2017.05.26 Friday
【絵本の紹介】「おなかのすくさんぽ」【129冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
子どもの遊びを観察するのは面白いものですが、時には発散させるエネルギーが大人の目からは常軌を逸しているように見えて、「この子大丈夫かな」と心配になったりもします。
我が家の息子はひとたび公園へ行くと、8時が9時になろうと帰ろうとしません。
メインは砂遊びですが、泥をこねるのは嫌がります。
何をするのかと言うと、ひたすら砂を撒き散らかすのです。
そのうちに自分の身体に砂をかけ始め、しまいには手足を砂の中に埋めてしまいます。
表情を見ていると、真剣で、特に笑いもせずに黙々とやってたりする。
片山健さんは、普通の大人には理解しがたい、子どもの一種グロテスクとも言える内的なエネルギーを掬い取ることに長けた作家です。
今回は「おなかのすくさんぽ」を紹介します。
作・絵:片山健
出版社:福音館書店
発行日:1992年4月10日(こどものとも傑作集)
ラフな色鉛筆のスケッチ風の絵ですが、主人公の男の子の表情と目力の強烈さといったら。
片山さんは子どもを動物的に描く人ですけど、この男の子は特にその傾向が顕著で、ほとんど人間離れしています。
男の子が歩いていると、動物たちが水たまりで遊んでいます。
男の子は一緒になって、
「バッチャン バッチャン バッチャン バッチャン」
「なんだか うれしくなって エヘヘヘヘー」
泥をこね、穴に潜り、男の子はさらに野生化し、ますます目の光は強くなっていきます。
そして洞窟探検。
もはや完全に動物化してます。
「ワーオ ワーオ ブギャー、ギャーオ ギャーオ クアー」
もう誰にも止められません。
その後でくまが、
「きみは おいしそうだねえ。ちょっとだけ なめて いーい?」
なんて、ドキッとするようなことを言いますが、最後にはみんなお腹がペコペコになって、
「おなかが なくから かーえろ」
★ ★ ★
フランスの児童文学者、ルネ・ギヨは、
「子どもは、大人の中に入っていくよりも、動物たちの中に入っていく方が、ずっとずっと安心するのだ」
と語っています。
確かに、空腹や快不快といった感覚に対する反応で生きているあたり、子どもは動物に近い存在です。
動物ならばそうやって生きることに何の不安も疑念もないでしょう。
でも、子どもはやはり人間です。
自分の感情や衝動を制御できないことに、無意識的にであれ、恐怖と不安を抱えているのだと思います。
子どもを注意深く観察していると、子どもの内部で凄まじい葛藤とせめぎ合いが渦巻いているのを感じられます。
ほとんど目にも止まらぬ速度で成長し続ける子どもは、常に内的な戦いに晒されているのです。
私はこの絵本を読むと、モーリス・センダックさんの「かいじゅうたちのいるところ」のマックス少年を思い出します。
大人には理解不可能な子どもの遊びに込められた情念は、まさに、大人の目には呑気で牧歌的に映っている「子ども時代」が、いかに困難な戦いの時代であるかを物語っているのです。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
男の子の目力度:☆☆☆☆☆
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