【絵本の紹介】「くまさん」【467冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はレイモンド・ブリッグズさんの「くまさん」を紹介しましょう。

作・絵:レイモンド・ブリッグズ

訳:角野栄子

出版社:小学館

発行日:1994年12月20日

 

追悼記事は書けませんでしたが、ブリッグズさんは昨年8月に鬼籍に入られています。

テキストのない絵本「ゆきだるま」(スノーマン)が良く知られていますが、コマ割りと吹き出しセリフによるコミック形式の「さむがりやのサンタ」「風が吹くとき」といった作品も傑作ぞろいです。

 

≫絵本の紹介「ゆきだるま」

≫絵本の紹介「さむがりやのサンタ」

≫絵本の紹介「サンタのたのしいなつやすみ」

≫絵本の紹介「風が吹くとき」

 

少年とゆきだるまの切ない友情を描いたり、人間臭いサンタの生活と仕事を描いたり、強烈な風刺とブラックユーモアで反戦と反核を訴えたりと、幅広い作風の作家さん。

この「くまさん」はいわば「ゆきだるま」の姉妹作のような作品ですね。

主人公は少年から少女に、友情を結ぶ相手はゆきだるまから大きなくまに。

 

対象に向かう心情も、冒険に連れ出してくれるゆきだるまと、世話をしてあげるくまという風に、どこかに男の子と女の子の描き分けのような傾向が伺えます。

もちろん古いジェンダー観だと指摘されればその通りかもしれませんけど、そこは時代なので。

 

しかしながら今回私が特筆したいのは内容よりも本のサイズです。

邦訳版は37cm×27cmという大型絵本で出版されていますが、それによって伝わるくまさんの迫力が半端ない。

窓から少女の寝室に侵入してくるシロクマ。

このでかさ。

可愛さと怖さを併せ持つ動物ナンバーワンじゃないでしょうか。

 

目を覚ました少女ティリーはまったく驚かず怖がらず、くまさんといっしょに夜を明かします。

次の日、両親にくまさんのことを話しますが、両親はティリーの空想だとして呆れたり笑ったり。

こんな大きなくまがいるのですから両親が気が付かないわけはないのですが、そこは描き方の妙味でして、両親の視線は常にくまを捉えていません。

ですのでくまさんが必ずしもティリーの空想にだけ存在するとは断言できないような構造になっています。

 

ティリーはくまさんをお風呂で洗ったり、ミルクを飲ませたり、うんちやおしっこの片づけをしたりと世話を焼きます。

時には怒ってお説教。

おそらくは普段自分が母親あたりに言われているお説教をそのまま向けているのでしょう。

お人形遊びあるあるですね。

ティリーはくまさんにずっと一緒にいて欲しいと望みますが、くまさんはそっと部屋を後にし、北極へと帰っていきます。

すべてはティリーの空想の世界だったのか、それとも…。

 

★            ★            ★

 

絵本という芸術が、テキストや絵のみでできているわけではなく、そのサイズや製本含めた表現であるということがよくわかります。

大型版絵本の中には子どもが開いたページの上に乗れるほどの大きさのものもありますが、この大きさあってこその「くまさん」だと思います。

だからこそ、教科書などで知った絵本作品でも、原作に触れるとまるで別の印象や発見があるのです。

 

怖くもあり、可愛くもあり、寄り添った時の安心感もあり、面倒をみたくなる対象でもあるくまさん。

どこか「おちゃのじかんにきたとら」を彷彿とさせるところもありますね。

 

≫絵本の紹介「おちゃのじかんにきたとら」

 

空想上の友だちという点では「アルド」に通じるでしょうか。

 

≫絵本の紹介「アルド わたしだけのひみつのともだち」

 

絵本の一つの型ともいうべき構成ですが、やはり最大の特徴はくまさんの巨大さかもしれません。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

くまさん登場時のインパクト度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くまさん

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【絵本の紹介】「1999年6月29日」【455冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はかなりお久しぶりの登場、デイヴィッド・ウィーズナーさんの作品を紹介しましょう。

1999年6月29日」。

作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー

訳:江國香織

出版社:ブックローン出版

発行日:1993年8月29日

 

