【絵本の紹介】「ぶたぶたくんのおかいもの」【364冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはこのブログ初登場・土方久功さんの傑作「ぶたぶたくんのおかいもの」です。

作・絵:土方久功

出版社:福音館書店

発行日:1985年2月28日(こどものとも傑作集)

 

月刊絵本「こどものとも」に発表されたのが1970年ですから、実に50年前の作品。

古い新しい以前に絵の個性が強烈。

 

この主人公「ぶたぶたくん」の造形、そして買い物かごの中身を見てください。

人の顔のパンがありますが、その顔が、なんというか。

そして「キャラメル」の字もシュール。

 

派手さはなく、絵の雰囲気も好みが分かれそうで、人によってはちょっと手に取りづらいと感じるかもしれません。

ですが、食わず嫌いはもったいない。

物凄くおもしろいし、子ども受けも最高な作品なのです。

 

とりあえずこの独特な世界に踏み込むには、黙読ではなく音読が条件です。

黙読だと何だか冗長に感じてしまうテキストが、声に出して読んでみると楽しくて仕方がない。

子どもはゲラゲラ笑うし、実は相当に高いレベルで練り上げられていることがわかります。

 

それは主人公の名前にすでに表れています。

ぶたぶたくん」という名前そのものが繰り返しのリズムによって生まれているのです。

きみたち、こぶたの ぶたぶたくん しってる?

この こぶたくんは」「ぶたぶた ぶたぶた という くせが あるのさ

いつのまにか みんなが ぶたぶたくんと よぶように なってしまったのさ

この語り口にまずニヤニヤさせられます。

 

さて、ぶたぶたくんはお母さんから買い物を頼まれます。

そうさ ぼくだって ひとりで いけるのさ」「ぶたぶたぶた

リズムよく歌いながらまずはパン屋さんに到着。

 

パン屋の「にこにこ おじさん」の顔も凄いですけど、売り物も凄い。

ぶたぶたくんがおまけしてもらった「かおつきぱん」の顔が、どっかの国の置物土産っぽい。

 

ぶたぶたくんは続いて八百屋さんへ。

途中で「からすの かあこちゃん」と道連れに。

八百屋さんは「はやくち おねえさん」。

おかいものは なにと なにと なにと なに

きゃべつ きゅうり とまと ねぎ、ばななに りんごに なつみかん

あまい しょっぱい すっぱい にがい……

とまくしたてます。

 

それからお菓子屋さんへ。

ぶたぶた かあこお ぶたぶた かあこお」と歩きます。

繰り返しますが、音読しないとこの楽しさはわかりません。

お菓子屋の主人は「ゆっくり おばあさん」。

 

帰り道、「こぐまくん」に出会って、三人で近道をとって家に帰ります。

ぶたぶた かあこお くまくま」……。

友達と別れた後、ぶたぶたくんは無事に家に帰り着き、家の前で待っていたお母さんにかじりつきます。

ぶたぶた。ぼく ひとりで おかいもの できたよ

 

★      ★      ★

 

このシュールさ、ユニークさ、インパクト、テキストの妙、そしてどこかに漂う異国テイスト。

この感じ、誰かに似てると考えてみたら、スズキコージさんが近いような気がしますね。

日本のようでいて日本でないような、しかしどこの国かはわからないような、独特の世界。

たぶん、スズキさんは土方さんに何らかの影響を受けているのではないでしょうか。

 

実際、様々な絵本作家さんが、印象に残る絵本として「ぶたぶたくんのおかいもの」をちょいちょい挙げてます。

作り手の目から見ると、この作品によりいっそう感心してしまうのかもしれません。

 

はじめてのおつかいに出かける子どものドキドキ感、ワクワク感、冒険心、ちょっとした不安。

はっきり言ってありふれた題材を土台に据えながら、ここまで個性的に描けるとは。

 

そして単純そうに見えながら、内部には実に様々な仕掛けが施されており、絵本の基礎とも言える「3の繰り返し」要素もふんだんに盛り込んでいます。

最後にはぶたぶたくんが辿った道の地図があり、また最初に戻って確認しながら読みたくなります。

良作。

 

