【絵本の紹介】「ババールといたずらアルチュール」【366冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに「ババール」の続編を持ってきました。

これまで5回にわたって順に作品紹介記事を書いてきましたので、よろしければそちらも併せてご覧ください。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

≫絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

≫絵本の紹介「おうさまババール」

≫絵本の紹介「ババールのこどもたち」

≫絵本の紹介「ババールとサンタクロース」

 

さて、最後に紹介した「ババールとサンタクロース」が作者ジャン・ド・ブリュノフさんの遺作となりました。

結核に侵され、病魔に蝕まれながら描き続けた「ババール」の精神は息子のロランさんへと受け継がれます。

数年後、画家の道を歩んだロランさんの手によって、再び「ババール」は命を与えられることになります。

 

それがこの「ババールといたずらアルチュール」です。

作・絵:ロラン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1975年6月20日

 

いやあ、絵柄、色使い、画面構成、文体(矢川さんの訳文しか知りませんけど)まで、見事に完コピですね。

もちろん玄人の目には違いがあるのでしょうけど、私にはブリュノフさんのものとまるで区別がつきません(ちょっと線が太くなったかな)。

作者名に気を付けていなければ、途中で作者が入れ替わっていることに気づかない読者も多いのではないでしょうか。

 

偉大な父が描いた世界的人気絵本を手掛けることについては、想像もつかないプレッシャーがあったのだと思います。

しかしそれ以上に、幼い頃に母が語り、父が絵本にした「ババール」を蘇らせる喜びと使命感は大きかったのではないでしょうか。

 

今回はババールのいとこ「アルチュール」が主役となって活躍します。

そのことによりいっそう物語の世界は広がりを見せます。

 

夏のバカンスに、家族を連れて海辺の別荘へ出かけるババール。

モノレールと汽車が同時に止まるワクワクするような駅が描かれます。

ババールの三人の子どもたちも順調に成長している様子。

 

海辺の別荘で、子どもたちは初めての海遊びに夢中になりますが、アルチュールは一人で飛行場を見に行きます。

そこで調子に乗って飛行機に上って遊んでいるうちに、飛行機が動き出し、離陸してしまいます。

アルチュールは降りるに降りられず、下で見ていた人々は大騒ぎ。

しかし勇敢さも持ち合わせているアルチュールは、パイロットの投げ渡したパラシュートを使ってダイビング。

風に運ばれながら、カンガルーの国に着地します。

誰とでもすぐ仲良くなるアルチュールはカンガルー、らくだ、かばたちの助けを得て、様々なトラブルを乗り越え、無事に砂漠の村で自分を探しに来たババールと巡り会うことができます。

ババールは喜びの余りお小言も忘れてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

人生における避けようのない困難、不幸や悲しみ(例えば父の死といった)を、いかにして乗り越えるべきなのか。

ジャン・ド・ブリュノフさんが「ババール」に託したメッセージは次のようなものです。

どんな時も落ち着いた態度と、前向きな知性を持ち、時には勇気をもって戦い、礼儀を重んじ、友を信じ、家族を大切にすること。

 

それは少しも目新しい知見ではなく、むしろ古風で当たり前とも言える人生観です。

でもそれを正しく人に伝えることは意外に難しいのです。

 

何故なら、メッセージはそれを発する人間の資質や発する手段によって変化するからです。

同じ内容が時には真実となり、時には空虚になるからです。

 

ブリュノフさんはその稀有な才能によって、絵本という形で、上質なユーモアを纏わせて、そのメッセージをまっすぐに子どもたちの内部に響かせました。

それは当然のことながら、息子であるロランさんが誰よりも深く受け止めたはずです。

 

この「ババールといたずらアルチュール」を読めば、単に絵や文を真似ただけでは再現できない、シリーズにおけるある種の気高さ、「品性」をも受け継いでいることがわかります(それが「ユーモア」という資質です)。

 

そう考えれば、何故ロランさんがシリーズ再開となる最初の作品の主人公にアルチュールを据えたのかが理解できます。

いたずら者でトラブルメーカーだけど、勇敢で人から愛されるアルチュールの活躍を描くことで、ロランさんは「ババール」の魂と精神が正しく受け継がれたことを示しているのです。

