2017.02.21 Tuesday
絵本の紹介「どろんこハリー」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
子どものころにやった、どろんこ遊び。
ぐちゃぐちゃに汚れることが、どうしてあんなに楽しかったんでしょう。
土に触れることは精神の安定にもいいそうです。
息子にもさせてやりたい……と思っているのですが、なかなか実行に移せません。
どうしても後始末やらなにやらを考えてしまうんですね。
こっちの服だってめちゃめちゃになるだろうし、目や口に泥が入ったらすぐに洗ってやらないといけないし、今は外は寒いし……。
そんな風にぐずぐず考える私にとって、憧れのヒーローと言ってもいいのが、今回紹介する「どろんこハリー」です。
文:ジーン・ジオン
絵:マーガレット・ブロイ・グレアム
訳:渡辺茂男
出版社:福音館書店
発行日:1964年3月15日
ロングセラーの名作です。
三色刷で、色彩豊かというわけではないのですが、それを補って余りある絵柄の可愛さ。
ハリーは「くろいぶちのある しろいいぬ」。
なんでも好きだけど、お風呂に入ることだけは大嫌い。
ある日、お風呂にお湯を入れる音が聞こえてくると、ブラシをくわえて逃げ出して、裏庭に埋めてしまいます。
ここまでの文章は、扉から続く絵によっても説明されており、絵本としては理想的な絵と文の一体感が実現されています。
さて、家を抜け出したハリーは、思う存分外遊びをします。
工事現場で泥だらけになり、鉄道線路ですすだらけになり、友達と駆け回り、石炭トラックを滑り台にして、真っ黒に汚れます。
どうです、この痛快さ。
絵本を読む子どもたちも(そして大人も)、自然と笑顔になって、このやりたい放題っぷりを楽しんでしまうでしょう。
絵本の中に登場する人々も、みんなハリーに注目し、少しばかり呆れながらも、笑っています。
白黒反転して、「しろいぶちのある くろいいぬ」になってしまうほど汚れたハリーは、くたびれて、お腹も空いてくると、家族のことを思い出して、寄り道もせずに家に帰ります。
しかし、あまりにも汚れたハリーを、家族はハリーだと気づきません。
困ったハリーは、埋めてあったブラシを掘り起こし、自分からお風呂に飛び込みます。
子どもたちに体を洗ってもらって、うちのひとたちもこれがハリーであることに気が付きます。
きれいになったハリーは、ご飯を食べ、自分の家の気持ちよさに浸りながら、布団でぐっすり眠ります。
でも、ブラシは、ちゃっかりと布団の下に隠していましたが。
★ ★ ★
うちの息子は、冒頭の、ブラシを
「うらにわに うめました」
のシーンを読むだけで大喜びします。
お風呂が嫌で外へ逃げ出し、気が済むまで遊び、お腹が減ったら一目散に家に帰る。
なんという率直さでしょう。
ハリーの行動には、一片の曇りも、自分の心に対する嘘もありません。
ハリーの人気の秘密は、この「精神の健康さ」にあると思います。
そして、この心的健全さは、すべての子どもが生まれながらに持っているはずのものです。
くどくどと「理」を説く大人に対して、子どもはたったひとこと、
「いやなものはいや!」
でバッサリ切り捨ててしまいます。
でも、これは子どもにとって嘘偽りのない「真実」なのです。
自分の心を偽り、捻じ曲げることに慣れてしまった大人は、自分の心の声を無視して生きることを何とも思わなくなっています。
けれども、心に沿わない生き方を続けていくと、いずれどこかで破綻をきたします。
世の中に瀰漫する「心の病」とは、突き詰めれば「心と行動が分裂すること」によって罹患する症状です。
どうも、幼い子どもに対する大人の態度を見ていると、将来的な「心の病」予備軍を作り出しているように思えてしまうことがあります。
「逆らう」子どもに腹を立て、力で言うことを聞かせようとすること。
それを「暴力」と呼ぶのではないでしょうか。
大人が自分の心に沿う生き方をしようと思えば、様々な事情や障害に阻まれて、なかなか簡単ではありません。
それでも、少しでも自分への嘘を減らして生きている人には、自然と子どもへの理解や余裕が生まれます。
人間の本当の「強さ」とは、そうしたところに現れるのではないでしょうか。
子どもと一緒に、平気で泥の中に足を突っ込める大人って、かっこいいと思うんです。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆
ハリーの家族の鈍さ度:☆☆☆☆☆
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