2017.04.06 Thursday
【絵本の紹介】「ぼくのくれよん」【104冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
そろそろまた、長新太さんの絵本を語りたくなりました。
紹介するのは、「ぼくのくれよん」です。
作・絵:長新太
出版社:講談社
発行日:1993年4月20日
現在は講談社から出版されていますが、以前は銀河社から刊行されており、初出を辿れば「月刊絵本フレンド・シリーズ」の1973年4月号まで遡ります。
この以前から、長さんは数多くの絵本や児童書の仕事に携わっていますが、それらはあくまで「挿し絵」の担当としてであり、自分で絵本の文まで書いたことはありませんでした。
つまり、この「ぼくのくれよん」は、初めての「作・絵:長新太」の絵本作品であり、長さん絵本の原点とも言える一冊なのです。
これまでに「キャベツくん」「チョコレートパン」を紹介しましたが、その中で、一見すると人を食ったような、バカバカしいナンセンス作品に思える長さんの絵本が、その実、非常に入り組んだ構造の哲学的側面を持ち合わせている点を指摘してきました。
それらを踏まえて、この「原点」たる絵本を読んでみましょう。
まずは、画面に橙色のクレヨンが一本。
「これは くれよんです」
「でもね この くれよんは」
ときて、次のページではクレヨンに乗っかるネコを描いて、
「こんなに おおきい のです」
なぜなら、「これは ぞうの くれよん」だから。
ぞうは青のクレヨンを鼻に持ち、思いっきり「びゅー びゅー」描きます。
すると、大きな池だと思ってカエルが飛び込みます。
でも、池ではなかったので、「かえるは びっくりして しまいました」
さらに赤のクレヨンで描くと……
動物たちは火事だと思って逃げ出してしまいます。
黄色で描くと、大きなバナナだと思って動物たちは集まってきます。
動物たちを惑わせたぞうは、ライオンに叱られます。
でも、ぞうは、
「まだ まだ かきたりない みたいで くれよんを もって かけだしました」
★ ★ ★
「チョコレートパン」にも共通する独特の長さん節は、この時すでに完成されていたことがわかります。
ぞうのお絵かきのスケールが大きすぎて、動物たちが次々に勘違いする様は笑えますが、それと同時に、なんだか読み手側も作者にたぶらかされているような気持ちになってきます。
時に「人を食ったような」と評されるのは、そうした点を指してのことでしょう。
どうも長さん作品は、ある種の大人を怒らせるようです。
実際、長さんには熱烈な支持者がいる一方で、手厳しい批判も数多く、当時は「馬鹿にしている」「これは絵本じゃない」「子どもに有害だ」とまで酷評する批評家もいたようです(この作品だけに対してのコメントではないです)。
これは他のどんな芸術にも言えることですが、その分野における技術や方法論がある程度確立されてくると、必ずその「枠」を破壊しようとする芸術家が現れます。
そうした革命家は常に批判に晒されますが、すべての芸術はそうした「型を作っては壊す」作業の繰り返しによって洗練されて今日まで生き延びてきたのです。
では、長さんが壊そうとした「枠」は何だったのでしょう。
ぞうのクレヨン、というありえない物が登場することに対しては「絵本だから」と、あっさり受け入れる我々が、「くれよんで かいた ばななは たべられません」という当たり前のことを言われると、「んなこたぁ、わかってるよ」と言いたくなる。
こちらが何かを「そういうもの」だと「思い込もう」とした次の瞬間、長さんはそれを裏切るような展開を用意します。
こう書くと、長さんがすごいひねくれものみたいに思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
ロシアの偉大な詩人、コルネイ・チュコフスキー氏がその著書「2歳から5歳まで」で、子どもが成長過程において、「さかさ唄」などに代表される「概念をひっくり返す」遊びを通過することを指摘していますが、それは子どもにとっては必要な「知的鍛錬」なのです。
長さんは大人になっても、そうした「概念遊び」を止めなかった人なんじゃないか、と私は思います。
大人たちは「もう、そういうのはいいよ」と、手持ちの概念のみで世界を見たがります。
でも、長さんは、
「まだ まだ かきたりない みたいで くれよんを もって」
駆け出さずにはいられなかったのでしょうね。
推奨年齢:2歳〜
読み聞かせ難易度:☆
お絵かきの爽快感度:☆☆☆☆☆
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