メッセージは正しく伝わった」と発信しているのです。

もちろん天国にいる父に向けて、です。

 

再び「ババール」に会えた読者たちの歓びは大きく、ロランさんは以後、次々とシリーズを刊行していきます。

その数は現在約50冊に及びますが、残念ながら日本ではその一部しか翻訳されていません。

願わくはすべて日本語版で読んでみたいですが、矢川さんも亡くなられた今では、あの名訳文を再現できる翻訳者がいるかどうか、ですね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ゼフィールの身長意外に高い度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「バラライカねずみのトラブロフ」【360冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年のねずみ絵本紹介シリーズ、続けます。

昨年1月に逝去されたジョン・バーニンガムさんの「バラライカねずみのトラブロフ」を紹介します。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:瀬田貞二

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年9月20日

 

これは瀬田貞二先生による翻訳でほるぷ出版から発行されていたものですが、現在は絶版。

(例によって)童話館が復刻してくれていましたが、近年翻訳を秋野翔一郎さんに変えて「トラブロフ バラライカにみせられたねずみ」と改題されました。

 

どちらもところどころにちょっと難しい言い回しが使用されていて、読み応えがあります。

どちらがいいというのは好みの問題ですが、瀬田さんの訳文は今読んでも特に古くは感じません(冒頭のバラライカの解説に『ロシア(いまのソビエト)』とかは書いてますけど、まあ本文とは関係ないので)。

 

バラライカはロシアの楽器で、やたら耳に心地いい名称と可愛らしい三角のフォルムが印象に残っている方もいるでしょう。

けど、実際にその音色を聴く機会は少ないと思います。

 

これはジプシーの奏でるバラライカの音色に魅せられたねずみが、ミュージシャンを目指して家を飛び出し、やがてバンドを結成して売れっ子になるというサクセスストーリー絵本です。

舞台は「ヨーロッパの なかほどの いなか」で、雪深い地方という設定になってますが、バーニンガムさんの自伝「わたしの絵本、わたしの人生」(ほるぷ出版)によればどうやらユーゴスラビアのようです。

宿屋で暮らすねずみ一家の男の子「トラブロフ」は、夜ごと酒場で演奏されるジプシーの音楽に聞きほれていました。

そんなトラブロフに、大工ねずみの「ナバコフじいさん」がバラライカを作ってくれます。

 

トラブロフは大喜びしますが、独学でバラライカを弾きこなすのは大変なことでした。

ある晩、ひとりのジプシーじいさんがトラブロフの練習を聴きつけ、自分が手ほどきをしてやれたのにと残念がります。

彼らは今晩の内にここを立ち去るからです。

それを聞いたトラブロフは、両親にも黙って宿屋を抜け出し、単身ジプシーの楽団について行ってしまいます。

トラブロフはジプシーと共に旅をし、毎晩熱心にバラライカの練習をします。

 

しかし一方、トラブロフの母親は息子がいなくなった心配から病に臥せってしまいます。

トラブロフの手掛かりを得た妹は、兄を連れ戻すためにスキーで後を追います。

ついに兄を発見した妹が急を知らせ、トラブロフもスキーに乗って二人で家に帰ります。

途中、吹雪に遭ったりしつつ、どうにか無事に帰り着いたトラブロフ達を見て、両親は叱るのも忘れて喜びます。

 

ただ、心配事はもうひとつあり、宿屋の主人がねずみを追い出そうと準備しているのです。

ちょうどその時、予定の楽士たちが来ないことに困り果てていた宿屋の主人のところへ、トラブロフが姿を見せます。

そして、自分に楽士を務めさせてくれるよう交渉します。

 

主人は驚くものの、トラブロフの腕前に感心し、一家は晴れて追い出される心配もなく宿屋に住むことを許されます。

やがてトラブロフの兄弟たちも楽器を習ってバンドを結成し、ねずみの楽団として有名になるのでした。

 

★      ★      ★

 

