2023.11.17 Friday
【絵本の紹介】「くまさん」【467冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はレイモンド・ブリッグズさんの「くまさん」を紹介しましょう。
作・絵:レイモンド・ブリッグズ
訳:角野栄子
出版社:小学館
発行日:1994年12月20日
追悼記事は書けませんでしたが、ブリッグズさんは昨年8月に鬼籍に入られています。
テキストのない絵本「ゆきだるま」(スノーマン)が良く知られていますが、コマ割りと吹き出しセリフによるコミック形式の「さむがりやのサンタ」「風が吹くとき」といった作品も傑作ぞろいです。
少年とゆきだるまの切ない友情を描いたり、人間臭いサンタの生活と仕事を描いたり、強烈な風刺とブラックユーモアで反戦と反核を訴えたりと、幅広い作風の作家さん。
この「くまさん」はいわば「ゆきだるま」の姉妹作のような作品ですね。
主人公は少年から少女に、友情を結ぶ相手はゆきだるまから大きなくまに。
対象に向かう心情も、冒険に連れ出してくれるゆきだるまと、世話をしてあげるくまという風に、どこかに男の子と女の子の描き分けのような傾向が伺えます。
もちろん古いジェンダー観だと指摘されればその通りかもしれませんけど、そこは時代なので。
しかしながら今回私が特筆したいのは内容よりも本のサイズです。
邦訳版は37cm×27cmという大型絵本で出版されていますが、それによって伝わるくまさんの迫力が半端ない。
窓から少女の寝室に侵入してくるシロクマ。
このでかさ。
可愛さと怖さを併せ持つ動物ナンバーワンじゃないでしょうか。
目を覚ました少女ティリーはまったく驚かず怖がらず、くまさんといっしょに夜を明かします。
次の日、両親にくまさんのことを話しますが、両親はティリーの空想だとして呆れたり笑ったり。
こんな大きなくまがいるのですから両親が気が付かないわけはないのですが、そこは描き方の妙味でして、両親の視線は常にくまを捉えていません。
ですのでくまさんが必ずしもティリーの空想にだけ存在するとは断言できないような構造になっています。
ティリーはくまさんをお風呂で洗ったり、ミルクを飲ませたり、うんちやおしっこの片づけをしたりと世話を焼きます。
時には怒ってお説教。
おそらくは普段自分が母親あたりに言われているお説教をそのまま向けているのでしょう。
お人形遊びあるあるですね。
ティリーはくまさんにずっと一緒にいて欲しいと望みますが、くまさんはそっと部屋を後にし、北極へと帰っていきます。
すべてはティリーの空想の世界だったのか、それとも…。
★ ★ ★
絵本という芸術が、テキストや絵のみでできているわけではなく、そのサイズや製本含めた表現であるということがよくわかります。
大型版絵本の中には子どもが開いたページの上に乗れるほどの大きさのものもありますが、この大きさあってこその「くまさん」だと思います。
だからこそ、教科書などで知った絵本作品でも、原作に触れるとまるで別の印象や発見があるのです。
怖くもあり、可愛くもあり、寄り添った時の安心感もあり、面倒をみたくなる対象でもあるくまさん。
どこか「おちゃのじかんにきたとら」を彷彿とさせるところもありますね。
空想上の友だちという点では「アルド」に通じるでしょうか。
絵本の一つの型ともいうべき構成ですが、やはり最大の特徴はくまさんの巨大さかもしれません。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
くまさん登場時のインパクト度:☆☆☆☆☆
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