絵本の紹介「おまえうまそうだな」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは宮西達也さんの「ティラノサウルスシリーズ」の一作「おまえうまそうだな」です。

作・絵:宮西達也

出版社:ポプラ社

発行日:2003年3月

 

アニメ化もされた人気作。

ぐーん、と一気に描いたような力強い線。

子どもが描いたような(もちろんわざとでしょうけど)、荒々しくて単純な絵で、主人公が恐竜。

 

一見すると、比較的小さな子向けの作品なのかと思えますが、実は感涙必至のドラマなんですね。

 

宮西さんは多数の作品を手掛ける人気作家ですが、「愛」や「情」をテーマにした作品を得意としていて、そのほとんどは、大人が読んでも(むしろ大人の方が)泣けるお話ばかりです。

 

一方で、子どもの喜ぶツボもしっかり押さえています。

恐竜の他にも、ウルトラマンやトラックなど、全体に男の子向けの題材の作品が多いようです。

 

さて、内容に入りましょう。

 

むかし むかし おおむかし

それこそ恐竜時代の大昔。

 

アンキロサウルスの赤ちゃんが孵化します。

周囲に親の姿はなく、心細くて泣いているアンキロサウルスの前に、恐ろしげなティラノサウルスが現れ、

ひひひひ……おまえ うまそうだな

そう言って飛びかかろうとした時、なんとアンキロサウルスはティラノサウルスに抱き着き、

おとうさーん!

 

面食らうティラノサウルスに、アンキロサウルスは

ぼくの なまえ、よんだでしょ

『おまえ うまそうだな』って。ぼくの なまえ ウマソウなんでしょ

 

という、「ルドルフとイッパイアッテナ」的勘違いにより、ティラノサウルスを父親と認識するのです。

 

なんとなく気を削がれたティラノサウルスは、そのままウマソウと暮らし始めます。

自分を父親と信じ込み、無邪気でまっすぐな信頼と愛情を寄せてくるウマソウに、次第に情が芽生えてゆくティラノサウルス。

 

外敵からウマソウを守ったり、戦う術を教えたりするようになります。

 

しかし、この関係の切ないところは、一方のティラノサウルスは、自分は決してウマソウの本当の親ではないことを知っている点。

彼にとってウマソウが大事な存在になればなるほど、いつかは別れなければならないと思うようになっていくのです。

 

そしてついにある夜、ティラノサウルスはウマソウにさようならを告げます。

当然ウマソウは泣いて拒否します。

 

いやだー! いやだー! ぜったい いやだー!

ぼく、おとうさんみたいに なりたいんだ。おとうさんと ぜったい いっしょに いる!

 

ウマソウ、おれみたいに なったら だめなんだ

それでも離れようとしないウマソウに、ティラノサウルスは、

あそこの やままで きょうそうしよう

おまえが おれに かったら、ずーっと いっしょに いてやる

 

ウマソウはその言葉を信じ、走り出します。

ティラノサウルスはその場を動かず、ウマソウの後ろ姿をじっと見守ります。

 

そして、ウマソウの走って行った先には―――

 

★      ★      ★

 

もちろん、私も号泣しました。

 

ただ、ティラノサウルスの心情の変化を、幼い子どもに理解できるかどうかは微妙だと思います。

案の定、うちの息子(3歳)も、このラストシーンにはきょとんとした様子でした。

 

古典絵本には、この手の「泣ける」物語というのはほとんど見られません。

現在は大人向けに、感動・感涙を誘う絵本がたくさん出版されるようになりました。

 

それは絵本の多様化が進んだ結果で、それ自体は喜ばしいことだと思います。

けれど、いくら絵本が進化しようとも、子どもの成長速度は変わりません。

 

うちの息子は早い時期からの読み聞かせによって、2歳以前には文章を読めるようになり、語彙も豊富で、知力レベルでは同年代の子に比べて進んでいると言えます。

でも、情緒のレベルに関しては、さほど他の子と違いはありません。

 

子どもの情緒はそんな急激に発達するものではなく、人生経験を伴って、あくまで緩やかに成長するものです

そして、そうでなくてはならないと思います。

 

絵本を選ぶ際、「最初のうちは、わかりやすい形のハッピーエンドを」というのは、そのためです。

 

かといって、小さな子にこの絵本を見せてはいけないということではありません。

前述したとおり、たとえ物語の繊細な感情が理解できなくても、この絵本には子どもが喜ぶ要素がたくさん含まれています。

ただそれを楽しむだけでも構わないのです。

 

読み聞かせる側は、そのことを理解し、けっして子どもを感動させようなどとは気負わないことです。

 

いつか子どもが懐かしさから、ふとこの絵本を手に取るようなことがあれば、その時に「ああ、あのころ読んでもらったこの絵本は、本当はこんなお話だったんだ」と、もっと深く感動できるはずです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

孫悟飯とピッコロさんを思い出す度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おまえうまそうだな

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