【絵本の紹介】「ひげのサムエルのおはなし」【345冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

そろそろまた大好きなあのシリーズを取り上げたくなりました。

ご存知「ピーターラビットの絵本」より「ひげのサムエルのおはなし」を紹介します。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1974年2月28日

 

美しい自然と精緻な動物たちの水彩画。

ユーモラスでファンタジックでありながら少しも甘くない厳然たるリアリティに貫かれた世界。

 

世界中の子どもたち(そして私のような大人たち)を虜にし続けるウルトラロングセラー「ピーターラビット」。

後進の絵本作家たちに多大な影響を与えたビアトリクス・ポターさんの描き出した物語です。

 

一体何人の作家が「こんな絵本を描きたい」と筆をとったことでしょう。

しかしながら、いまだに「こんな絵本」を再現できたと言える作家は現れていません。

 

ポターさんの突出した想像力はもはや「才能」という言葉では追いつかない、異次元の能力と言っていいでしょう。

それは実際に動物と会話ができるほどの力であったと考えられます。

そうでなければ、こんな絵本が描けるでしょうか。

 

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

≫絵本の紹介「ベンジャミン・バニーのおはなし」

 

さて、シリーズ通して度々登場する「食べられエピソード」ですが、この「ひげのサムエルのおはなし」ではそれが特に強烈に描かれています。

この世界の動物たちは人間と同じように立って、話して、服を着て、商売をして生活しているのですが、一方では常に捕食される(あるいは皮を剥がれるといった)危険に晒されており、その一定の緊張感こそが、この作品を極上のファンタジーたらしめています。

 

考えてみればこれは子どもの目から見る世界そのものであると言えます。

子どもは大人たちと同様に人間でありながら、決して大人とは同列に扱われない無力な存在です。

彼らは本能的に大人に蹂躙される恐怖を抱いています。

だからこそ、子どもたちは「ピーターラビット」の世界に全身で共感することができるのです。

 

前置きが長くなりました(というか、ほとんど言いたいことは語ってしまいました)が、手早く本編を読みましょう。

何しろ74pもある長編です。

 

今回の主人公は「こねこのトム」。

シリーズ通して何度か登場する「タビタ・トウィチット」というねこの奥さんの息子です。

タビタさんには他に「モペット」「ミトン」という可愛らしい名前の娘もいますが、三人そろってわんぱく盛りで、まるっきり言うことを聞かないもので、タビタさんはいつも振り回されています。

今日も今日とて、パンを焼く間子どもたちを押入れに閉じ込めておこうとするのですが、そろって姿を隠してしまいます。

 

タビタさん家はずいぶんと古くて広いお屋敷のようで、探すのも大変です。

そこへ現れたのは、「パイがふたつあったおはなし」で登場した「リビー」さん。

相変わらずおしゃれさん。

タビタさんとはいとこ同士です。

 

リビーさんはタビタさんに協力して、広い屋敷内をくまなく捜索します。

モペットとミトンは見つかりましたが、トムが見つかりません。

おまけに、モペットとミトンの証言から、この家のどこかに棲みついているらしい巨大なねずみが不穏な動きを見せていることが判明します。

「麺棒」「バター」「ねり粉」……ざわざわするワードの数々。

タビタさんとリビーさんは屋根裏の床下から妙な音がするのを確認し、「だいくのジョン」(犬)に救援を求めることにします。

 

さて、こねこのトムに何が起こっていたかと言いますと、彼は煙突を上って外へ行こうとして脇道に入り、屋根裏の床下に出てしまったのでした。

そこにいたのは巨大なねずみの「ひげのサムエル」と彼の細君「アナ・マライア」。

トムはあっという間に凶暴な二匹の手にかかり、縛り上げられてしまいます。

 

サムエルはマライアに「わしに、ねこまきだんごをつくってくれや」と恐ろしいセリフを吐きます。

なんとこのねずみたちは子猫を食べるのです。

一体どんな本に「ねずみに食べられる猫」の物語が登場するでしょう。

泣いて抵抗するトムを完全に無視して「ねこまきだんご」の準備を進めるサムエル夫妻。

ねり粉の量やひものことで口喧嘩をしつつ、着々とトムをだんごにしていきます。

トムを「食用」としてしか見ていない態度に寒気がします。

 