ぶたぶた かあこお」のリズムにハマったら、土方さんの別作品「ゆかいなさんぽ」もおすすめです。

こっちはさらに動物が増えてカオスなことになってます。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

かおつきぱんのインスタ映え度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ぶたぶたくんのおかいもの

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「めがねうさぎのクリスマスったらクリスマス」【350冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

いよいよ師走。

もうクリスマスか……。年々早くなるのはどうしてでしょう。

 

今年もクリスマス絵本を紹介していきます。

おとぼけキャラクターが人気の「めがねうさぎ」シリーズより「めがねうさぎのクリスマスったらクリスマス」です。

作・絵:せなけいこ

出版社:ポプラ社

発行日:2002年11月

 

私も息子が眼鏡っ子になってから、よりこのめがねうさぎに親近感を覚えるようになりました。

第一作の紹介記事も併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「めがねうさぎ」

 

さて、せなさんといえばちぎり絵、うさぎ、そしておばけ。

おそらく「怖い絵本」ランキングではぶっちぎりの一位を獲得しそうな「ねないこだれだ」に登場する「おばけ」とこの「めがねうさぎ」シリーズの「おばけ」は、姿は同じでもまったく別物です。

全然怖くないどころか、今作ではひたすら親切で健気。

 

眼鏡っ子うさぎ「うさこ」は、そのおばけが昼寝していたモミの木をおばけごとクリスマスツリーとして持ち帰り、飾りつけをし、サンタさんを心待ちにして眠ります。

一方サンタさんはくまさんの家でこぐまをぐっすり寝かせるための「グーグージュース」とかいう怪しげな飲み物に手を付け、眠り込んでしまいます。

 

弱ったくまのお母さんは(何故か)うさこに電話で助けを求め、おばけにめがねを探してもらって(これはお約束)、くまさんの家へ向かいます。

うさことおばけはタッグを組み、サンタさんの代わりにプレゼントを配りに出ます。

相変わらずおばけのことを「かわったひと」で片づけてしまううさこ。

首尾よくプレゼントを配り終えた後、起きてきたサンタさんからお礼のプレゼントをもらう二人。

 

おばけにはクリスマスケーキ。

うさこにはたくさんの眼鏡。

 

毎回眼鏡を失くしてしまううさこには有難いプレゼント、と思いきや、結局……。

 

★      ★      ★

 

息子は意外と眼鏡を失くしません。

まあ、外すこともほぼないんですが、寝るときにはちゃんと決まった場所に置いて寝ます。

 

相変わらず夜更かしするので、親の方が先に寝てしまうこともあるんですが、眼鏡をかけたまま落ちてしまうことは滅多にありません。

てことは、寝ない寝ないと言いつつ、いよいよとなったら寝るつもりで横になってるってことですね。

朝になるとちゃんと規定場所に眼鏡があります。

 

それはいいんですが、眼鏡の扱いが雑なことだけは困ったもの。

すぐにフレームが歪んでしまい、そのままかけてるとよくないのでしょっちゅう眼鏡屋さんに行って直してもらってます。

あんまり行き過ぎるので気兼ねするくらい。

子どもの眼鏡は近所で買ったほうが絶対いいと思います。

 

さて、上記した「ねないこだれだ」が誕生から50周年を迎えたということで、せなけいこ展が今月の18日(水)〜2020年1月6日(月)まで、阪急うめだ本店9Fにて開催されます。

 

公式HP≫「せなけいこ展 公式サイト」

 

久しぶりに私も行けるので、楽しみにしてます。

なんかうるさい眼鏡の子を連れたのがいたら私です。

グッズがかなり充実してるっぽいので、お金使い過ぎないように気を付けないと……。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

グーグージュース欲しい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「めがねうさぎのクリスマスったらクリスマス

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【絵本の紹介】「みみずのオッサン」【347冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「ナンセンスの神様」の異名を取る長新太さんによる「みみずのオッサン」です。

作・絵:長新太

出版社:童心社

発行日:2003年9月10日

 

