【絵本の紹介】「ルピナスさん」【370冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「ルピナスさんー小さなおばあさんのお話ー」です。

作・絵:バーバラ・クーニー

訳:掛川恭子

出版社:ほるぷ出版

発行日:1987年10月15日

 

バーバラ・クーニーさんの作品をここで紹介するのは初めてですね。

どちらかというと玄人好みっぽい絵本作家さんで、派手さはないけど抜きん出た画力を持ち、繊細で美しい作品を数多く残されています。

絵本の絵を単純に二分することは適切ではありませんが、「動と静」に分けるとするならば「静」の絵と言えるでしょう。

 

大人のファンも多い作家ですが、この「ルピナスさん」は特に大人の女性から支持されている絵本です。

世の中を、もっと美しくするために」何かをするという祖父との約束を胸に人生を生きたひとりの女性を描いた物語。

 

少女時代、青春時代、晩年をダイジェストのように展開します。

文章は簡潔で抑制的であり、静謐な絵も相まって、淡々と進んでいくイメージがあります。

けれども、その一枚一枚のカットと行間からは、様々な想像を刺激されます。

 

ルピナスさん」というおばあさんについて、姪っ子が語る形式で物語は進みます。

「ルピナスさん」の子どもの頃の名は「アリス」。

アリスは海辺の町で「船首像」や看板や絵を描く仕事をするおじいさんの手伝いをして子ども時代を過ごします。

 

おじいさんから遠い国々のお話を聞かされ、アリスは将来は遠くへ行き、おばあさんになったら海の傍に住もうと考えます。

おじいさんはアリスにもう一つの約束をさせます。

世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ」。

何をするべきかわからないまま、アリスはその約束をします。

成長したアリスは図書館で働き、「ミス・ランフィアス」と呼ばれるようになります。

その後ミス・ランフィアスは南の島へ行ったり、雪山登山をしたり、砂漠をラクダで横断したり、世界中を旅して回ります。

それらの国々で忘れられない人々との出会いを経験します。

しかし、事故で身体を痛めてしまい、ミス・ランフィアスは子どもの頃夢見たように、海の傍の家に引っ越します。

そこで静養しながら、おじいさんとの約束に思いを馳せます。

 

ある春の日、散歩に出たミス・ランフィアスは、丘の向こうでルピナスの花が咲いているのを見つけます。

それは、自分が庭に撒いた種が風に乗って運ばれてきたものでした。

その時、彼女は自分にできることに気づきます。

ミス・ランフィアスは村中にルピナスの種を撒いて歩きます。

変人扱いされることもありましたが、やがて村は青や紫やピンクのルピナスの花で埋め尽くされます。

 

ミス・ランフィアスは今では「ルピナスさん」と呼ばれています。

年取ったルピナスさんの家には、たくさんの子どもたちが集まってきます。

ルピナスさんの姪っ子(彼女の名前も「アリス」)は、ルピナスさんに約束します。

世の中を、もっとうつくしくするために」なにかをすることを。

 

★      ★      ★

 

主体的に人生を生きる一人の女性の姿と、すっくと立つ美しいルピナスの花が重なります。

この絵本にはどのページも青、紫、ピンク、白などのルピナスのパステルカラーが象徴的に使われています。

 

作者のクーニーさんは1917年にアメリカで生まれ、美術を学び、結婚・出産・離婚・再婚、そしてその間に戦争を経験し、40歳を過ぎてから世界中を旅行し、100冊以上の絵本を残し、2000年に83歳でその生涯を閉じました。

それを踏まえて読むと、「ルピナスさん」は多分に作者の自伝的作品と言えそうです。

 

アリスは美しいルピナスの花を。

クーニーさんは美しい絵本を、世界に咲かせました。

 

若い頃に旅をすることは大事だと言われます。

しかしただ旅行をすればいいと考えるのは誤解です。

 

「自分探しの旅」という言葉がもてはやされた時期がありました。

私自身も、若い頃には旅行をしたし、子どもの頃は家族で海外にも行きました。

けれど振り返った時、そこから人生に有意義なものを学んだという実感は極めて希薄です。

 

それは私の旅行が全然主体的なものではなかったからです。

ただ親に連れられて、何の知識もない国へ漫然とついて行き、ホテルに泊まり、バスで移動し、観光地を巡り、お土産を買う。

もちろん思い出は残りますけど、「学び」は全然ない。

 

