【絵本の紹介】「きょうはみんなでクマがりだ」【365冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

4月から小学生になる私の息子は、結局幼稚園にも保育所にも行かないまま幼児期を過ごしました。

そのことについて様々な葛藤はあったものの、私としては必要ないという判断でそうしました。

私なりに精一杯息子と遊んできたつもりですし、本を読むだけでなく、なるべく色々な分野の遊びを体験させようとはしてきました。

 

でもやっぱり、どこかに偏りがあることは否めません。

例えば息子は「遊び歌」の類をあまり知りません。

 

私が子どもの頃はたくさんの「遊び歌」をやった記憶があります。

保育所に通ってたのと、おばあちゃん子だったので。

ただ、今はもうほとんど忘れて、息子に教えてやることもできません。

よその家庭のことはわかりませんけど、今でもああいうのはみんなやってるのでしょうか。

 

今回は「遊び歌」をもとにしたイギリスのロングセラー絵本「きょうはみんなでクマがりだ」を紹介しましょう。

再話:マイケル・ローゼン

絵:ヘレン・オクセンバリー

訳:山口文生

出版社:評論社

発行日:1991年1月30日

 

というか、「遊び歌」だという認識がないと、何だかよくわからない絵本です。

「クマがり」というデンジャラスなテーマなのに、どうみてもピクニック気分の家族連れ。

小さな子を肩車したお父さん、棒切れを持って先頭を歩く男の子。

呑気で可愛らしい絵。

 

絵を担当しているヘレン・オクセンバリーさんはこのブログでも何度も登場している絵本作家、ジョン・バーニンガムさんの奥さんです。

バーニンガムさんの自伝「わたしの絵本、わたしの人生」によれば、二人が出会ったのはバーニンガムさんが中央美術工芸学校に在学中のようです。

舞台美術の勉強をしていたオクセンバリーさんですが、子どもが小さい頃、在宅でできる仕事として子どもの本に携わり始めます。

夫婦そろって世界的な絵本作家というのはなかなか凄いことだと思います。

 

さて、「クマがり」の内容ですが、リズミカルな訳文とともに、家族5人と犬が草原や川や森を抜けて行進していきます。

きょうは みんなで クマがりだ

つかまえるのは でかいやつ

こわくなんか あるもんか!

川を「チャプチャプチャプ!」湿地帯を「ペタペタペタ!」大吹雪を「ピューピューピュー」と抜けて、洞穴に到達します。

その奥へ入って行くと、ついにクマと遭遇します。

が。

 

あれほど調子こいてた一家は、本物のクマを見た途端、「わぁ クマだ!!!!」と驚愕。

ここからは一転、クマからの脱走劇が展開されます。

この時、通ってきた道を逆廻しで抜けていくことになります。

 

クマはかなりしつこく一家を追跡し、とうとう家にまで押しかけてきます。

際どいところで家族は家に逃げ込み、ドアを閉めて布団をかぶって震えます。

ぼくらは もう クマがり なんかに でかけない

 

★      ★      ★

 

遊び歌としては、「みんな」で文と同じような動作、草をかき分けたり、川を渡ったりしながら、クマに出遭ってからの急転直下の場面を、前半の逆廻しで繰り返す面白いものです。

 

それを知らなくとも面白く読める絵本でもあります。

家族の無防備さと楽観性、そして謎の行動力がシュール。

後半のヘタレっぷりは可笑しいんですけど、私などは登場人物の何を考えているのかわからない表情が不気味に見えもします。

 

元唄を知らなくとも、絵本に沿って「遊び」はやれます。

大勢いた方が楽しいですね。

 

CD付きの英語版「WE'RE GOING ON A BEAR HUNT」も出版されており、原曲を聴くこともできます。

私も持ってますけど、実は遊びはやってないんです。

やっぱりねえ、苦手なのかなあ。

 

今時の小学校では、こういうのはまだやってるのでしょうか。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

危機感度:☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「きょうはみんなでクマがりだ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「カニツンツン」【349冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「カニツンツン」です。

作:金関寿夫

絵:元永定正

出版社:福音館書店

発行日:2001年10月31日(こどものとも傑作集)

 

絵を見ただけでわかるでしょうけど、作画はあの魔術的中毒性を持つ伝説絵本「もこもこもこ」の元永定正さんです。

 

≫絵本の紹介「もこもこもこ」

 

名作絵本は数あれど、他を冠絶するリピート率はもはや異常。

この「カニツンツン」も「もこもこもこ」に勝るとも劣らぬ魔法の絵本です。

 

我が家の息子的にはむしろこっちの方がツボでした。

死ぬほど笑い転げて、「もう1回」「もう1回」「あと10回」「いいって言うまで繰り返し」。

30回くらいでやっと笑わずに読み終わるけど、次に読むとまた転げ回る。

 

カニツンツン」、なんじゃそりゃ。と思うでしょう?

