絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、人気シリーズ「ぞうのババール」の続編、「ババールのしんこんりょこう」です。

作・絵:ジャン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1974年10月10日

 

第一作「ぞうのババール」については、以前に記事にしました。

「ババール」シリーズの誕生経緯や、テーマの考察、若くして亡くなられた作者のブリュノフさんに関することなど、色々取り上げておりますので、読んでおられない方は、先に過去記事をどうぞ。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

 

シリーズ絵本は数多いですが、たいていは1冊ごとに独立した物語になっており、どの作品から読んでも問題ないものがほとんどです。

ゆえに、シリーズの順番などは、出版年月日を確認しないとわからないものも多く、そもそも「シリーズもの」であることすら気が付かない作品すらあります。

 

そんな絵本界にあって、「ババール」シリーズは、わりと前作からの物語の流れをしっかり受け継いだ大河ロマン的内容になっており、設定なども引き継がれているために、時系列を追って読まないとわからない点もあります。

 

ぞうの国の王さまとなったババールが、妃のセレストとともに、気球に乗って新婚旅行へ……というところまでが前作「ぞうのババール」でした。

 

さあ、第二作となる「ババールのしんこんりょこう」では、前作よりはるかに波乱万丈な展開が待ち受けています。

シリーズの醍醐味とも言うべき最強のご都合主義はそのままですが、今回はババールも結構苦労します。

まず、いきなり嵐に遭遇し、ババールとセレストの気球は墜落します。

幸い怪我もなく、ふたりはとりあえず服を乾かし、食事を作ります。

 

が、この島に住む「ひとくいじんしゅたち」が、セレストの寝込みを襲います。

しかし、すぐにババールがセレストを救い出し、人食い人種たちを蹴散らします。

都会育ちなわりに、なかなか逞しいババール。

 

それから紆余曲折あり、どうにか大きな船に救助されたふたりですが、猛獣使いのフェルナンドのサーカスへ売り飛ばされてしまいます。

芸をさせられるババールとセレストの図。

この画面の左端には、真剣な表情でババールたちをスケッチしている男性がいますが、これは作者のブリュノフさんでしょうか?

 

さて、一方そのころ、ぞうの国では幼いアルチュールのいたずらに端を発し、さいの国との戦争にまでもつれ込んでしまいます。

 

そうとは知らないババールたちですが、パリの街での興行中に、やっとサーカスを抜け出し、懐かしい(優しくて大金持ちの)おばあさんのもとへ逃げ込みます。

 

おばあさんはふたりを連れてぞうの国へ。

途中でスキーを楽しんだりして、これまでの辛い出来事から逃れた幸せな時間を満喫します。

 

ところが帰ってみると、ぞうの国はさいの国に攻め込まれて荒れ果てていました。

 

みんなと再会したババールは一計を案じ、さいの軍隊を撃退。

ぞうの国に再び平和を取り戻します。

 

記念式のあと、ババールは国の再建に向けて努力することを決意し、おばあさんにも協力を願います。

 

★      ★      ★

 

これを読んではじめて、「ババール」シリーズについて回る「植民地主義を肯定するような、政治的内容」という批判に思い当ります。

たしかに、「げんじゅうみんの やばんな ひとくいじんしゅたち」という表記や、ババールたちから奪った大きな西洋式の服に頭を突っ込む彼らの滑稽な姿は、差別的表現かもしれません。

 

西洋文化を身に付けたババールが、知恵と勇気で野蛮な人食い人種やさいたちを退治する、という構図から、帝国主義を読み取る大人もいるでしょう。

 

作者も、時代や環境から自由ではなかったのかもしれませんが、それでも私は、こうしたことで大騒ぎする精神が好きではありません。

以前にも書いたことですが、子どもに影響を与えるのは、絵本の内容以上に、それを読み聞かせる大人の人格です。

 

本当に子どもに差別精神を教え込んでいるのは、大人の言動なんです。

絵本の細かい内容が、子どもに「悪影響」を与えるのではと病的に心配する前に、大人は自らの行いを振り返るべきじゃないでしょうか。

 

どうも、最近の世の中の流れを見ていると、むしろこうした絵本の「差別的」と言われる側面をもっと抽出して、子どもに教え込むべきだ、と言い出す大人が出てきそうな気さえします。

 

思想なんてものは、大人が勝手にすがったり、攻撃したり、必死に守ったりしていればいい。

本当は子どもにはそんなもの、屁でもないんです。

面白いか、面白くないか。

子どもの価値判断は本来決して間違うことはなく、その基準に沿って生きていければ、幸せになれるはずなんです。

大人が余計な横やりさえ入れなければ。

 

そして、やはり私は、「ぞうのババール」で考察した、ブリュノフさんの作品に込めたメッセージを、この「ババールのしんこんりょこう」からも感じられるのです。

それはすなわち、

この世界には突然の、避けようもない不幸が存在する。

しかしそれでもなお、世界は楽しく、素晴らしく、幸せに満ちている

という子どもたちへのエールです。

 

楽しいはずの新婚旅行が、トラブル続きで散々な目に遭っても、途中から良い方向へ歯車が回り出し、最終的にはすべてが解決し、大団円となる。

今回もご都合主義で片付いたように見えますが、よく読み込めば、この「幸せへ向かう歯車」には、ひとつの法則というか、条件が存在します。

 

それは不幸の中にあっても、「落ち着いた対応」と「感情の均衡」を保つということです。

ですから、セレストが打ちひしがれているときにはババールがなぐさめ、ババールが我慢できずに怒りを爆発させたときには(ババールが「怒りを爆発させる」というのは、本当に珍しいことなのです!)セレストがなだめます。

 

人生の不幸に吞み込まれないためには、それが最上の態度であることを、作者は子どもたちに伝えようとしているのです。

 

絵本を読み聞かせる大人が、こうしたメッセージやテーマをしっかり汲み取っていれば、それはちゃんと子どもに伝わります。

表面的な表現が子どもに与える影響ばかりを気にする大人は、実のところは絵本というものを軽く見ているのではないでしょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

くじらの記憶力度:☆

 

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