赤黒い色使いの重たさが、寒さの厳しい雪国情緒を感じさせます。

北国の民族音楽の旋律というのは、どうしてあんなに美しく響くのでしょう。

 

私は寒さが苦手なわりには、南国より北国に惹かれる傾向があるようです。

「いいな」と思う文化は北の方が多いです。

 

バーニンガムさんは冬のユーゴスラビアでの経験をもとにこの絵本を作ったといいます。

そこでそりで4時間もかけて行った結婚式の披露宴で、三日三晩鳴り続けていたジプシーの演奏を忘れられないと語っています。

 

ちなみに、人間ぽく描かれているトラブロフ達の指ですが、ねずみの前足はもともと5本指なのでこれは正しいのですね(ミッキーマウスの指が4本だから勘違いしやすいんですが)。

だからこそバラライカを奏でることができるのだと考えれば、納得の設定です。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

バラライカ聴いてみたい度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ウィリーをすくえ! チム川をいく」【359冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年ということでねずみ絵本紹介してますが、いくらでもあります。

もう二冊くらいでいったん通常モードに戻ろうと思いますけど、この先も普通にねずみ絵本は出てくるでしょう。

色々考えたけど、これを紹介しておきたいと思ったので、ジュディ・ブルックさんの「ウィリーをすくえ! チム川をいく」を持ってきました。

作・絵:ジュディ・ブルック

訳:秋野翔一郎

出版社:童話館

発行日:2004年2月10日

 

実は私も知りませんでしたが、雰囲気から登場人物から、どうもシリーズものらしいと思って調べてみたら案の定、以前は「ゆうかんなティム・シリーズ」として冨山房から刊行されていた絵本でした。

現在は絶版となり、唯一このおはなしだけが童話館から発行されているのみです。

 

ストーリーも面白いし、何と言っても絵が素晴らしいと思うんですが、残念なことです。

シリーズの他作品は現在どれも入手困難です(お売りくださる方がいれば高価買取いたします!)。

 

(たぶん)イギリスの田園が舞台。

扉絵の美しく細緻な風景だけでもしばらく楽しめます。

 

主人公の「野ねずみのチム」と「はりねずみのブラウンさん」(なぜか「さん」付け)が川遊びしていると、ビンが流れ着きます。

中には手紙が入っていて、「かえるのウィリー」が助けを求める内容に、ふたりはびっくり。

どぶねずみの一味」にさらわれたというウィリーを救うべく、チム自作のいかだに乗って、ウグイの案内で川を下ります。

 

登場人物の説明が少なく、唐突な展開に感じますが、前述したようにもともとシリーズものですので、脳内補完してくだい。

片面カラー、片面モノクロの印刷なんですけど、本当に絵が楽しい。

小さなねずみたちにとっては、途中で出くわす牛やあひるも大変な難関。

やっとのことでどぶねずみたちの根城である「おもちゃの船」まで辿り着きます。

おもちゃと言い条、かなり高価なもののように見えますけど。

何しろ船室までしっかり作り込まれているのです。

 

どぶねずみたちは昼間は眠っており、その隙にチムとブラウンさんはどこかに閉じ込められているウィリーを探します。

今にも起き出しそうなどぶねずみたちの前を通り、ハラハラしながらチムはかえるのウィリーを見つけ出します。

幸いにもどぶねずみたちは目を覚まさず、チムはウィリーを救助します。

逃げ際にチムは船を岸につないでいるロープを噛み切っておきます。

 

船は流れに乗って川を下り始めます。

やつら、さぞ、びっくりするだろうな」。

 

チムたちは無事に家に帰り着き、盛大な歓迎を受けます。

一方、どぶねずみたちがどうなったかは、最後のカットで描かれます。

 

★      ★      ★

 

チムのいかだ、ドブネズミ一味の船、ウィリーのうち、どれも非常に細かく描かれていて、小物ひとつひとつが楽しいですね。

人間の村の描写、子どもたちや村人たちの行動も生き生きと感じられ、テキスト以上に雄弁です。

 

