【絵本の紹介】「ババールとサンタクロース」【288冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに「ぞうのババール」シリーズの続きをやりましょう。

ババールとサンタクロース」です。

作・絵:ジャン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1974年12月30日

 

この「ババールとサンタクロース」はシリーズ5作目にして、ブリュノフさんの遺作となります。

私もこの大河ロマン的絵本を綴ってきて、とうとうここまで来たかと感慨ひとしおです。

過去記事も併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

≫絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

≫絵本の紹介「おうさまババール」

≫絵本の紹介「ババールのこどもたち」

 

幼くして母親を亡くし、逃亡の果てに良き理解者や伴侶と出会い、ついにはぞうの国の王となったババール。

いくつもの試練を乗り越えたババールは、三人の子どもに恵まれ、幸せな安定した暮らしを手に入れます。

 

そして今回は、こざるのゼフィールが人間の世界で「サンタクロース」と呼ばれるおじいさんの存在を知り、アルチュールとババールの子どもたちにその素敵な話を聞かせるところから始まります。

 

彼らはさっそく、自分たちもクリスマスにプレゼントがもらえるよう、サンタクロースに手紙を出します。

けれど返事は来ず、がっかり。

 

そんな彼らを見たババールは、自らサンタクロースに会って直談判しようと決意します。

 

身分を隠し、一人旅に出るババール。

サンタクロースの手掛かりを求める彼の前に、様々な登場人物が現れ、協力してくれます。

サンタクロースについての文献を手に入れ、学者に解読してもらい、犬の協力を得て、サンタクロースのいるらしき「プリムネストエ」に向かいます。

 

そこでやっと本物のサンタクロースの家に辿り着きます。

サンタクロースは地下に住んでおり、アリの巣のようなその内部が図解されます。

実に楽しいシーンです。

 

さて、サンタクロースは忙しくてとてもぞうの国までは回り切れないとのこと。

そこでババールはクリスマスまでの休暇として、サンタクロースをぞうの国へ招待することにします。

 

ひこうせん サンタとくべつごう」に乗り、ぞうの国に帰還するババール。

サンタクロースはぞうたちの熱烈な歓迎を受け、ゆっくりとバカンスを楽しみます。

 

そのお礼として、サンタクロースはババールにサンタクロースの衣装とおもちゃの袋を渡します。

ババール自身がサンタとなって、ぞうの国の子どもたちにプレゼントを配るのです。

もちろんクリスマスは子どもたちはみんな大喜び。

サンタクロースはクリスマスツリーを届けてくれ、来年からは毎年ぞうの国にも来てくれることを約束して帰って行くのでした。

 

★      ★      ★

 

今回は絵本界最強クラスのご都合主義パワーは抑えられ、ババールはなかなかに苦労します。

その象徴として、例の大金持ちのおばあさんが登場しません。

彼女ならサンタクロースに対するコネも持ってそうなのに。

 

つまり、もうババールは完全に大人なのです。

自らの力で人生を切り拓く力を持っているのです。

 

その力の根源は、これまでのシリーズで繰り返し描かれてきた「落ち着いた態度」「均衡の取れた感情」「理性的な対処」といった「正のパワー」です。

不治の病に侵されたブリュノフさんは、最後の最後まで、子どもたちへのこれらのメッセージを送り続けたのです。

 

彼の死後、残された原稿をもとに、息子のロランさんがこの絵本を完成・出版しました。

そしてそれ以降も、「ババール」シリーズはロランさんの手によって描かれ続けています。

 

この間紹介した「マドレーヌ」シリーズが、作者の孫の手によって引き継がれたのと同じです。

 

≫絵本の紹介「マドレーヌのクリスマス」

 

奇しくも、作者の最後の作品がクリスマスにまつわるものという点まで共通しています。

 

ジョン・ベーメルマンスさんもロラン・ド・ブリュノフさんも、自分が子どもの頃から親しみ続けてきた偉大で楽しい絵本シリーズが終わってしまうことに耐えられなかったのでしょう。

作者の魂は作品と共に生き続け、また次の世代へと受け継がれていきます。

 

