【絵本の紹介】「ロッタちゃんとじてんしゃ」【323冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

はじめて自転車に乗れた日のことを覚えていますか?

私は今でもはっきり覚えてます。

息子は6歳に近い5歳ですが、まだ自転車には乗れません。

というか、自転車そのものがない。

 

公園なんかでよその子が小さい自転車(ペダルのないやつ。正式名称不明)に乗ってたりすると、息子は近づいて行ってちょっかいを出します。

ちょっと借りて練習させてみますが、練習嫌いの息子はすぐにやめてしまいます。

ちなみに、三輪車はあったけどまったくと言っていいくらい乗りませんでした。

何回教えてもペダルをうまく漕げないんですね。

それもあってずっと買わなかったんですが、そろそろ買ってやろうかしら。

 

今回紹介するのはスウェーデンの世界的児童文学者・リンドグレーンさんの「ロッタちゃん」シリーズより、「ロッタちゃんとじてんしゃ」です。

作:アストリッド・リンドグレーン

絵:イロン・ヴィークランド

訳:山室静

出版社:偕成社

発行日:1976年4月

 

リンドグレーンさんは「長くつ下のピッピ」という人気シリーズの作者でもあります。

この前、「長くつ下のピッピ展」に行ってきました。

 

これは絵本ではなくて児童書なんですが、息子に読んでやると大ハマリして、今でもお気に入りの作品です。

「ピッピ」の魅力(世界一強くて、大金持ちで、一人暮らしで、学校にも行かない)を語り出したら長くなり過ぎるので、ここでは触れません。

一度読んでみて欲しいと思います。

 

「ロッタちゃん」はピッピのような超人ではなく、ごく普通の幼児なんですが、その言動の痛快さはピッピにも劣らないものがあります。

 

兄のヨナスと姉のマリヤが自転車に乗っているのを見て、三輪車しか持ってないロッタは内心腹立たしくてなりません。

自分も同じように自転車に乗りたい、乗れるはずだ、と考えます。

でも、周りからは「おまえは ちいさすぎるからな」と言われてしまうのです。

自尊心の強いロッタは、実に良からぬ計画を企てます。

お気に入りの「ぶたぐま」のぬいぐるみ「バムセ」にだけはその計画を打ち明けます。

 

あたい、一だい かっぱらうつもりよ

 

どこでかっぱらうつもりかというと、仲のいい「ベルイおばさん」の物置からです。

そこに古い自転車があることをロッタは知っていたのです。

 

5歳の誕生日の日、やっぱり自転車はもらえなかったロッタはベルイおばさんの家に行きます。

ベルイおばさんからは素敵な腕輪をプレゼントされます。

ロッタは喜びますが、それはそれとして計画は実行に移すのでした。

ベルイおばさんが昼寝してる隙に、ロッタは自転車を盗み出します。

大きすぎる自転車に四苦八苦しますが、どうにかサドルにまたがります。

 

しかし、坂道を走り出した自転車を止めることができず、ロッタはベルイおばさんの家の垣根に突っ込んで怪我をしてしまいます。

あたいの たんじょうびなのに ちが でたあー!

 

ベルイおばさんに手当してもらいながら、ロッタは、

でも あたい、ほんの ちょっとのあいだ ぬすんだだけよ

と言い訳。

 

そしてせっかくもらった腕輪まで失くしてしまったことに気づいて、泣きわめきながら帰ります。

兄さんと姉さんから説教されて、ロッタは「あんたたちには くちを きくのも いやよ」とふくれっ面。

 

やがて父親が帰ってきますが、彼はロッタにぴったりの小さな赤い自転車を持って帰ってきてくれたのです。

大喜びで自転車に乗るロッタ。

そしてベルイおばさんは腕輪を見つけてくれます。

 

ご機嫌で自転車を乗り回すロッタですが、兄の真似をして両手を放して転び、兄に対して怒ります。

でも内心では、自分だって同じように手を放して乗れるはずだ、とロッタは考えているのでした。

 

★      ★      ★

 

花びらが舞う絵が印象的です。

「ピッピ」も「ロッタ」もリンドグレーンさんの描く主人公は、子どもでありながら大人の世界に堂々と立ち向かい、自己主張をし、思うままに行動します。

 