ピンク色(ミミズ色?)を基調としたド派手でサイケな色彩。

タイトルのインパクトも長さん一流。

 

みみずのおじさん、なら絵本らしいのですが、そこを「オッサン」。

ちょっと乱暴で馴れ馴れしい呼び方……ではなく、このみみずの名前が「オッサン」なのですね。

もうこの時点で読者は長さんワールドに足を踏み入れているのです。

武道的に言えば「先を取られている」わけです。

あとはもう、長さんの掌の上。

 

長さん絵本は常に人を食ったような、悪ふざけのような作品が多いのですが、深読みしようと思えばどこまでも深読みを許してくれる懐の深さ・読者の認識の在り方を根本から問いかけるような哲学的側面を有してもいます。

この絵本も、ハチャメチャな展開の後に主人公の活躍があり、大団円へ向かうのかしら……と思いきや、予想を裏切るクライマックスが。

 

オッサン」が散歩に出かけると、「こんなもの」が「ドシーン!」と落ちてきます。

こんなもの」は「ヌルヌル ベトベト ベタベタベタ〜」の色の塊。

ペンキ工場が爆発したのです。

さらには絵の具とクレヨンの工場も爆発して、町はベトベトに固まって車も生き物も動かなくなります。

一体どうなるのかと思っていると、オッサンが「もぐもぐもぐもぐ」「ムシャムシャムシャ」と絵の具やペンキを食べ始めます。

凄い勢いで食べて行き、食べたものは「きれいなどろになって」排泄されていきます。

その泥はどこまでも広がって行き、(長さんの大好きな)地平線を描きます。

 

で、ここで終わらないのが長さん。

なんとオッサンの排泄した泥は「みどりのだいちになり、ずうっとむかしにもどってしまった」のです。

そこで歩き回る恐竜を見て、オッサンは恐竜になりたいなあと思うのですが、お月さんが「みみずのオッサンは、そのままでいいよ」と言います。

 

そしてオッサンは地面の下に戻って行きます。

しずかなよるです」。

 

★      ★      ★

 

「シュール」の一言で片づけるのは簡単ですが、一体ここには何が描かれているのでしょうか。

絵の具やペンキやクレヨンに呑み込まれていく人々は妙に呑気で、「きれいだねえ」などと口にします。

けれど、結局は彼らは絵の具ごとオッサンに取り込まれ、そして土に戻されてしまうわけですから、考えてみると怖いようなお話です。

 

ミミズが豊沃な土壌を作るのは本当で、私が子どもの頃にはまだグラウンドを掘ればミミズが出てくるのも珍しくなかったのですが、最近はどうでしょうね。

土を掘ることがなくなったのでわかりませんが。

ミミズってまじまじ観察すると本当に気持ち悪くて不思議な生き物です。

 

これを文明社会への警鐘・自然の偉大さを謳った絵本と捉えるのは適切でしょうか。

私にはなんとなく、長さんが描きたいものを描いたらこうなっただけ、という気がします。

 

これは色の絵本です。

どぎついほどの色・色・色。

子どもが絵の具遊びを楽しんでいるような、輪郭線すらない色の世界。

 

町も世界も全部塗りつぶしてしまう壮大な「お絵描き」からの「地平線」、そして「緑の大地」。

長さんの「お絵描き欲」を思い切り吐き出したような、「お絵描き創世絵本」です。

 

もし長さんにそんなことを言ったとしたら、何と答えが返ってくるでしょうか。

あのとぼけたような顔で、難しいこと言わないで絵を見てよ、と言うでしょうか。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

「オッサン」のアクセントに悩む度:☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「3びきのぶたたち」【341冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

知れば知るほど奥が深い絵本の世界。

これだけ読み続けてもまだ「絵本とはこういうもの」だと確立することはできません。

そこが絵本の魅力でもあるし可能性でもある。

 

このブログを始めた当初は、「絵本とは原則的に子どものためのもの」だというのが私の見方でした。

それは絵本史的に見ても事実です。

もちろん大人が読んでも面白い絵本はいくらでもありますが、やはり基本的には子どもに向けたメディアです。

 

