【絵本の紹介】「海は広いね、おじいちゃん」【259冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

酷暑が続いておりますが、皆様お元気で過ごされていますか?

特に高齢の方は熱中症にお気を付けください。

毎日街を走る救急車の数が半端ないです。

 

今回紹介するのは「海は広いね、おじいちゃん」です。

作・絵:五味太郎

出版社:絵本館

発行日:1979年3月

 

五味太郎さんによる「老人と海」絵本。

五味さんの描くおじいちゃんとかおじさんって、他にない味がありますよね。

 

毎回実験的な絵本を作る五味さん。

彼の作品の特徴は、「構造的なしかけ絵本」とでも言えるでしょうか。

この絵本もまた、独特な在り方を示しています。

 

表紙から続いて、おじいちゃんと孫の男の子が、海へ遊びに来たところ。

テキストは左ページに男の子、右ページにおじいちゃんのセリフ。

二人の掛け合いのみで物語は進行します。

はしゃいでいる男の子に対し、おじいちゃんは背を向けて読書。

男の子はなんと海に降りてくるUFOと泳いでくる宇宙人を発見しますが、おじいちゃんは振り向きもせず、生返事ばかり。

 

男の子が次々に変身する宇宙人と楽しく遊んでいるのに、おじいちゃんは気づきもしない。

宇宙人が女の人に変身して、クッキーを差し出した時にだけは振り向きますが、それでも異常事態を認識してはいません。

しかし、星型のクッキーを齧ったおじいちゃんに異変が。

 

遊び終わった宇宙人は男の子に別れを告げて飛び去って行き、それすら見ていないおじいちゃんは、

ぼちぼち 帰るとしようか・・・

と、パラソルを引っこ抜いて……。

パラソルをひっくり返して、

はやく乗りなさい、これで帰ることにしたんだ

 

なんと、二人は本当にパラソルに乗って飛んでいきます。

衝撃的なラストですが、

なに考えてるの、おじいちゃん?

ちょっとしたことさ・・・

という二人の会話には、不思議な親密感や連帯感が感じられます。

 

★      ★      ★

 

全然噛み合っていないようで、どこかで通じ合っているような、おじいちゃんと孫の関係。

おじいちゃんが熱心に読んでいた本のタイトルも、ニヤリとさせます。

 

男の子が見たものは現実か、それとも「なみにきをつけて、シャーリー」のような空想でしょうか。

≫絵本の紹介「なみにきをつけて、シャーリー」

 

もし空想だとすると、ラストの展開は、孫の果てしもない想像のお話を、一見素っ気なく聞いていたおじいちゃんの中に芽生えた化学変化のようなものと捉えることもできます。

 

おじいちゃんと男の子の孫、という関係には、どこか特別なものがあります。

それは孫娘との関係とも違うし、おばあちゃんと孫の関係とも違う。

うまく言葉にできませんけど。

 

私の場合、おばあちゃんとの関係は深かったんですが(母方の祖母はまだ存命ですし)、おじいちゃんとの思い出というのはほとんど皆無に近いです。

おじいちゃんというのは、おばあちゃんに比べてなんと近寄りにくい存在か、と子ども心に思っていましたね。

 

世間には色々なおじいちゃんがいて、この絵本のように孫と二人きりで海に行くような素敵なおじいちゃんもいることを知った今では、もっともっと「おじいちゃん」と関わっておけばよかったかな、と、思ったりもします。

 

しかし、私の父も妻の父も、全然孫と遊ぼうとしない「おじいちゃん」であることは残念至極です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

クッキーの味が気になる度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「海は広いね、おじいちゃん

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「だってだってのおばあさん」【248冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

説明不要のロングセラー「100万回生きたねこ」の出版40周年を記念した「佐野洋子の世界展」が山梨県立美術館で開催されています(行きたいのに行けない絵本展が多すぎる)。

 

佐野さんの絵本は読者年齢を問わないのが特徴ですが、今回紹介する作品も大人が読んでも面白い、むしろ大人になったからこそ読むべき絵本です。

だってだってのおばあさん」。

作・絵:佐野洋子

出版社:フレーベル館

発行日:1975年

 

