【絵本の紹介】「おばけのバーバパパ」【339冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は誰でも知ってる世界的人気キャラクター「バーバパパ」を取り上げます。

その誕生秘話が読める第一作「おばけのバーバパパ」です。

作・絵:アネット・チゾン&タラス・テイラー

訳:山下明生

出版社:偕成社

発行日:1972年6月

 

誰でも知ってるとは思いますが、それはアニメキャラクターとしての「バーバパパファミリー」であって、絵本作品としては意外と読んだことのない人も多いかもしれません。

けれど、単なる「キャラクターもの」と侮るなかれ。

その秀逸なキャラクターデザインと設定だけではなく、画面構成や物語のテンポにおいても、非常に成功している良作なのです。

 

さて、「知ってるけど意外と知らない」バーバパパ。

まず根本的な事実を挙げますと、バーバパパは私たちが想像するところのいわゆる「おばけ」ではありません。

 

幽霊じゃないし、宇宙人でもない。

突然変異のような、そうでもないような。

 

フランソワ」少年が庭で花に水やりをしていると、地中からバーバパパが誕生します。

文では何も説明はないけれど、絵を見ると地中で少しづつ成長する謎の生命体が確認できます。

 

桃色の綿菓子のようなフワフワの巨体。

フランソワはすぐにバーバパパと仲良くなりますが、フランソワのお母さんはバーバパパは大きすぎて家には置いておけないと言います。

泣く泣くバーバパパは動物園に引き取られます。

自由に形を変えられる能力を持つバーバパパは、檻を抜け出し、他の動物とコミュニケーションを取ろうと模索しますがうまくいきません。

園長に怒られ、動物園からも追い出されます。

 

行き場がなく、途方に暮れるバーバパパ。

その時火事が起こり、バーバパパは自らを非常階段に変形させ、人々を救助します。

さらに動物園から逃げ出したひょうを捕獲。

大活躍が認められ、バーバパパは町の人気者になります。

晴れてバーバパパはフランソワの家に戻り、フランソワのお父さんが作ってくれた家に住むことになります。

 

その後もバーバパパは公園で色んな遊具に変形して子どもたちと遊ぶのでした。

 

★      ★      ★

 

作者のアネットさんとタラスさんは夫婦です。

バーバパパ 」とは仏語で「パパのヒゲ」転じて「わたあめ」を差す言葉だそうです。

邦題に「おばけの」と加えたのは訳者の山下明生さんで、あの藤子不二雄の漫画を意識したのだとか。

 

この作品が世界中で爆発的人気を得た理由は、何と言ってもバーバパパのメタモルフォーゼ能力の楽しさ・痛快さでしょう。

雲のように水のように自由自在に姿を変えられるバーバパパは、人間の空想力を可視化したようなキャラクターです。

 

その視点から読むと、バーバパパが異端視され、迫害されるのは「自由で柔軟な想像力」に対する人々の冷たい目線を現わしているとも取れます。

しかし結局のところ、社会は想像力によって支えられているのです。

 

想像力という能力の個人差について、現代社会はほとんど黙殺しています。

勉強にしろスポーツにしろ、学校教育は数値化できるもの・可視化できるものだけを評価しています。

しかしその一方で「見えない能力」の差は、もはや埋めることが絶望的に困難なまでに広がっているように感じます。

 

人気シリーズ化された「バーバパパ」は、結婚し、家庭を築き、その活躍はさらに広域に及んでいきます。

やがては環境問題や教育問題などに警鐘を鳴らす存在となっていくのは、そのキャラクター性から考えればごく自然なことなのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

眉毛なのかまつ毛なのか度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「キスなんてだいきらい」【330冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年2月に87歳で亡くなられた絵本作家、トミー・ウンゲラー(アンゲラー)さん。

彼の作る独創的な絵本作品の数々は、世界中で支持されました。

 

ウンゲラーさんの凄みは扱いづらい特殊な題材(犯罪者、異星人、ヘビ、タコ、人喰い鬼……)を次々に取り扱いながら、まったく失敗しないところでしょう。

同時に、大人がギョッとするような過激で辛辣な鋭い風刺性を持ち合わせているのに、それを絶妙なさりげなさで絵本の中に溶け込ませてしまっている点も彼ならではのセンス。

 

本来なら頭の固い大人たちが怒り出しそうな作品も、ウンゲラーさんの筆にかかれば何となく黙ってしまいます(本当に黙ってたかどうかは知りませんけどね)。

 