蟹がハサミでツンツンする絵本ではありません。

意味不明の言葉の羅列みたいに見えるけど、ところどころ英語が入ってたり、意味ありそうだったり、詩のような、歌のような、呪文のような、言葉遊びのような、摩訶不思議なテキスト。

 

他の絵本にも言えることですけど、これは特に音読をオススメします。

黙読ではこの楽しさがわかりません。

ともかく一部読んでみましょうか。

はい、ご一緒に。

 

カニ ツンツン ビイ ツンツン ツンツン ツンツン カニ チャララ ビイ チャララ チャララ チャララ

イーニ ムーニ ムー ロッシーニ ショショーニ

スプモーニ トトーニ スイート トスカニー

ドンキー モンキー スモーキー ミルオーキー

スマッシュ スラッシュ ブラッシュ ウオッシュ

トッチン ツン トッチン ツン トチチリツン トチチリトン

トンガ コンガ オロンガ コンガ オノンダガ

モチ チイテ ヤオ テバ ニゲロ、ダー

ついてきてますか?

 

ピンク シンク リンク ボボリンク ドリンク

ベンヴェヌート チェリーニ

カニ ツンツン ビイ ツンツン カニ チャララ ビイ チャララ

 

元永さんの描くカエルっぽい謎の物体が「ツンツン」言いながら画面のあちこちに現れ、最後はドアップになって(ここも子どもが大笑いするポイント)「チャララ」。

 

★      ★      ★

 

これを一回読みで満足する子どもはいないんじゃないでしょうか。

読み聞かせる側も楽しいので、30回繰り返してもさほどストレスは感じません。

 

これは一体なんなんだ、とどうしても意味を求める大人たちのために、親切にも巻末に解説文が掲載されています。

作者の金関寿夫さんはアメリカの先住民の詩などを研究なさっている著名な学者・翻訳家です。

作者の創作した言葉と、様々な形ですでに存在している言葉の響きとを組み合わせて、この絵本のテキストが作られたそうです。

 

カニ ツンツン……」は、アイヌ民族が鳥のさえずりを聴き取ったもので、後は英語、イタリア語、北米インディアンの部族名、歌劇の登場人物名など、自由自在。

しかしどれも耳に心地よいリズムがあります。

 

この作品が月刊絵本「こどものとも」に発表されたのが1997年、金関さんが亡くなったのがその1年前。

製作途中で亡くなられたのか、あるいは没後に、絵本にするつもりもなかった作者のメモ書きを元に絵本化を試みられたのか、そのあたりの経緯は知りません。

 

確実に言えるのは、絶妙にマッチした元永さんの絵の力もあり、この作品が大変な成功を収めているという事実です。

限られた作品のみが有する「絵本の魔法」、ぜひ一度体験してみて欲しいと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

魔法のリピート率度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「カニツンツン

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【絵本の紹介】「じゃあじゃあびりびり」【305冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本は大人が読んでも面白い、ということを何度もこのブログで力説していますが、言うまでもなく子どもが読んでも面白いものです。

さらにまだ言葉がわからない赤ちゃんでも楽しめる絵本はちゃんとあります。

赤ちゃんから大人まで、あらゆる世代に門戸が開かれているところが絵本の大きな魅力なのです。

 

というわけで、今回は「赤ちゃん絵本」を紹介するわけですが、これは私の息子の一番最初のお気に入りとなった作品でもあります。

個人的には赤ちゃん絵本の最高傑作だと思っています。

その名も「じゃあじゃあびりびり」。

作・絵:まついのりこ

出版社:偕成社

発行日:2001年8月(改訂版)

 

昨今の研究により、読み聞かせを始めるのは早い方がいいということは広く知られるようになりました。

 

≫読み聞かせはいつから?