現代絵本作家の中でも際立った天才性が光るウィーズナーさん。

画力・表現力・構成力、すべてにおいて普通じゃないです。

大人が読んでも面白い絵本と言えば私は真っ先に彼の作品をお勧めします。

 

今回も一本の映画を観るような気分で読める作品で、タイトルからして粋ですよね。

1999年と言えばかつてはノストラダムスの大予言が流行し、「何かが起こるかも」という漠然とした予感から、様々な作品の舞台になっている年度ですが、今作はそんなありきたりな終末論とは一線を画した内容になっています。

 

ウィーズナーさんといえばテキスト無し、あるいは必要最低限のテキストによる、絵の力のみで読者の想像力を刺激して読ませる(それが実に心地よく酔えるのですが)絵本が多いですけど、今回はわりとしっかりとテキストがあります。

それもなかなかに機知に富んだ言い回しやハリウッド的ユーモアが散りばめられた文章で、江國さんの翻訳文でも漢字が多用されており、小さな子どもには読むのが難しいでしょう。

とはいえ、やはり絵の力が飛びぬけて雄弁なので、あるいは絵だけでも成り立つかもしれません。

 

1999年5月11日、ニュージャージー州に住む「ホリー・エヴァンズ」という女の子が、何か月も準備した研究を実験に移します。

それは野菜の苗木を小さな気球に乗せて空に向かって打ち上げるというもの。

電離層における野菜の発育と成長」について調べる実験だというのです。

 

ホリーは中学生くらいでしょうか。

この天才性、ユニークさ、嬉しくなるようなキャラクターです。

 

そして運命の6月29日、国じゅうの至る所で驚くべき現象が目撃されます。

巨大な野菜が空を漂い、ゆっくりと降ってきたのです。

ここの数ページに及ぶカットと文章の楽しいこと楽しいこと。

さあ国じゅうは大騒ぎ。

ホリーの家の庭にも巨大ブロッコリーが飛来します。

当然読者はこの現象がホリーの実験の成果だと思って読み進めます。

それはホリーも同じ。

しかし、日夜流される報道を追ううちに、ホリーは妙なことに気づきます。

 

自分が打ち上げたはずのない野菜までが発見されているのです。

この小さな科学者は、好奇心にかられて考え込みます。

自分の野菜はどうなって、そしてこの庭に落ちてきたブロッコリーは誰のものなのか…。

 

★                   ★                  ★

 

リアリティある絵とキャラクター造形、そしてそこに起こる非日常的事件。

同じ作者による傑作「かようびのよる」にも通じる構成です。

 

≫絵本の紹介「かようびのよる」

 

作者の作品はいつも読者の想像力をかきたて、知的好奇心を刺激し、そしてニヤリとさせられるラストに至るまで愉悦に満ちています。

ホリーの研究者としての好奇心、知的渇望はそのまま読者に憑依します。

 

巨大野菜に驚いたり、喜んだり、金儲けしたり、浮かれてお祭り騒ぎしたりする大衆の姿も風刺が効いていてユーモラス。

名もなき登場人物一人ひとりにも物語が想像できます。

 

私は絵本のネタバレはしても構わないと思っている人間ですが(それによって作品の面白さは全く削がれないと確信しているので)、今作のラストについては触れないでおきますね。

ぜひ自分で読んでみてください。

 

最後に、ちょっとしたトリビアを。

このブログでも紹介した、同作者による「セクター7」という絵本のどこかに、空飛ぶブロッコリーが描かれています。

持っている方は探してみてくださいね。

 

≫絵本の紹介「セクター7」

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

野菜の種類に詳しくなる度:☆☆☆☆☆

 

 

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【絵本の紹介】「とらのゆめ」【423冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

寅年最初の絵本紹介ということで、1984年に発表されて後、長い間絶版となっていたのを、月間絵本「こどものとも」にて待望の復刊を果たした幻の名作を紹介しましょう。

とらのゆめ」です。

作・絵:タイガー立石

出版社:福音館書店

発行日:2021年12月1日(こどものとも第429号)

 

40年近く前の作品とは思えないこのイラストセンス。

強烈なインパクトを放つ緑色の虎。

鮮やかな色彩と立体感のある構図。

 

その内容はまさに夢の中、夢像風景ともいうべき不思議な感覚を読むものに体験させてくれます。

とらの とらきち」が見ている夢の中。

ストーリーも何もなく、入眠も覚醒も描かれません。

とにかくここは夢の中なのです。

 

