絵本の紹介「よあけ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

たまに手に取って、読み返したくなる。

絵本が単に子どもの本、というカテゴリーに収まらない芸術作品であることを再確認させてくれる。

 

今回紹介するのは、そんな一冊、「よあけ」。

作・絵:ユリー・シュルヴィッツ

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1977年6月25日

 

作者のシュルヴィッツさんは、東洋の文芸・美術に造詣が深く、この「よあけ」(原題・『DAWN』)は、日本の浮世絵を彷彿とさせるようなタッチで描かれており、また、唐の詩人・柳宗元による七言古詩「漁翁」がモチーフとなっています。

 

漁翁夜西巌に傍ひて宿し、暁に清湘を汲みて楚竹を燃す。……

 

漢詩の持つ、美しい言葉の響きと雄大で荘厳な自然のイメージを、絵本の世界に顕現させることに見事に成功した名作です。

山間の大きな湖。

夜明け前の静寂。

湖面の月と山の影。

 

やがて少しずつ生物の気配が広がり始めます。

こうもり、蛙、鳥。

 

湖畔に寝ていたおじいさんとその孫が起き出し、暗い中で水を汲み、たき火をします。

それからボートを湖に押し出して、こぎ始めます。

 

その一瞬。

鮮やかな日の光が、景色を一変させます。

 

★      ★      ★

 

最後のシーンは、息をのむほど鮮やかです。

 

そして、原作が漢詩ということで、訳文の方も詩的表現がちりばめられ、文章自体も美しい。

つきが いわにてり、ときに このはをきらめかす

やまが くろぐろと しずもる

もやが こもる

とりがなく。どこかでなきかわす

 

子どもには難しい表現かもしれませんが、説明は不要だと思います。

これは歌と同じで、美しい響きとイメージの余韻を残せれば、それで十分です。

 

絵そのものの美しさはもちろん、ひんやりと肌に伝わる温度や蛙が水に飛び込む音など、五感すべてで読める本です。

一本の映画にも似て、大人の鑑賞にも十分に耐えます。

 

絵画であり、画集であり、詩であり、映画であり、文学であり、そしてそのどれでもない。

絵本でしか成せない表現を成し遂げた点で、「よあけ」は画期的な作品と言えるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

瀬田貞二さんの本気度:☆☆☆☆☆

 

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