 

が、さてさて、子どもに絵本を選ぶのも難しいのに、言葉も理解していない赤ちゃんを相手にどんな絵本を読んだらいいのか、まるでわからないという方も多いかもしれません。

私は息子が生後半年くらいから読み聞かせを始めましたが、一言も感想を言わないし表情もさほど変えない相手に絵本を読むというのは実に頼りない気持ちがするものでした。

 

物言わぬ赤ちゃんがどういう絵本を求めているか、しょせんは大人には完璧に理解することはできません。

そんな単純でありながら非常に難しい「赤ちゃん絵本」というジャンルにおいて、読者(赤ちゃん)からの圧倒的支持を集め、「魔法の絵本」とまで称されているのがこの「じゃあじゃあびりびり」なのです。

 

じどうしゃ ぶーぶーぶーぶー

いぬ わん わん わん わん

みず じゃあ じゃあ じゃあ

かみ びり びり びり びり びり びり

 

そんなリズムの単語と擬音のみで構成されています。

ページとページに関連性はなく、連続的に物事を捉える必要性もありません。

はっきりした色使いと単純化された造形。

かみ びり びり」のページは和紙の切り絵が用いられたりテキストの位置にこだわったりして、随所に工夫が凝らされています。

赤ちゃんにとっては写真よりも余計な情報のない絵のほうが入って行きやすいのかもしれません。

★      ★      ★

 

ま、はっきり言ってほとんどの大人には全然面白くも何ともない絵本です。

だからこれが赤ちゃんに大人気と言われてもよく理解できません。

半信半疑で読み聞かせてみて、予想以上の赤ちゃんの好反応に驚く方が大勢いるようです。

 

その理解できなさが「魔法の絵本」たる所以でしょう。

作者のまついさんは他にも「おたんじょうび」「おはよう」「ばいばい」などの赤ちゃん絵本を作っており、それらは「まついのりこあかちゃんのほん」シリーズとなっていますが、やはりこの「じゃあじゃあびりびり」が桁外れの人気みたいです。

 

初版は1983年、それから2001年に改訂版となった時に、赤ちゃんがかじったり舐めたりすることを考慮して、頑丈なボードブック仕様になりました。

 

我が家でも随分お世話になった一冊ですが、さすがに息子も5歳になったことだし、そろそろメインの本棚から2軍落ちして別の部屋の本棚に移動しました。

ところが、今でもたまに引っ張り出して読んでるんですね。

もちろん赤ちゃんの時のことなど何も覚えていないでしょう。

 

恐るべし、魔法の絵本です。

 

推奨年齢:0歳〜

読み聞かせ難易度:☆

謎の魔力度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「だくちるだくちる はじめてのうた」【219冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

相も変わらず、習慣的に絵本の読み聞かせを行っています。

最近は息子の方から「読んで」と言ってくることが少なく、こちらが絵本を選ぶことが多いのですが、気分じゃない絵本を選ぶと即座に却下されてしまいます。

で、つい同じ絵本(鉄板絵本)ばかりを本棚から引き出すことになりがちです。

 

それ自体は全然悪いことではないんですが、もう全文暗記してしまっているような絵本を、眠たい時間に読んでいると、ついつい自動朗読機械のように無感情な読み方になってしまいます。

 

しかし、読んでもらってる子どもの方は日々成長変化しており、いつまでも同じ反応を示すわけではありません。

新しい絵本を与えるばかりでなく、以前はあまり受けなかった絵本を時期を見計らって取り出してみたり、赤ちゃんの頃に読んでいた本をもう一度開いてみたり。

こちらも変化していかなければ、絵本の「旬」を逃してしまいます。

 

今回は「読み聞かせ」の一つの核部分である「音・言葉との出会い」について描かれた絵本を紹介します。

だくちるだくちる はじめてのうた」です。

原案:V・ベレストフ

文:阪田寛夫

絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:1993年11月15日

 

にんげんが うまれる ずっと ずーっと まえのまえ そのまた ずーっとまえに

イグアノドンが いた

恐竜時代を舞台とした、これは詩の絵本です。

 

イグアノドンは さびしかった

だけど あるひ だくちる だくちる おとがした

ちいさな プテロダクチルスが とんできた

 

だくちる だくちるる」と、プテロダクチルスは鳴き声とも唸り声ともつかぬような音を発します。

他には何にも言えません。

 

でも、「イグアノドンは うれしかった」のです。

それはイグアノドンが初めて耳にした「生き物が発する音」だったからです。

イグアノドンは「だくちる」を聞くと「もう どんどん ばんばん」嬉しくなってしまいます。

イグアノドンにとって「だくちる」は「はじめての うた」だったから。

音の溢れる世界の中で初めて耳にした、生命のこもった「うた」だったのです。

 

★      ★      ★

 

この絵本の原案となっているのはロシアの詩人ベレストフさんの「はじめての歌」という詩です。

それを、童謡「さっちゃん」などの作詞を手掛けた阪田寛夫さんが文にし、長新太さんが絵を描いて作り上げたという、なかなかに豪華なコラボ絵本です。

 