もちろん子どもですから、彼女らの行動と主張は大いに自己中心的です。

理屈や道徳ではなく、子どもたちは自分の中にある何かを守ろうと抵抗します。

禁止し、矯正し、従わせ、コントロールしようとするすべての大人たちに対し、子どもたちは抵抗します。

 

リンドグレーンさんはそんな子どもたちを、一人の人間として認め、その幼い自尊心を傷つけないように心を配ります。

大人にとって都合のいい「いい子」しか出てこないような物語を、子どもたちはその鋭い感性ではねのけます。

 

ロッタの行動は、良識的な大人が見れば眉をひそめるようなところもあります。

それでも、今すぐにその行動の道徳的良否を教え込むことが必要なのではありません。

何故なら、子どもたちは平気でこれまでの自分を超えていけるからです。

 

これでも おまえは、きょうは いやな たんじょうびだって、おもうかい?

という兄の質問に、ロッタはあっさりと、

あら そんなこと、あたい おもったこと ないわよ

と言い返せるのです。

 

過去の行いに罪悪感を抱かせることで子どもたちを「教育」することは意味がありません。

彼らはいつでも「今、ここ」を生きているからです。

 

「ロッタちゃん」シリーズは映像化されています。

ロッタ役の女の子がめちゃくちゃに可愛いので、必見です。

特にふくれっ面が。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

庭のブランコ羨ましい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ロッタちゃんとじてんしゃ

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【絵本の紹介】「時計つくりのジョニー」【307冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

息子がもっと小さかった頃、ほとんど毎日のように何かを「作って!」と言われ続けていました。

何かとは、たいてい電車などの乗り物のおもちゃでしたが、中には変なリクエストもたくさんありました。

 

もともとはブロック遊びから始まったんですが、妻が紙工作で新幹線を作ったのがきっかけになり、鉄道図鑑を前にして何十種類となく作るようになりました。

私はあまり工作が得手ではなかったんですが、だんだんと凝るようになってきて、磁石で連結させたり、合体させてロボにしたり、自分でも割と楽しむようになりました(すぐ壊されることもあるけど)。

 

そうするうちに、日常生活や仕事においても、何かが必要になった時、まず「自分で作れんかな」と考えるようになってきました。

今までは出来合いの製品を買うのが当たり前だったけど、自分で作った方が細部まで自分好みに設定できます。

 

もちろん手間暇はかかりますし、色々と考える必要もあります。

しかし、考えてみれば今まで私が「何かを作ること」が苦手だったのは、手先の器用さ以前に「面倒だから」と考えることそのものを放棄していたせいかもしれません。

 

頭の中だけの知識ではなく、実際に行動して見ると様々な気づきがあり、失敗があり、その過程で実にたくさんの学びがあります。

知識、計算力、想像力などを総動員しなければ、もの一つ作るだけでも、なかなか上手くはいきません。

子どもの調和的な発達のためには、何でも作らせることは非常に有用だと思います。

 

さて、今回紹介するのは私など足元にも及ばない天才DIY少年の物語「時計つくりのジョニー」です。

作・絵:エドワード・アーディゾーニ

訳:阿部公子

出版社:こぐま社

発行日:1998年7月1日

 

エドワード・アーディゾーニさんは、こぐま社の創業者である佐藤英和さんがこよなく愛する絵本作家です。

少し長めのお話ですが、展開が気になってぐいぐい読めます。

 

基本的に引いたアングルの構図を多用し、人物の表情をはっきりとは描かないアーディゾーニさんのいつもの手法。

テキストの流れとは別にフキダシによるセリフが用いられているのも特徴です。

漫画的と言うよりも、映画のワンシーンを切り取ったような印象を受けます。

 

手先が器用で、暇さえあれば何か作っているという少年・ジョニー。

お気に入りの本は「大時計のつくりかた」。

話の筋から逸れますが、私はここのカットが大好きです。

本を読む子どもの姿が好きなんですが、椅子が体に合っていないのを、分厚い本を敷くことで調節してるリアリティ。

本を座布団にしてもいいのは本好きの子どもだけ。

 

さて、ジョニーは自分で大時計を作ろうと思いつきますが、両親も学校の先生もまるで本気にしてくれないばかりか、心無い言葉を浴びせて子どものやる気の芽を摘もうとします。

 