従って、いかに絵本が自由度の高い芸術であると言っても、例えば極端に偏った思想や過激な表現などは控えざるを得ません(R指定という手はあるけど)。

しかしそれが作品としての「不自由さ」であるとは言えないと思います。

絵本は根本的に様々な「余剰物」を削る作業の中で洗練されていく芸術です。

一見すると「制約」があるように感じられる中で、作者の感性と技術によって驚くほど自由な世界を描き出すことができるのです。

 

今回は現代絵本作家の中で突出した天才性を放つデイヴィッド・ウィーズナーさんによる前衛的絵本「3びきのぶたたち」を取り上げましょう。

作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー

訳:江國香織

出版社:BL出版

発行日:2002年10月15日

 

アメリカ絵本界の最高賞コールデコット賞受賞作品。

年に一冊しか選ばれないこの栄誉ある賞を、ウィーズナーさんは3度も受賞しています(次点作品もあります)。

同賞を3度というのはおそらく最多で、他にはマーシャ・ブラウンさんくらいだったように思います。

 

≫絵本の紹介「セクター7」

≫絵本の紹介「かようびのよる」

≫絵本の紹介「漂流物」

 

きちんとデフォルメされていながら写実的な表紙の3びきのぶた。

もちろんこれはかの有名な「三びきのこぶた」のおはなしだと思うでしょう?

私もそう思いました。

 

≫絵本の紹介「三びきのこぶた」

 

ウィーズナーさんの精緻なイラストによる名作童話というだけでも面白そうだけど、そこはあのウィーズナーさんだから、どこか普通と違ったところがあるんだろう……と思いきや、そんな生易しいレベルの「違い」ではありませんでした。

 

お話はいたってオーソドックスに始まっているように見えますが、妙なことに絵柄が表紙絵と違います。

よりデフォルメされています。

そして、テキストも絵も、変に急ぎ足。

第一場面ですでに1ぴきめのぶたが「わらのいえ」を建てて、それを狼が見下ろしているという。

 

狼は原作通りに行動し、中に入れてくれと話しかけ、ぶたが断ると息を吹きかけて藁の家を吹き飛ばそうとするのですが、ここのテキストと絵も何だかちぐはぐな印象を受けます。

これが通常の昔話絵本なら失敗作の部類に入りますが、ここから物語は読者の予想を遥かに超え、ぶっ飛んだ展開に突入していきます。

 

ここまでの場面は枠内で描かれていたのですが、狼が息を吹きかけると、ぶたはなんとその枠から外へ飛び出してしまいます。

漫画で言えば「コマの外」へ出てしまうわけです。

セリフはフキダシで「ひゃあ! おはなしのそとまで ふきとばされちゃった!」、イラストも表紙の写実的な造形に変化。

 

テキスト上では狼は「こぶたをたべてしまいました」となっているのに、ぶたは物語世界から消滅しているため、画面上では狼が困惑の表情を浮かべています。

立体的な次元へ移動したぶたは、続いて兄弟たちを連れ出し、狼がいた二次元の世界で紙飛行機を折り、飛び立ちます。

文章で説明しても何だかよくわからないところが、「絵本でしかできない表現」であることを如実に示していますよね。

 

ぶたたちは今度は「マザーグース」の世界を発見し、入り込んでみます。

ここではデフォルメはさらに強まり、ほとんど違うキャラクターになってしまいます。

余談ですが、マザーグースは海外絵本(特に古典)にはよく登場しますが、我々にはなじみが薄いために、一瞬「?」となってしまうこともしばしば。

ぶたたちが再び外の次元へ出るとき、ヴァイオリンを弾いていた猫も一緒についてきます。

 

次にぶたたちが飛び込んだのはモノクロの民話世界。

金色の薔薇を守る竜と、それを手に入れようとする王子。

ぶたたちは退治される運命にある竜を物語の外へ救い出します。

その後3びきは新しい仲間と共に元の世界へ帰還します。

そこには当然狼が待ち構えているのですが、竜が扉から頭を出すとテキストごと狼はひっくり返ってしまいます。

竜や猫のタッチも物語世界に合わせて変化していることに注目。

 