夢の中ではとらきちは宙に浮くように歩き回り、自在に形を変えます。

身体の模様そのままにスイカのように丸まったかと思うと縦縞のあるだるまさんに変身し、しっぽの部分をロープにして、さらにそのしっぽがとらきちに戻り、だるまさんはそのまま。

どこからどこまでが自分だったのか、自我意識すら曖昧な夢の境界を漂うような描写が一種の心地よさをもたらします。

とにかく絵の説得力が凄い。

夢であり、幻ではあるのだけど、まったくのカオスというわけではない。

 

意識が反映されているというより、とらきちのデザインと形態から世界が広がっていく感じ。

ここには視覚的な愉悦があります。

扉と最終ページは空中に浮かぶ透明な立方体の中で丸まって眠るとらきちの姿と、「ぐう ぐう ぐう」というテキストで、まったく同じです。

最初から最後まで夢であり、とらきちが現実に虎なのかどうかも不明なままです。

 

★                   ★                  ★

 

作者のタイガー立石さん(レスラーみたいな名前)の、絵本作家としてのデビュー作でもあります。

タイガー立石さんは絵本作家としてより現代美術家としての知名度の方が高いかもしれません。

イタリアでデザインの仕事を数々手掛け、漫画家としての顔も持ちます。

 

個人的には、同じ絵本業界の中では新宮晋さんに近いイメージがあります。

 

≫絵本の紹介「いちご」

 

夢とは何なのか、意識のない世界で人間は本当は何を感じ、何を見ているのか。

現代科学ではまだ解き明かせていない謎です。

 

地球が夜と昼を繰り返すように、空気を吸って吐くように、花が開いて散るように、生と死を繰り返すように、人間は覚醒と睡眠を繰り返します。

人間には自由にはできない無意識領域を垣間見せてくれるのが夢なのかもしれません。

 

こどものともの折込付録には作者のことばが記されており、それはこの復刻版でも再掲されています。

それによると「とらきち」は動物と植物をかねあわせたイメージで描かれており、「水や空気や太陽や樹や草や動物たちとの調和のなかでしか、人類の平和を保てないと悟りはじめたわれわれの時代の気分」が反映されているようです。

 

今では使い古されたような(かといって解決が見えたわけでもありませんが)言葉に聞こえるかもしれませんが、この絵本が描かれた1980年代を振り返れば、まさにそれは時代の気分だったと言えるでしょう。

 

そして言葉は使い古されても、絵本という芸術作品そのものはまったく色褪せず、当時と同じ力を持って私たちの心に、無意識領域に、つまり夢の世界に強く働きかけてきます。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

感じる絵本度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「セロひきのゴーシュ」【371冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

さて、新年度を迎えたわけですが、世界はいつ収束するともわからないウイルスとの戦いに恐々としたままです。

東京も封鎖するの? しないの? やっぱりするの? 的なやり取りが繰り返されてます。

すでに封鎖された他国の都市で生活されている人から「何が必要か」と聞くと、食料品や日常品の備蓄は当然ながら、「本」という声が実に多いようです。

 

やはり人はパンのみに生きるにあらず、なのです。

大人も子どもも、今こそたくさんの本を読みましょう。

最近の研究では健康長寿のためには食事や運動に加えて「読書習慣」が重要であるということが報告されています。

 

今回は夭逝の詩人・宮沢賢治の児童文学を絵本化した「セロひきのゴーシュ」を紹介します。

作:宮沢賢治

絵:茂田井武

出版社:福音館書店

発行日:1966年4月1日

 

セロというよりも「チェロ」と呼んだ方が一般的かもしれません。

四本弦のヴァイオリンのような楽器です。

宮沢賢治自身もセロの演奏を学んでいたそうです。

 

宮沢作品については今さら私ごときがどうこう評するのも憚られますが、実に多くの傾倒者を生んだ作家です。

それはひとつには「銀河鉄道の夜」などに代表される彼の作品から読み手に伝わる豊かなイメージの力だと思います。

 

彼の思想はイメージと不可分に結びついていることで、感情を通して直接流れ込んできます。

それだけに、その世界を絵にすることは難しいとされています。

 