しかし、唯一の理解者である友達のスザンナに励まされ、ジョニーは大時計作りに着手します。

材料をそろえるだけでも一苦労。

鍛冶屋のジョーの仕事を手伝ったりして、どうにか必要なものを集めます。

 

けれどもいじめっ子に材料を取り上げられ、スザンナの助けでそれを取り戻しても、家で仕事を始めると父親に邪魔されそうになったり、試練が続きます。

 

それでもジョニーはへこたれず、ついに大時計を完成させます。

その見事な出来栄えに、両親も先生も、そしていじめっ子たちまでもがジョニーを見直します。

周囲の理解と尊敬を得たジョニーは、ジョーとスザンナと一緒に時計製造業を始めることになるのです。

 

★      ★      ★

 

小さな主人公が苦難を乗り越え、華やかに成功を収め、周りから一目置かれる存在になる。

絵本の王道といえば王道ストーリーなんですが、ジョー以外の大人が酷すぎて、吐き気を催すレベルです。

 

好きなことに夢中になる子どもをつかまえて、大勢の前で「おばかさん」呼ばわりする先生とか、「ばかなこと」をやめて家の手伝いをしなさい、という親とか。

最後は大団円とは言うものの、よくこんな大人に囲まれた環境でジョニーのような優秀な子どもが育ったなと感心します。

 

まあ、こういう大人が当たり前の時代もあったのかもしれません。

だから、現代を生きる私たちも、「あんなひどい親ばかりの時代もあった」と回想される時代が来るかもしれませんね。

 

ちなみにこの絵本の献辞は「まごのスザンナに」ですから、ジョニーを支えるスザンナは、作者の孫娘がモデルになっているのでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

親と教師の教育力度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「時計つくりのジョニー

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【絵本の紹介】「もん太と大いのしし」【298冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年は亥年ということで、イノシシの登場する絵本を紹介したいと思います。

本当はこれを新年一発目に持ってくる予定だったんですが、バーニンガムさんの訃報があって、色々と後回しになっちゃいました。

 

馬場のぼるさんによる「もん太と大いのしし」です。

作・絵:馬場のぼる

出版社:ポプラ社

発行日:1975年8月

 

馬場さんと言えば何と言っても「11ぴきのねこ」シリーズが有名ですね。

ちなみにこのブログでも取り上げた「11ぴきのねことあほうどり」の記事が、「ナースときどき女子」というサイトの絵本特集企画で紹介されました。

≫「大人も子どもも絵本の世界に。ナースの心を温める絵本レビュー特集」

 

「11ぴき」は絵本史に残る傑作ですが、「11ぴき」があまりにも有名すぎて、馬場さんの他作品は意外と知られていなかったりします。

けど、もちろん馬場さんは他の作品も多く手掛けていますし、どれもそれぞれの面白さがあります。

 

この「もん太と大いのしし」は、絵本としてはやや長めで、ストーリーには少年漫画的な熱さと清々しさが溢れています。

「11ぴき」とはまた違った馬場さんの魅力に触れることのできる一冊で、ぜひ一度目を通していただきたい作品です。

 

むかしむかし、かきの木とうげの 山おくに」矢でも通さない固い背中の大いのししが棲んでいました。

いつからいるのか誰も知らない、ある種山の神様のような存在です。

 

そのふもとの村の「もん太」という若者が、ある日鳥を狩りに来て、ばったり噂の大いのししに遭遇します。

とんでもない大きさの大いのししに見とれてしまうもん太ですが、我に返って弓をつがえ、射かけます。

ところが、大いのししは矢を跳ね返して平然としています。

おまけに不敵な笑みを浮かべ、

まあ、なんだ、しっかり がんばりな

と、逆にもん太を激励する余裕っぷり。

 

村に帰り、

あの大しょうを射とめるには、もっと つよい弓が ひけるようにならねば だめだな

と呟くもん太を、かんすけたちが笑います。

 

喧嘩になったところを、「長者のおきちばあさま」がやってきて、若者たちをさらに煽ります。

大いのししを射とめた者には馬をくれると言うのです。

 

俄然やる気になったかんすけたちは計略を使って大いのししを岩で押し潰そうと企みますが、もん太は「やるなら、男らしく」弓で射とめろ、と制止します。

もみ合いの末、岩が転げ落ちてしまいますが、大いのししは頭突きで岩をふっ飛ばしてしまいます。

 