ちいさな家で、猫と暮らす御年98歳のおばあさんが主人公。

「加齢」がテーマになった作品ですが、「100万回生きたねこ」にしろ、「おじさんのかさ」にしろ、佐野さんの絵本の主人公は子どもでないことも多く、広い視点で読めば同様のテーマを扱っているとも言えます。

 

そして、このおばあさんもまたチャーミング。

98歳とは思えない矍鑠としたおばあさんと、孫のような存在の男の子猫。

 

ねこは魚釣りにおばあさんを誘いますが、

だって わたしは 98だもの、98の おばあさんが さかなつりを したら にあわないわ

と断るおばあさん。

さて、おばあさんの99歳の誕生日、ねこは99本のろうそくを買いに出かけます。

その間におばあさんはケーキを焼きます。

だって わたしは おばあちゃんだもの、おばあちゃんは ケーキを つくるのが じょうずなものよ

 

ところが、ねこはろうそくを川に落としてしまい、泣きながら帰ってきます。

残ったろうそくはたった5本。

おばあさんはねこを慰め、5本のろうそくをケーキに立てます。

そして、自分に

5さいの おたんじょうび おめでとう」。

そして次の日から、おばあさんは5歳のおばあさんになります。

ねこが魚釣りに誘うと、

だって わたしは 5さいだもの……、あら そうね!

 

おばあさんは溌溂と魚を釣り、川を飛び越え、川に入って魚を捕まえます。

5さいって なんだか ねこみたい

おばあさんは夢中になり、来年も誕生日には5本のろうそくを買ってきておくれ、とねこに頼むのでした。

 

★      ★      ★

 

「だって……だもの」

ネガティブに聞こえるフレーズを、魔法のように素敵な言葉に変えてしまう、佐野さんの手腕。

 

あえて98歳「らしさ」の中に自分をとどめていたおばあさんですが、たった一言、自分にこの言葉をかけるだけで生まれ変わったような楽しみや歓びに触れることができるのです。

 

年相応というのは別に悪いことだとは思いませんが、時には自分で自分にかけた呪縛から解放されてみるのもいいと思います。

幼児的な大人は醜悪ですが、童心を忘れない大人は素敵です。

 

「自分が何歳であるか」が重要なのではなく、「今、自分が何がしたいか」が大切。

そんな爽快なメッセージが軽妙な会話の中に感じられる作品です。

 

ちなみに、あとがきがさらに素敵です。

だって、おばあさんは一番たくさん子どもの心を持っているんですもの」。

 

「おばあさん」だけでなく「人間」に対する佐野さんの温かい視線こそが、彼女の作品の芯をなしているのでしょう。

 

関連記事≫絵本の紹介「100万回生きたねこ」

≫絵本の紹介「おじさんのかさ」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

99歳の足腰壮健度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「わにさんどきっ はいしゃさんどきっ」【240冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは五味太郎さんの「わにさんどきっ はいしゃさんどきっ」です。

作・絵:五味太郎

出版社:偕成社

発行日:1984年5月

 

きんぎょがにげた」のような幼児向け探し絵絵本、「まどからおくりもの」のような穴あきしかけ絵本、ユニークなアイディアの詰まった様々な絵本を発表している五味さん。

 

≫絵本の紹介「きんぎょがにげた」

≫絵本の紹介「まどからおくりもの」

 

非常に多作で、よくあんなに次々と独創的な発想が生まれるものだと感心します。

彼の絵本は物語そのものよりも構造的な部分に試行錯誤が見られます。

五味さんの絵本と言えばユーモアやナンセンスといったイメージが先行しますが(事実そうですが)、そういう意味では、非常に知的な作品が多いとも言えます。

 

この「わにさんどきっ はいしゃさんどきっ」も、「実験的かつめちゃくちゃ笑える」五味さんらしい作品です。

 

虫歯のわにさん、渋々歯医者さんへ。

ゆっくり あそんでいたいけど いかなくちゃ いけないね

 

一方、趣味の機械いじりをしていた歯医者さん、患者さんの来訪に、

ゆっくり あそんでいたいけど いかなくちゃ いけないね

 

そしてわにさんは歯医者さんの手のドリルとペンチを見て、歯医者さんは患者さんがわにであることを見て、互いに

どきっ

お互いに

こわいなあ……

 

もうこの絵本の仕掛けがわかりますね。

つまり、わにさんと歯医者さんはそれぞれの立場・心情がありながら、セリフだけは全く同じなんです。

いたい!