もはや絶体絶命というところで、大工のジョンさんが駆けつけ、のこぎりで天井の床を切り開きます。

サムエルたちは仕方なくトムを諦め、屋敷から脱出します。

 

九死に一生を得たトムですが、成長してからもこの体験はトラウマとして残り、ねずみを怖がるようになってしまいます。

無理もありませんね。

 

★      ★      ★

 

前述の通りかなり長いお話で、なおかつちょっと難しい表現も多く、小さな子には理解が追い付かない部分もあるでしょう。

例えばねずみたちの暗躍を知って驚愕するタビタたちとか、ひげのサムエルとアナ・マライアの会話とか、そうしたシーンに詳細な説明的テキストはありません。

これはポターさんの特質のひとつでもありますが、彼女の文章は丁寧でありながらある部分では非常に寡黙で抑制的なのです。

 

ゆえに、単純に絵と文だけから物語の全容が知れるわけではなく、読者は想像力を働かせなければなりません。

だから幼い子ども向けとは言えないのですが、個人的な経験を挙げれば、私は息子が4歳ごろにこれを読み聞かせました。

これまでも他の「ピーターラビット」シリーズの長いお話を聞いていたので、これも行けるかなと思ったのです。

 

やっぱり息子は最後まで集中して聞いていました。

内容をすべて理解したわけではないでしょうが、ここに描かれている物語がある意味で自分に近しい世界であることを、どこかで感じ取ったのかもしれません。

爾来、「ひげのサムエルのおはなし」は定期的にリクエストされる一冊になりました。

 

このシリーズが独特な点のひとつに、語り手であるポターさんの存在があります。

彼女は第三者的視点で物語を語りますが、同時にこのファンタジー世界の住人でもあります。

私などはつい作者の存在を忘れて朗読していたりするのですが、ふとした瞬間にポターさんはその存在感を露わにします。

 

この「ひげのサムエルのおはなし」では、大工のジョンが「ポターさんの手おしぐるま」を作り、クライマックスではサムエル夫妻がその手押し車を勝手に使って引っ越しをし、それをポターさん自身が目撃するという、なんとも不思議な描写がなされています。

 

その影響か、息子の描く絵の中には稀に「ポターさん」というキャラクターが登場します。

時代も国も越えて、子どもにそんな親近感と信頼感を抱かせることのできる絵本作家はポターさんを除いて存在せず、それもまたこのシリーズを唯一無二の作品にしている点だと思います。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

食べ物を粗末にしない度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ひげのサムエルのおはなし

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【再UP】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本界において一つの時代を担ってきた作家さんたちが次々と鬼籍に入られています。

かこさとしさん、ジョン・バーニンガムさんに続いて、異色の天才・トミー・ウンゲラーさんの訃報が届きました。

享年87歳。

 

このブログでも彼の作品を数々取り上げてきました。

彼の才能はもとより、権力者に対する鋭い風刺の目と、その反面子どもやマイノリティに対する限りない優しさが印象的なひとでした。

 

「すてきな3にんぐみ」「へびのクリクター」「月おとこ」など、たくさんのロングセラーを遺したウンゲラーさん。

哀悼の意を込めて、氏の独自性が最も強く表れている異色作「ゼラルダと人喰い鬼」を再UPします。

 

★      ★      ★

 

今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ゼラルダと人喰い鬼

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【236冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ジュマンジ」【189冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

秋の長雨。

外に遊びに行くこともできず、家でゲームばかりしている子どもたちもいるかもしれません。

今ではゲームと言えばスマホなどの電子ゲームですが、双六に代表されるボードゲームの面白さは不滅だと思います。

 

ああいうのは、ちょっと工夫すれば自分で新しいものを作れるところがいいですね。

「もっと面白いゲームにならないかな」なんて考えながら。

 