茂田井武さんによるこの「セロひきのゴーシュ」は、今なお宮沢賢治を原作とした絵本作品の中で最高峰の一冊とされています。

そして同時に、茂田井さんが文字通り命がけで取り組んだ最後の絵本作品でもあります。

その経緯は後にして、まずは内容をざっと読んでみましょう。

 

町の楽隊のセロ弾きであるゴーシュは、仲間のなかで一番下手。

今度の町の音楽界で演奏する第六交響曲の練習でも、一人だけ楽長から何度もダメ出しをくらいます。

ゴーシュは懸命に弾きますが、楽長からは演奏に「表情が出てこない」「ほかの楽器と合わない」とボロカスに言われて、悔し泣きします。

家に帰ってからもゴーシュは顔を真っ赤にして練習しますが、うまく行きません。

 

その夜、いっぴきの三毛猫がゴーシュを訪ねてきて、演奏を聴いてあげると言います。

ゴーシュは「なまいきだ」と腹を立て、ひどい演奏をして猫を苦しめ、さらにいたぶって追い出します。

 

ところがそれから毎晩のように動物がゴーシュを訪ねてくるようになります。

ドレミファを教わりたいというカッコウ、小太鼓とセッションをしたがる子だぬき、演奏で病気を治してほしいという野ねずみの親子。

ゴーシュはそれらを鬱陶しがりながらも、徐々に態度を軟化させていきます。

そして彼らとの交流の中で、次第に演奏にも変化が現れます。

 

音楽会本番、ゴーシュたちの演奏は大成功をおさめます。

さらにアンコールを求める聴衆に、楽長はゴーシュが一人で何か演奏するように言います。

ゴーシュはやけくそであの猫を苦しめた「インドのとらがり」を弾きますが、意外にも聴衆はじっと聴き入り、楽長からも褒められます。

ゴーシュはいつの間にか以前とは比べ物にならないくらい上達していたのです。

 

★      ★      ★

 

ここには楽器の熟達を通じて、人間が何かを学ぶということについて描かれています。

顔を真っ赤にし、全身に力を込めて演奏しようとするゴーシュ。

いくら熱心であっても、それでは楽器の演奏はうまく行きません。

 

ゴーシュの「力み」は、動物たちへの傲慢で狭量な態度からも読み取れます。

しかし、物語が進むにつれ、少しずつゴーシュは彼らに心を開き、素直さを見せ始めます。

そして同時に、これまでの頑なな自分自身の殻を破る勇気も持ち始めるのです。

 

単に指先の鍛錬だけでは、真にレベルの高い演奏には辿り着けません。

上記のような精神的・人間的成長があって初めてそのレベルに到達できます。

逆に言えば、だからこそ人を感動させることができるのです。

これは楽器に限った話ではなく、あらゆる芸術につながることだと思います。

 

この素晴らしい絵を描いた茂田井さんですが、彼に「セロひきのゴーシュ」の挿絵を依頼した「こどものとも」編集長の松居直さんが、1984年3月号の「別冊太陽」にその経緯を詳しく書かれています。

 

松居さんが茂田井さんの家を訪ねた時、茂田井さんは持病の喘息が悪化して臥せっており、奥さんが出てきて仕事の話を断ろうとしました。

すると話を聞いていた茂田井さんが「あがってもらいなさい」と声をかけます。

病状を気にして帰ろうとする松居さんに、茂田井さんは「賢治のゴーシュでしょう。それが出来るなら、ぼくは死んでもいいですよ」。

そして実際、1956年に「こどものとも」第2号として「セロひきのゴーシュ」が発表された翌年、茂田井さんは息を引き取ってしまいます。

 

別々の時代に生まれ、共に若くしてこの世を去った薄命の詩人と画家は、絵本という形で見事な合奏を実現したのです。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

「インドの虎刈り」「愉快な馬車屋」聴いてみたい度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ボタンのくに」【367冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

新型コロナウイルス感染症問題が混迷を深める中、混乱と不安のままに突然の休校が宣言され、困惑している子どもたちや保護者の方々も多いことでしょう。

休みだからといって人の多いところには行けないし、どうやって過ごせばいいのか。

 