「正のバトン」を受け取った者は、それを正しく次のランナーに渡す使命感を呼び起こされます。

そんな風にして、ブリュノフさんが命を削って描いた「ぞうのババール」は、今もなお、世界中の子どもたちの生きる力となっているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

サンタ家の断面図の楽しさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ババールとサンタクロース

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「さむがりやのサンタ」【287冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「さむがりやのサンタ」です。

作・絵:レイモンド・ブリッグズ

訳:すがはらひろくに

出版社:福音館書店

発行日:1974年10月25日

 

この時期になると今でも本屋さんに並ぶロングセラーです。

テキストなしのコマ割り手法を用いた「ゆきだるま」が世界中で大人気になったブリッグズさん。

この作品も同様にテキストはなく、フキダシにによるセリフのみという漫画的絵本です。

 

≫絵本の紹介「ゆきだるま」

 

点で描かれたつぶらな瞳がチャーミングなサンタさん。

絵本に登場するサンタさんって、わりかし作者の個性がにじみ出たキャラクターが多いんですが、このサンタさんは少なくとも見た目は一発でわかる王道サンタクロースです。

 

ところが、ページをめくってみると予想外。

何しろ、いきなり自宅のベッドで南国の夢を見ているところを目覚ましに起こされて、不機嫌そうな顔で、

やれやれ またクリスマスか!

と愚痴が飛び出すのです。

そして、ぶつぶつと文句を言いながら紅茶を入れ、朝ごはんを用意し、身支度をします。

これが細かいコマ割りで実にリアルに、丁寧に描かれています。

 

イギリス風生活を営むサンタの日常がありありと想像できるのです。

口を開けば文句と愚痴ばかりなサンタですが、生活の所作は丁寧で実直。

 

プレゼントをそりに積み、きちんと幌をかけ、一緒に暮らす動物たちに声をかけ、仕事に繰り出します。

 

そして一軒一軒を回ってプレゼントを配るのですが、これがなかなかの重労働。

意外にも煙突はお嫌いなようで、考えてみれば玄関を開けていてもらえば早いものを、わざわざ煙突を降りなければ入れないのは確かに非効率です。

 

えんとつなんて なけりゃいいのに!

すすだらけになっちまった

 

悪態をつくサンタに、同情しつつもついクスリと笑ってしまいます。

ラジオで雪情報を聴きながらお弁当のサンドイッチを食べるサンタ。

ちゃんとトナカイにもエサをあげます。

 

住人の差し入れ、ジュースは喜ばないけど酒には満足。

寒いですものね。

 

牛乳配達人と言葉を交わし、女王の宮殿にもプレゼントを配り、やっと仕事は終わります。

ここで終わらないのがこの作品のいいところ。

自宅へ戻ったサンタは、また紅茶を入れ、トナカイを労わり、温かいお風呂に入って一杯やります。

 

そして、自分へのクリスマスプレゼントを開け、ひとくさり文句。

寝る前にはちゃんと犬と猫にもプレゼントをあげ、最後は読者に向かって仏頂面で、

ま、おまえさんも たのしいクリスマスをむかえるこったね

 

★      ★      ★

 

いやあ、実に楽しいサンタさんです。

 

口が悪くて不愛想で文句が多いけど、根はやさしくて仕事も暮らしぶりも丁寧で真面目。

昔の頑固おやじ風のブリッグズサンタ。

 

何だか普段は知らないお父さんの仕事を覗き見たような気分になります。

それが不思議と温かく、親近感が湧きます。

 

リアリティと人間味たっぷりだけど、夢は壊れず、むしろサンタさんがもっと好きになる、そんな素敵な絵本です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆(コマ割りについてこれる子でないと難しいです)

人間臭さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「さむがりやのサンタ

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【絵本の紹介】「マドレーヌのクリスマス」【286冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は大人気「マドレーヌ」シリーズより、この季節にぴったりの一冊を紹介しましょう。

マドレーヌのクリスマス」です。

作・絵:ルドウィッヒ・ベーメルマンス

訳:江國香織

出版社:BL出版

発行日:2000年11月1日

 

パリの寄宿舎で暮らす12人の女の子の活躍を描いた素敵な物語。

これまでに2作品を紹介しました。

 

