絵本の紹介「だいくとおにろく」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに日本の昔話絵本を紹介します。

だいくとおにろく」です。

再話:松居直

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1967年2月15日

 

以前紹介した「ももたろう」と同じ、松居直さん・赤羽末吉さんのコンビ作品。

やっぱりこの二人が組むと面白いです。

 

≫絵本の紹介 松居直・赤羽末吉「ももたろう」

 

松居さんはこの本を作る時、日本古来の「絵巻」というものをかなり意識していたそうです。

絵巻のように、横へ流れるように追っていける絵物語を作るため、当時としては珍しい横長・横文字の製本を始め、やがてそれが様々な絵本の可能性を広げることに繋がって行ったのです。

 

さて、この「だいくとおにろく」という昔話は、「ももたろう」などに比べると認知度は低いのですが、なかなかスリリングで面白い展開になっています。

何より、全体に非常に謎めいており、単一の解釈を許さない深みがあります。

 

むかし、とても流れの早い大きな川があり、何度橋をかけてもすぐに流されてしまうために、村の人々は困り果てていました。

そこで、村びとたちは、このあたりで一番腕のいい大工に、架橋工事を頼むことにします。

 

大工は引き受けたものの、心配になって川の流れを見に行きます。

すると、川の中から大きな鬼が現れます。

鬼は、大工の目玉と引き換えに、橋を架けてやろうと持ち掛けます。

大工はいい加減に返事をして、帰ってしまいます。

 

ところが、次の日、川に行くと、すでに橋は半分できており、さらに翌日には完成してしまいました。

驚き呆れている大工の前にまた鬼が現れ、

さあ、めだまぁ よこせっ

と迫ります。

大工が「まってくれ」と逃げ出すと、

そんなら、おれの なまえを あてれば、ゆるしてやっても ええぞ

と、鬼が言います。

 

逃げた先の山の中で、大工は遠くから聞こえる子守唄を耳にします。

はやく おにろくぁ めだまぁ もってこばぁ ええ なあ――

次の日、また川で鬼と対峙した大工は、でまかせの名前を口にしますが、鬼は、

なかなか おにの なまえが いいあてられるもんじゃない

と、にかにか笑います。

大工は色々とあてずっぽうの名前を言った後、最後に大きな声で

おにろくっ!

と怒鳴ると、鬼は

きいたなっ!

と悔しそうに言うなり、消えてなくなってしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

鬼(化け物)の名前を当てるという寓話は日本、東洋に限らず、西洋にもあります。

有名なところではグリム童話に、藁を金に変える代わりに娘の最初の子どもを要求する「ルンペンシュティルツヒェン」という悪魔の話があります。

この話でも、悪魔は己の名前を言い当てられることによって滅びる結末になっています。

 

かつては、己の本名を知られることは致命的なことだとされていました。

「陰陽師」では、「名付ける」ことは「呪いをかける」と同義だという風に説明されています。

「真名」「忌み名」などという言葉も、実名の危険性を示すものです。

「ゲド戦記」にもそんな話がありましたね。

 

現在で言えば「個人情報保護」的なものでしょうか。

 

さて、この「だいくとおにろく」には、他にもたくさんの謎が含まれています。

 

ここに登場する「鬼」は何を意味するのか。

どうして鬼は「目」を要求するのか。

大工が山の中で聴いた子守唄は、誰が歌っていたものなのか。

 

「川」に「橋」を架けるためには「鬼」の力が必要です。

しかし、「鬼」の力を借りる代償は「目」です。

「目」を奪われないためには、「鬼の名前」を言い当てなければなりません。

 

個人的には、「川」「橋」「目」が重要なキーワードになっているような気がします。

しかし、この手の昔話は咀嚼しきれないところに面白みがあると思うので、野暮な解釈をここで展開するのは差し控えましょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

タイトルがネタバレ度:☆☆☆☆☆

 

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