最後はテキストまで自分たちで勝手に構成し、ハッピーエンド。

 

★      ★      ★

 

冒頭の昔話は「当然知ってる」ことを前提にして、真面目に役をこなす狼をどこか滑稽に描いています。

それじゃあ いきをすって いきをはき、いえをふきとばすしかあるまいな」という冗長なテキストや、息を吐く狼のシリアスな表情や。

 

つまりこれはいわゆるメタフィクションなのですが、それを絵本に持ち込んだところに作者と編集者の勇気と実験精神が光ります。

人気の昔話をこうした形でパロディ化することについては、必ずしも好意的に迎えられるとは限らないし、批判も覚悟の上だったと思います。

下手をすると「タイトル詐欺」扱いされるかもしれません。

 

記事の最初に触れた絵本ゆえの難しさはこういうところにあります。

「子どもが読む」ことを念頭に置いた場合、メタ的な表現はどうしても敬遠されます。

良否以前に、幼い子どもの認知力では混乱を避けられないからです。

 

事実、私の息子にこれを読んだ時(3歳ごろだったかな)も、反応は「なんだこりゃ」でした。

ぶたがアップで「おや……そこにいるのはだれ?」と問いかけるシーンでも、それが読者である自分自身に向けられたものであることに、子どもはなかなか気づけません。

「画面の外」に見えない何かがいるのだという捉え方をします。

 

単に理解できないだけでなく、幼い子どもは見知った物語を改編されることを嫌う傾向があります。

「繰り返し読み」を好むのは、何度も同じ物語に没入することである種の安心感を得るためでもあります。

しかし、この「3びきのぶたたち」のような作品は「自分の認知力の外」へ向かうことを読者に要請し、「物語に没入すること」を止揚します。

 

しかしそれでもなおこの作品がコールデコット賞に輝いたことは、アメリカ絵本界の懐の深さを示していると言えそうです。

それに、実は「三びきのこぶた」のパロディは今作をもって嚆矢とするわけではなく、ジョン・シェスカさんの「三びきのコブタのほんとうの話」やユージーン・トリビザスさんの「3びきのかわいいオオカミ」などのひねりの効いた作品がすでに先行しており、「3びきのぶたたち」はそれらの系譜に連なる絵本とも言えます。

 

ですから、年齢さえ考慮すれば、こうした実験的作品もじゅうぶんに受け入れられる要素はあるのです。

メタフィクションも小学生くらいになれば理解可能です(漫画にはいっぱいあるし)。

ですからこうした絵本が次々に登場すれば、それは絵本読者の年齢層の多様化にも繋がるかもしれませんね。

 

息子も6歳になった今ではすっかりこの絵本がお気に入りですし。

 

推奨年齢:小学校中学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

竜の物語の続きが気になる度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「3びきのぶたたち

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【絵本の紹介】「ぼくはおこった」【336冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

もうすぐ我が家の息子は6歳になり、同時にこのお店も3周年を迎えます。

息子の成長については時々綴っていますけど、そうやって振り返ってみると冷静に考えれるのに、普段は本当に手を焼かされています。

 

絵本の読み聞かせが情緒の安定に有効、という説についてはいささか怪しんでいる自分がいます。

我が家ではすでに多分一万冊以上の絵本を読み聞かせてきましたが、むしろ成長と共に息子の感情は激しさを増している気さえします。

 

それは自然な感情の発育とも考えられるし、単なる個人差とも考えられます。

ま、あとは親の心根の問題でしょうね。

 

息子が一度怒ると手が付けられません。

怒りのツボはこっちには理解不可能なことがほとんどです。

そしてたぶん、息子自身にも怒りの原因はわかっていません(わかってたらあんなに怒らないでしょう)。

 

あれだけ言葉が達者なのに、大人の理屈は一切通じません。

下手になだめようとすれば火に油。

実力行使はしない方針なので打つ手なし。

とにかく時間が過ぎてクールダウンするまで待つしかありません。

 