見知らぬ土地へ旅することが大切なのは、そこで自分の狭隘な常識や固定観念を壊してもらえるからです。

「世界はこんなものだろう」という幼稚な認識の枠を外してもらえるからです。

そのためには、やはり主体的に旅をしなければならないと思います。

 

そういう経験はルピナスさんのように若い頃にしておいた方がいいのはもちろんですが、上で触れたようにクーニーさん自身は中年期になってから世界各国を旅したそうです。

今になってから猛烈に旅をしたくなっている私にとっては、励まされるようなエピソードです。

 

仕事や家庭(あとお金)、いくらでも言い訳はできますけど、人生のどの時期からでも「主体的に生きる」ことができるなら、旅をするのに遅すぎるということはないと思います。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ルピナスさんの部屋が人生を物語っている度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ルピナスさん

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【絵本の紹介】「ねずみとくじら」【361冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

もう新年1月も終わりに近いですね。

本当にあと少しで我が家の息子も小学生です。

 

幼稚園も保育所も行かなかった息子には、およそ友達と呼べる相手はいません。

人との付き合い方とか、気配りとか、そういうものはこれから学ぶにしても、果たして学校で友達が作れるものでしょうか。

 

息子にはたくさんの絵本や児童書を読んできましたけど、それらの中で思いやりとか美しい友情とか、そういう要素が琴線に触れた気配は全然ありません。

まだ早いだけだとは思うのですが、種だけは撒いておこうと思っています。

いつか自分の体験を通して、「あの時の物語の意味」に到達する時が来るはずです(たぶん)。

 

今回紹介するねずみ絵本は、温かくてちょっぴり切ない友情物語です。

ウィリアム・スタイグさんの「ねずみとくじら」。

作・絵:ウィリアム・スタイグ

訳:瀬田貞二

出版社:評論社

発行日:1976年12月20日

 

海辺で暮らす小さなねずみの「エーモス」は、大海原への憧れを募らせ、航海術を勉強し、自分で船まで作って、航海に乗り出します。

船旅は順調で面白く、エーモスは生きがいを感じます。

ある晩、エーモスは甲板で横になって限りない星空を眺めます。

 

個人的にはこのシーンがとても印象的です。

お馴染み瀬田貞二先生の訳文が素敵で、例によって難しい言い回しも出てきますけど、日本語がきれいです。

いきて ここにいる けしつぶほどの ねずみのみも、いきて ひろがる だいうちゅうのなかまとして、しみじみ うちゅう ぜんたいを したしく かんじました」。

 

こういう感性、現代の子どもたちにも持ってもらいたいものです。

そしてこの部分こそがこの絵本の核ともなっています。

 

この後、うっかり船から落ちてしまったエーモスは波間を漂い、力尽き、死を予感します。

その時、通りかかった巨大なくじらの「ボーリス」に助けられるのです。

お互いに哺乳類の仲間でありながら、あまりにも自分と違う相手に興味津々。

エーモスを陸地へ送り届ける旅の間に、二人はいつしか心を通わせ、親友となります。

 

しかしすぐに別れの時は来ます。

互いに住む場所が違う二人は、一緒にはいられません。

いっしょう ともだちでいような」と言い交わし、エーモスはボーリスに何か助けが必要なことがあったら、喜んで役に立つつもりだから忘れないでくれと約束して陸地へ帰ります。

もっとも、小さなエーモスがボーリスに何か助けになれるなどとは、ボーリスも本気では聞いていませんでした。

 

二人は互いに幸せに暮らし、長い年月が経ちます。

 

あるとき、ボーリスは恐ろしい大嵐に遭って浜辺に打ち上げられてしまいます。

その浜辺こそがエーモスが暮らす浜で、嵐の後を調べに来たエーモスとボーリスは思わぬ再会を果たします。

しかし、ボーリスはもはや干上がり力尽きようとしていました。

弱々しく助けを求めるボーリスでしたが、小さなエーモスにはどうすることもできません。

エーモスはどこかへ行ってしまい、ボーリスは死を覚悟します。

 

その時、エーモスが二頭の象を連れて帰ってきます。

象を指揮して、エーモスはボーリスを海へ押し戻します。

 