すっかり毒気を抜かれた格好のもん太たちですが、おきちばあさまはもん太を励まし、石うすを使った弓の稽古を薦めます。

やがて冬が来て、ある雪の晩、突然もん太のうちを大いのししが訪ねてきます。

驚くもん太に構わず、大いのししは囲炉裏端に上がり込んで横になって寝てしまいます。

一体どうして大いのししがここに来たのか、もん太にはさっぱりわかりません。

 

次の朝目を覚ますと、大いのししはおらず、その足跡を発見した村人たちが大騒ぎ。

黙って大いのししを行かせたもん太は村人から責められてしまいます。

 

村にまでやってくるとなると放っておくわけにはいかず、村人たちは大いのしし討伐隊を結成し、峠へ向かいます。

彼らの前に姿を見せた大いのししは、襲い掛かるわけでもなく、狙い易いように背中を向けて座り込みます。

そこへ一斉に弓が射かけられますが、まるで歯が立ちません。

しかし、その時一本の矢が鋭く唸りを上げ、大いのししの肩に突き刺さります。

むむっ、もん太だな……

大いのししは崖から転がり落ち、沼に沈んで消えます。

 

見事に大いのししを射とめ、おきちばあさまから褒められても、もん太はどうも気分が晴れません。

どうして嬉しくないのか、自分にもわからないのです。

 

ところがそれからしばらくして、もん太は偶然山であの大いのししに再会します。

大しょう、いきてたのかい

肩にもん太の射た矢を突き刺したままの大いのししは相変わらず不敵に笑って、

これは なかなか きいたぞ、もん太

おかげで わしの かたのこりも すっかり なおっちまって、いいあんばいだぞ

 

これを聞いたもん太は笑い出し、大いのししも笑いながら悠々と去って行くのでした。

 

★      ★      ★

 

いやあ、気持ちいいくらい男の子の世界です。

友情・努力・勝利。

 

少年漫画には良きライバルの存在が必須ですが、この大いのししのキャラクターの深みのあること。

彼ともん太との会話が実にいい。

 

大いのししは物語的にはもん太の「父親」です。

もん太にとって大きく、強く、越えがたい存在であり、いつか乗り越えるべき壁でもあります。

しかし心のどこかでは、いつまでも越えられない壁であり続けて欲しい気持ちもあり、それが少年の感情を複雑化し、それによって彼は成熟へと導かれるのです。

 

子どもにとって、憧れの大人から対等に扱われ、敬意を示されることは、何事にも代えがたい喜びです。

そしてその経験が子どもの精神の成長に大きく影響します。

 

もん太の弓を問題にしなかった大いのししが、ひとり温泉に漬かりながらもん太を思い出し、「あの矢は よかったぞお」と呟くシーンは、何だかにやりとしてしまいます。

男の子にとって、こんなにも自尊心をくすぐられる場面はないでしょう。

 

背中を見せて無防備に眠る大いのししに矢を射かけられないもん太、そのことを村人に責められてしまうもん太。

ついに大いのししを射抜くも、どこか寂しい気持ちになるもん太、すべてを理解して笑うもん太。

 

遥か高いところに聳え立っていた大いのししと、男同士理解し合えたこの瞬間、もん太は大人の階梯を上り出したのです。

息子を持つ父親として、そしてひとりの男として、こんな関係性には何歳になっても胸が熱くなります。

 

眩しいばかりの男の子絵本です。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

大いのししの余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ちいさなねこ」【279冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は絵本界、いや児童文学会の重鎮中の重鎮、石井桃子さんによる絵本を紹介します。

戦後日本の絵本は、様々な方々の尽力と貢献によって発展しました。

 

その中でも船頭的役割を担ったのが、瀬田貞二さんと石井桃子さんだったと思います。

私を含め、今の親の世代で、およそ石井さんのお世話にならなかった人が存在するでしょうか。

 

まだ絵本が子どものおもちゃ程度に認識されていた時代に、石井さんは優れた海外の絵本や児童文学を次々に翻訳されました。

ピーターラビットの絵本」も、「ちいさなうさこちゃん」も、「ちいさいおうち」も、「くまのプーさん」も、石井さんがいなければ私たちにこんなになじみ深いものにはなっていなかったでしょう。