今回はウンゲラー作品の中でも個人的に最もお気に入りの一冊を紹介しましょう。

キスなんてだいきらい」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:矢川澄子

出版社:文化出版局

発行日:1974年3月20日

 

今度は不良が主人公。

「いたずらっこ」というレベルではなく、不良です。

それもカッコイイ不良。

ウンゲラーさんの題材選びが独特っていうのはこのへんです。

絵本で扱いづらい不良少年を持ってきて、喫煙シーンまで描いちゃう。

 

この主人公のねこのパイパーくん、年齢は不明です。

中学生くらいかもしれないけど、いたずらの内容が割と子どもっぽいから、もしかしたら小学校高学年かも。

「母親の愛情が煩わしく感じ始める思春期の少年」の物語なんですけど、登場人物のセリフがいちいちウィットに富んでいて、映画みたい。

これは一つには訳者の矢川さんの力によるものかもしれません。

 

パイパーのお母さんのポー奥さんは息子にべったりで、いつまでたっても坊や扱いするタイプの女性。

朝は息子をキスで起こします。

そんなお母さんが嫌でたまらないパイパー。

せっかく おとなぶってるのに すぐ じゃまして、こまらせるんだ」だそうです。

 

お父さんはもう今では絶滅種となった威厳ある家長タイプ。

妻と息子のいさかいを、一言で黙らせます。

 

そして後で息子と男同士の会話。

おれの おふくろも おれの おやじの おふくろも そんなふうだった。まあ、いいこに なってて やれよ

渋い。

 

さて、学校でもパイパーは有名な乱暴者。

けど成績は優秀。

ただの頭の悪い不良とは違うわけです。

 

休み時間に不良仲間のジェフと喧嘩になります。

このシーンがまた、ぬるくない。

ジェフの 左目は はれあがり、パイパーの 左耳は ちぎれかけ、どくどく ちが とまらない

ここまで徹底的。

 

そして、

ひでえ ざまだな。まあ、いっぷくしろよ

と、ジェフが葉巻とライターを取り出して仲直り。

 

パイパーはこれもまた濃いキャラクターの看護婦のクロットさんに耳を縫い付けられ、包帯でぐるぐる巻きにされます。

痛そう。

 

昼休み、息子をランチに連れ出そうと学校へやってきたポー奥さん。

息子のひどい姿を見て、息も止まらんばかりに動転し、キス責め。

かわいい かわいい ぼうや どうして そんな めに あったの? はやく おいしゃさまへ、びょういんへ!

 

仲間の前で恥をかかされ、パイパーは激怒します。

ひとまえで キスするなよ。キス。なんでも キス。いやなんだ。きらいなんだ

この騒動を聞いていたタクシーの運ちゃんが、

おふくろさんに あんなこと いうもんじゃない。はずかしいと おもえよ

そこでポー奥さんも怒りが湧いてきて、

そうよ。まったくだわ

と初めて息子にビンタします。

 

気まずい昼食の後、パイパーは学校からの帰り道で花屋に寄り、黄色いバラを買います。

そして家に帰って、もう何でもない様子で振る舞っている母親にバラを贈ります。

まあ きれい、びっくりしたわ。これ あたしに くれるの?

そうだよ。でも ありがとうの キスだけは ごめんだ

そこで二人ともにっこり。

 

★      ★      ★

 

「本当はお母さんが大好きなんだけど、うまく表現できないでいる息子」の物語、というような書評を見ますけど、それはちょっと違うような気がします。

パイパーは本気でお母さんから離れたがっています。

憎いわけじゃないし、本当は感謝しなければならないこともわかっている(頭はいいから)けど、それでもどうしても、母からの愛情を遠ざけたい。

 

これは別に特殊な感情ではなく、思春期の、特に男の子は多かれ少なかれ共感できる気持ちでしょう。

誰が悪いわけでもなく、少年が大人になるために通らざるを得ない道なのです。

 

早く大人になりたくて、気分はもう一人前の男で、仲間たちの中ではそう振る舞っているけれども、家庭ではそうはいきません。

そこではどうしても子どもとしての役割を与えられます。

その分裂に子どもの自我は堪えられないわけですが、かと言って、実際にはまだ大人の庇護下でしか生きられない現実も見えています。

結局彼に残された自由は反抗的な態度を取ることぐらいなのです。

 

「いいこに なってて やれよ」という父親の言葉のように振る舞えるのは、大人になってからです。

母親の呪縛(と感じているもの)から逃げ出して、そしてそんなものに囚われなくなってからもう一度戻ってきて、その時初めて母親と正常な関係が持てるのです。

 