そのテキスト自体は割と長く、漢字も用いられ、冒険児童小説といった雰囲気があります。

川で拾ったビン詰めの手紙から始まる海(川だけど)の冒険、自分より巨大なものに囲まれても勇敢に切り抜ける痛快さ。

 

それらがありありと想像できるのは、やっぱり絵の力によるところが大きいでしょう。

こういう田舎の自然風景の中には、子どもの冒険心を駆り立てるものがたくさんあります。

 

都会でビンが流れててもねえ。

ただのゴミだし、汚いし……。

 

ぜひとも他の「ティム・シリーズ」も復刻してもらいたいと願っています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

アニメ化できそう度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「11ぴきのねこふくろのなか」【348冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本と他の本との違いは色々ありますけど、特徴のひとつとして、ロングセラーの多さが挙げられます。

通常、一般的な書籍だと、いくらベストセラーだと騒がれても1年(それでも長いかな)もすれば新しいものに取って代わられるのが定めです。

ことに近年は消費サイクルも早まっているので、作者も出版社も次から次へと手を変え品を変え、何とか新しいヒットを生み出そうとしています。

 

これが絵本になると、いまだに何十年も前の作品が本屋の店頭に並んでいたりします。

いかに時代が変わろうとも、子どもが喜ぶものはそう変わらないのでしょう。

 

もちろん、それだけ支持されるロングセラー絵本を描くことは大変に難しい作業です。

大人相手なら宣伝効果によって本が売れることもあるけど、子どもにその手は通じないからです。

なんかわかんないけど、話題になってるから

広告で見たから

読んでおかないと恥をかくから

という理由で本を読む子どもはいません。

 

彼らの価値判断は恐ろしく単純で、作り手にとっては冷徹でさえあります。

「おもしろいか、おもしろくないか」それだけです。

 

ただ、実際に絵本を購入するのは大人たちですから、宣伝が無駄というわけではありません。

絵本を選ぶのって難しいですからね。

作る側もついつい、購買者である親たちに媚びた内容の作品に傾いてしまうこともあるでしょう。

 

しかしながら長い目で見た場合、そうした作品が生き残り続けるということはありません。

読者の大多数が子どもである以上、いずれはおもしろくない作品は淘汰されます。

 

そういう厳しい業界で、誕生から50年以上も変わらず読まれ続けているロングセラー「11ぴきのねこ」シリーズ

今回は4作目「11ぴきのねこふくろのなか」を紹介しましょう。

作・絵:馬場のぼる

出版社:こぐま社

発行日:1982年12月5日

 

このブログでも発行順に取り上げていますので、過去記事もぜひ読んでいただければと思います。

 

≫絵本の紹介「11ぴきのねこ」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことあほうどり」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことぶた」

 

「11ぴきのねこ」シリーズが真に凄いのは、全6作品すべてが違うおもしろさを持っている点。

1冊のロングセラーを生み出すことも大変なのに、そのクオリティを維持したまま作品をシリーズ化することがいかに困難か、想像を絶するものがあります。

 

前作「11ぴきのねことぶた」から6年。

今作のゲストキャラはこれまでと違い、明確な「敵」として登場します。

その名も「ウヒアハ」。

なんで馬場さんがこんなけったいな名前を付けたのかは後述しましょう。

 

11ぴきのねこはリュックを背負って遠足に行きます。

色々あったけど、相変わらず楽しくやってるようです。

 

道中、様々なことを禁止した立札に遭遇しますが、ねこたちはそれらをことごとく無視します。

「花をとるな」「橋を渡るな」「木に登るな」。

禁止されるとやりたくなるのが業というもの。

シリーズ通してのテーマになっている人間心理はここでも見事に描かれています。

リーダーであるとらねこたいしょうも、形だけみんなを制止するけど、ちゃっかりおんなじ行動をしてるところがまた深い。

 

ねこたちはお弁当を食べた後、また妙な禁止書きを見つけます。

ふくろにはいるな」。

その脇には11ぴき全員が入れるくらい大きな袋が。

 

