絵本の紹介「しずかなおはなし」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

うまい読み聞かせって、どういうものでしょう。

何千回と繰り返して、毎日のように絵本を読み聞かせていても、いまだに自分がうまいとは思えません。

 

ゆっくりと、歌うように

というのは基本です。

絵本の内容や構造、テーマに応じて、読み方は変化します。

 

それは、声優の仕事に似ているかもしれません。

いくら脚本や映像の出来がよくても、作品に命を吹き込むべき声優の演技がまずかったり、役どころを理解していなかったりしては、作品を殺してしまうことになりかねません。

 

絵本によっては、読み手は自分の存在を消し、抑制的に読む必要もあります。

そうすることで、子どもをうまく想像の世界へ導いてやるのです。

 

これは、子ども自身の性質や、普段から絵本に慣れているかどうかなども関わってくるため、なかなか難しいことですが、それだけに、成功したときは感動ものですよ。

 

今回紹介するのは、そんな絵本「しずかなおはなし」。

文:サムイル・マルシャーク

絵:ウラジミル・レーベデフ

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1963年12月20日

 

ちいさな こえで よむ おはなし。そっと そっと そっと……

という、とても印象的なフレーズで始まるお話。

自然と、読む声を小さくしてしまいます。

 

私も最初は、子どもを寝かしつける絵本かな、と思っていました。

しかし物語の内容は、意外とハラハラドキドキ。

はりねずみの家族が、夜の森を静かに散歩しています。

 

しかしそこへ、二匹の狼が、こっそり忍び寄ります。

はりねずみの両親は気づいて、体の毛を逆立て、丸くなります。

あたまを おかくし まるくおなり!

と、両親に促され、ぼうやも丸まります。

 

狼たちは、はりねずみの家族の周りをぐるぐる回りながら、唸ったり飛び跳ねたり。

ぼうやはじっと耐えます。

諦めきれない狼たちでしたが、猟師の鉄砲の音が響き、急いで逃げて行きます。

 

はりねずみの家族は無事に森の家に帰り着きました。

 

★      ★      ★

 

どこが静かなお話だ?

と首を傾げたくなる方も多いでしょう。

 

でも、これは前述したように、子どもを物語の世界へ引き込むための、いわば「仕掛け」なのです。

 

さあ、これからおはなしをするよ。静かに、静かに……

と、秘密めいた口調で、声のトーンを落とせば、子どもは周囲のあれこれから感覚を遮断させ、絵本に集中します。

これから始まるお話への期待がそうさせるのです。

 

舞台は森。

絵本において、森の中は神秘の象徴です。

森の中には、非日常の事件があります。

 

はりねずみたちの「とぷ とぷ とぷ」という足音、忍び寄る狼の恐ろしい牙、体を丸めて恐怖に耐えるぼうや……子どもはいつしか物語に入り込み、手に汗を握るようにして次の展開を待ちます。

 

そして、はりねずみたちが無事に帰り着いた後の余韻。

 

読み終えて、子どもがしばらくじっと無言でいれば、読み聞かせは成功したと言えるでしょう。

 

作者のマルシャークさんは詩人です。

この短い物語は、それ自体がひとつの詩なのです。

 

その詩に、レーベデフさんの、静謐さと迫力を兼ね備えた美しい絵が効果を添え、一冊の絵本となっています。

日本語訳は、「てぶくろ」「おおきなかぶ」でおなじみの、安定の内田莉莎子さん。

 

読み聞かせの手ほどきの書」と、私は勝手に呼んでいます。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

夜に読みたい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「しずかなおはなし

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