二人は涙を浮かべながら顔を見かわし、「さよなら」を言います。

ふたりは、このさき2どとあえないことを しっていました。そしてぜったいに、あいてをわすれないことも しっていました」。

 

★      ★      ★

 

友達には色々な関係があります。

似たもの同士の友人もあれば、周りが不思議に思うくらい共通点のない友人もあります。

そういう友達は、大人になってからではなかなか得難いもので、それだけに強い絆を感じたりするものです。

 

そして友情をはぐくむ時間も、長いものもあればほんの一時だけのものもあり、そのどちらが素晴らしいというものでもありません。

いっしょう ともだちでいような」というエーモスとボーリスの約束は、子どもにとっては至極当然の言葉であり、大人にとっては胸が締め付けられるような切なさを伴った言葉です。

 

世界中で、今までにどれだけの数、この約束が交わされたことでしょう。

その真偽を確かめる術もなく、しかし心からの真実を込めて交わされる約束。

 

けれども、エーモスとボーリスは運命的な再会を果たし、そして若き日の約束を果たすのです。

自分とは育った環境も見た目も能力も、何もかも違う相手を「友達」として信じ続けることは容易いことではありません。

年を取るほど、そうです。

だからこそ、この絵本は大人になればなるほど心に沁みます。

 

そして忘れてはいけないのは、この素晴らしい出会いは、エーモスが旅に出たからこそ巡り会えた宝物だということです。

若い時の旅はしておくべきですね。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

涙そうそう度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ねずみとくじら

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【絵本の紹介】「アレクサンダとぜんまいねずみ」【357冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

ねずみ年のねずみ絵本紹介、今回は「アレクサンダとぜんまいねずみ」です。

作・絵:レオ・レオニ

訳:谷川俊太郎

出版社:好学社

発行日:1975年4月1日

 

やっぱりねずみ絵本と言えばレオニさんは外せませんね。

フレデリック」や「シオドア」「ジェラルディン」といったラブリーで個性的なねずみキャラクターをたくさん生み出しています。

 

≫絵本の紹介「シオドアとものいうきのこ」

≫絵本の紹介「フレデリック」

 

「個性的って、ねずみの見た目が全部同じじゃないか! あだち充か!」という無粋なツッコミに対しては「よく絵を見てください」と返しましょう。

全部微妙に違いますよ。

それは作者が毎回少しずつ手法を変えているからです。

 

同じ造形のコラージュでも、使用する紙や切り抜き方によって変化を表現しています。

例えばこの「アレクサンダとぜんまいねずみ」でも、本物のねずみとおもちゃのねずみでは輪郭のふわふわ感が違います。

 

さて内容の方ですが、「自分とは何か」を核にした哲学的物語……という点はいつものレオニさんですが、その展開と構成は彼の作品の中でも目を引いてドラマチックです。

アニーの家に棲むねずみのアレキサンダは、見つかるたびにほうきで追い回される嫌われ者。

ある日、彼はアニーの部屋でぜんまいじかけのねずみに出会います。

 

ウィリーというそのおもちゃねずみはアニーのお気に入り。

彼は自分では自由に動き回れませんが、大事にされていることに満足しています。

(余談ですが、私の手元にある第28刷では表記が最初は「ウィリー」、途中から「ウイリー」となっています。ここでは「ウィリー」で統一させてもらいます)。

 

二ひきは仲良くなり、アニーの目を盗んで度々一緒に会って話をします。

アレキサンダはみんなからちやほやされているウィリーを羨ましく思います。

ある日、ウィリーは不思議な話をします。

きいちごの しげみの ちかくに」生き物を他の生き物に変える力を持った「まほうの とかげ」が棲んでいるというのです。

 

自分もウィリーのようなぜんまいねずみになりたいと思っていたアレキサンダはさっそく教えられた場所へ行き、とかげを呼び出します。

はなばなと ちょうちょうの いろをした」非常に幻想的で美しいとかげが現れ、「つきが まんまるの とき」「むらさきの こいし」を持ってくるように告げます。

 

それから来る日も来る日もアレキサンダは庭に出て「むらさきの こいし」を探しますが見つかりません。

疲れ果てて帰ったアレキサンダは衝撃的な光景を目にします。

 