とわにさんが思わず口を閉じると、腕を噛まれた歯医者さんも

いたい!

 

もう ひどいじゃないか

もう ひどいじゃないか

 

もうすこし がんばれ

もうすこし がんばれ

治療が終わると

ほっ

ほっ

 

いやいや もう にどとは あいたくないね

いやいや もう にどとは あいたくないね

 

だから はみがきはみがき

だから はみがきはみがき

 

★      ★      ★

 

なるほどこうきたか、という感じです。

ラーメンズのコントにこういうのがあったのを思い出します。

 

この絵本の笑いを理解するには、表面の言葉を読むだけでなく、その裏の登場人物の心理を想像するという作業が要求されます。

こういうと難しそうですが、そこは絵本らしく、至って易しい内容ですから、幼児にもちゃんと理解できます。

 

我が家の息子も、2歳ごろにこれを読んでげらげら笑っていました。

まあ、単に「同じ言葉が二回繰り返される」だけで面白かったのかもしれませんけど。

 

それにしても、五味さんの描くオジサンは味がありますね。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

歯医者さんの人間臭さ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ふくろうくん」【220冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

「おひとりさま」という言葉をよく耳にする昨今。

カラオケでも焼肉でも、一人で楽しもうというある意味前向きな考え方。

 

今回紹介するのは究極の「一人上手」絵本「ふくろうくん」です。

作・絵:アーノルド・ローベル

訳:三木卓

出版社:文化出版局

発行日:1976年11月20日

 

作者は我が家の息子にも大好評の「がまくんとかえるくん」シリーズで有名なアーノルド・ローベルさん。

訳文も同じ三木卓さん。

5話からなる短編集という構成も同じ。

 

≫絵本の紹介「ふたりはともだち」

 

でも、温かい交流が描かれる「がまくんとかえるくん」とは違い、この「ふくろうくん」は孤独です。

脇役さえ登場しません。

最初から最後まで独りぼっち。

 

そんな孤独をユーモラスに楽しむふくろうくんの優雅な日常……と言えば聞こえはいいのですが、彼の思考と行動ははっきり言ってかなり病的です。

家のドアを叩く風の音を、「ふゆくん」が入りたがっているんだな、と解釈して迎え入れてやった結果、吹雪に家じゅうをめちゃくちゃにされてしまう「おきゃくさま」。

 

布団の中で盛り上がる自分の足を「へんな こんもりくん」と呼び、その正体を探して半狂乱になる「こんもり おやま」。

悲しいことを次々に思い浮かべ、その涙でお茶を沸かす「なみだの おちゃ」。

 

一階と二階、異なる空間に同時に存在することはできないか」という哲学的思索に取り憑かれて、猛スピードで階段を上り下りする「うえと した」。

夜空に浮かぶお月様が、ずっと自分についてくる「いい ともだち」だと感動してみせる「おつきさま」。

 

分厚い本を手に、蝋燭をかがける表紙絵のふくろうくんの目が、ちょっぴり怖く思えるのは私だけでしょうか……。

 

★      ★      ★

 

普通なら考えもしないようなことを、どこまでも深く考える哲学的姿勢。

そして突飛な行動を大真面目にやってしまう可笑しさは、「がまくん」にも通じるものですが、「がまくん」が「かえるくん」によっていかに救われているか、この絵本を読むとよくわかります。

 

これは「一人を楽しむ」なんて生易しい表現では追いつかないと思いますが、しかし一方、誰だって一人の時には、こういう妙なことを考えたりしてるのかもしれません。

 

他人の前で同じことをやってたら、すぐに病院に連れて行かれそうなふくろうくんですが、「一人だからこそ」気兼ねなしにこういう「遊び」ができるとも取れます。

 

ふくろうくんが病的に思えるのは、この絵本において彼が「子ども」としては描かれていない(私の印象ですが)からです。

もしふくろうくんが子どもなら、こういうどこまでも広がってしまう、まとまりを欠いた思考にふけったり、実際に行動したりすることはごく自然でもあります。

 

