【絵本の紹介】「ぼくにげちゃうよ」【232冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは1942年に出版された古典名作「ぼくにげちゃうよ」です。

作:マーガレット・ワイズ・ブラウン

絵:クレメント・ハード

訳:いわたみみ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年9月20日

 

伝説的絵本原作者マーガレット・ワイズ・ブラウンさんとクレメント・ハードさんの共作。

以前このブログで取り上げた「おやすみなさいおつきさま」を生み出した名コンビです。

 

≫絵本の紹介「おやすみなさいおつきさま」

 

「おやすみなさいおつきさま」「ぼくのせかいをひとまわり」、そしてこの「ぼくにげちゃうよ」は、同じうさぎの男の子を主人公とした3部作です。

物語的に続いているわけではありませんが、よく見ると色んな所に各作品とリンクするような描写がちらほらとあり、それらを見つけるのも楽しみのひとつになっています。

発表された順としては、「ぼくにげちゃうよ」が最初の作品となります。

 

ブラウンさんはわずか42歳で早逝されましたが、それまでに100冊以上もの絵本を作っていました。

ちなみに、とても綺麗な女性です(若い頃の写真を見た時、女優かと思いました)。

 

ある日、急に「いえをでて、どこかへ いってみたく」なったうさぎくん。

ぼく にげちゃうよ」と、お母さんに宣言します。

「お出かけ」ではなく、一人で家を出て、どこかへ逃げてしまいたいのです。

するとお母さんは落ち着いたもので、

おまえが にげたら、かあさんは おいかけますよ

だって、おまえは とってもかわいい わたしのぼうやだもの

と(うさぎくんが内心望んでいるであろう)返事をします。

 

ここから、母と息子のユーモラスな、一種の言葉遊びのようなやり取りが繰り返されます。

 

ぼくは、おがわの さかなになって、およいでいっちゃうよ

かあさんは りょうしになって、おまえを つりあげますよ

 

うさぎくんは「やまのうえの いわ」や「にわの クロッカス」や「ことり」「ヨット」などになって逃げちゃうよ、と言い、お母さんはその度に「とざんか」「うえきや」「」「かぜ」になって追いかけます。

実際にはただ親子が会話をするだけなのですが、これらの空想は楽しい絵として表現されます。

最後にはうさぎくんは「だったら、うちにいて、かあさんのこどもで いるのと おんなじだね」と、逃げ出すのをやめます。

お母さんは一言、「さあ、ぼうや にんじんを おあがり

 

★      ★      ★

 

絶対的な親の愛情を求める気持ちと、その庇護のもとから逃げ出して自立したい気持ち。

目まぐるしい速度で成長変化する子どもという生き物は、日常的にそうした葛藤に晒されています。

 

我が家の息子も、普段散々母親に逆らって怒らせておいて、次の瞬間にはケロッとして「ねえ、お母さん」などと甘えています。

で、気がすんだら一人で遊びだしたり。

 

親の気持ちなんて関係ありません。

妻は気分の切り替えが遅い方なので、なかなか息子に合わせるのが難しい様子です。

 

この絵本に登場する母さんうさぎを、「自立したがる子どもに干渉しまくる親」のように見て、その「愛情の押しつけ」を不快に思う方もいるかもしれません。

でも、このお母さんは別に過干渉なわけでも、子離れできないわけでもなく、愛情を試すうさぎくんに適切に対応しているだけです。

 

だから、最後のうさぎくんの「だったら、うちにいて、かあさんのこどもで いるのと おんなじだね」は、「諦め」ではなく、「満足」なのです。

子どもはこの手の「愛情の確認作業」をしばしば行います。

「自分が愛されているかどうか」は、子どもにとって最重要事項なのです。

 

それはいずれ自分が世界へ跳躍するための「土台」です。

土台がしっかりしていなければ、思い切って跳べません。

 

そして、この親子のやり取りは、子どもにとっては純粋に面白い遊びです。

うさぎくんが次々と繰り出す変身に、間髪入れず対応するお母さんの見事さ。

いわば「空想上の鬼ごっこ」です。

 

息子もこの遊びが気に入っており、時々母親に「ぼくが〇〇になっちゃったら、お母さんはどうする?」と持ち掛けています。

傍で聞いてて、「何をイチャイチャしてんだか」という気にもなりますが。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

イチャイチャ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ぼくにげちゃうよ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ゆきのひのうさこちゃん」【216冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

大阪も寒いですが、首都圏の方は雪で交通規制やら何やら、大変そうですね。

しかし、雪を見て喜ぶ子どもたちの姿はいつの時代も変わりません。

 

まあ、SNSなどで競い合うように雪の写真を投稿しているのを見ていると、今は大人の方がはしゃいでいるような気もしますが。

 