そんな限りない空想を、オールスバーグさんが圧倒的な画力と構成力で作品化したのが、今回紹介する「ジュマンジ」です。

作・絵:クリス・バン・オールスバーグ

訳:辺見まさなお

出版社:ほるぷ出版

発行日:1984年7月15日

 

これはもう、映画の方が有名でしょうね。

これが原作なんですよ。

魔術師ガザージ氏の庭で」で衝撃的デビューを飾ったオールスバーグさんの2作目の絵本。

 

≫絵本の紹介「魔術師ガザージ氏の庭で」

 

細密に描かれたモノクロ画の中で、色彩感覚と奥行をリアルに喚起させる手法は、前作の時点ですでに確立されていました。

点描のように見えるのは粉を使っているようです。

 

そして計算された構図も、作者一流の技法です。

この「ジュマンジ」では、低い視点から見上げる構図が多く用いられていますが、それはつまり幼い読者の目線を想定しているということです。

巨大で迫力ある動物たちに対する不安感・恐怖感が否応なしにかき立てられます。

 

ストーリーは映画とは違いますが、「ボードゲーム内の出来事が、現実になる」という設定は同じです。

両親に留守番を言いつけられたピーターとジュディは、公園の木の根元で、「ジュマンジージャングル探検ゲーム」と書かれた箱を拾います。

持って帰って開けてみると、至って単純な双六ゲームのようで、ピーターはつまらなさそうにします。

しかし、注意書きには、「一度このゲームを始めると、誰かが上がりに辿り着かない限り、絶対に終わらない」ことが記されていました。

 

ともかく始めることにした二人。

ピーターがサイコロを振って進んだマスには、

ライオンがおそってきた

すると……

本当にピアノの上にライオンが現れ、襲い掛かってきます。

家じゅうを逃げ回り、どうにかゲームの部屋に戻ってきた二人は、このゲームのルールを悟ります。

 

とにかくゴールの「ジュマンジ」に辿り着かない限り、ゲームは終わらないのです。

さあ、そこからスリリングな「リアルすごろく」が始まります。

サルに台所を荒らされ、雨に降られ、サイが突進し、大蛇が忍び寄り……。

 

ついには火山が爆発し、溶岩が流れ出てきます。

そんな中で、やっとジュディがゴールに辿り着き、「ジュマンジ!」と叫ぶと……

騒ぎは静まり、めちゃめちゃになったはずの家も元通りになっていました。

二人は「ジュマンジ」を公園の木の根元に捨てます。

 

やがて両親が帰ってきて、平穏な日常に戻ったことを安心するも、窓の外では「ジュマンジ」の箱を抱えた二人の少年の姿が……。

 

★      ★      ★

 

近いうちに映画版「ジュマンジ」の続編だかリメイクだかが公開されるようです。

ファンの方は、一度原作も読んでみてはいかがでしょう。

 

うちの息子とこの前、宇宙についての本に付属していた「宇宙探索すごろく」なるものをやりました。

誰が作ったのか、物凄い難易度でして(ゴール前の「振り出しに戻る」の嵐とか)、一向に上がれません。

内心では早く止めたくて仕方なかったんですが、息子は飽きる様子もなく、延々とサイコロを振り続けます。

 

おかげで息子は、すっかりすごろくの基本ルールを身に付けたようです。

もう少し成長したら、自作のすごろくでも作ろうかと思います。

 

ところで、個人的な興味ですが、この絵本のライオン登場のシーンで、ピアノに広げてある譜面は何の曲でしょうか。

わかる人がいたら、教えて欲しいです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ハラハラドキドキ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「魔術師ガザージ氏の庭で」【166冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「魔術師ガザージ氏の庭で」を紹介します。

作・絵:クリス・バン・オールスバーグ

訳:辺見まさなお

出版社:ほるぷ出版

発行日:1981年2月15日

 

オールスバーグさんの絵本を取り上げるのは初めてですね。

彼を知らない方でも、映画化された「ジュマンジ」や「急行『北極号』」ならピンとくるかもしれません。

 