 

それだけ多くの名作の翻訳を手掛けてきた石井さんの創作した絵本が、面白くないわけがありません。

1963年に「こどものとも」で発表して以来、今も子どもたちに読まれ続けている「ちいさなねこ」。

作:石井桃子

絵:横内襄

出版社:福音館書店

発行日:1967年1月20日(こどものとも傑作集)

 

内容は、わりとシンプルで短いものです。

大人が読むと、何の感慨もなしに読み飛ばしてしまうかもしれません。

 

しかし、ここには子どもが夢中になるリアルなストーリー展開と、そして何度でも繰り返したくなる完璧な構成があります。

横内さんの精緻な絵、石井さんの的確な文、それらが絵本の本質部分をしっかりと捉えているからこそ、いくら古くなろうともこの絵本は子どもたちにとって魅力的であり続けるのです。

 

ちいさな ねこ、おおきな へやに ちいさな ねこ

という最初の見開きで、子猫の周囲の余白を効果的に使っています。

 

そして子猫は縁側から庭に下り、外の世界へ向かって走り出します。

おかあさんねこが みていないまに、ひとりで でかけて だいじょうぶかな

石井さんの語りかけるような文により、読者は子猫を心配し、同時に子猫に自身を投影してワクワクします。

子どもに捕まり、通りで自動車に轢かれそうになり……(町並みの古臭さよ)。

ハラハラドキドキの連続。

そして怖いもの知らずの子猫の活躍は痛快の一言。

自分よりずっと大きな犬にも怯みません。

爪で鼻をひっかいて、怒った犬に追いかけられ、木の上に逃げます。

 

そしてここで絶対的存在のおかあさんねこが登場します。

あそんでいる こどもの そばを とおりぬけ、じどうしゃを よけて

と、ここでさりげなく子猫との違いを描いています。

何という安心感でしょう。

 

さらには木の下で大きな犬を追い払う頼もしさ。

いたずらな子猫を有無を言わせず口にくわえ、危なげなく帰宅します。

この子猫可愛い。

 

最後におかあさんねこのおっぱいを飲む子猫の姿を描き、お話は終わります。

このラストシーンがあるからこそ子どもは安心し、子猫の冒険を幸せな気持ちで楽しむことができるのです。

 

★      ★      ★

 

この子猫は、石井さんが昔拾って育てた、怪我をした子猫がモデルになっているそうです。

 

小さな動物が、ちょっとした冒険に出て、そして帰ってくるという話型は、幼児絵本のひとつの王道です。

同じ形式の絵本は「こすずめのぼうけん」や「アンガスとあひる」などがあります。

 

≫絵本の紹介「こすずめのぼうけん」

≫絵本の紹介「アンガスとあひる」

 

この絵本を「親の言うことを聞かずに一人で出かけると、危ない目に遭う」という「教訓」として読み聞かせるのは自由ですが、そうした捉え方ははっきり言って的外れです。

子どもにとって、自分の分身と思える主人公の冒険と活躍、そして最終的に安心できる場所への帰還という物語をたくさん読んでもらうことは、これからの人生にとって非常に重要な力となるのです。

 

2008年に亡くなられた石井さんは、享年なんと101歳。

彼女が生涯を通して子どものために成された仕事の数々を思う時、私は自然と頭が下がってしまうのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

おかあさんねこの貫禄度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ベンジャミン・バニーのおはなし」【270冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は世界で一番愛されているうさぎ「ピーターラビット」シリーズより、「ベンジャミン・バニーのおはなし」を紹介します。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1971年11月1日

 

このシリーズは私も個人的に大好きでして、全作品を取り上げたい気持ちなのですが、こればっかりやるわけにもいかず、いつになるやら。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

 

さて、「ピーターラビットの絵本」は、同じ世界を舞台にした様々なキャラクターの活躍を描くシリーズです。

「ピーターラビットの」とタイトルは付けられていても、ピーターが登場しない作品のほうが多いです。

 

しかし、意外なところでキャラクター同士の繋がりがあったり、ストーリーには絡まなくてもイラストのみに登場するキャラクターがいたり。

こういう群像劇っぽいシリーズは、絵本では珍しいような気がします。

 

