2017.03.14 Tuesday
絵本の紹介 水沢謙一・梶山俊夫「さんまいのおふだ」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
日本昔話は数あれど、そのスリリングな展開と、構成の見事さ、オチの秀逸さという点で、「さんまいのおふだ」ほどに完成度の高いお話は少ないでしょう。
その面白さゆえに何度も再話されている作品ですが、今回紹介するのは水沢謙一さんの再話、梶山俊夫さんの絵による「さんまいのおふだ」です。
再話:水沢謙一
画:梶山俊夫
出版社:福音館書店
発行日:1985年2月15日(こどものとも傑作集)
新潟に伝わる有名な昔話です。
方言が出てきたり、すらすら読むには何度か練習が必要かもしれませんが、文章自体はリズムよく、子どもも非日常的な言葉に引き込まれやすいので、親子とも楽しめます。
慣れてくると、感じを出して声音を変えたり、怖い場面でうんと間を取ったり、自分なりに工夫する余地がたくさんあるところも魅力です。
山寺の小僧が、花を切りに出かけます。
だんだん山奥へ入って行き、日が暮れてしまい、帰り道もわからなくなります。
困った小僧は、小さなうちを見つけ、そこの「しらがの おばば」に一晩泊めてもらうことにします。
ところが、実はおばばは「おにばさ」(鬼婆)。
夜中に気づいた小僧は、便所に逃げ込みますが、鬼婆が外で見張っているので、逃げるに逃げられません。
進退窮まったところに、「べんじょのかみさま」(女神ではありません)が現れて、
「この さんまいの ふだを もって、はやく にげていけ」
と、白い札、青い札、赤い札を授けてくれます。
ここからがこの物語の最大の見せ場。
鬼婆がターミネーター級の執念の追跡を開始します。
小僧が白いお札を投げて、大山を出現させるも、鬼婆はそれを乗り越えて追ってきます。
追いつかれそうになるたびに、小僧は青いお札、赤いお札を投げつけます。
お札はそれぞれ大きな川や大火事に変わって鬼婆の行く手を阻みますが、足止めにこそなれ、鬼婆を振り切ることはできません。
すべてのお札を使い切ってしまい、後がなくなったところで、ようやく小僧はお寺に帰り着きます。
ここで実にいいキャラクターの和尚さんが、のんびり焦らしながら戸を開けて、小僧をかくまってくれます。
追いついた鬼婆が小僧を出せ、と迫ると、和尚さんは落ち着いて、
「じゅつくらべをしよう」
と提案します。
大入道になれるか、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と巨大化する鬼婆。
そんなら小さな豆になってみろ、と和尚さんが言うと、「たやすいことだ」と、豆粒になる鬼婆。
すると和尚さんはその豆を拾って、口に放り込んで―――
「いちご さかえた なべのした ガリガリ」
★ ★ ★
人気のある昔話にはたいてい、物語の核となるアイテム(呪物)が登場します。
「うちでのこづち」「たまてばこ」「かくれみの」「ききみみずきん」……。
「さんまいのおふだ」はそんな中でもインパクトの強い道具です。
この物語には様々なバージョンが存在し、お札を授けてくれるのは便所の神様だったり、お寺の和尚さんだったり、また、小僧が便所から逃げ出すときに最初の一枚を身代わりに立てたり、最後に鬼婆が焼死したり。
いずれにしても、恐ろしい鬼婆からの、手に汗握る必死の逃走劇がこのお話の見どころであることは変わりません。
この絵本では、怖い中にもユーモアがちりばめられており、特にようやくお寺に辿り着いた小僧と和尚さんのやり取りは、じれったいやらおかしいやら。
地域の伝承によって、ラストにも色んなパターンがあります(鬼婆を壺に封じ込めたり、逃げ帰らせたり)が、私はやっぱりこの絵本のオチが上手くできていると思います。
あんなもの食って大丈夫なのか、少しは心配ですけど。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
鬼婆の執念と身体能力度:☆☆☆☆☆
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