けれど、ふくろうくんは一人で生活している点で子どもではない。

ゆえに「変人」に見えてしまうわけです。

 

しかし、歴史的な哲学者や科学者たちは、このふくろうくんのように、普通の大人がもう考えもしなくなったようなことをどこまでも考え抜くことを止めなかった人々なのでしょう。

彼らはやはりどこか孤独ではありますが、その孤独は崇高な光を帯びてもいます。

 

それは「幼児性」ではなく「童心」を抱いたまま大人になった人間だけが纏う種類の「孤独」であるように思います。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

天才肌度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「パイがふたつあったおはなし」【215冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに名作「ピーターラビットの絵本」より、私も息子もお気に入りの一冊を紹介しましょう。

パイがふたつあったおはなし」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1988年6月25日

 

昨年、ピーターラビット展へ行き、そのレビューや第一作「ピーターラビットのおはなし」についての記事を書きました。

作者のポターさんの生涯などについても詳しく触れておりますので、ぜひそちらも併せてお読みください。

このシリーズの魅力について語り出すと、いつまでたっても絵本紹介に辿り着けないので。

 

≫「ピーターラビット展」に行ってきました。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

 

この「パイがふたつあったおはなし」は、息子にとって(そして私自身にとっても)初めて触れたポターさんの世界です。

「ピーターラビットの絵本」は、作者の生まれ育ったイギリスの田園風景を舞台に、そこで生活する様々な動物を描いた作品です。

作品ごとに主人公は変わりますが、ピーターやこねこのトムのように複数の作品に登場するキャラクターも大勢います。

 

この絵本では「ダッチェス」という黒い犬と、「リビー」という猫を中心に物語が展開されますが、リビーは「ひげのサムエルのおはなし」にも登場した、こねこのトムのおばさんにあたるキャラクターです。

シリーズを読み進む上で、こういう人物相関図が出来上がってくるところも、ピーターラビットの絵本の楽しみのひとつでしょう。

 

さて、「パイがふたつあったおはなし」は、64pもあり、小さい子に読み聞かせるにはなかなか長い物語です(だから、初めて読んだ時に息子が最後まで聞いたことに驚きました)。

 

それに、難しいんですね。

文章自体は易しいんですが、「含み」がたくさんある。

ダッチェスとリビーの、表面上は上品で丁寧な会話の裏を、自分の想像力で補わなければ、このお話は読めません。

自分で本が読めるようになった子どもでも、古典的な児童書を手に取ったことがなければ、ちょっと読解に苦しむかもしれません。

 

しかしそれだけに、大人が読んでも面白い物語です。

ユーモアと、そしてちょっとした皮肉とからかいが込められた、よく出来た落語のようなお話です。

 

それでは内容を読んでいきましょうか。

ダッチェス(♀)のもとに、リビー(♀)からお茶会の招待状が届くところからお話が始まります。

とてもおいしいものを ごちそうします」と書かれたその手紙に、ダッチェスは「よろこんで、4じ15ふんに おうかがいいたします」と返事をしたためます。

 

けれど、ダッチェスは内心、リビーが用意しているのが「ねずみのパイ」ではないかと気が気ではありません。

実はダッチェスも、リビーを招くつもりで、「小牛とハムのパイ」を用意していたのです。

 

ねずみのパイなんて、とても とても たべられない! でもたべなくちゃ! およばれなんだもの

ああ、あたしのパイが たべたい! ねずみのパイなんかじゃなくて!

 

ダッチェスは葛藤を繰り返した末に、ある計略を思いつきます。

それは、リビーが出かけている隙を狙って、自分のパイをリビーのオーブンに入れてきてしまうという大胆なもの。

 

リビーが自分ではそのパイを食べないつもりらしいこと、パイ皿もダッチェスのとおそろいであること、リビーがマフィンを買いに出かけるであろうことなどを、手紙から読み取っての策です。

一方、リビーはねずみのパイをオーブンに入れます。

そのオーブンは二段式になっており、パイを入れた下の段は、開けるのに力がいるのです。

 

そうして部屋をきれいにしてから、リビーは自分が食べるマフィンを買いに出かけます。

途中、ダッチェスとすれ違いますが、会釈だけで会話はしません(話はこれからお茶を飲みながらするからです)。

 

