2020.09.23 Wednesday
【絵本の紹介】「ぬまのかいぶつボドニック」【388冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
連休も明け、やっと涼しくなってきましたね。
体調を崩さないように今週もぼちぼち頑張りましょう。
今回紹介するのは「ぬまのかいぶつボドニック」です。
作・絵:シュテパン・ツァフレル
訳:藤田圭雄
出版社:ほるぷ出版
発行日:1978年7月10日
深い水の底を思わせる暗い青を基調とした水彩作品です。
表紙でパイプをくわえているのが「ボドニック」。
紳士風の身なりをしており、顔色が悪い他はさほど「かいぶつ」らしさはありません。
造形もコミカルで可愛らしいとも言えます。
けれどもこれがなかなかの外道。
民話風の長めのテキストと全編通した薄暗い色調も相まって、一種独特なダークファンタジー風の世界を構成しています。
森の奥の沼を棲み処とするボドニックは、近付くものを片っ端から水の底に引きずり込み、その魂を壺に入れて隠しているという恐ろしい怪物です。
沼のそばの水車小屋にはマンヤという娘がひとりで暮らしていました。
ある時、ボドニックがマンヤの前に姿を現し、「おまえは おれとけっこんするんだ」と一方的に告げます。
マンヤは当然拒否します。
そしてホンツァという青年のプロポーズを受け入れ、二人は結婚式を挙げるため村へ向かいます。
怒ったボドニックは二人を襲撃し、水の底に沈めます。
ホンツァは「あたまのふたつある みにくいさかな」に変えられてしまいます。
こうしてマンヤは無理矢理ボドニックと結婚させられてしまいます。
ボドニックはマンヤに様々な仕事をさせ、真珠を探してくるように言いつけます。
水の底をさまようマンヤに、魚に変えられたホンツァが話しかけ、脱出計画を立てます。
マンヤはかつて家に泊めてあげたおばあさんからもらった「まほうの たから」を三つ持っていました。
「くびまき」「はい」「なわ」です。
その首巻をボドニックの首に巻くと、ボドニックは眠りこけ、そのすきにマンヤはホンツァをもとの姿に戻すために必要な壺を取って逃げます。
ホンツァは無事に人間に戻り、二人は逃げ出す前に他の壺に封じ込められている人たちの魂も助けるため、壺を壊して回ります。
そこでボドニックが目を覚まし、手下のうなぎやかにと共に追いかけてきます。
マンヤは残りの宝を使いながら難を逃れ、際どいところで沼から這い上がります。
怒り狂ったボドニックは沼から飛び出してさらに二人を追いますが、太陽の光を浴びて消滅してしまいます。
こうしてマンヤとホンツァはめでたく結ばれ、幸せに暮らすのでした。
★ ★ ★
作者の独創か、原作となる民話があるのかは知りませんが、王道的昔話の物語形式をとった絵本です。
異形の怪物が主人公を妻としようとする婚姻譚である点。
主人公が「3つの呪具」を与えられ、それを駆使して難を逃れる点。
人間の魂を壺に閉じ込めたり、魚の姿に変えてしまう怪物からの逃走劇はなかなかにスリリングで怖いです。
それだけに面白い。
しかし何といっても印象深いのは(そして作者自身がもっとも描きたかったであろうことは)ボドニックのキャラクターでしょう。
残酷で恐ろしく、愛する者同士を引き裂き、怒りっぽくて嫉妬深く、執念深い怪物。
しかし一方でボドニックには常にある種の悲愴感・孤独感がつきまといます。
その暗黒の心と同様、醜く歪んだ自分の姿を派手な衣装で飾り立て、美しいマンヤに恋い焦がれ、ライバルを醜い姿に堕とさずにはいられない。
おそらくボドニックは自分の醜さを自覚しており、嫌悪しています。
それがこの怪物がまとう悲愴感の源です。
子どものころから想い続け、大人になるのを待って迎えに行ったマンヤから「あなたは びしょぬれだし きみがわるいし それに みどりいろだし」と悪しざまに撥ねつけられるボドニック。
怪物が太陽を忌避するのは、醜い己の姿が白日の下に晒されるのを恐れるからです。
けれども一方で怪物の捻じくれた心は、明るく美しい太陽(マンヤ)を求めずにはいられません。
怪物の悲愴と孤独は、その断末魔のシーンで明確に描かれます。
「かいぶつは へなへなになって ふるえだし かなしそうなこえをだして ぬまのほうをみました」
「もう おそかったのです。ひとあし あとずさりをしましたが それが さいごでした」
怪物が永久に消えてしまったことで、聞き手の子どもたちはほっと安心するでしょう。
けれども私のような大人は、己の内の醜い心から生み出されたようなボドニックの哀れな最期に対し、一掬の涙を注がずにはいられないのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
靴を仕立てるボドニックのいじらしさ度:☆☆☆
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