今回は名作シリーズより冬の絵本を選びました。

ゆきのひのうさこちゃん」を紹介します。

作・絵:ディック・ブルーナ

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1964年6月1日

 

前回紹介した「うさこちゃんとうみ」では衝撃のトップレス水着姿を披露したうさこちゃんですが、今回はコートに帽子にマフラー、長靴、手袋としっかり寒さ対策をしています。

 

≫絵本の紹介「うさこちゃんとうみ」

 

長い耳がすっぽり入る帽子がとってもキュートです。

マフラーや長靴、手袋の色と合わせて、二色のみでコーディネートしたセンスが素晴らしい。

うさこちゃんの年齢は、描かれる作品ごとに微妙に違っているようです。

この作品では、6歳くらいかな。

 

一人でそり遊びやスケートもこなしています。

そして、寒さに震える小鳥のために、涙を流すことも。

自分以外の誰かを想って泣けるほどに情緒が成長している証です。

 

さらには、かなづちや木切れで小鳥のために立派な家を作ってあげることまで出来るのです。

最初と最後のページは、共にうさこちゃんが家の窓から外を見るカットですが、うさこちゃんの位置が左右違っていたり、服が寝巻に変わっていたり。

 

衣装替えを楽しむこともできる一冊です。

 

★      ★      ★

 

おしゃまなうさこちゃんの語り口調の数々。

倒置法を用いた詩的表現。

ほら ごらんなさい まどから そとを

ゆきが ふったわ あんなに たくさん

 

今回も石井桃子さんの訳文が冴えわたっています。

他の訳者さんだと、うさこちゃんのキャラクターはまた全然違った印象になっているのではないでしょうか。

 

いってまいります」とか、どこの令嬢ですか。

うさこちゃんが、両親のふわふわさんたちに大事に大事に育てられていることが伝わってきます。

……さすがにもう、例の水着は着てないでしょうね。

 

推奨年齢:1歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うさこちゃんのDIY能力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「マドレーヌといぬ」【213冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

まだやりますよ、戌年「犬の絵本」紹介。

今回は私も大好きな一冊「マドレーヌといぬ」です。

作・絵:ルドウィッヒ・ベーメルマンス

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1973年5月10日

 

パリの古い寄宿舎で過ごす元気な12人の女の子たち。

いちばんおちびさんだけど活発なマドレーヌを主人公とした人気のシリーズ。

第一作「げんきなマドレーヌ」は以前に紹介しました。

作者ベーメルマンスさんの生い立ちやエピソードなどにも触れていますので、ぜひ併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「げんきなマドレーヌ」

 

この「マドレーヌといぬ」はシリーズ2作目にしてベーメルマンスさんにとっては3作目の子ども向け絵本です。

この作品で見事にコールデコット賞(アメリカ絵本界最高の賞)に輝いています。

 

修道院とか寄宿舎とか言っても、今ではあまり想像できなくなりました。

そう言う私も、子どもの頃に読んだ児童文学でしか知りませんが。

 

小さな女の子たちとシスターの清らかな生活。

何となく、身寄りのない子どもを集めた孤児院をイメージしてしまうのですが、ここで登場するのは「よい むすめたち」だそうで、わりと「いいとこの子」っぽいです。

 

ベーメルマンスさんの奥さんは元修道女で、「マドレーヌ」の名も、彼女の名前に由来しています。

 

さて、今作の導入部は1作目「げんきなマドレーヌ」の冒頭のダイジェスト版のような構成になっています。

せんせいの ミス・クラベルは、なにごとにも おどろかない ひとでした

の、マドレーヌが橋の欄干に上って歩くカットも、ほぼそのまま。

 

ところが、ここで事件が。

マドレーヌが足を踏み外し、川に落っこちます。

たちまち大騒ぎ。

かわいそうに マドレーヌが、すんでに おぼれるというところ

に、一匹の勇敢な犬(♀)が、川に飛び込み、救助してくれます。

 

みんなはその犬を屋敷に連れ帰り、「ジュヌビエーブ」という名を付けて可愛がります。

 

半年がたち、5月1日が近づくと(ってことは、マドレーヌが川に落ちたのは真冬の季節ですね。さぞ冷たかったでしょう)、みんなはソワソワしだします。

その日は学校検査の日で、評議員たちがぞろぞろ寄宿舎にやってきて細かくチェックを入れるのです。

 

そこで隠れていたジュヌビエーブが見つかってしまい、委員長曰く、

こんな ざっしゅけんを かわいがるなんて、よい むすめたちの おひんが さがります

ということで、追い出されてしまいます。

命の恩人(犬)を追い出されて、怒ったマドレーヌは椅子に飛び乗り、

いいんちょうどの! おぼえていなさい!

ジュヌビエーブほど、えらい いぬは ないわ。あなたには、てんばつが くだりますから!