母親に逆らえないのも、逆に反抗するのも、形は違えど「マザコン」です。

母親を一人の人間として客観的に見れるようになるまで、すべての男性はマザコンなのです。

 

しかし、最近では母と息子の関係性も時代と共に変化してきたような気もします。

たまにですが、母親と手をつないで買い物に行く高校生くらいの男の子を見かけるんですね。

いい悪いでなく、私だったら絶対できなかったと思います。

少年の成熟が遅くなったのか、それとも早くなったのか、興味深いところです。

 

うちの息子は現在のところ母親が大好きで(その割によくケンカしてますけど)、恥ずかしげもなくイチャイチャしてますけど、やがてはパイパーくんのようになるのでしょうか。

それとも、ずっと今のままでしょうか。

いずれにせよ、妻はポー奥さんとはまるで違う性格ですので、息子が離れてくれると喜ぶだけだと思いますが。


テキストばかり褒めましたけど、絵の方ももちろん楽しみがたくさんある作品です。

パイパーがトイレで読んでる漫画、朝食の席で自分が曲げたフォークを隠すパイパー、黒板の数字、町の人々……。

これらはテキストに登場しない部分で、絵を見なければわからないようになっています。

やっぱりウンゲラーさんは名手であるとため息が出ますね。

 

関連記事≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

≫絵本の紹介「へびのクリクター」

≫絵本の紹介「月おとこ」

≫絵本の紹介「ゼラルダと人喰い鬼」

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

会話のセンス度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ロッタちゃんとじてんしゃ」【323冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

はじめて自転車に乗れた日のことを覚えていますか?

私は今でもはっきり覚えてます。

息子は6歳に近い5歳ですが、まだ自転車には乗れません。

というか、自転車そのものがない。

 

公園なんかでよその子が小さい自転車(ペダルのないやつ。正式名称不明)に乗ってたりすると、息子は近づいて行ってちょっかいを出します。

ちょっと借りて練習させてみますが、練習嫌いの息子はすぐにやめてしまいます。

ちなみに、三輪車はあったけどまったくと言っていいくらい乗りませんでした。

何回教えてもペダルをうまく漕げないんですね。

それもあってずっと買わなかったんですが、そろそろ買ってやろうかしら。

 

今回紹介するのはスウェーデンの世界的児童文学者・リンドグレーンさんの「ロッタちゃん」シリーズより、「ロッタちゃんとじてんしゃ」です。

作:アストリッド・リンドグレーン

絵:イロン・ヴィークランド

訳:山室静

出版社:偕成社

発行日:1976年4月

 

リンドグレーンさんは「長くつ下のピッピ」という人気シリーズの作者でもあります。

この前、「長くつ下のピッピ展」に行ってきました。

 

これは絵本ではなくて児童書なんですが、息子に読んでやると大ハマリして、今でもお気に入りの作品です。

「ピッピ」の魅力(世界一強くて、大金持ちで、一人暮らしで、学校にも行かない)を語り出したら長くなり過ぎるので、ここでは触れません。

一度読んでみて欲しいと思います。

 

「ロッタちゃん」はピッピのような超人ではなく、ごく普通の幼児なんですが、その言動の痛快さはピッピにも劣らないものがあります。

 

兄のヨナスと姉のマリヤが自転車に乗っているのを見て、三輪車しか持ってないロッタは内心腹立たしくてなりません。

自分も同じように自転車に乗りたい、乗れるはずだ、と考えます。

でも、周りからは「おまえは ちいさすぎるからな」と言われてしまうのです。

自尊心の強いロッタは、実に良からぬ計画を企てます。

お気に入りの「ぶたぐま」のぬいぐるみ「バムセ」にだけはその計画を打ち明けます。

 

あたい、一だい かっぱらうつもりよ

 

どこでかっぱらうつもりかというと、仲のいい「ベルイおばさん」の物置からです。

そこに古い自転車があることをロッタは知っていたのです。

 

5歳の誕生日の日、やっぱり自転車はもらえなかったロッタはベルイおばさんの家に行きます。

ベルイおばさんからは素敵な腕輪をプレゼントされます。

ロッタは喜びますが、それはそれとして計画は実行に移すのでした。

ベルイおばさんが昼寝してる隙に、ロッタは自転車を盗み出します。

大きすぎる自転車に四苦八苦しますが、どうにかサドルにまたがります。

 

しかし、坂道を走り出した自転車を止めることができず、ロッタはベルイおばさんの家の垣根に突っ込んで怪我をしてしまいます。

あたいの たんじょうびなのに ちが でたあー!

