絵本の紹介「ぞうのたまごのたまごやき」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、「ぞうのたまごのたまごやき」です。

作:寺村輝夫

絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:1984年3月10日

 

児童文学の金字塔・「ぼくは王さま」シリーズの記念すべき第一作です。

 

その唯一無二の作風で大人気作家となった寺村さんですが、日の目を見なかった時代もあり、「幼児のための童話集」編集長の松居直さんが、寺村さんの書いた原稿を二度も没にした後、

あなたがおもしろいと思うことを書いていいんですよ

とアドバイス。

そして三度目にたった二時間で書いたのが、「ぞうのたまごのたまごやき」だったそうです。

 

月刊絵本「こどものとも」1956年7月号に掲載された当時の挿絵は山中春雄さん。

その後、姉妹作「おしゃべりなたまごやき」の挿絵を担当した長新太さんや、和田誠さん、和歌山静子さんなど、様々な画家によって何度も新装版が発行され、ずっと人気を維持し続けています。

 

これは、1984年の、長新太さんバージョン。

挿し絵担当の時は、長さんはその強烈な独自の表現を控えめにし、原作を生かした味のある絵を描いています。

どこかの国の王さまに、赤ちゃんが生まれます。

たまごが大好物の王さまは、王子誕生のお祝いに、国じゅうの人を集めてたまごやきをご馳走しようと企画します。

 

けれど、三人の大臣たちは、それだけの人数分のたまごを用意することはできないと言います。

すると王さまは、

じゃあ、ぞうのたまごをもってくればいいではないか

その突飛な思い付きを真に受けた大臣たちは、さっそくぞうのたまごのたまごやきを作る準備に取り掛かります。

ワン大臣は兵隊を連れてぞうのたまごを捜索に。

ツウ大臣は巨大フライパン、ホウ大臣は巨大かまどを製造。

 

この仕事の早さとチームワークは大したものです。

職人たちに対する指示も実に的確。

それだけに読んでるこっちは笑いをこらえきれません。

また、とにかく兵隊や動物といったエキストラの数が多いこと。

長さん持ち前の広々として、それでいて緻密な絵に注目。

 

ぞうを探しに行ったワン大臣は、森の中の子どもに道を尋ね、子どもは笑いながらぞうのいるところを教えます。

そしてついにぞうの居場所までたどり着きますが、見つかったのは子ぞうだけで、ぞうのたまごはどこを探しても見つかりません。

 

失意の帰り道、また森の子どもに笑われて、そこでやっとワン大臣は気が付きます。

ぞうは たまごを うまないよ

 

★      ★      ★

 

私も小学生のころ、何度も繰り返して「王さま」を読みふけりました。

私が好きだったのは和歌山静子さんの挿し絵による児童書シリーズです。

 

この「ぞうのたまごのたまごやき」はシリーズ第一話でありながら、その後の「王さま」とは少々違っていて、変に思った記憶があります。

王さまは大人(?)になってるし、大臣は三人組だし。

 

おそらく、時系列で考えれば、これは未来の、お姫様と結婚して、子どもを授かった王さまの話と解釈するべきなんでしょうね。

 

今、自分も大人になってから読むといっそう、「王さま」は奇妙なお話です。

こういうのをナンセンス、というのかどうか、私にはわかりません。

ただ間違いないのは、この作品が60年以上もの時代を超え、今なお子どもたちに愛され続けているという事実です。

 

独特の文章のリズム、変な擬音、とぼけたようなキャラクターと、ユーモラスなのにどこかブラックなストーリー。

作家の大石真さんが、

「自分だけの鉱脈を掘り当てた」

と評した、奇才・寺村輝夫誕生の一作です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

大臣トリオが無駄に有能度:☆☆☆☆☆

 

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