2017.03.01 Wednesday
絵本の紹介「わたしとあそんで」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは、コールデコット賞受賞作品「わたしとあそんで」です。
文・絵:マリー・ホール・エッツ
訳:与田凖一
出版社:福音館書店
発行日:1968年8月1日
以前紹介した「もりのなか」の作者、エッツさんのもう一つの代表作です。
「もりのなか」は単調なようでいて、実に深い謎めいた構造になっている絵本でしたが、この「わたしとあそんで」も、独特の読後感があり、単純に見える一方、なかなか一筋縄ではいかない作品です。
えほにずむショップ上で、私は自分で作ったカテゴリに(無粋であることは承知で)絵本を分類しているのですが、「わたしとあそんで」をどうカテゴライズするか、ずいぶん悩みました。
結局「しぜん・どうぶつ・むし」の項目に入っていただきましたが、そうすることで一種の固定概念を植え付けてしまうのではと、いまだに迷っています。
そもそもこの絵本は特定のジャンルへの分類にはなじまないものです。
かと言ってお高く止まったような作品でもなく、非常に読みやすいものです。
つまり、読み手それぞれの自由な解釈を許してくれる、懐の広い絵本なのです。
暖かな春を連想させるクリーム色を基調とした色彩。
「わたし」は、原っぱへ遊びに行きます。
そこで、色々な動物に、
「あそびましょ」
と近寄りますが、動物はみんな逃げてしまいます。
誰も遊んでくれないので、「わたし」は池の傍の石に腰かけて、水すましをじっと見ていました。
「わたしが おとを たてずに こしかけていると」
さっき逃げ出した動物たちがだんだんと戻ってきます。
そのままじっとしていると、動物たちは警戒を解き、「わたし」に近寄ってきてくれます。
鹿の赤ちゃんも現れて、「わたし」が「いきを とめていると」、近寄ってきてほっぺたを舐めます。
この時の「わたし」の幸せそうな、くすぐったそうな、なんとも言えない表情が素敵です。
最後は動物たちに囲まれながら、
「ああ わたしは いま、とっても うれしいの」
「なぜって、みんなが みんなが わたしと あそんでくれるんですもの」
という笑顔で終わります。
★ ★ ★
この絵本を「友達を作ること」「人間関係」についての示唆として読んでもいいし、「孤独に耐えたのちの希望」の物語として読んでもいいし、それこそそのまま「自然の中での遊び方」や「野生動物観察の手引書」として読んでもいい。
どれも間違いではありません。
それは、この絵本が、エッツさんのリアルな体験に基づいた作品であるがゆえに、あらゆる「読み方」に耐える厚みを持っているからです。
エッツさんは幼少時より自然に親しみ、結婚後も、病気の夫とともにシカゴ郊外の森の中で過ごしたりと、豊かな自然体験を持ったひとです。
彼女は、そこで自分が自然から学んだ様々なことを、そのまま写し取ったような絵本を描きます。
ですから、エッツさんの絵本はどれも自然そのものであり、「説教臭さ」も「押しつけがましさ」もなく、ただ(空想も含めての)「真実」のみが描かれているような印象をたたえています。
「自己アピール能力」や「プレゼン能力」や「不屈の行動力」のようなものばかりが重要視される現代社会。
「自分が」「自分が」と幼児的に主張し続けることで、いつしか仕事にも、家庭にも、人間関係すべてに疲れてしまった人々が増えているのではないでしょうか。
でも、この絵本の女の子のように、自分を抑制し、自然と一体化することで、はじめて手に入る幸福感もあるのです。
大切なことは、自然の中でこそ学ぶことができる。
私がエッツさんの絵本から読み取るのは、そんなメッセージです。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
表現力の確かさ度:☆☆☆☆☆
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