もはや禁を破ることに躊躇を覚えなくなっている11ぴきは袋の中に潜り込みます。

ウヒヒ、アハハ……

笑い声と共に袋の口が縛られ、11ぴきはまんまと生け捕られてしまいます。

罠を仕掛けたのは「ウヒアハ」という「ばけもの」。

巨大で毛むくじゃらで頭には角、尻尾にはリボン、肩からはポシェットという、何とも言い難い造形。

11ぴきは山の上のウヒアハの城に強制連行され、そこで奴隷のように労働させられます。

重たいローラーを引いて運動場を作らされる11ぴき。

割と怖い図です。

 

夜は地下牢に入れられ、昼は労働。

一度は絶望しかかる11ぴきですが、知恵と勇気で逆境に立ち向かいます。

 

彼らが立てた作戦は、そもそも自分たちを陥穽に落とした例の人間心理を利用したもの。

わざと楽しそうに歌いながら元気よくローラーを引いて見せます。

ウヒアハは自分もやってみたくなって、ねこたちからローラーを取り上げます。

 

その隙に11ぴきは姿をくらまします。

気付いたウヒアハが追いかけてくると、大きな樽に「たるにはいるな」の文字。

わかったぞ、なかにかくれてるな?

しかしこれが11ぴきの罠。

隠れていた11ぴきが飛び出し、樽ごとウヒアハを谷底に突き落とし、大勝利。

 

晴れて自由の身になったねこたちは帰り道、道路に「わたるな」の立札を見つけてドッキリ。

今度はちゃんと歩道橋を渡るのでした。

 

★      ★      ★

 

大変な経験をすることで、珍しく、というか初めて「学習」する11ぴき。

1作目からほとんど変わらないようでいてちゃんと成長しているところを見せます。

 

このお話を「ルールを守らないと因果応報、ひどい目に遭うよ」という教訓として読むこともできるし、それも間違いではないのですが、私はそれよりも11ぴきの「成長」そのものに目を向けたいと思います。

 

彼らが何を学び、どういう成長を遂げたのかと考えると、単純に「規則を守りましょう」という道徳を身に付けたという話ではないように思うのです。

ウヒアハとの対決なんか、なかなかの頭脳戦ですが、そこにこそ11ぴきの成長の中身が描かれています。

 

何度も触れていることですが、11ぴきはとらねこたいしょうを除き、個体識別ができません。

彼らの自我は「集団」に属しており、「個」としての自我は(まだ)芽生えていません。

「みんなでわたれば、こわくない」。それが11ぴきの幼児的無責任さの理由です。

 

彼らにとって重要なのは自分の属する狭い集団内での判断基準なのであって、「外なる世界」にはさして興味がありません。

だから立札や紙に書かれた文字を自分の属する世界での読み方に従ってしか読みません。

 

それが11ぴきを窮地に陥れるのですが、一方、そういう心理を逆手に取った罠を仕掛けたウヒアハも、自分がまさか同じ手を食うとは思いもしなかったのです。

ウヒアハもまた、「たるにはいるな」という文字を「自分の世界内での読み方」に従って読みます。

「自分に理解の及ぶ狭隘な世界」でのみ生きる者は、それゆえに敗北の道を辿るのです。

 

彼らの明暗を分けたのは「自分の属する世界」から「外なる世界」へと「橋を架ける」ことができたかどうかです。

11ぴきは「想像力」によってその架橋に成功します。

実に暗示的な物語です。

 

だから、ラストシーンで歩道橋を渡る11ぴきは、「規則に従わないとひどい目に遭う」ことを学習したというよりも、道路に掲げられている「わたるな」の立札に、「自分たちが理解しえない意味があるのかもしれない」という想像力を働かせたのだと読む方が適切だと思います。

 

その想像力を「知性」と呼ぶのです。

11ぴきは知的成熟への階梯の、最初の一歩を踏み出したのです。

 

画集「馬場のぼる ねこの世界」で、馬場さんが「ウヒアハ」の由来について語っています。

もとは馬場さんが自分の娘さんたちを脅かすときに作り出したキャラクターなのだとか。

ただ、小さい子に後々まで恐怖が残ってはいけないと考えた馬場さんは、成長すれば馬鹿馬鹿しく思えるよう「ウヒアハ」という滑稽な名前を付けたそうです。

 

