2017.06.01 Thursday
【絵本の紹介】「ジルベルトとかぜ」【133冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
古典から新作まで、色々な絵本を読んでいて、「上手いなあ」とか「鋭いなあ」とか感心させられることは多いですが、作品の内容から、直接作り手の人間的深みまで伝わってくる作家となると、その数は限られてきます。
マリー・ホール・エッツさんは、そんな数少ない作家のひとりです。
今回は「ジルベルトとかぜ」を取り上げます。
作・絵:マリー・ホール・エッツ
訳:田辺五十鈴
出版社:冨山房
発行日:1975年8月5日
エッツさんの作品はどれも見た目地味なものが多いですが、これは特に地味、というか暗く見えます。
全体の感じは「わたしとあそんで」の男の子版といった感じですが、茶色っぽいグレーと白のモノトーンで描かれていて、その印象は「わたしとあそんで」とはずいぶん違います。
扉のジルベルト少年の眼差しもどこか内向的な、それでいてやや尖った、独特な表情です。
「ぼくは ジルベルト そして これは ぼくと かぜの おはなし」
ジルベルトの主観的語り口で、風について描かれます。
風は「ほしてある ふくを きようとする」
傘をさしていたら「とろうとしたんだ。でも はなさなかったら こわしちゃったんだ」
追いかけっこをしたら「かぜは くさのうえを はしっていける」
凧や風車やシャボン玉で遊んでいると、風も「あそびに くるんだ」
でも、風は時に意地悪をしたりして、思い通りには動いてくれない。
それどころか、怒ったように荒れることもある。
時々、風は疲れてしまう。
「ねえ かぜくん! きみ どこにいるの?」
そう問いかけると、一枚の枯れ葉を舞い上がらせて、風は居場所を教えてくれる。
★ ★ ★
なんという繊細で瑞々しい感性でしょう。
読んでいると、「おーい」と呼びかける風の唸りが実際に耳に聞こえるかのようです。
モノトーンの画面は、ジルベルト少年のナイーブな精神世界を表現しています。
こういう世界は、自らの重厚でいきいきとした自然体験がなければ、頭でいくら考えても描けるものではありません。
そんな感性を残しておられるエッツさんに、私は畏敬に近い念を抱きます。
子どもの豊かな想像力や情緒は、自然との遊びを通してこそ、真に上質なものになります。
現代人はどんどん自然から離れており、今後もその傾向は止まりそうもありません。
だからこそ、せめて自分の心魂に、自然を失わずに残しておく必要があると思います。
エッツさんの絵本は、あやふやでない、くっきりとした自然のイメージを、子どもの心魂に働きかける特別な力を備えています。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
詩的世界観度:☆☆☆☆☆
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