所・瀬田貞二さんが、「絵本の絵とは、物語る絵でなくてはならない」とおっしゃっていました。
広義に解釈すれば、あらゆる絵は「物語っている」と言えますが、絵本の絵は特にその性質が顕著です。
それは究極すれば、テキストが読めない幼児でも、絵を見るだけでじゅうぶんにストーリーを追っていけるような絵、と言うことができます。
その見本とも言える作品が、今回紹介する「ロージーのおさんぽ」でしょう。
作・絵:パット・ハッチンス
訳:渡辺茂男
出版社:偕成社
発行日:1975年8月
まず、表紙絵から続いて、鶏小屋から出かけるロージーと、その背後から彼女を狙うきつねが描かれた最初のページを見てみましょう。
テキストは「めんどりの ロージーが おさんぽに おでかけ」というもので、多くを語りません。
しかし、イラストはなんと雄弁なことでしょう。
きつねは明らかにロージーに対してよからぬ企みを抱いていることがわかるよう、鶏小屋の下に身を隠し、舌を出し、ロージーへ粘っこい視線を向けています。
ロージーがきつねの存在にまるで気づいていないことは、大きく上げた前足、眠たげな半目、どこか上の空で考え事でもしているかのようにやや上を向いたクチバシなどから伝わります。
すでにこの一枚から、サスペンスが始まっているのです。
そして予想に違わず、次のページできつねはロージーに飛びかかります。
ここでも、次の展開の伏線が、文中ではなく絵の中に示されています。
つまり、地面に落ちている熊手がそうです。
よく見たら、きつねは飛びかかるタイミングを少々逸しており、着地地点にはすでにロージーはいません。
子どもはそういう細部までよく見ています。
そして案の定、きつねの襲撃は失敗し、熊手の上に乗ってしまうばかりか、反動で持ち上がった熊手の柄に顔を打たれてしまいます。
ロージーは相変わらず、何にも気づかず、振り返りもせずにずんずん進んでいきます。
ここからの繰り返しパターンと、テキストの軽妙さが見事です。
きつねは毎回ロージーを狙ってアタックを繰り返すのですが、池に落ちたり、干し草に埋まったり、粉ひき小屋で粉まみれになったり。
特に、粉ひき小屋の伏線は秀逸で、小麦粉袋を吊り下げている紐が、すでにロージーの足にかかっています。
読者はこの時点できつねの運命を予想でき、ページをめくらずにはいられなくなります。
ページを追うごとに、この「仕掛け」が複雑さを増しているところも見逃せません。
最後は、きつねは手押し車に飛び乗ってしまい、走り出した手押し車が蜂の巣箱を次々に倒していき、哀れ、きつねは蜂の大群に追われて遥か遠くへ遁走。
ロージーは絶妙の位置取りで危機をすり抜け、「やれやれ ばんごはんに まにあった」と、無事に鶏小屋へ帰り着きます。
★ ★ ★
最初から最後まで、ロージーが一切、自分の身に迫る危機に気づかないコント的ユーモア。
そして、改めて文を読んでみると、ロージーのお散歩の様子を短く簡潔に語っているだけで、もし絵が無ければ、本当に何でもない文章になってしまいます。
少なくともこの絵本において、絵は、テキストを補うためのものではなく、むしろテキストより上位の存在であることがわかります。
それでは、この作品にテキストは不要でしょうか。
もちろん、絵のみでもストーリーは伝わります。
しかし、それだけではこの作品が持つユーモアは大きく削がれてしまうでしょう。
この短いテキストが、「あえて、きつねの存在を語らないこと」によって、可笑しさを一層引き出していることが重要です。
ここに、一見素っ気ない文と絵の見事な相互効果が完成します。
そして、多くの大人が見逃しがちな、扉絵に戻ってください。
ここでは、ロージーの散歩コースが一望できるようになっています。
すぐれた絵本作家は、扉絵カットにも無駄なものは描かないのです。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
ロージーの護身完成度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ロージーのおさんぽ」
■ハッチンスさんの他作品→「ティッチ」
■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧」
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