子どもの成長、絵本の制作、それらに細かな気配りをする作者が、定型的「教訓」絵本など描くわけがないと私は思っているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

ウヒアハの怖さ度:☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「11ぴきのねこふくろのなか

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【絵本の紹介】「おばけのバーバパパ」【339冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は誰でも知ってる世界的人気キャラクター「バーバパパ」を取り上げます。

その誕生秘話が読める第一作「おばけのバーバパパ」です。

作・絵:アネット・チゾン&タラス・テイラー

訳:山下明生

出版社:偕成社

発行日:1972年6月

 

誰でも知ってるとは思いますが、それはアニメキャラクターとしての「バーバパパファミリー」であって、絵本作品としては意外と読んだことのない人も多いかもしれません。

けれど、単なる「キャラクターもの」と侮るなかれ。

その秀逸なキャラクターデザインと設定だけではなく、画面構成や物語のテンポにおいても、非常に成功している良作なのです。

 

さて、「知ってるけど意外と知らない」バーバパパ。

まず根本的な事実を挙げますと、バーバパパは私たちが想像するところのいわゆる「おばけ」ではありません。

 

幽霊じゃないし、宇宙人でもない。

突然変異のような、そうでもないような。

 

フランソワ」少年が庭で花に水やりをしていると、地中からバーバパパが誕生します。

文では何も説明はないけれど、絵を見ると地中で少しづつ成長する謎の生命体が確認できます。

 

桃色の綿菓子のようなフワフワの巨体。

フランソワはすぐにバーバパパと仲良くなりますが、フランソワのお母さんはバーバパパは大きすぎて家には置いておけないと言います。

泣く泣くバーバパパは動物園に引き取られます。

自由に形を変えられる能力を持つバーバパパは、檻を抜け出し、他の動物とコミュニケーションを取ろうと模索しますがうまくいきません。

園長に怒られ、動物園からも追い出されます。

 

行き場がなく、途方に暮れるバーバパパ。

その時火事が起こり、バーバパパは自らを非常階段に変形させ、人々を救助します。

さらに動物園から逃げ出したひょうを捕獲。

大活躍が認められ、バーバパパは町の人気者になります。

晴れてバーバパパはフランソワの家に戻り、フランソワのお父さんが作ってくれた家に住むことになります。

 

その後もバーバパパは公園で色んな遊具に変形して子どもたちと遊ぶのでした。

 

★      ★      ★

 

作者のアネットさんとタラスさんは夫婦です。

バーバパパ 」とは仏語で「パパのヒゲ」転じて「わたあめ」を差す言葉だそうです。

邦題に「おばけの」と加えたのは訳者の山下明生さんで、あの藤子不二雄の漫画を意識したのだとか。

 

この作品が世界中で爆発的人気を得た理由は、何と言ってもバーバパパのメタモルフォーゼ能力の楽しさ・痛快さでしょう。

雲のように水のように自由自在に姿を変えられるバーバパパは、人間の空想力を可視化したようなキャラクターです。

 

その視点から読むと、バーバパパが異端視され、迫害されるのは「自由で柔軟な想像力」に対する人々の冷たい目線を現わしているとも取れます。

しかし結局のところ、社会は想像力によって支えられているのです。

 

想像力という能力の個人差について、現代社会はほとんど黙殺しています。

勉強にしろスポーツにしろ、学校教育は数値化できるもの・可視化できるものだけを評価しています。

しかしその一方で「見えない能力」の差は、もはや埋めることが絶望的に困難なまでに広がっているように感じます。

 

人気シリーズ化された「バーバパパ」は、結婚し、家庭を築き、その活躍はさらに広域に及んでいきます。

やがては環境問題や教育問題などに警鐘を鳴らす存在となっていくのは、そのキャラクター性から考えればごく自然なことなのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

眉毛なのかまつ毛なのか度:☆☆☆☆☆

 

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