2023.04.06 Thursday
【絵本の紹介】「ノアの箱舟」【449冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は誰でも知っている旧約聖書の物語を、緻密で美しい版画で仕上げた絵本を紹介します。
「ノアの箱舟」です。
作・絵:アーサー・ガイサート
訳:小塩節・小塩トシ子
出版社:こぐま社
発行日:1989年11月20日
表紙・裏表紙は箱舟の断面図になっており、実に細密に内部が描かれています。
本編でも引いた構図からの箱舟内部での動物たちの暮らしが緻密に描写されており、それらの絵を読んでいるとなかなか先に進めません。
内容は至って聖書に忠実です。
紀元前2000年ごろ、世界を創った神様が、人類が悪に染まって堕落していくことを嘆き、ついには全てをリセットすることを決めます。
大洪水で世界を洗い流してしまおうというのです。
しかしながらノアという人物だけは神様の言いつけを守る「正しい人」だったので、神様はノアとその家族に箱舟を作ることを命じ、地上のすべての動物をひとつがいずつ乗せ、大洪水から生き延びさせることにするのです。
ノアは言われたとおりに箱舟を設計し、動物たちとともに乗り込みます。
やがて天が裂け、大雨が降り始めます。
雨は長い間降り続き、世界は水で覆われます。
雨がやみ、ようやく太陽が輝きます。
ノアは一羽の鳩を外へ飛ばし、その鳩がオリーブの小枝をくわえて帰ってきたので、ノアはまた地上に住めるようになったことを知ります。
神様は二度と大洪水を起こして人類を滅ぼさないというしるしに、初めて「虹」を空に架けるのでした。
★ ★ ★
宗教画は美しくなければ人の心性に直接働きかけることができません。
絵本も然りです。
この作品は読むものに敬虔な気持ちを呼び覚ますに十分な美しさを備えています。
この物語については色々なところで耳にする機会がありますが、基本的には「神様の言いつけを守る正しい人間でいなければやがてが報いを受けて滅びてしまうよ」という警鐘として用いられることがほとんどでしょう。
ただ、個人的にはそれは好みの読み筋ではないです。
特に絵本作品において、幼い子どもを鋳型にはめるような教訓は、精神的な自由の障壁になりかねません。
そんな時代でもないですしね。
「悪いことをすると罰があり、いいことをすると褒美がもらえる」という形式の道徳は、しょせんは外的な権力に従う道徳です。
人間には悪を行う自由があり、完全なる自由のもとで選び取る善にこそ価値があると私は思います。
それに「ノアの箱舟」には別な読み解き方もあるようです。
込み入った話は長くなるので省略しますが、箱舟は「肉体」であり、それまで魂的な存在であった人間存在が現在の肉体に入り込み、覚醒意識を持つようになったことを象徴しているというのですね。
人類の意識は少しずつ進化し、単なる神の操り人形であることから自由になり、その自由の中で善を成すことが現代の課題なのかもしれません。
そういう目線で教育や育児を見てみると、まだまだ表面的な「ノアの箱舟」的教訓をそのまま用いて子どもに接している大人が多いと感じます。
聖書の読み方というのはいくつもあり、その違いによって戦争さえ起きるものです。
ただ、人からお金を巻き上げて破滅させるだけのカルト宗教ほど、聖書を「神に背くと罰が下る」という「脅し」に利用しているのは事実だと思います。
真実を見抜く自由な目を育てるのは表面的なテキストではなく、絵そのものに込められた美しさではないかという気がしています。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
箱舟の大きさどうなってんの度:☆☆☆
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