絵本の紹介「おおきな木」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、「おおきな木」です。

作・絵:シェル・シルヴァスタイン

訳:本田錦一郎

出版社:篠崎書林

発行日:1976年11月20日

 

多くの人に感銘を与え、議論を呼んだ有名な哲学絵本です。

現在は村上春樹さん訳による新装版が出ており、この本田錦一郎さん訳の旧版は絶版となっています。

本田さんバージョンが読みたい方は、当店HPへどうぞ。

 

原題は「The Giving Tree」つまり「与える木」。

そのタイトル通り、ひたすら与え続ける大きな木と、与えられ続ける人間の男の子を描きます。

小さな男の子は、りんごの木と大の仲良し。

毎日木に会いに来て、色んな遊びをし、りんごを食べ、木陰で昼寝をします。

 

けれども年月は過ぎ、男の子は成長し、恋人もでき、木は独りぼっちになることが多くなります。

 

あるとき、男の子が戻ってきて、

おかねが ほしいんだ。おこづかいを くれるかい

と言います。

 

木はお金の代わりに、りんごを持って行って売ればどうかと提案します。

すると、男の子は気によじ登り、りんごを全部もぎ取ってしまいます。

なんだか残酷な気持ちがしますが、

きは それで うれしかった

 

その後も、男の子は戻ってくるたびに少しづつ大人になり、木に家や舟を要求します。

 

木は家を作る枝を与え、舟を作る幹を与えます。

 

そしてとうとうただの切り株になってしまった木のもとへ、すでに老人となった男の子が帰ってきます。

もう何も与える物がないことを残念がる木に、老人は、

わしは いま たいして ほしいものはない。すわって やすむ しずかな ばしょが ありさえすれば

と言います。

それなら、切り株に腰かけて休むといい、と木が言い、老人はそれに従います。

 

きは それで うれしかった

 

★      ★      ★

 

様々な解釈がなされ、今なお単一の読み取りを許さない作品です。

木と男の子、どちらを主体として読むか、二人の関係をどう読むかによって、物語の見方は分かれることになります。

 

テーマは「無償の愛」ですが、読みようによって、それを肯定も否定もできるのです。

 

それで うれしかった」と何度も繰り返すフレーズ。

木は、一切の犠牲精神なく、見返りを期待することもなく、本心から与えることに喜びを感じています。

しかし、それは本当に木にとっての幸せと言えるのでしょうか。

 

そんな読み手の疑問を誘うように、男が幹を切り倒した時だけは、「きは それで うれしかった・・・だけど それは ほんとかな」という一文が入ります。

ちなみに原文では「それは本当ではなかった」と、もっとはっきりと断言しています。

 

また、与えられ続ける男の子のほうは、これは明らかに不幸になっていきます。

 

ひたすら与えるだけの愛は、人を不幸にしてしまうのでしょうか。

あるいは、木が与えていたものは、真実の愛ではなかったのでしょうか。

 

木を「子どもを甘やかす親」とか「駄目男に尽くしてしまう女」に当てはめてこの物語を読むと、歪んだ愛に対する警鐘とも解釈できます。

 

実際、ほとんどの方が木と男の子の関係を「親子」か「男女」になぞらえているようです。

が、また別の見方も可能だと思います。

 

「木」をそのまんま「木」として、男の子を「人類」として、つまり「自然と人間」と捉えてみると、そこにもう一つの景色が広がります。

 

自然は見返りを求めません。

ただ自らの生を全うするだけで、人間はそこから様々な恵みを受け取ります。

 

ですが、自然を破壊し続け、発展し続けることで、人類は豊かになったのでしょうか。

 

……等々、様々な読み方ができ、まさに読み手の想像力が試される絵本です。

これほどに深い内容の作品を、これほど簡易な絵と文で表現しえたことが、シルヴァスタインさんの稀有な才能の、何よりの証明でしょう。

 

 

さて、色々な絵本を紹介・分析・研究してきたこのブログですが、次に取り上げる絵本でついに100冊目となります。

いつも読んでくださっている方、ショップを訪れてくださる方、本当にありがとうございます。

 

記念すべき100冊目は、あの名作を紹介したいと思います(明日更新予定)。

お楽しみに。

 

推奨年齢:小学生以上〜

読み聞かせ難易度:☆

作者の顔のインパクト度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おおきな木

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