絵本の紹介「ぞうのババール」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「ぞうのババール」を紹介します。

1931年に発表されて以来の人気シリーズで、アニメ化もされています。

主人公であるババールが、ジャングルからパリへ逃亡し、そしてぞうの王国を作って王様となり、子どもを育て……といった壮大なスケールのファンタジーですが、これはその子どものころの話を描いたシリーズ第一作です。

 

しかし、一部では批評の的にもされています。

内容が政治的で、植民地政策を肯定するように捉えられるというのです。

 

私はその点はあまり深く考えずに読みましたが、それとは別のところで引っかかる部分がありました。

それは後述するとして、まずはざっとストーリーを追いましょう。

ジャングルで母親と幸せに暮らしていたババールですが、母親はある日狩人の銃弾によって斃れてしまいます。

ババールは必死に逃げて、パリの街へたどり着きます。

 

初めての街に興奮するババール。

そこで「ぞうのきもちなら なんでもわかる 大がねもちの おばあさん」に出会って、服や車を買ってもらい、何不自由ない暮らしを手に入れます。

しかし、やはりジャングルが恋しいババール。

そこへ、いとこのアルチュールとセレストが訪ねてきます。

 

ババールは彼らとともにジャングルに帰ることにします。

ちょうどそのころ、ジャングルでは王様ぞうが毒キノコにあたって死んでしまい、後継者問題が浮上していました。

そこへきれいな服を着て、立派な車に乗って帰ってきたババールを見たぞうたちは、彼を新しい王様にすることにします。

 

ババールはセレストを妃として迎え入れ、盛大な結婚式のあと、気球に乗って新婚旅行に出かけます。

 

……と、ここまでが第一作のおはなし。

 

どうです、この清々しいまでのご都合主義。

 

ぞうのきもちなら なんでもわかる 大がねもちの おばあさん」に、欲しいものは何でも買ってもらえるんですよ。

ジャングルが恋しくなると、どこでどう知ったか、いとこたちが遊びに来て、ジャングルに帰ると、ちょうどそのタイミングで王様が死んで、周りが勝手にババールを新王として奉ってくれるんですよ。

 

もちろん、絵本にはご都合主義も大いに認められていますが、さすがにここまでくるとギャグの領域です。

絵もかわいいし、楽しくて幸せなお話なんですが……。

 

私が引っかかったのは、やはり冒頭の母親ぞうの死です。

突然に訪れる不幸。

それも、子どもにとって最も重大で最も悲しい、母親の死です。

それが、あんなに軽いタッチで、あまりにもあっさりと描かれているのは、どういうことでしょう。

 

それだけの衝撃のあとで、ババールはこれまたあっさりと街の面白さに我を忘れ、浪費を楽しんでいるのです。

それも子どもの特権と言えばそうなのですが……。

 

ともかく、私にとっては、母親の死についての冷淡さが、そのあとのご都合主義を、子どものための物語というより、大人の、ややブラックなユーモアに見せてしまうように思えたのです。

 

しかし、この絵本の裏側を調べて、その気持ちは変わりました。

 

作者のジャン・ド・ブリュノフさんには、マチューとロランという二人の子どもがいました。

幼い二人を楽しませるために、妻のセシルさんが作った小さな象のおはなしを原点にして、「ババール」が生まれたのです。

 

実は、ブリュノフさんは当時、結核にかかり、自らの余命がいくらもないことを知っていたそうです。

そんな状況で誕生した「ババール」シリーズは、1931年の第一作から、1937年にブリュノフさんがわずか37歳で亡くなるまでに、ほとんど一年に一冊というペースで描かれ続けたのです。

 

彼を創作に駆り立てたものは、まだ幼い二人の子どもを残してこの世を去らなくてはならない父親としての、命がけのメッセージではないでしょうか。

 

そう考えてみると、あの少々趣味の悪いユーモアに思えた「ババール」におけるご都合主義の数々が、違ったものに見えてきたのです。

 

人生には、突然の、避けようもない不幸が存在する。

しかしそれでもなお、人生は楽しく、幸せに満ち溢れている。

だから、不幸に打ちひしがれることなく、人生を思い切り楽しみなさい。

 

ブリュノフさんが死の間際まで描き続けた「ババール」に込められたのは、そのような、子どもたちへの極上のエールだったのではないでしょうか。

 

 

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