≫絵本の紹介「げんきなマドレーヌ」

≫絵本の紹介「マドレーヌといぬ」

 

マドレーヌといぬ」では絵本界の最高賞コールデコット賞を受賞したものの授賞式には出ず、マドレーヌの名前のモデルである妻を代理に立てたというシャイなベーメルマンスさん。

素行不良で故郷にいられなくなり、アメリカに渡り、ほとんど独学で絵を、描いて描いて描きまくることによって学んだベーメルマンスさん。

 

そんな魅力的な作者の生涯は、「ベーメルマンス マドレーヌの作者の絵と生涯」という本にまとめられています。

とても面白いですよ。

 

さて、シリーズ化して以降のマドレーヌたちは、隣に引っ越してきたいたずらっ子のペピートと交友を深めたり、ロンドンやアメリカに遠征したりと世界を股にかけた活躍を見せます。

今回はパリに帰ってきて、お馴染みの寄宿舎でクリスマスを迎えるのですが……。

 

なんとマドレーヌ以外の11人と、ミス・クラベルまで屋敷中が風邪で寝込んでしまいます。

たった一人元気なマドレーヌは、掃除に料理、みんなの看病までてきぱきとこなします。

ただのいたずらっ子ではない、実にしっかり者。

そこに訪ねてきた、妙にアラビアンなじゅうたん商人さん。

12まいのじゅうたん」を行商に来たのです。

 

なんてすてき。あさ おきるとき、これで あしが つめたくないわ

と、やさしいマドレーヌは、ミス・クラベルの許しを得て、12枚のじゅうたんを商人から買い取ります。

 

ところが、全部のじゅうたんを売ってしまった商人は寒さに震え、じゅうたんを取り戻そうと屋敷に引き返してきます。

どんな商人だよ。

 

屋敷に辿り着いた時には、商人は全身カチンコチンに凍っており、マドレーヌがやかんのお湯で解凍し、薬を飲ませてやります。

パリの冬って、そこまで寒いの?

元気になった商人は実は魔術師で、マドレーヌを手伝って魔法で皿洗いをします。

さらに、呪文を唱えると、

じゅうたんが一斉に空に飛び上がり、12人をそれぞれの家族のもとに連れて行ってくれます。

12人は実家で楽しく過ごした後、寄宿舎に戻って元気に新しい年を迎えるのでした。

 

★      ★      ★

 

ツッコミどころ満載のマドレーヌ流クリスマス。

サンタカラーのじゅうたん商人、あれほどの魔術師なら、寒さくらいなんとかならなかったのかとか、最後に呪文を解くのは何故かミス・クラベルだったりとか。

なかなかはっちゃけた展開のオンパレード。

 

この楽しい絵本が、ベーメルマンスさんの遺作となりました。

絵本製版にあたっては、雑誌掲載時のカットを写真撮影で引き延ばしたり、その上から彩色したりして製本したそうです。

 

そのためかどうか、正直なところ、絵の完成度としては初期作品に及ばない部分が見られます。

いつもの美しい街並みのカットがないせいかもしれません。

 

でも、マドレーヌの奮迅ぶりは頼もしいし、珍しく彼女の顔のアップも見られますし、荒唐無稽でありながら幸せなストーリーも爽快感があります。

あっさりとした終わり方は、ある意味でベーメルマンスさんの遺作に相応しいようにも思います。

 

ベーメルマンスさんの死後、このシリーズは彼の孫のジョン・ベーメルマンスさんが引き継いで描いています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

じゅうたん商人にツッコミたくなる度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「11ぴきのねことぶた」【282冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

ずいぶん間が開いてしまいましたが、「11ぴきのねこ」シリーズを取り上げたいと思います。

これまでに「11ぴきのねこ」「11ぴきのねことあほうどり」を紹介しましたので、そちらも併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「11ぴきのねこ」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことあほうどり」

 

馬場のぼるさんの妥協を許さない姿勢ゆえに、シリーズ続編までに5年かかり、そして今回紹介する3作目「11ぴきのねことぶた」の完成までにはやはり4年を要しています。

作・絵:馬場のぼる

出版社:こぐま社

発行日:1976年12月15日

 

