2017.03.07 Tuesday
絵本の紹介「しずかなおはなし」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
うまい読み聞かせって、どういうものでしょう。
何千回と繰り返して、毎日のように絵本を読み聞かせていても、いまだに自分がうまいとは思えません。
「ゆっくりと、歌うように」
というのは基本です。
絵本の内容や構造、テーマに応じて、読み方は変化します。
それは、声優の仕事に似ているかもしれません。
いくら脚本や映像の出来がよくても、作品に命を吹き込むべき声優の演技がまずかったり、役どころを理解していなかったりしては、作品を殺してしまうことになりかねません。
絵本によっては、読み手は自分の存在を消し、抑制的に読む必要もあります。
そうすることで、子どもをうまく想像の世界へ導いてやるのです。
これは、子ども自身の性質や、普段から絵本に慣れているかどうかなども関わってくるため、なかなか難しいことですが、それだけに、成功したときは感動ものですよ。
今回紹介するのは、そんな絵本「しずかなおはなし」。
文:サムイル・マルシャーク
絵:ウラジミル・レーベデフ
訳:内田莉莎子
出版社:福音館書店
発行日:1963年12月20日
「ちいさな こえで よむ おはなし。そっと そっと そっと……」
という、とても印象的なフレーズで始まるお話。
自然と、読む声を小さくしてしまいます。
私も最初は、子どもを寝かしつける絵本かな、と思っていました。
しかし物語の内容は、意外とハラハラドキドキ。
はりねずみの家族が、夜の森を静かに散歩しています。
しかしそこへ、二匹の狼が、こっそり忍び寄ります。
はりねずみの両親は気づいて、体の毛を逆立て、丸くなります。
「あたまを おかくし まるくおなり!」
と、両親に促され、ぼうやも丸まります。
狼たちは、はりねずみの家族の周りをぐるぐる回りながら、唸ったり飛び跳ねたり。
ぼうやはじっと耐えます。
諦めきれない狼たちでしたが、猟師の鉄砲の音が響き、急いで逃げて行きます。
はりねずみの家族は無事に森の家に帰り着きました。
★ ★ ★
「どこが静かなお話だ?」
と首を傾げたくなる方も多いでしょう。
でも、これは前述したように、子どもを物語の世界へ引き込むための、いわば「仕掛け」なのです。
「さあ、これからおはなしをするよ。静かに、静かに……」
と、秘密めいた口調で、声のトーンを落とせば、子どもは周囲のあれこれから感覚を遮断させ、絵本に集中します。
これから始まるお話への期待がそうさせるのです。
舞台は森。
絵本において、森の中は神秘の象徴です。
森の中には、非日常の事件があります。
はりねずみたちの「とぷ とぷ とぷ」という足音、忍び寄る狼の恐ろしい牙、体を丸めて恐怖に耐えるぼうや……子どもはいつしか物語に入り込み、手に汗を握るようにして次の展開を待ちます。
そして、はりねずみたちが無事に帰り着いた後の余韻。
読み終えて、子どもがしばらくじっと無言でいれば、読み聞かせは成功したと言えるでしょう。
作者のマルシャークさんは詩人です。
この短い物語は、それ自体がひとつの詩なのです。
その詩に、レーベデフさんの、静謐さと迫力を兼ね備えた美しい絵が効果を添え、一冊の絵本となっています。
日本語訳は、「てぶくろ」「おおきなかぶ」でおなじみの、安定の内田莉莎子さん。
「読み聞かせの手ほどきの書」と、私は勝手に呼んでいます。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
夜に読みたい度:☆☆☆☆☆
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