2017.05.11 Thursday
【絵本の紹介】「ふたりはともだち」【119冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは「ふたりはともだち」です。
作・絵:アーノルド・ローベル
訳:三木卓
出版社:文化出版局
発行日:1972年11月10日
「がまくん」と「かえるくん」の友情をユーモラスに描いた名作。
5つのエピソードから成る短編集です。
最後の<おてがみ>が、長年に亘って教科書に採用されていることから、この作品を知る人はとても多いでしょう。
私自身は絵本を教材的に用いることは好きではありませんが、全編通しての格調高い文章や会話の妙は、子どもに読ませたい名文だと思います。
しかしやはり、<おてがみ>だけを読んでも、がまくんとかえるくんの関係性は掴み切れないと思います。
エピソードを最初から追っていくことで、ふたりの気質・お互いに対する想いなどがより繊細に浮かび上がってきます。
<はるがきた>では、かえるくんががまくんの家を訪ね、遊びに誘います。
でも、まだまだ眠っていたいがまくんは、「5月の なかばごろに なったら、もう 一かい きて おこして くれたまえよ」と、布団をかぶってしまいます。
それでかえるくんは、がまくんのカレンダーを破いて5月にしてしまいます(ちなみにうちの息子はこのシーンが大好きです)。
<おはなし>では、体の具合がよくないかえるくんが、がまくんに「ひとつ おはなしして くれないかい」と頼みます。
がまくんは家の前をうろうろしたり、逆立ちしたり、水をかぶったり、果ては壁に頭を叩きつけたりしておはなしを考えますが、思いつけません。
<なくしたボタン>は、森の中でなくしてしまったがまくんのボタンを、かえるくんが一生懸命探すおはなし。
自分のではないボタンばかりが見つかり、癇癪を起したがまくんは家に帰ります。
しかし、実はボタンは家にあり、申し訳なく思ったがまくんは、かえるくんにボタンをたくさん縫い付けた上着をプレゼントします。
<すいえい>では、川へ泳ぎに行ったものの、自分の水着姿を見られたくないがまくん。
しかし、そう言えば言うほど、動物たちが集まって……。
そして最も有名な<おてがみ>。
一度も手紙が来ないことを悲しむがまくんに、かえるくんは手紙を書きます。
それをかたつむりに託して、自分はがまくんの家で一緒に手紙を待ちます。
★ ★ ★
さて、最後の<おてがみ>ですが、この話を教科書で知った方、子ども心にも「なんか変」と思いませんでしたか?
どこか白々しいんですよね。
手紙を欲しがるがまくんに、手紙を書いてやるかえるくん。
けど、手紙はかたつむりが届けるので、当然遅い。
で、結局かえるくんはがまくんにネタバレしてしまうのです。
しかも、手紙の内容まで。
それでも、ふたりは「とても しあわせな きもちで」一緒に手紙が来るのを待ち続けるのです。
これを模範とすべき「美しい友情」として教科書掲載しているのだとしたら、少々安直だと思います。
全編通して読むとわかりますが、がまくんは相当に出不精で、殻に閉じこもりがちで、わがままです。
かえるくんはおおらかで、前向きで、社交的で、がまくんの甘えを全面的に受け止めます。
この「甘え、甘えられる」関係性を、ふたりはお互いに楽しんでいるようにも見えます。
カレンダーのトリックを、がまくんは気づいてたんじゃないかな、おはなしを考えるあまり壁に頭をぶつけるがまくんは、かえるくんの視線を意識してるんじゃないかな……と思いつつ読み進めていくと、ラストに最も白々しい<おてがみ>が来て、「やっぱり」となるわけです。
ローベルさんの巧みなところは、この「白々しさ」を、「偽りの友情」とは思わせないところです。
「ありのままの自分」で「何でも包み隠さずに言い合える」相手だけが「本物の友達」というわけではないのです。
ふたりは、明らかにある種の演技をしています。
でも、それは互いを思いやり、この関係性を大切に、壊さないようにしようとする気遣いから生まれる演技です。
友情と言うより、愛情に近いかもしれません。
手紙が来ないことを嘆くがまくんは、「君が書いてよ」というメッセージをかえるくんに送り、それを過たず受け取ったかえるくんは、大急ぎで家に戻って手紙をしたためます。
かえるくんはわざとかたつむりくんに手紙を託し、がまくんと「待つ時間」を楽しむのです。
これはそういう「二重層」仕掛けの作品なのです。
小学校の先生方、授業で読む際には、心して取り扱ってください。
絶妙なバランスで成り立っているふたりの関係が、壊れないように。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
微笑ましいバカップル度:☆☆☆☆☆
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