つまり、「11ぴきのねこ」誕生からここまでですでに10年近く経過していることになります。

絵柄は安定していますが、印刷技術の向上か、色彩はこれまでに比べて格段に鮮やか。

 

ストーリーはシリーズ通しての特徴である人間心理・集団心理をより濃く描き出したものになっています。

それでいて楽しさは少しも失われていない点が素晴らしい。

 

お腹を空かせていた11ぴきは、コロッケ屋を経て、それなりに生活の余裕が生まれたのか、今回はトラックを所有しており、旅をしています。

田舎の丘で、一軒の古い家を見つけた11ぴき。

廃墟らしいその家を綺麗に掃除して、自分たちの家にすることにします。

するとそこに、旅のぶたが訪ねてきます。

このへんに、ぼくのおじさんのいえがあるんだが、こちらですかな

 

どうやらここはこのぶたのおじさんの家だった模様。

11ぴきも(壁の肖像画から)そのことは思い当っているはずなんですが、今さら明け渡すのは惜しい。

で、ぶたを追い出してしまいます。

 

ぶたは仕方なく、材木を集めて自分で家を建て始めます。

雨が降り、仕事のできないぶたを見ているうちに11ぴきは気の毒になってきて、ぶたを家に招き入れてやります。

 

親切をしていい気持ちになった11ぴきは、ぶたの家づくりも手伝ってやることにします。

設計図を描き、トラックで資材を運び、てきぱき働く11ぴき。

ぶたも喜びますが……。

出来上がった立派な家には「11ぴきのねこのいえ」の看板。

あげるのが惜しくなっちゃったんですね。

 

結局ぶたは11ぴきのねこが占拠していた家に住むことになります。

温厚なぶたは別に腹も立てず、「まあ、いいさ。もともと ここは ぼくのおじさんのいえなんだ」。

 

さて、夜が明けると、台風がやってきて……。

11ぴきは家ごと空へ吹き飛ばされてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

相変わらず11ぴきはずるくて欲が深いけれども、憎めません。

あの幸せそうな笑顔のせいでしょうか。

 

ある種の人間の業を現している11ぴきの哀れで滑稽な末路を、子どもたちは笑いながらも、どこかで彼らと自分自身の心を重ね合わせています。

そこで何が生まれるでしょうか。

自分自身の客観視です。

 

11ぴきの無責任さ、不道徳さは、典型的な集団心理です。

行為の責任を自分自身の個において引き受けなくてもよい気楽さが、彼らを支配しています(とらねこたいしょうだけは少々責任感を持ち合わせている様子ですが)。

 

それは幼い子どもたちの「グループ」にも見て取れる光景です。

隣の子がやっていることなら、いい悪いを判断する前に真似をし、隣の子が泣くと一緒になって泣く。

そこからは本当の倫理観や道徳心は生まれません。

 

そうした集団的自我から、人間はいずれは自由に解き放たれなくてはなりません。

個としての有責性を引き受けた時に、初めて人間は独立性を確保するのです。

 

もっとも、だからと言って幼い子どもたちを性急に独立させようとするのは間違っています。

すべてには準備期間が必要であり、成長にはある程度の時間をかけなくてはなりません。

子どもたちがいずれ自由な個我に目覚めるためには、焦らずに、心の土を耕し、未来の種をまかなければなりません。

 

その種が「自分自身の客観視」です。

この絵本を「教訓」だと思うべきではありません。

馬場さんはそんな物語は作りません。

 

この絵本が素晴らしいのは、子どもたちが心から笑えるからです。

教訓に対しては、子どもは笑いません。

反発するだけです。

 

大笑いしながら、同時に自己を見つめるきっかけになる。

それらを両立させることは口で言うほど容易い作業ではありません。

馬場さんだからこそ、その困難な物語を作ることに成功したのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

今年の台風被害を思うと、ラストはちょっと怖い度:☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「11ぴきのねことぶた

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【絵本の紹介】「おばけリンゴ」【272冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年の夏は酷暑が続いたり、大雨や台風や地震の被害もあって、農家の人々も大変だったと思いますが、そろそろ実りの秋ということで、こんな絵本はどうでしょうか。

