【絵本の紹介】「ジルベルトとかぜ」【133冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

古典から新作まで、色々な絵本を読んでいて、「上手いなあ」とか「鋭いなあ」とか感心させられることは多いですが、作品の内容から、直接作り手の人間的深みまで伝わってくる作家となると、その数は限られてきます。

 

マリー・ホール・エッツさんは、そんな数少ない作家のひとりです。

今回は「ジルベルトとかぜ」を取り上げます。

作・絵:マリー・ホール・エッツ

訳:田辺五十鈴

出版社:冨山房

発行日:1975年8月5日

 

エッツさんの作品はどれも見た目地味なものが多いですが、これは特に地味、というか暗く見えます。

全体の感じは「わたしとあそんで」の男の子版といった感じですが、茶色っぽいグレーと白のモノトーンで描かれていて、その印象は「わたしとあそんで」とはずいぶん違います。

 

扉のジルベルト少年の眼差しもどこか内向的な、それでいてやや尖った、独特な表情です。

ぼくは ジルベルト そして これは ぼくと かぜの おはなし

ジルベルトの主観的語り口で、風について描かれます。

風は「ほしてある ふくを きようとする

傘をさしていたら「とろうとしたんだ。でも はなさなかったら こわしちゃったんだ

追いかけっこをしたら「かぜは くさのうえを はしっていける

凧や風車やシャボン玉で遊んでいると、風も「あそびに くるんだ

でも、風は時に意地悪をしたりして、思い通りには動いてくれない。

それどころか、怒ったように荒れることもある。

 

時々、風は疲れてしまう。

ねえ かぜくん! きみ どこにいるの?

そう問いかけると、一枚の枯れ葉を舞い上がらせて、風は居場所を教えてくれる。

 

★      ★      ★

 

なんという繊細で瑞々しい感性でしょう。

読んでいると、「おーい」と呼びかける風の唸りが実際に耳に聞こえるかのようです。

 

モノトーンの画面は、ジルベルト少年のナイーブな精神世界を表現しています。

こういう世界は、自らの重厚でいきいきとした自然体験がなければ、頭でいくら考えても描けるものではありません。

 

そんな感性を残しておられるエッツさんに、私は畏敬に近い念を抱きます。

 

子どもの豊かな想像力や情緒は、自然との遊びを通してこそ、真に上質なものになります。

現代人はどんどん自然から離れており、今後もその傾向は止まりそうもありません。

だからこそ、せめて自分の心魂に、自然を失わずに残しておく必要があると思います。

エッツさんの絵本は、あやふやでない、くっきりとした自然のイメージを、子どもの心魂に働きかける特別な力を備えています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

詩的世界観度:☆☆☆☆☆

 

関連記事≫絵本の紹介「もりのなか」

≫絵本の紹介「わたしとあそんで」

 

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