と叫びます。

 

このシーン、ほんとにカッコイイ。

そしてなんとこれが1作目から通しての、主人公マドレーヌの初セリフなのです。

 

しかし、いくらマドレーヌが怒っても、大人の力には逆らえません。

評議員たちが帰ってから、ミス・クラベルと12人はジュヌビエーブを捜しに出ます。

この捜索シーンで、例によってパリの名所が素敵な絵で描かれます。

 

けれども、肝心のジュヌビエーブは見つからずじまい。

がっかりしてみんなは屋敷に戻ります。

 

しかしその夜、ミス・クラベルが外を見ると、街灯の灯りの下で吠えているジュヌビエーブの姿が。

もちろんマドレーヌたちは大喜び&誰がジュヌビエーブと寝るかで大喧嘩。

 

ここでも1作目のラストをなぞったカットと文。

そして最後に、ミス・クラベルもびっくりの出来事が。

 

★      ★      ★

 

カトリックや修道女の価値観に対する賛否は様々でしょうが、幼い子どもたちにとって「寮生活」というのは、どこか憧れを覚える響きには違いありません。

 

そして、ホテル勤務で磨かれた作者一流の風刺の目は、ここでも鋭く光っています。

お高く止まった評議委員長の「おひんが さがります」からの「さっさと うせろ! ごろつきめ!」とか。

 

でも、これはひとつには訳者・瀬田貞二さんの言葉選びの妙でもあります。

今時の絵本ではお目にかかれないような日本語表現の数々も素敵です。

 

ちなみに、瀬田さん自身もこの作品がお気に入りのようでして、自身が文を手掛けた絵本「きょうはなんのひ?」(林明子:絵)では、まみこの一番好きな絵本として「マドレーヌといぬ」が登場しています。

 

≫絵本の紹介「きょうはなんのひ?」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

マドレーヌの決め台詞のかっこよさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ハリーのセーター」【212冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

戌年の始めに犬の登場する絵本を紹介しようと思って本棚を漁ってみましたが、いやあ、多い多い。

以前から「絵本に最もよく登場する動物」ランキングというものを誰か作ってくれないかなー、などと思っている私ですが(自分でやるのは時間がなくて……)、印象だけで言えばやっぱり犬と猫が多い気がしますね。

 

あと、ネズミとゾウ。

キツネは海外でもよく出てきますが、タヌキはやっぱり日本以外では見ませんね。

 

さて、今回紹介するのは大人気「どろんこハリー」シリーズより、「ハリーのセーター」です。

文:ジーン・ジオン

絵:マーガレット・ブロイ・グレアム

訳:渡辺茂男

出版社:福音館書店

発行日:1983年5月20日

 

シリーズ1作目については、以前に取り上げましたので、そちらも併せてどうぞ。

 

≫絵本の紹介「どろんこハリー」

 

天真爛漫なヒーロー・ハリーが、今回も読者をハラハラさせつつ、ある種の痛快さも感じさせてくれます。

 

誕生日に、おばあちゃんからプレゼントを贈られたハリー。

届いた包みを開ける様子が、本文開始より前に扉の3pを使って説明されているところは、シリーズ通してのお約束的構成。

 

プレゼントの中身は、バラもようのセーター。

けれど、ハリーはこの柄が気に入りません。

 

そこで、隙を見てセーターを捨てようとしますが……。

どこに捨てても、親切な人が拾って追いかけてきてしまいます。

不満げなハリー。

 

結局どこにも捨てることができず、庭で座り込んでいたハリーは、セーターから毛糸が一本出ていることに気が付きます。

引っ張ると毛糸はどんどん伸びます。

そこへ1羽の鳥が滑空してきて、毛糸の端をくわえ、飛び去ります。

見る見るうちに毛糸はほどけ、ハリーのセーターは一本の毛糸になってしまいます。

 

喜ぶハリーですが、折悪しくおばあちゃんが家に遊びに来ることに。

当然家族はもらったセーターを探しますが、どこにもありません。

 

やがておばあちゃんが到着すると、ハリーは散歩をせがみます。

おばあちゃんたちを引っ張って、ハリーはあの鳥が飛び去った公園を目指します。

するとそこには……。

なんと、ハリーのセーターで鳥の巣ができています。

ハリーが、セーターを あのとりに あげたのよ!