この「ベンジャミン・バニーのおはなし」は、シリーズ2作目にあたり、唯一前回からの流れを引き継いで展開される物語になっています。

つまり、「ピーターラビットのおはなし」で、マグレガーさんの畑に侵入したピーターが散々な目に遭い、靴も上着もなくして逃げ帰ってきた後のお話です。

ベンジャミン・バニーはピーターのいとこ。

ピーターのお母さんの兄の息子にあたります。

 

ほっぷ・すきっぷ・あんどじゃんぷ」をしながら登場。

ベンジャミンはおばさんであるピーターの母親は苦手のようですが、ピーターとは仲良し。

 

元気なく赤い木綿のハンカチにくるまっているピーターから、先日の災難について聞き出します。

ベンジャミンは、マグレガーさんたちが馬車で出かけている隙にピーターの服を取り返しに行こうと考えます。

 

二人は連れ立ってマグレガーさんの畑に侵入します。

かかしに着せられていたピーターの上着と靴はすぐに回収できました。

すっかり怯えていて、終始そわそわしているピーターに対し、ひどい目に遭ったことないベンジャミンは怖いもの知らずといった様子で、畑から玉ねぎを失敬し、おみやげにしようとしたり、レタスをつまみ食いしたりします。

 

そしてゆうゆうと帰ろうとした時、二人はマグレガーさんの猫に遭遇してしまいます。

ベンジャミンはとっさに自分とピーターに大きなかごをかぶせ、隠れます。

 

ところが猫が近づいてきて、そのかごの上に乗って昼寝を始めてしまいます(5時間も!)

 

ここで救世主のごとく登場するのが、ベンジャミン・バニーのお父さん。

その名もベンジャミン・バニー氏。

 

くわえパイプに、手には短い鞭を持ち、猫などまったく問題にしない堂々たる態度でやってくると、いきなり猫に飛びかかって温室に蹴り込んで戸に鍵をかけて閉じ込めてしまいます。

ベンジャミンたちはかごから助け出されますが、ベンジャミン・バニー氏に鞭でお尻をぶたれてしまいます。

絵を見ると、ピーターも一緒にぶたれています。

 

二人はお尻を押さえて泣きながら、ベンジャミン・バニー氏はたまねぎの入ったハンケチを持ってゆうゆうと、マグレガーさんの畑を後にします。

 

ピーターのお母さんは、ピーターが上着と靴を取り戻してきたことを喜び、ピーターは叱られずに済みます。

 

★      ★      ★

 

ピーターもベンジャミンも、作者のポターさんが飼っていたうさぎの名前です。

ことに、ポターさんは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と日記に評してあるベンジャミンを可愛がっていたようです。

本物のベンジャミン・バニーについては、ポターさんの日記上に愉快なエピソードがいくつも残されています。

 

そして、頼もしくも恐ろしい父親ベンジャミン・バニー氏ですが、息子たちが成人した後のエピソード「キツネどんのおはなし」では、息子の嫁に叱られる子どもっぽいおじいちゃんになってしまいます。

そのあたりの変化も、シリーズ通しての発見の楽しみです。

 

イラストの美しさは言うに及ばず、テキストにおいても相変わらずポターさんの筆は冴えわたっており、必要なこと以外は何も語りません。

その一方で、前回は描かれなかったピーター一家の暮らしぶりなどが描かれ、ピーターのお母さんが「うさぎの毛の手ぶくろ」や「そで口かざり」を編んだり、せんじ薬や「うさぎたばこ」(ラベンダーのこと)を売ったりして生計を立てていることなどがわかります。

 

そこでさらりと「わたしも、まえに、ばざーで、ひとくみ かったことがあります」とポターさんは言うのです。

こんなふうに、このシリーズでは時折作者自身が作中に登場します。

 

このたった一言で、この世界は単なる空想ではないことが読者に伝わります。

ポターさんは「現実に」ピーターたちと会って、関りを持っているのです。

マグレガーさんからは追いかけ回され、パイにされてしまいそうになるうさぎたちは、一方で人間相手に商売をしているのです。

 

この一文に、大人は戸惑い、子どもたちはワクワクさせられるのです。

ポターさんの絵本の凄みは、このようなさりげない一文にも秘められているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ベンジャミン・バニー氏無双度:☆☆☆☆☆

 

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