【絵本の紹介】「パンやのくまさん」【102冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

小学校で使われる道徳の教科書の検定で、「パン屋」を「和菓子屋」に修正するという、「何それ戦時中?」なニュースを受けて、パン屋さんを応援するべく(そういう話じゃないですよね)、今回は「パンやのくまさん」を紹介します。

作・絵:フィービー&セルビ・ウォージントン

訳:まさきるりこ

出版社:福音館書店

発行日:1987年5月30日

 

幼稚園〜小学校低学年の子どもの「なりたい職業」ランキングでは、必ず上位に入ってくる「パン屋さん」。

しかしあれ、本気ですかね?

 

そんな年齢で、具体的な職業まで主体的に思い描いてるような児童は全体の何%くらいでしょうか。

私自身は、そんなことを考えられるような子どもではありませんでした。

 

たぶん、かなりの子が、「わかんない」と先生なり保育士さんなりにアドバイスを求め、「たとえば、パン屋さんとか〜」と言われてそのまんま書いた(あるいは、他の子に倣っただけ)というパターンなんじゃないかと思っています。

 

現に、もう少し大きな子になると、一転、スポーツ選手や芸能人などの華やかな分野に人気が集中します。

しかし、大人たちはそういう「大きな夢」を煽り立てすぎじゃないでしょうか。

 

大きな夢はもちろん結構ですが、そういう煌びやかな職業ばかりを「夢」としてイメージしてしまうと、現実的な仕事、地道な仕事が、子どもにとっては灰色に見えてしまうことになるかもしれません。

 

大人たちは、地に足を付け、まっとうに働くことが尊く、楽しく、喜ばしいものであることを、もっと子どもたちに伝えるべきだと思います。

 

というわけで、今回の「パンやのくまさん」を必読書として薦めるわけです。

 

これは、とあるパン屋のくまさんの一日を、ドキュメンタリー形式で描いた作品。

朝早くに起きて、かまどに火を入れ、開店準備をするくまさん。

 

焼けたパンを半分は店に並べ、もう半分は車に積み込みます。

そして行商。

 

また、宅配もひとりでこなし、店に戻って通常営業。

 

とても礼儀正しいくまさんは、近所からの評判も上々。

閉店後の売上計算まで、きっちり見せてくれます。

 

お金を大事にしまうと、ベッドに入って眠ります。

明日も早いですからね。

 

★      ★      ★

 

もう、ほんとに、ただただ淡々とくまさんの一日を追いかけるだけで、何の事件も起きません。

 

それなのに、読み終わると、なんだか、こつこつ働くっていいな、パン屋さんになってみたいな、と思ってしまうんですね。

仕事の合間にお茶を飲む姿に、人生の幸せを感じたり。

 

作者の主観や登場人物の感情をほとんど入れず、事実のみを語る文章は、「ちいさいじどうしゃ」のロイス・レンスキーさんに近いものがあります。

 

≫絵本の紹介「ちいさいじどうしゃ」

 

この「くまさん」シリーズは他に、「せきたんやのくまさん」「ゆうびんやのくまさん」「うえきやのくまさん」などがあります。

 

ところで、最近の漫画を見ていると、今まではあまり内情を知られていなかったような、目立たない職業を題材にした作品が、どんどん出てきているのを感じます。

作品が人気になれば、その業界もあっという間に盛り上がります。

ですから、どんな分野にせよ、アピール次第で人材は集まってくるものだと思います(もちろん、事実に基づいていることが原則ですが)。

 

どんな仕事にも、面白いところがあって、そしてそれは真面目に取り組むことによって生まれるもの。

 

くまさんのような大人を見て育った子どもは、「丁寧に生きること」の素晴らしさを、自然と学ぶことになるでしょう。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

実は中におっさんが入ってるんじゃないの度:☆☆☆☆

 

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