 

ベルイおばさんに手当してもらいながら、ロッタは、

でも あたい、ほんの ちょっとのあいだ ぬすんだだけよ

と言い訳。

 

そしてせっかくもらった腕輪まで失くしてしまったことに気づいて、泣きわめきながら帰ります。

兄さんと姉さんから説教されて、ロッタは「あんたたちには くちを きくのも いやよ」とふくれっ面。

 

やがて父親が帰ってきますが、彼はロッタにぴったりの小さな赤い自転車を持って帰ってきてくれたのです。

大喜びで自転車に乗るロッタ。

そしてベルイおばさんは腕輪を見つけてくれます。

 

ご機嫌で自転車を乗り回すロッタですが、兄の真似をして両手を放して転び、兄に対して怒ります。

でも内心では、自分だって同じように手を放して乗れるはずだ、とロッタは考えているのでした。

 

★      ★      ★

 

花びらが舞う絵が印象的です。

「ピッピ」も「ロッタ」もリンドグレーンさんの描く主人公は、子どもでありながら大人の世界に堂々と立ち向かい、自己主張をし、思うままに行動します。

 

もちろん子どもですから、彼女らの行動と主張は大いに自己中心的です。

理屈や道徳ではなく、子どもたちは自分の中にある何かを守ろうと抵抗します。

禁止し、矯正し、従わせ、コントロールしようとするすべての大人たちに対し、子どもたちは抵抗します。

 

リンドグレーンさんはそんな子どもたちを、一人の人間として認め、その幼い自尊心を傷つけないように心を配ります。

大人にとって都合のいい「いい子」しか出てこないような物語を、子どもたちはその鋭い感性ではねのけます。

 

ロッタの行動は、良識的な大人が見れば眉をひそめるようなところもあります。

それでも、今すぐにその行動の道徳的良否を教え込むことが必要なのではありません。

何故なら、子どもたちは平気でこれまでの自分を超えていけるからです。

 

これでも おまえは、きょうは いやな たんじょうびだって、おもうかい?

という兄の質問に、ロッタはあっさりと、

あら そんなこと、あたい おもったこと ないわよ

と言い返せるのです。

 

過去の行いに罪悪感を抱かせることで子どもたちを「教育」することは意味がありません。

彼らはいつでも「今、ここ」を生きているからです。

 

「ロッタちゃん」シリーズは映像化されています。

ロッタ役の女の子がめちゃくちゃに可愛いので、必見です。

特にふくれっ面が。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

庭のブランコ羨ましい度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「時計つくりのジョニー」【307冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

息子がもっと小さかった頃、ほとんど毎日のように何かを「作って!」と言われ続けていました。

何かとは、たいてい電車などの乗り物のおもちゃでしたが、中には変なリクエストもたくさんありました。

 

もともとはブロック遊びから始まったんですが、妻が紙工作で新幹線を作ったのがきっかけになり、鉄道図鑑を前にして何十種類となく作るようになりました。

私はあまり工作が得手ではなかったんですが、だんだんと凝るようになってきて、磁石で連結させたり、合体させてロボにしたり、自分でも割と楽しむようになりました(すぐ壊されることもあるけど)。

 

そうするうちに、日常生活や仕事においても、何かが必要になった時、まず「自分で作れんかな」と考えるようになってきました。

今までは出来合いの製品を買うのが当たり前だったけど、自分で作った方が細部まで自分好みに設定できます。

 

もちろん手間暇はかかりますし、色々と考える必要もあります。

しかし、考えてみれば今まで私が「何かを作ること」が苦手だったのは、手先の器用さ以前に「面倒だから」と考えることそのものを放棄していたせいかもしれません。

 

頭の中だけの知識ではなく、実際に行動して見ると様々な気づきがあり、失敗があり、その過程で実にたくさんの学びがあります。

知識、計算力、想像力などを総動員しなければ、もの一つ作るだけでも、なかなか上手くはいきません。

子どもの調和的な発達のためには、何でも作らせることは非常に有用だと思います。

 

さて、今回紹介するのは私など足元にも及ばない天才DIY少年の物語「時計つくりのジョニー」です。

作・絵:エドワード・アーディゾーニ

訳:阿部公子

出版社:こぐま社

発行日:1998年7月1日

 