おばけリンゴ」です。

作・絵:ヤーノシュ

訳:矢川澄子

出版社:福音館書店

発行日:1969年3月31日

 

作者のヤーノシュさんは1931年ポーランド(当時はドイツ領)の工業都市に生まれます。

錠前屋とか織物学校とかを転々とした後、ほとんど独学でデザインを学び、1960年に初めての絵本「うまのヴァレクのはなし」で絵本作家デビューします。

 

200冊を超える作品を発表し、ドイツ児童文学会では最も成功した作家と言われています。

が、実は美術学校を「才能がない」という理由で中退しているのですね。

 

絵本の絵というものは一見子どもが描いたようなラフなタッチのものも多く、この「おばけリンゴ」に代表されるヤーノシュさんのイラストも、「へた」と取られることもあるのかもしれません。

しかし、この表紙の主人公の表情など、じっと見ていると何とも言えない深い味があります。

 

また、ヤーノシュさんの作る物語はユーモラスで可愛らしい中に、どこか「大人の寂しさ」を感じさせる部分があり、そこが魅力にもなっています。

大人でも、つい引き込まれてしまう人も多いのではないでしょうか。

 

さて、内容を見て行きましょう。

主人公はワルターという名のヒゲの男。

貧乏ですが、リンゴの木を一本持っています。

ところが、この木はまだ一つも実が生ったことも花が咲いたこともないのでした。

 

ワルターはベッドで悲しみに暮れながら、心を込めて祈ります。

ひとつで いいから、うちのきにも リンゴが なりますように

すると、その小さな願いは叶えられ、ワルターの木に花が一つ咲きます。

ワルターは喜び、その花を大切に守ります。

花の成長を見守るワルターは幸せで、生き生きとしてきます。

 

ついにリンゴの実が生り、大きく育ちます。

が、ここでワルターにちょっとした欲が芽生えます。

リンゴが日増しに大きくなるので、取り入れを先送りし続けるのです。

 

そうするうちに、リンゴは化け物みたいな大きさになってしまいます。

そうなると、ワルターはこれを誰かに取られないかと心配になり、リンゴの番をするようになります。

やっとリンゴを市場に売りに行く気になったワルターでしたが、おばけリンゴは汽車にも積めず、背負って歩くことに。

おまけにあまりに常識外れの大きさのおばけリンゴは、買い手もつかないのでした。

ワルターは落ち込みます。

 

一方このころ、この国を脅かす一匹のリュウがいました。

国じゅうの作物を食い荒らすリュウを退治するか、贈り物で大人しくさせるか、王様が秘密警察(マフィアにしか見えない)に命じます。

 

秘密警察(マフィアにしか見えない)たちは、ワルターのおばけリンゴを思い出し、それをリュウに差し出すことにします。

リュウはおばけリンゴに猛然とかぶりつき、そしてリンゴをのどに詰まらせてあっけなく死んでしまいます。

国に平和が戻り、そしてワルターも悩みが解消されて元気を取り戻します。

そして今度からは「ふたつで いいから」、かごに入るくらいの小さなリンゴが生るようにと祈るのでした。

 

★      ★      ★

 

リンゴが生ってあんなに喜んでいたワルターが実はリンゴが嫌いだったとか、やたら悪そうな王様とか、あまりにも情けない竜とか、後半の超展開は突っ込みどころ満載で、笑っていいのやらなんやらわからなくなりますが、ワルターの心情の変化は、人間の欲望や期待について普遍的な真理を衝いています。

 

願いというものは叶いつつある時が最も幸せで、実際に叶ってしまうと何故か不幸になってしまったり。

また、何も持っていなかった時のワルターの願いは純粋でささやかなものだったのが、手に余るものを持ってしまってからは打算的な欲に変わり、そして持つことによって不安や心配まで抱え込んだり。

 

人間の幸福とは何ぞや、と、都会を離れて創作活動を続けた作者は問うているような気がします。

ヤーノシュさんの作品に漂う寂しさは、彼自身の人生に関係しているのかもしれません。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

リュウの恐ろしさ度:☆

 

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