長新太さんの描くイグアノドンはシルエットのみのデザインなのですが、感情と共にシルエットの色が変化し、その喜びが生き生きと伝わってきます。

 

太古の地球で独りぼっちの存在だったイグアノドン。

彼の壮絶な孤独感はいかばかりだったでしょう。

初めて他者が発する音に触れた時の喜びはいかばかりだったでしょう。

 

人間も同じです。

この世界に生まれ落ちた時、赤ちゃんはどれほど不安なことでしょう。

少しでも身近な人間の声を聞きたくて、赤ちゃんは声を振り絞って泣きます。

 

母親の声を聞くと安心します。

この世界で生まれる無数の音の中から、赤ちゃんは母親の声を聴き分けることができます。

それからわずか3年足らずで、赤ちゃんは日常会話レベルの言語を学習してしまうのです。

 

人間が「言葉」を希求する強さは計り知れないものです。

人間と他の動物を隔てるものは思考する点ですが、思考はそもそも言葉がなければできません。

言葉が貧弱だと、思考も貧弱になります。

 

子どもが最も言葉を求める幼少期に、できる限りたくさんの、美しい音楽的な言葉を聴かせてあげることが重要なのです。

これはいくら言っても言い足りないくらい、大切なことです。

 

絵本の大きな存在意義もそこにあります。

 

この「だくちるだくちる」は、声に出して読むべき絵本です。

今の日本では残念ながら詩というものの価値がほとんど見捨てられてしまっていますが、絵本においてはまだかろうじて生き残っていると思います。

 

そういうわけで、初心に帰って、今夜も絵本を読み聞かせたいと思います。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆

音読向き度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「影ぼっこ」【101冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、「影ぼっこ」です。

文:ブレーズ・サンドラール

絵:マーシャ・ブラウン

訳:おのえたかこ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1983年12月15日

 

世界的絵本作家、マーシャ・ブラウンさんの絵で、コールデコット賞(一年に一作品だけ選ばれる、アメリカ絵本界最高の賞)も受賞している作品なのに、日本での知名度はいまひとつな気がする、隠れた名作。

 

しかし、これがブラウンさんの仕事だとは、見ただけではわからないのも無理はないでしょう。

何しろ、「三びきのやぎのがらがらどん」が有名すぎるのに、こちらと絵柄が違い過ぎる。

 

≫絵本の紹介「三びきのやぎのがらがらどん」

 

これは別にブラウンさんの画風が変節したというわけではなく、彼女はひとつひとつの作品に対し、毎回違った技法でのアプローチを試みているのです。

どんな画材で、どんなタッチで、どんな構図で、どんな色彩で描くのが、その作品にとってふさわしい表現方法なのかを練り込んでいるのですね。

絵本に対する真摯な情熱と探求心、そして子どもに対する敬意があればこそでしょう。

 

この「影ぼっこ」は、詩人・小説家のサンドラールさんが、アフリカのまじない師や、火を囲んで話す語り手たちの言葉からイメージを広げて書き上げた詩の絵本です。

影ぼっこのすみかは森のなか

夜になるとたき火のそばにあらわれて、おどり手たちに調子をあわせ うろうろ うろつき ふらふら おどる

影ぼっこはねむらない

影ぼっこには声がない

夜になると 影ぼっこは 重く重くなる

だれも 影ぼっこにはさからえない

 

影ぼっこは あそぶ

影ぼっこは おどる

 

★      ★      ★

 

いつも傍にくっついて、離れようとしない影。

なんだか恐いような気もするけれど、いたずら好きの精霊のような、守り神のようなイメージもある。

 

自然への畏敬の念が込められたこの詩を絵で描き表すにあたって、ブラウンさんは実際にアフリカを旅行してきたそうです。

 

そこで受けた鮮烈なインスピレーションを、コラージュ風の手法で表現しています。

 

私は個人的に、アフリカの人々の肉体をシルエットで描いたカットに強く惹かれます。

彼らの身体は、最新の文明に囲まれている我々のそれとはまったく違う生き物のように、生命の躍動感に溢れています。

 

その原始の肉体が、踊ることで、リズムに乗ることで、より自然に近づき、自然の一部となっています。

 

霊や魂といった概念を、私たちは忘れ去ったかのように都会で生活しています。

しかし、誰もが心の奥底では、それら精神世界から切り離された無力感や不安を感じているのではないでしょうか。

 

この絵本に描かれる人々からみなぎる生命力に、ある種の劣等感を感じるのは私だけでしょうか。

そしてその劣等感は、大人が子どもに対して抱くものと似ている気がするのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

ブラウンさんの引き出しの多さ度:☆☆☆☆☆

 

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