エドワード・アーディゾーニさんは、こぐま社の創業者である佐藤英和さんがこよなく愛する絵本作家です。

少し長めのお話ですが、展開が気になってぐいぐい読めます。

 

基本的に引いたアングルの構図を多用し、人物の表情をはっきりとは描かないアーディゾーニさんのいつもの手法。

テキストの流れとは別にフキダシによるセリフが用いられているのも特徴です。

漫画的と言うよりも、映画のワンシーンを切り取ったような印象を受けます。

 

手先が器用で、暇さえあれば何か作っているという少年・ジョニー。

お気に入りの本は「大時計のつくりかた」。

話の筋から逸れますが、私はここのカットが大好きです。

本を読む子どもの姿が好きなんですが、椅子が体に合っていないのを、分厚い本を敷くことで調節してるリアリティ。

本を座布団にしてもいいのは本好きの子どもだけ。

 

さて、ジョニーは自分で大時計を作ろうと思いつきますが、両親も学校の先生もまるで本気にしてくれないばかりか、心無い言葉を浴びせて子どものやる気の芽を摘もうとします。

 

しかし、唯一の理解者である友達のスザンナに励まされ、ジョニーは大時計作りに着手します。

材料をそろえるだけでも一苦労。

鍛冶屋のジョーの仕事を手伝ったりして、どうにか必要なものを集めます。

 

けれどもいじめっ子に材料を取り上げられ、スザンナの助けでそれを取り戻しても、家で仕事を始めると父親に邪魔されそうになったり、試練が続きます。

 

それでもジョニーはへこたれず、ついに大時計を完成させます。

その見事な出来栄えに、両親も先生も、そしていじめっ子たちまでもがジョニーを見直します。

周囲の理解と尊敬を得たジョニーは、ジョーとスザンナと一緒に時計製造業を始めることになるのです。

 

★      ★      ★

 

小さな主人公が苦難を乗り越え、華やかに成功を収め、周りから一目置かれる存在になる。

絵本の王道といえば王道ストーリーなんですが、ジョー以外の大人が酷すぎて、吐き気を催すレベルです。

 

好きなことに夢中になる子どもをつかまえて、大勢の前で「おばかさん」呼ばわりする先生とか、「ばかなこと」をやめて家の手伝いをしなさい、という親とか。

最後は大団円とは言うものの、よくこんな大人に囲まれた環境でジョニーのような優秀な子どもが育ったなと感心します。

 

まあ、こういう大人が当たり前の時代もあったのかもしれません。

だから、現代を生きる私たちも、「あんなひどい親ばかりの時代もあった」と回想される時代が来るかもしれませんね。

 

ちなみにこの絵本の献辞は「まごのスザンナに」ですから、ジョニーを支えるスザンナは、作者の孫娘がモデルになっているのでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

親と教師の教育力度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「時計つくりのジョニー

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【絵本の紹介】「もん太と大いのしし」【298冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年は亥年ということで、イノシシの登場する絵本を紹介したいと思います。

本当はこれを新年一発目に持ってくる予定だったんですが、バーニンガムさんの訃報があって、色々と後回しになっちゃいました。

 

馬場のぼるさんによる「もん太と大いのしし」です。

作・絵:馬場のぼる

出版社:ポプラ社

発行日:1975年8月

 

馬場さんと言えば何と言っても「11ぴきのねこ」シリーズが有名ですね。

ちなみにこのブログでも取り上げた「11ぴきのねことあほうどり」の記事が、「ナースときどき女子」というサイトの絵本特集企画で紹介されました。

≫「大人も子どもも絵本の世界に。ナースの心を温める絵本レビュー特集」

 

「11ぴき」は絵本史に残る傑作ですが、「11ぴき」があまりにも有名すぎて、馬場さんの他作品は意外と知られていなかったりします。

けど、もちろん馬場さんは他の作品も多く手掛けていますし、どれもそれぞれの面白さがあります。

 

この「もん太と大いのしし」は、絵本としてはやや長めで、ストーリーには少年漫画的な熱さと清々しさが溢れています。

「11ぴき」とはまた違った馬場さんの魅力に触れることのできる一冊で、ぜひ一度目を通していただきたい作品です。

 

むかしむかし、かきの木とうげの 山おくに」矢でも通さない固い背中の大いのししが棲んでいました。

いつからいるのか誰も知らない、ある種山の神様のような存在です。

 