クリス・バン・オールスバーグさん(現在では『ヴァン・オールズバーグ』と表記されることの方が多いですが、ここではこの作品での表記に従います)は、絵・文、ともに非常に独特な作品を多く発表し、既成の「絵本」の枠組みを越え出て、年齢を特定しない読者層を掴みました。

 

作品の多くはモノクロームで、陰影やアングルを計算して効果的に使い、一枚一枚のカットが細部まで描き込まれています。

この「魔術師ガザージ氏の庭で」は、オールスバーグさんの処女作であり、発表直後から大変話題を呼んだ作品です。

 

現在はあすなろ書房から村上春樹さんの翻訳による新版(タイトルも変更され、『魔術師アブドゥル・ガサツィの庭園』となっています)が刊行されています。

 

さて、その内容ですが、とても不思議な気分になる物語です。

アラン少年は、ヘスター嬢に犬のフリッツの面倒を頼まれます。

 

午後の散歩に出かけたアランは、橋むこうの立札に、

ぜったいに、どんなわけがあっても、このさきの庭にいぬをいれてはいけない!

引退した魔術師アブドゥル・ガザージ

と記してあるのを見ます。

 

アランは引き返そうとしますが、フリッツは行儀の悪い犬で、首輪を切って門の中に駆け出してしまいます。

アランは慌ててフリッツを追いかけます。

 

ここのカットが、実に凄い。

不安を煽るような構図、何かを暗示するようなポーズを取る彫刻。

 

読者は、否応なしに非日常の門をくぐることになります。

 

犬を追って彷徨った末に、アランは大邸宅に辿り着き、そこでガザージ氏と対面します。

怪しげな風貌、不気味な佇まいのガザージ氏。

事情を説明し、犬を返してもらえるよう頼むアランを、ガザージ氏は芝生へ案内します。

そこにはひと群れのあひるがいました。

 

犬が大嫌いだというガザージ氏は、一羽のあひるを示し、

これがきみのフリッツだよ

と告げます。

 

アランはフリッツをもとの姿に戻してもらえるよう頼みますが、ガザージ氏は、この呪文はいつ解けるか自分にもわからない、と冷たく突き放します。

悲しみのうちに、あひるに変えられたフリッツを抱いて帰路につくアラン。

その途中、あひるのフリッツは、アランの帽子をくわえて飛び去ってしまいます。

 

重い気持ちでヘスター嬢の家に戻ると、アランはヘスター嬢に今日の出来事を打ち明けます。

すると、台所から犬の姿のフリッツが現れます。

驚くアランに、ヘスター嬢は笑いながら、あなたはガザージ氏にまんまと騙されたのだと言います。

 

アランは馬鹿馬鹿しいやら悔しいやらで、二度とこんな騙され方はしないぞ、と決心して、自分の家に帰って行きました。

 

しかし、その後でフリッツが口にくわえていたのは……。

 

★      ★      ★

 

オールスバーグさんの作品内容の特徴として、結末がはっきりしない「オープンエンド」であることが挙げられます。

それが、前述の絵の効果と相まって、現実と幻想の境界が曖昧な、それでいて怪しい美しさのある独自世界を構築しています。

 

アランはガザージ氏の庭の門を通り抜けた時に、足場のしっかりした現実世界から、不思議で不気味な幻想世界へ迷い込んでしまいます。

そこでガザージ氏に出会い、魔法をかけられたような気分になるのは、読者も同じです。

 

元の姿のフリッツを見て、見知った現実に帰って来たのだと、アランとともに読者も安心します。

しかし実はガザージ氏の魔法は、この日常世界に小さな「ひずみ」を残していることを、ラストシーンは暗示しています。

 

この落ち着かなさは、読者の心そのものに奇妙な爪痕を残します。

そしてその「魔法」の正体は、計算され尽くした絵の力であり、この絵本の作者こそが「魔術師」であることに気づかされるのです。

 

推奨年齢:8歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

魔術的絵度:☆☆☆☆☆

 

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