ウィリーが他の古くなったおもちゃと一緒に物置に捨てられていたのです。

アニーが誕生日に新しいおもちゃを買ってもらったので、古いウィリーはゴミ箱行きの運命となったのです。

心を痛めるアレキサンダは、突然「むらさきの こいし」を見つけます。

 

ちょうど満月の夜で、アレキサンダは胸をどきどきさせてあのとかげに会いに行きます。

怪しく光る緑の瞳。

とかげはアレキサンダが何になりたいのか尋ねます。

 

アレキサンダは一瞬言いかけて、そして思い直し、「ウィリーを ぼくみたいな ねずみに かえてくれる?」と言います。

目もくらむような光とともに「むらさきの こいし」は消えてしまいます。

 

大急ぎで物置へ走るアレキサンダ。

しかしウィリーの捨てられていた箱はからっぽ。

おそかった」……重い心で巣穴に帰ったアレキサンダの前に、ウィリーが現れます。

ぜんまいねずみではなく、生きた本物のねずみとして。

二ひきは喜び、抱き合い、夜明けまで踊り続けるのでした。

 

★      ★      ★

 

例によって、単一の解釈に落とし込めない深みのあるお話です。

素直に読めば、捨てられてしまう友達を助けるために、自分の権利である願い事を分け与える尊い行為の物語として読むことができます。

ただし、ここには主人公二人の内面の深層までは描かれていないために、「アレキサンダは最後までぜんまいねずみになってみたいと思っていたのか」「ウィリーは本当にぜんまいねずみとしての自分に満足していたのか、そうだとするとアレキサンダの行為は迷惑なお節介ではなかったのか」という疑問が浮上してきます。

 

同作者による「さかなはさかな」では、同じく友達に羨望の念を持つ主人公が、最終的には自己と友人の違いを認め、受け入れることによって成長を果たす物語でした。

 

≫絵本の紹介「さかなはさかな」

 

しかし今作では、友人を自分のステージに引き込むというラストになっています。

もちろんそうしなければウィリーはおそらく焼却場送りになっていたわけですから、助けるためにやむを得ずという面はあります。

それでもやはりどこかで「大きなお世話」ではないか、という思いは残ります。

ウィリーは「たすけてくれ」とは一言も言っていないからです。

 

ところで、この物語で思い出すのは古典名作「ビロードうさぎ」です。

 

≫絵本の紹介「ビロードうさぎ」

 

「ビロードうさぎ」では、ぬいぐるみのうさぎである主人公が、本物の生きたうさぎになることを夢見ます。

うさぎは捨てられてしまいますが、奇跡が起こり、最後には本物のうさぎとして生まれ変わります。

私は上記記事でこの絵本を「愛による精神の成長」物語として解釈しました(あんまりそういう読み方する人はいないかもしれませんけど)。

そこで、自身の読み筋に沿って、同様の目線で「アレクサンダとぜんまいねずみ」を解読してみます。

 

たぶんレオニさんは「現代版ビロードうさぎ」としてこの「アレクサンダとぜんまいねずみ」を描いたのだと思います。

自由と引き換えに大事にされ、ちやほやされるぜんまいねずみ。

本心か自己弁護かは不明ですが、ウィリーは自身の境遇に満足していると口にします。

そんなウィリーを、自由ではあっても生きづらさを感じるアレキサンダが羨望するという関係性は「ビロードうさぎ」と対比的です。

 

ここでの「自由」を内的なものとして読めば、現実にこういう光景を見ることは可能です。

「奴隷の幸福」という言葉があるように、望んで不自由な現状を維持しようとする人間がいます。

 

ブラック企業で滅私奉公するサラリーマン、暴力的なパートナーと別れられない人、独裁体制を支持する(最も護られていない立場にある)一般庶民。

彼らは主観的には自分の意志で行動していますが、本当の意味ではやはり自由であるとは言えないでしょう。

さほど大げさでなくとも、自己決定権を他者に委ねることでストレスから解放されるという心理は確かにあります。

 

しかしながら「個人の自由」を尊重しようとすれば、彼らに手を差し伸べる行為は彼らの「個人の自由」への侵害ということになってしまいます。

彼らは現状に満足し、そこから抜け出そうとは思っていないからです。

では結局、自由の行き着く先には永劫の孤独しかないのでしょうか。

いかにして「お節介」と「自由」を両立させることができるのでしょう。

 

