2017.06.14 Wednesday
【絵本の紹介】「かあさんのいす」【139冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは「かあさんのいす」です。
作・絵:ベラ・B・ウィリアムズ
訳:佐野洋子
出版社:あかね書房
発行日:1984年7月
この作品には続編があって、「ほんとにほんとにほしいもの」「うたいましょうおどりましょう」の3部作構成になっています。
アメリカを舞台に、少女、母親、祖母の3人家族を描きます。
その生活感は非常にリアルで、おそらくは作者のウィリアムズさんの実体験がベースになっているのだろうと思います。
大胆な色使いの水彩画も見事で、各場面のちょっとしたカットも実にいい効果を生んでいます。
物語は、火事に遭った一家が協力してお金を貯め、大きな椅子を買うというもの。
母親は食堂でウェイトレスをして、一家を支えています。
主人公の少女は、ときどき学校帰りに、手伝いに行きます。
家に帰るとお金を数え、大きなびんに細かいお金を入れます。
「びんがいっぱいになったら、そのお金ぜんぶもっていすを買いにいくのです。すごくふわふわで、すごくきれいで、すごく大きいのを買うのです」
「世界じゅうでいちばん、すてきないすを買うのです」
何故なら、前の椅子は、火事で焼けてしまったから。
母親との楽しい買い物帰り、家は火事で全部焼けてしまったのでした。
それから家族3人はアパートに引っ越しましたが、家具は何もありません。
母親が仕事で疲れて帰ってきても、座って休むこともできないのです。
近所の人たちの暖かい支援もあり、家族は頑張って生活を立て直します。
そしてついに、あのびんがいっぱいになります。
3人は銀行でお金を札に替え、家具屋を回って、念願の大きな椅子を買います。
少女は母親といっしょに椅子に座ったまま眠ってしまいます。
ラストの、幸せそうな記念写真が素敵です。
★ ★ ★
前述のように、生活描写が実にリアルで、この一家の暮らしぶりや町の雰囲気などが色々と想像できます。
父親がいない理由は書かれてませんが、仕事で疲れて居眠りする母親、家事を切り盛りする祖母、学校帰りに母親の仕事を手伝う少女など、けっして裕福な暮らしではないことはわかります。
そんな生活の中で、大事に大事に少ないお金を貯めて、欲しいものを買うわけです。
こういうお話は、どうしても暗く悲しくなりがちですが、この絵本には力強さ、女ばかりの家族の逞しさが生き生きと明るく描かれています。
それは絵の力によるものも大きいですが、文章が非常に巧いと思います。
「100万回生きたねこ」の、佐野洋子さんの訳もいいのでしょう。
「おばあちゃんは、わたしがお金をかぞえているとき、フンフンとうれしそうに鼻うたをうたうのです」
「それは、バラのもようがついたビロードが、かぶっていなくてはいけません」
「かあさんは赤いチューリップがすきで、わたしは黄色いチューリップがすきなのです」
辛い体験を、無理に明るく語っているのとも違い、少女の素朴な語り口からは、下町の生活から育まれた健やかさが感じられます。
舞台はおそらく作者の生まれ故郷のカリフォルニアでしょう。
一家を応援する近所の人々の温かさは、日本の下町の人情とはややニュアンスが違い、アメリカ的なからっとした陽気さがあります。
読み聞かせをする際は、この文の良さを損なわないように気を配る必要があります。
感傷的にならず、かといって淡々と読むのとも違います。
やや上級者向けと言えそうです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
家族の暮らしを描く絵と文の確かさ度:☆☆☆☆☆
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