と喜ぶ子どもたち。

おばあちゃんもハリーも、そして鳥も、みんな笑顔の大団円。

 

次のクリスマスにおばあちゃんから贈られた新しいセーターは、ハリーも気に入って満足するのでした。

 

★      ★      ★

 

ハリーの百面相が面白い。

特に、捨てたセーターを持ってこられた時の、ムスッとした表情が可愛らしくて秀逸です。

3度目に届けてくれた男の子の親切心しかない顔と、飼い主の子どもたちの「またか!」という怒った顔も相まって、非常にユーモラス。

 

せっかく頂いたプレゼントを捨てるなんてひどい気もしますが、ハリーにとっては「気に入らない」という自分の心のままに行動しているだけなのです。

以前の記事でも触れたとおり、「自分の心に対する嘘のなさ」こそがハリーの最大の魅力です。

そしてハリーは「子ども」そのものでもあります。

 

子どもの「嘘」を厳しく咎める大人がいますが、本当に深刻なのは口先の嘘ではなく、自らの心に対する嘘です。

 

それに、ハリーはプレゼントは気に入らないけど、おばあちゃんのことは大好きなのです。

ですから、おばあちゃんが家に来ると聞くと、セーターのことを考えて「しっぽを ちょろん」と垂らします。

 

セーターを捨ててしまいたい気持ちも、おばあちゃんが好きな気持ちも、どちらも真実。

「子ども」はいずれこの葛藤を経て大人になります。

その時に、どれだけ自分の心と行動を一致させてきたかによって、どういう大人になるかが分かれるのだと思います。

 

私はハリーを見るとき、ふと自分の心の中に「子どもの自分」の目を感じることがあります。

その自分は、決して自分自身への嘘を許してくれないのです。


推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

鳥のセーター模様の再現力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「手ぶくろを買いに」【209冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は新美南吉さんの傑作児童文学を黒井健さんが絵本化した「手ぶくろを買いに」を紹介します。

作:新美南吉

絵:黒井健

出版社:偕成社

出版年度:1988年3月

 

非常に有名な作品ですから、ご存知の方も多いでしょう。

私は教科書で読みました。

とても印象深い内容でしたので、大人になってからもずっと覚えていましたね。

 

作者の新美さんは1913年に愛知県で生まれ、結核のためにわずか29歳で亡くなられた童話作家。

早逝のため作品数は多くないのですが、その才能は宮沢賢治氏と並び称されるほど。

 

同じく黒井健さんによって絵本化されている「ごんぎつね」は、若干18歳の時のデビュー作です。

今の日本に、18歳であの美しい日本語が書ける人はいるでしょうか。

 

この「手ぶくろを買いに」も、童話としての完成度は言うに及ばず、とにかく文章が震えるほど美しい。

特に冒頭の、雪を見て驚き興奮する子ぎつねや、我が子の手に息を吹きかけて温めてやる母さんぎつねの描写力にはため息が出るばかりです。

可愛い坊やの手にしもやけができては可哀そうだから、毛糸の手袋を買ってやろうと考える母親ぎつね。

夜になってから、二匹は人間の町へと出かけます。

 

ところが、過去に人間に追い回された記憶を持つ母親は足がすくんでしまい、どうしても町に入れません。

そこで母親は坊やの片手を人間の手に変えてやり、白銅貨を二枚握らせて、ひとりで手袋を買いにやらせます。

決してきつねの方の手を見せないように言い含めて。

坊やは母親に教えられたとおりに帽子屋を見つけます。

ところがうっかりと、きつねの方の手を差し出してしまいます。

 

帽子屋さんはおやおやと思いますが、白銅貨が本物なのを確認すると、坊やに手袋を持たせてやります。

心配している母親のもとへ跳んで帰った坊やは、間違えてきつねの手を出してしまったけれど、帽子屋さんはこんなにいい手袋をくれたよ、と話します。

母親は呆れながらも呟きます。


ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら

 

★      ★      ★

 

作品内容については、ここで云々するのは控えます。

すでに色んな方が色んな解釈や研究をなさってますので。

 

代わりに、文学作品の絵本化というものについて考えてみます。

 

絵本の制作において、絵も文も同一作者が手掛ける場合と、複数の作者によって役割分担される場合があります。

どちらがいいということはないのですが、やはり後者にはある種の難しさが伴うと思われます。

しかしその一方で、一人では起きなかったような化学反応が起きる楽しみがあるのも後者です。

 

ですがそれも、絵と文それぞれの担当者が話し合って制作を進める場合と、この作品のように作者がすでに故人である場合では、事情が変わってきます。

ましてそれが国民的な文学作品なら、絵本化においては相当な気を使うでしょう。

 

絵本の絵というものは大別すると「文を超えて何かを表現する絵」と「文の説明に踏みとどまる絵」に二分されます。

これもどちらが優れているというものではありませんが、この作品に関しては、黒井さんは後者の立場を取っています。

 

新美さんの格調高い文章を壊さないように、忠実に物語を再現することに努め、テキストにないものは一切登場させていません。

しかしその抑制が、かえって黒井さんの絵の美しさを際立たせています。

 

ぼんやりと光り輝くような淡い輪郭と色彩が、文章の清らかさや柔らかさと絶妙に融合しています。

これもまた、「絵と文の化学反応」の好例だと思います。

 

推奨年齢:10歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

日本語の美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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