絵本の紹介「ぐりとぐら」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はいよいよ、みんな大好き「ぐりとぐら」を紹介します。

作者の二人は姉妹。

姉の中川李枝子さんが文を、妹の大村(山脇)百合子さんが絵を担当しています。

誕生から50年以上、21か国で翻訳され、シリーズ累計は2400万部を超えるという、ウルトラロングセラー。

その記念すべき一作目です。

 

ただ、「みんな大好き」とは書きましたが、「みんな」というのは子どもと、そして子どものころにこの絵本を読んだことのある大人を指したつもりです。

 

というのも、子どものころに読んでもらった記憶がなく、大人になってから「ぐりとぐら」を手に取った人からは、この面白さが理解できない、という声が意外に多いのです。

 

まあ、正直、ノスタルジックな気持ちを抑えて、冷静な大人の目で読んでみると、たしかに「なにがおもしろいの?」と思えなくもない。

もっと正確に言えば、「どうして子どもたちはこの絵本がそこまで好きなの?」かが理解できないわけです。

物語は、のねずみ(とてもねずみには見えない)の「ぐり」と「ぐら」が、「おおきなかご」を持って「もりのおくへ」でかけるところから始まります。

 

「このよでいちばんすきなのは」お料理することと食べることの2ひきは、どんぐりやきのこなどを拾って歩いているうちに、とても大きなたまごを発見します。

2ひきは喜んで、このたまごでカステラを作ろうと決めます。

しかしたまごが大きすぎて持ち帰れないので、この場に料理道具を持ってくることにします。

 

やがてにおいにつられて、森の動物たちが集まってきます。

そして完成。

カステラって、こんな食べ物だっけ。

と、一体何人の大人が心の中で突っ込んだことか。

 

出来上がった「かすてら」を、森の動物たちといっしょに残らず食べるぐりとぐら。

「森の動物たち」の顔ぶれは、象、フラミンゴ、ライオン、わに、蟹、猪……。

どんな森だ?

と、一体何人の大人が心の中で突っ込んだことか。

 

そんな大人の目など一切構わず、最後に2ひきは残ったたまごのからで自動車を作って(動力は不明)うちへ帰ります。

 

これでおしまい。

 

大人を拍子抜けさせるのは、この「なんにも起こらなさ」ではないでしょうか。

 

これは他の「ぐりとぐら」シリーズ通しての共通項ですが、この2ひきの物語には「障害」と呼べるほどの事件が何一つ発生しません。

私たち大人はあまりにも「主人公が穴に落ち、そこからどうやって這い上がるか(もしくは這い上がれないか)」という物語の定型に馴染みすぎているので、この予定調和が物足りなく感じてしまうのでしょう。

 

しかし、子どものための絵本にはドキドキハラハラの冒険だけではなく、この「ぐりとぐら」に代表される、安定と調和だけが存在する物語もあります。

そうした物語が子どもたちに向けて発するメッセージは、

「この世界を生きることは楽しく、素晴らしい」

です。

 

子どもの世界というのは、実は大人が考えているほど平和なものではありません。

彼らは自分にまだ人生を生き抜く力が足りないことを、無意識的であれ自覚しているし、周囲の大人に依存しなくては生きていけないストレスに晒されています。

だからこそ、「ぐりとぐら」のように、何の不安も恐れもない、ただ安心と自己肯定だけがある世界を必要としているのではないでしょうか。

 

もちろん、現実世界はカステラのように甘くはありません。

けれども、子ども時代の幸せな思い出が、その後の人生のすべての場面で、いかに重要な「生きる力」となるかは、誰もが実感することだと思います。

 

子どもの心をよく知る映画監督・宮崎駿さんが、「ぐりとぐら」をアニメ化しようとしていたそうですが、この絵本の世界を、どうしても再現できずに断念したという逸話があります(ちなみに、「となりのトトロ」の挿入歌「さんぽ」の作詞は中川李枝子さんです)。

 

また、「ぐり」と「ぐら」の見た目がそっくりで(青い方がぐり、赤い方がぐら)、セリフも交換可能で見分けがつきにくいことについて、絵本作家の長谷川摂子さんは、自著で、初めて友達を認識する3歳前後の子どもの心のありようと関連付けて分析しています。

 

そうしたことを踏まえてもう一度この絵本を見れば、絵本についても子どもの心というものについても、少し違った見方を持てるかもしれませんね。

 

 

蛇足ですが……。

読み聞かせの際、この絵本に出てくる有名な、

「ぼくらのなまえはぐりとぐら♪」

の歌に、どうメロディをつけるかですが、私は

「ごんべさんのあかちゃんがかぜひいた♪」

のメロディが一番うまいこと(?)歌えたように思います。

 

オリジナルを作曲できるセンスがないので。

 

 

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