絵本の紹介「かしこいビル」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

毎回、古典から新作まで、なるべくジャンル問わずに様々な絵本を取り上げているつもりですが、やっぱり古本屋の性か、全体としては古いものが多いです。

今回は(また)うんと古い作品を紹介しましょう。

1926年に描かれ、今なお人気の高い絵本、「かしこいビル」です。

作・絵:ウィリアム・ニコルソン

訳:松岡享子・吉田新一

出版社:ペンギン社

発行日:2003年4月

 

初めて読んだ時、どこかで見た絵と作者名だと思っていたんですが、このブログでも取り上げたクリスマス絵本の名作「ビロードうさぎ」の挿絵の人でした。

 

≫絵本の紹介「ビロードうさぎ」

 

作者のニコルソンさんは、「ビロードうさぎ」の挿絵が好評だったのをきっかけに、自分でも娘のメリーのために絵本を描き始めます。

しかし、その点数は実に少なく、この「かしこいビル」の他には「ふたごのかいぞく」しか残されていません。

 

にもかかわらず、その素晴らしい完成度が後世の絵本作家たちに与えた影響は、とても大きいものでした。

 

ストーリー自体はとてもシンプルで短いものです。

けれども、その構成は見事で、読んでいる者をぐいぐい引き付ける力に満ちています。

おばさんから手紙をもらったメリーは、お泊りの用意を始めます。

 

連れて行くのは、お気に入りの人形やおもちゃたち。

車輪付きの馬「あしげのアップル」。

女の子の人形「スーザン」。

そして、近衛兵の人形「かしこいビル」。

 

それに着替えや身の回りの物などをトランクに詰め始めます。

なかなかきちんと収まらずに、出したり入れたりしているうちに、時間が無くなって、めちゃくちゃに押し込んで蓋をします。

 

ところが……

ビルを入れ忘れてしまいます。

 

2ページを「なんと!!」「なんと!!!」の文字のみに使った盛り上げ方と、失意のあまり水たまりができるほどに涙を流すビルの姿が、おかしみと同情を誘います。

 

でも、かしこいビルは決然と立ち上がり、メリーを乗せた汽車を追いかけ始めるのです。

このユーモラスながらも懸命な走りっぷりからは、ビルの実直さや必死さ、メリーへの想いなどが伝わってきて、知らず知らず応援せずにはいられません。

 

そしてとうとうドーバー駅でメリーに追いつき、感動の再会を果たします。

メリーは彼に歓迎の花束を贈り、裏表紙で熱烈な抱擁とキスを交わします。

 

★      ★      ★

 

この絵本が名作と言われるゆえんは、まず文章以上に絵が物語っている点。

「絵本の絵」の、ひとつの理想形と言えます。

 

トランクに物を詰め込むシーンでは、文は「こう つめてみました」「こうしてみて、それから」「こんどは こうやって」と、説明の一切を絵に任せています。

 

そして、結局トランクの蓋をする画面では、すでに入れ忘れられているビルの姿を確認でき、今後の展開を予想させます。

 

ビルの力走は彼の姿がだんだん小さくなっていくことで表され、物言わぬ人形たちは仕草で感情を表現します。

 

また、物語のペース配分も巧妙で、ビルが置いてきぼりをくってからの急転直下の展開はスピード感に満ち、ラストシーンまで一気に(文字通り)駆け抜け、子どもの興味を途切れさせません。

 

初めての(というか、2作しかありませんが)絵本でありながら、絵本というものを知り尽くしたようなニコルソンさんの手腕とセンスには脱帽するばかりです。

 

父親からこんな素敵な絵本を贈られた娘さんは、きっと幸せだったに違いないでしょう。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

絵の雄弁さ度:☆☆☆☆☆

 

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