2017.03.08 Wednesday
絵本の紹介「よあけ」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
たまに手に取って、読み返したくなる。
絵本が単に子どもの本、というカテゴリーに収まらない芸術作品であることを再確認させてくれる。
今回紹介するのは、そんな一冊、「よあけ」。
作・絵:ユリー・シュルヴィッツ
訳:瀬田貞二
出版社:福音館書店
発行日:1977年6月25日
作者のシュルヴィッツさんは、東洋の文芸・美術に造詣が深く、この「よあけ」(原題・『DAWN』)は、日本の浮世絵を彷彿とさせるようなタッチで描かれており、また、唐の詩人・柳宗元による七言古詩「漁翁」がモチーフとなっています。
「漁翁夜西巌に傍ひて宿し、暁に清湘を汲みて楚竹を燃す。……」
漢詩の持つ、美しい言葉の響きと雄大で荘厳な自然のイメージを、絵本の世界に顕現させることに見事に成功した名作です。
山間の大きな湖。
夜明け前の静寂。
湖面の月と山の影。
やがて少しずつ生物の気配が広がり始めます。
こうもり、蛙、鳥。
湖畔に寝ていたおじいさんとその孫が起き出し、暗い中で水を汲み、たき火をします。
それからボートを湖に押し出して、こぎ始めます。
その一瞬。
鮮やかな日の光が、景色を一変させます。
★ ★ ★
最後のシーンは、息をのむほど鮮やかです。
そして、原作が漢詩ということで、訳文の方も詩的表現がちりばめられ、文章自体も美しい。
「つきが いわにてり、ときに このはをきらめかす」
「やまが くろぐろと しずもる」
「もやが こもる」
「とりがなく。どこかでなきかわす」
子どもには難しい表現かもしれませんが、説明は不要だと思います。
これは歌と同じで、美しい響きとイメージの余韻を残せれば、それで十分です。
絵そのものの美しさはもちろん、ひんやりと肌に伝わる温度や蛙が水に飛び込む音など、五感すべてで読める本です。
一本の映画にも似て、大人の鑑賞にも十分に耐えます。
絵画であり、画集であり、詩であり、映画であり、文学であり、そしてそのどれでもない。
絵本でしか成せない表現を成し遂げた点で、「よあけ」は画期的な作品と言えるでしょう。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆
瀬田貞二さんの本気度:☆☆☆☆☆
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