そこに架けるべき橋はやはり「愛」しかないと思います。

 

「愛」とは人類にとって未解決の課題であり、慎重に取り扱うべきものですが、それでも目を逸らすことのできない一条の光なのです。

ビロードうさぎは持ち主の無償の愛によって自由になります。

アレキサンダは愛によってウィリーを自由にします。

 

この二つの作品を並べてみると、そこに美しい愛の連鎖の構築を見ることができます。

レオニさんが描こうとしたものは、そこにあるのではないでしょうか。

 

もちろん、ここに綴ったのは私の個人的解釈であり、他にもたくさんの読み方ができる絵本です。

そうした様々な読みを受け入れる懐の深さが名作の名作たるゆえんでもあります。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

とかげと壁紙の美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「くろうまブランキ―」【355冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するクリスマス絵本は堀内誠一さんの絵本デビュー作でもある「くろうまブランキ―」です。

再話:伊東三郎

絵:堀内誠一

出版社:福音館書店

発行日:1967年11月1日(こどものとも傑作集)

 

再話者が伊東三郎さん、ということはこれは海外の民話か何かかと思ったら、フランスの学校の子どもたちが作ったお話だそうです。

そう言われると納得の、いい意味でのシンプルなストーリーです。

無駄が一切なく、しかし必要な要素はすべて描かれています。

 

真っ黒な仔馬のブランキー。

主人のお百姓はとても意地悪。

それでもブランキーは一生懸命に働きます。

重い荷物を引かされ、しかし自分のための小屋さえ作ってもらえない哀れなブランキー。

ひとりぼっちで、星を見上げるブランキー。

年を取り、大きな荷物を運ぶ力がなくなったブランキーを、主人が打擲します。

道の上で倒れ、放置され、死にそうになります。

その夜はちょうどクリスマスの夜でした。

空からサンタクロースが降りてきて、ブランキーを助け起こしてくれます。

 

ブランキーはサンタクロースの銀のそりを引く仕事を任されます。

もう叩かれる心配もなく、優しく扱われ、餌もたっぷり与えられ、ブランキーは幸せな眠りにつくのです。

 

★      ★      ★

 

「マッチ売りの少女」を思わせる展開ですね。

でも、これはちゃんとハッピーエンド。

 

大人が読み飛ばすと、単純すぎて物足りないという感想を抱くかもしれませんが、感受性の豊かな子どもたちは、この短い物語から「自分あてのメッセージ」を過たず読み取ります。

それは即ち「この世界は美しく、素晴らしいところである」という福音です。

 

これは幼い子どもに対し、何度も何度も伝えるべきメッセージであり、エールです。

いや、大人に対しても。

 

現代社会を生きる人間は、豊かな文明を享受する一方、常に痛めつけられています。

「生産性」という言葉に代表される価値観は、ただ素朴に実直に生きているだけのブランキーのような存在が幸せになる物語を歓迎しません。

 

困難や障壁を乗り越え、努力し、何らかの能力を示して、初めて「幸せ」に辿り着くという物語のほうが、現代的には受け入れられるのです。

実はもう大人も(子どもも)、そういう物語に疲れているのではないでしょうか。

全ての人は、ただ生きているだけで幸せになってもいいのだと、なるべきなのだと、心の奥ではそういう言葉を求めているのではないでしょうか。

 

最初に触れたように、この「くろうまブランキ―」は堀内さんの絵本作家としてのデビュー作品です。

絵本を描きたくてもなかなか苦労していた堀内さんは、この話によって開眼したと語っています(「こどものとも」1969年6月号折り込み付録)。

 

ところで、物語冒頭、広い野原に生まれたばかりのブランキーが横たわるカットがあります。

堀内さんの大ロングセラー「ぐるんぱのようちえん」が好きな方はすぐに気がつくかもしれませんが、上記の絵はぐるんぱが野原に横たわる最初のカットと酷似しています。

お持ちの方はぜひ見比べてください。

 