さあ、ダッチェスはリビーの姿が見えなくなるや、一目散にリビーの家に駆けて行き、侵入し、オーブンの上の段に持参してきたパイを入れます。

しかし、ダッチェスはオーブンに下の段があることに気が付かず、リビーのパイを見つけることができません。

 

そうしてるうちにリビーが帰ってきて、ダッチェスはねずみのパイを始末できないまま、退散します。

リビーは家の様子が変だと思いつつも、ダッチェスのパイには気が付きません。

 

ダッチェスは改めてリビーの家を訪問します。

そこでダッチェスは、リビーがオーブンからパイを出す瞬間を見逃してしまいます。

さあ、ダッチェスは自分のパイだと思い込んでねずみのパイを食べ始めます。

とても上品に会話を交わす二人ですが、二人とも食欲は旺盛。

特にダッチェスはあっという間にパイを平らげてしまいます。

 

しかし、ダッチェスは妙なことに気が付きます。

自分が入れておいたはずの焼き型(パイが型崩れしないように入れておく金属)が出てこないんですね。

 

リビーの方は「焼き型なんか パイにいれては ありませんよ」と言います。

リビーの親類のおばさんは、クリスマスのプディングに入れる「幸運の指ぬき」を呑み込んで死んだので、自分はパイやプディングに金気のものは入れないのだ、と主張(また出ました、ピーターラビットシリーズにおける事故死ネタ)。

 

これを聞くとダッチェスは自分が誤って焼き型を呑んでしまったのだと思い込み、唸り出します。

リビーの方では焼き型なんか最初から入ってない、と言い、ダッチェスは何しろ自分のパイだと信じてるわけですから、確かに焼き型が入っていたのだ、と言い、不毛なやり取りが繰り広げられます。

 

気分が悪くなってしまったダッチェスに、リビーは医者を呼びに行きます。

一人残されたダッチェスは、オーブンの音で、焼き上がった自分のパイに気づきます。

真相を理解したダッチェスは、「こんなこと とても きまりわるくて、リビーには はなせない」と思い、自分のパイは裏庭に出しておいて、後で持って帰ることにします。

 

やがてリビーが「カササギ先生」を連れて帰ってきます。

この先生が実にぶっ飛んだキャラクターでして、喋ることは何故か「ばきゃたれ」とか「うすのろ」とか、悪い言葉ばっかり。

(表向きは)上品なリビーとダッチェスと、誠に対照的です。

 

ダッチェスはもう具合が良くなったから、と逃げるようにリビーの家を後にし、それから例のパイを回収しに裏庭へ回ります。

ところが、パイはカササギ先生が食べてしまった後でした。

 

ダッチェスは自分のしたことが恥ずかしくなり、うちへ駆けて帰るのでした。

 

★      ★      ★

 

このシリーズの魅力は「現実とファンタジーの究極の結合」にあると以前の記事に書きましたが、ここでもダッチェスたちは動物としての特性は保ったまま、実に人間臭く描かれています。

 

この物語の核は登場人物たちの「本音と建て前」です。

ダッチェス、リビー、タビタはそれぞれ表面上は仲良く、上品に振る舞っていますが、所々で本音を覗かせます。

これはお高く止まった上流階級の婦人たちの社交生活を皮肉っている点で、鳥獣戯画のような可笑しみを生んでいますが、ポターさんの筆には辛辣さはほとんど感じられません。

 

むしろ、登場人物に対するあたたかみすら感じられるのですね。

考えてみれば、リビーたちのような「本音と建て前」は、社会で生きて行く上で、誰しもが使い分けているところかもしれません。

 

その人間理解とリアリティゆえに、この話は「難しい」わけです。

はっきりとした悪人が出てきたり、わかりやすい教訓が示されるわけではないからです。

 

そしてやっぱり、絵の美しいこと。

花でいっぱいのダッチェスの家は素敵だし、リビーはおしゃれだし。

タビタさんは割と登場回数の多いキャラですが、彼女の子どもたち(トム、モペット、ミトン)は、今回は絵のみの登場となります。

 

トムたちの出てくるお話も大変面白いので、いつかまた取り上げたいと思っております。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

カササギ先生には診てもらいたくない度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「パイがふたつあったおはなし

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