今こそ読書しましょう。

私は幼稚園にも行かずきょうだいもいない息子と6年間遊んできましたが、やっぱり絵本や他の本に随分助けられました。

テレビもつけないし、ゲームもしませんので。

 

こんな時に……とも思いましたが、こんな時だからこそ絵本の紹介をしていきたいとも思います。

今回は西巻茅子さんのデビュー作「ボタンのくに」を紹介します。

作:中村成夫・西巻茅子

絵:西巻茅子

出版社:こぐま社

発行日:1967年8月30日

 

ぬいぐるみのうさぎから取れた「あかいボタン」の冒険を描いたファンタジー絵本。

丸と三角を組み合わせたシンプルな造形で擬人化されたボタンたち。

 

西巻さん独特の子どもの落書き帳のような楽しい画面に惹きつけられます。

そして実際、子どもたちはこの絵本に言い知れぬ親近感と共感を覚えるようなのです。

 

1966年、こぐま社を設立した佐藤英和さんは、安易な流行を追った絵本作りに警鐘を鳴らし、日本の子どもたちのために本当に後世に残る良い絵本を世に出すため、熱意をもって仕事をされていました。

そして当時まったく無名だった西巻さんの絵に可能性を感じ、「絵本を作りませんか」と持ち掛けます。

 

それから3か月ばかりで描き上げた絵に、中村成夫さんが文章を付け、たちまち「ボタンのくに」が完成します。

無我夢中で作ったこの作品に対し、気恥ずかしさを覚えていたという西巻さんですが、発行されて2年ほどしたとき、佐藤さんのもとへ読者の母親から手紙が届きます。

 

その内容は「絵本に魅せられて」(佐藤英和・こぐま社)の中に詳しいですが、この絵本がいかに子どもの心を捉えて離さないか、そして大人目線では見逃してしまう魅力が存在することが綴られていました。

 

本当にこの作品は、一読しただけではなかなかその魅力のすべてに気づくことは難しいです。

ただ、子どもは実に的確な評価を下します。

 

あかいボタン」は「あこちゃん」のぬいぐるみのうさぎの「ぴょん」の片目に使われていたものですが、取れて草むらに落ちてしまいます。

転がって行った先は「ボタンのくに」。

黄色いボタンの女の子たちに遊園地へ案内されます。

はりやまの スキーじょう」で遊び、黒いボタンにぶつかって追い回され。

リボンのかわ」を渡り、「いとくずの ジャングル」を抜け……。

逃げ込んだボタンのお城には、いろんな形、いろんな大きさのボタンがいっぱい。

赤いボタンは王さまに呼び出され、そこでぴょんからきた手紙を読んでもらいます。

 

片目を失くしたぴょんが困っていることを知り、赤いボタンは「ぱちんこロケット」で帰って行きます。

あこちゃんの家の庭に落ちた赤いボタンは、無事に発見され、ぴょんの目に戻ります。

 

★      ★      ★

 

針山や裁縫道具も子どもたちの生活から離れたものになりつつありますけど、この絵本の魅力は衰えません。

「子どもの落書き」と評しましたけど、当然「崩して描く」ためには基本的画力がしっかりしていないとできません。

単に「子どもみたいな絵」を描いたら子どもが喜ぶ、と考えたら見誤ります。

 

ボタンのくにの遊園地のカット、はっきりした線や色はありませんが、どうしても見入ってしまいます。

裁縫道具で作られたひとつひとつの遊具、ボタンたちひとりひとりの行動をずっと追って行くうちに、自然とこの空想世界へ引き込まれていくのを感じます。

 

一枚の紙にいっぱいにお絵描きすることの楽しさ、そして描き込んでいくにつれ、絵に命が吹き込まれていくのを感じた時の純粋な歓びがここにあります。

 

私も息子のために何百枚となく絵を描いてきましたけど、「子どもが喜ぶ絵」というのは単純な「上手下手」とはさほど関係ないのですね。

私ははっきりと下手ですけど、描きながら「あ、これは息子がぜったい喜ぶな」という絵はわかります。

 

絵本の絵というものは、やはり「どう描けば子どもが喜ぶか」を突き詰めた先にあるものだと思います。

「子どもが喜ぶ絵」は大人にも喜びを与えるものです。

大人の方が鈍感ですけどね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

不思議の国のアリス感度:☆☆☆

 

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