堀内さんが何を考えていたかはわかりませんが、これはきっと意図的なものだと思います。

何故なら、作者の他作品を読めばわかるとおり、あれほど多彩な絵柄を描き分ける才能を持ったイラストレーターが、わざわざ同じ構図のカットを二度も使うことは偶然とは考えにくいからです。

 

≫絵本の紹介「ぐるんぱのようちえん」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

夢オチでないことを祈る度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」【337冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

祖母が他界しました。

4人いた祖父母の中で最も長生きし、そして最も私と近しい存在でした。

 

今回は「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」と共に、祖母の思い出を読み返したいと思います。

作・絵:ディック・ブルーナ

訳:松岡享子

出版社:福音館書店

発行日:2008年9月20日

 

すでにこのブログでは「ちいさなうさこちゃん」第1集に位置する4作品を取り上げました。

≫絵本の紹介「ちいさなうさこちゃん」

≫絵本の紹介「うさこちゃんとうみ」

≫絵本の紹介「ゆきのひのうさこちゃん」

≫絵本の紹介「うさこちゃんとどうぶつえん」

 

それら初期の作品とこの作品とを読み比べてみますと、ほとんど変化してないようでいて微妙な違いがあります。

うさこちゃんの耳の形、そして全体のフォルムもより丸みを帯びたデザインになっており、日本語訳も訳者が石井桃子さんから松岡享子さんにタッチ。

 

とことんシンプルでありながら深みのある一枚一枚のカットはシリーズ通してのものですが、今作では非常に珍しいうさこちゃんの「後ろ姿」と「涙」が見られます。

ディック・ブルーナさんがキャラクターを常に正面を向いた状態で描くことは有名ですが、表紙にあるお墓の前にたたずむうさこちゃんは後ろ姿で描かれています。

ここでは読者はキャラクターへの単純な同一化を抑制されています。

うさこちゃんの悲しみを想像し、共感することでしか彼女の中に入っていくことはできません。

 

だいすきな おばあちゃん」が死んでしまい、大粒の涙をこぼすうさこちゃん。

眠るように息を引き取ったおばあちゃんは、「うさこちゃんのおじいちゃんとおばあちゃん」などに登場しています。

絵本のシリーズにおいて、レギュラーでないにしろ登場人物が死ぬというのは実は大変珍しい展開なのです。

おわかれの ときが きました

だれもが おじいちゃんや うさこちゃんのように おおつぶの なみだを ながしました

 

おばあちゃんは棺に入れられ、大きな森の静かな場所に埋められます。

うさこちゃんはその後、時々おばあちゃんのお墓にきれいなお花を持って行ってあげます。

うさこちゃんは おばあちゃんの おはかを はなで いっぱいに したいのです

おばあちゃんの おにわと おなじように

 

うさこちゃんは おはかのまえで だいすきな おばあちゃん と よびかけます

すると、おばあちゃんが ちゃんと きいていてくれるのが わかります

 

★      ★      ★

 

私の両親は共働きで、私は幼い頃、よく祖母の家で過ごしました。

幼い私は一時期「死」の恐怖に取りつかれ、祖母に「どうしても人間は死ぬのか」「死んだらどうなるのか」と質問したのを覚えています。

 

祖母が何と答えたかは忘れてしまいました。

憶えているのは「どうしてこの人は自分よりもっと死に近いのに平気そうでいるのだろう」と不思議に思った気持ちだけです。

 

今は私は単純に死が怖くありません。

死は無に帰すことではないし、霊は不滅であることを信じられるからです。

それは宗教によってではなく、科学によっても解明されつつあります。

 

人間はイメージの世界を持ち、物質的世界と重なった思考世界にも足を置いているのです。

うさこちゃんのように死者に語りかけ、死者と共に生きることは、空虚な幻ではなく、確かな現実なのです。

 

祖母が亡くなる前日、私は病室で彼女に会いました。

祖母はすでに会話ができず、かすかに目を開いて意識があることを伝えるだけでした。

私は祖母の手を取り、長い間そこにじっとしていました。

 

なにも怖くないよ、おばあちゃん。

さらに自由になるだけだよ。

 

遠い日に祖母に向けて発した問いへの答えは、長い時間を経て、私自身が見い出しました。

それを伝えたかったのです。

 

 

いま、初めて涙が出ました。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

簡潔・丁寧・厳粛度:☆☆☆☆☆

 

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