そのふもとの村の「もん太」という若者が、ある日鳥を狩りに来て、ばったり噂の大いのししに遭遇します。

とんでもない大きさの大いのししに見とれてしまうもん太ですが、我に返って弓をつがえ、射かけます。

ところが、大いのししは矢を跳ね返して平然としています。

おまけに不敵な笑みを浮かべ、

まあ、なんだ、しっかり がんばりな

と、逆にもん太を激励する余裕っぷり。

 

村に帰り、

あの大しょうを射とめるには、もっと つよい弓が ひけるようにならねば だめだな

と呟くもん太を、かんすけたちが笑います。

 

喧嘩になったところを、「長者のおきちばあさま」がやってきて、若者たちをさらに煽ります。

大いのししを射とめた者には馬をくれると言うのです。

 

俄然やる気になったかんすけたちは計略を使って大いのししを岩で押し潰そうと企みますが、もん太は「やるなら、男らしく」弓で射とめろ、と制止します。

もみ合いの末、岩が転げ落ちてしまいますが、大いのししは頭突きで岩をふっ飛ばしてしまいます。

 

すっかり毒気を抜かれた格好のもん太たちですが、おきちばあさまはもん太を励まし、石うすを使った弓の稽古を薦めます。

やがて冬が来て、ある雪の晩、突然もん太のうちを大いのししが訪ねてきます。

驚くもん太に構わず、大いのししは囲炉裏端に上がり込んで横になって寝てしまいます。

一体どうして大いのししがここに来たのか、もん太にはさっぱりわかりません。

 

次の朝目を覚ますと、大いのししはおらず、その足跡を発見した村人たちが大騒ぎ。

黙って大いのししを行かせたもん太は村人から責められてしまいます。

 

村にまでやってくるとなると放っておくわけにはいかず、村人たちは大いのしし討伐隊を結成し、峠へ向かいます。

彼らの前に姿を見せた大いのししは、襲い掛かるわけでもなく、狙い易いように背中を向けて座り込みます。

そこへ一斉に弓が射かけられますが、まるで歯が立ちません。

しかし、その時一本の矢が鋭く唸りを上げ、大いのししの肩に突き刺さります。

むむっ、もん太だな……

大いのししは崖から転がり落ち、沼に沈んで消えます。

 

見事に大いのししを射とめ、おきちばあさまから褒められても、もん太はどうも気分が晴れません。

どうして嬉しくないのか、自分にもわからないのです。

 

ところがそれからしばらくして、もん太は偶然山であの大いのししに再会します。

大しょう、いきてたのかい

肩にもん太の射た矢を突き刺したままの大いのししは相変わらず不敵に笑って、

これは なかなか きいたぞ、もん太

おかげで わしの かたのこりも すっかり なおっちまって、いいあんばいだぞ

 

これを聞いたもん太は笑い出し、大いのししも笑いながら悠々と去って行くのでした。

 

★      ★      ★

 

いやあ、気持ちいいくらい男の子の世界です。

友情・努力・勝利。

 

少年漫画には良きライバルの存在が必須ですが、この大いのししのキャラクターの深みのあること。

彼ともん太との会話が実にいい。

 

大いのししは物語的にはもん太の「父親」です。

もん太にとって大きく、強く、越えがたい存在であり、いつか乗り越えるべき壁でもあります。

しかし心のどこかでは、いつまでも越えられない壁であり続けて欲しい気持ちもあり、それが少年の感情を複雑化し、それによって彼は成熟へと導かれるのです。

 

子どもにとって、憧れの大人から対等に扱われ、敬意を示されることは、何事にも代えがたい喜びです。

そしてその経験が子どもの精神の成長に大きく影響します。

 

もん太の弓を問題にしなかった大いのししが、ひとり温泉に漬かりながらもん太を思い出し、「あの矢は よかったぞお」と呟くシーンは、何だかにやりとしてしまいます。

男の子にとって、こんなにも自尊心をくすぐられる場面はないでしょう。

 

背中を見せて無防備に眠る大いのししに矢を射かけられないもん太、そのことを村人に責められてしまうもん太。

ついに大いのししを射抜くも、どこか寂しい気持ちになるもん太、すべてを理解して笑うもん太。

 

遥か高いところに聳え立っていた大いのししと、男同士理解し合えたこの瞬間、もん太は大人の階梯を上り出したのです。

息子を持つ父親として、そしてひとりの男として、こんな関係性には何歳になっても胸が熱くなります。

 

眩しいばかりの男の子絵本です。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

大いのししの余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆

 

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