今回はそんな子どもだけが持つ凄まじい怒りのエネルギー「だけ」を描いた絵本を紹介します。

ぼくはおこった」。

作:ハーウィン・オラム

訳・絵:きたむらさとし

出版社:評論社

発行日:1996年11月20日

 

計算された線の歪みが特徴的なイラストはきたむらさとしさん。

作者は南アフリカ出身でロンドン在住のハーウィン・オラムさん。

 

翻訳者の名前がないなと思ったら、きたむらさんが訳文も担当されているんですね。

それもそのはず、きたむらさんは若い頃からロンドンに渡り、そこで絵本作品を発表されているのです。

ポップなイラストがどことなく海外っぽいです。

 

さて、主人公はアーサー少年。

ある晩彼は「テレビのせいぶげき」に夢中になっていたのだけれど、お母さんの「もうおそいから ねなさい」の一言に怒りが爆発。

キレる若者。

 

その怒りが半端じゃない。

アーサーが おこると かみなりがなって いなずまがはしり ひょうがふった」。

家の中はめちゃめちゃで、お母さんは呆れて「もう じゅうぶん」と言うのですが、そんなものではアーサーの怒りは鎮まりません。

 

アーサーは怒ったまま家の外へ出て行き、嵐を起こして津波を呼び、町を海の中にひっくり返してしまいます。

お父さん、おじいさん、おばあさんが「もう じゅうぶん」となだめますが、余計にアーサーは猛り狂います。

 

もう、怒ってる自分がさらに怒りを増進させる状態。

アラレちゃんみたいに地球にバリバリ亀裂を走らせます。

それでも怒りのエネルギーは収まらず、ついには

ちきゅうも つきも ほしも わくせいも

アーサーのくにも アーサーのまちも どうろも いえも にわも へやも

こっぱみじんに くだいて」しまいます。

感情を吐きつくし、すべてを破壊しつくした後、アーサーは「かせいの かけら」に座って考えます。

ぼく どうしてこんなに おこったんだろう

でもさっぱり思い出せず、アーサーはベッドにもぐりこんで寝てしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

ここまでやるかと笑えもしますし痛快でもありますが、一方で「これでいいの?」と不安にもなります。

子どもも同様で、このお話をただただ笑って聞く子は少数派ではないでしょうか。

 

自分の家族も家も地球までも破壊してしまって、アーサーは今後どうやって生きて行くのかと、子どもは心配します。

もっとも、そうした怖さはきたむらさんの絵によって相当緩和されています(特に、あの猫の存在によるところが大きいです)。

だからこの絵本は決して説教臭くないし、ここから何を読み取るかは完全に読者の自由に委ねられています。

 

大人になっても怒りの衝動はなかなか克服しがたいものです。

特に子どもに対してついつい怒ってしまい、後で反省する……というパターンはとても多いでしょう。

 

私は怒りには種類があると思っています。

衝動的・爆発的な怒りと持続的な怒り(恨み)は明らかに性質が違います。

 

子ども的な怒りというものは自分自身の気持ちを上手く吐き出せないことが大きな原因のひとつでしょう。

そして、無力で他人を説得することもできない子どもが、自分の言うことを聞いてもらう手段として怒りを爆発させることもあるでしょう。

 

あるいは同じ理由で、ムスっと不機嫌になることもあるでしょう。

不機嫌というのは、周囲の人間に「私は不機嫌だ」とアピールすることで、「なんとかしろ」と言っているのに等しい態度です。

 

正当な怒りというものは確かにあると思いますが、それはおよそ上記のような「子どもの怒り」とは別種のものです。

「子どもの怒り」は子どもの間に卒業しなければなりません。

 

そのための方策は、アーサーのような「子どもの怒り」に対し、周囲の大人が決して「子どもの怒り」で対抗しないことだと思います。

子どもの成長を信じ、そして待つことができれば、いずれ必ず子どもは自分の気持ちを言葉にして語ることを覚え、安易な破壊に向かうことを抑制するようになります。

 

とりあえず、私は今後一切怒らないことを改めて宣言しておきます。

いつまで続くかわかりませんけど、ね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

絵本界の破壊神度:☆☆☆☆☆

 

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