【絵本の紹介】「クリスマスのものがたり」【352冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は数あるクリスマス絵本の中でも最も正統派と呼びたい一冊を紹介します。

フェリクス・ホフマンさんによる「クリスマスのものがたり」です。

作・絵:フェリクス・ホフマン

訳:生野幸吉

出版社:福音館書店

発行日:1975年10月10日

 

クリスマスとは何か、我々日本人は実はほとんど知らないのでしょうか。

もちろん、クリスチャンでなくともクリスマスが本来イエス・キリストの降誕祭であることくらいは常識でしょうけど、現実的には日本ではそのことを祝うという意識はまるで薄いでしょう。

 

クリスマスがこれほど人気のイベントであるのはサンタクロースの存在によるところが大きく、よってクリスマス絵本は数あれど、そのほぼ全てがサンタクロースとプレゼントという主題を扱ったものです。

そんな中、この「クリスマスのものがたり」にはサンタクロースが登場しません。

 

私も含めですが、現代日本人には無宗教の人間が多いです。

むしろ宗教に対するマイナスイメージが強いように感じます。

それはオウム真理教に代表されるカルト教団や、いまだに世界中で続く宗教問題に因を成す紛争への嫌悪感から来ているのかもしれません。

 

宗教などなくとも人間は強く生きていける」というのは一つの考え方ですし、確かにその信念は強靭な精神を持つことに益するかもしれませんが、しかし本当にそうでしょうか。

すがったり、依存したり、他者に対して非寛容になったり、暴力に対する言い訳となったり、そういう信仰心は精神的に自由な人間を育てません。

けれど、敬虔な気持ちや畏敬の念、崇高な感情は人を自由にします。

それらを「服従の心」と混合することは間違っています。

 

そして考えてみれば、「神など信じない」と言っている現代人も、「科学」という神に対しては信仰心を抱いているのです。

科学は素晴らしいものですが、それが世界に成した害悪の量も相当なものです。

問題は信仰の対象ではなく、それが人間の心にどう働きかけるかです。

 

この「クリスマスのものがたり」は、上記した「畏敬の念」「崇高な感情」を読む者の心に芽生えさせるのに十分な力を持った芸術作品です。

ホフマンさんは絵本以外にも石版画や壁画、ステンドグラス制作などでも素晴らしい作品を遺された芸術家で、この絵本にもそれらに共通する静謐な宗教画的美しさが強く感じられます。

 

およそ2000年ちかいむかしのこと」と始まりますが、今ではすでに2000年を超えてしまいましたね。

ナザレに住む大工ヨセフの許嫁のマリヤのもとへ、天使ガブリエルが現れ、懐胎を告げます。

その男の子は「大いなるものとなり、やがては、ひとびとの救い主となるだろう」。

その後、ローマ皇帝の命により、マリヤとヨセフはベツレヘムを目指して旅に出ます。

ベツレヘムの小さなうまやで、マリヤはお告げ通りに男の子を出産します。

その頃、羊飼いたちのもとにも天使が現れ、救世主誕生を告げます。

羊飼いたちはその言葉を確かめるため、ベツレヘムのうまやに向かい、幼子イエスに対面します。

 

また、三人の賢者たちが占星学に従ってエルサレムを訪れます。

彼らもまた、救い主に会うためにやってきたのですが、導きとなる輝く星を見失ってしまいます。

三賢者からその話を聞いたユダヤの王ヘロデは、幼子イエスが成長すれば自分の座が危うくなるのではないかと恐れます。

三賢者は再びあの輝く星を見い出し、ついにイエスのもとへ辿り着き、贈り物をします。

 

その夜、三賢者の夢に天使が現れ、ヘロデ王がイエスを殺そうとしていることを知らせます。

ヨセフもまた天使のお告げに従い、妻マリヤと幼子イエスを連れて、エジプトへ逃れます。

 

彼らはヘロデ王が死んだという知らせを聞くまでエジプトに留まり、それからナザレに帰還します。

 

★      ★      ★

 

海外の絵本や児童書などでは割とキリスト降誕祭としてのクリスマスを祝う風景が出てきますし、幼い子でも物語の大筋くらいは諳んじているものとして描かれています。

私は子どもの頃、それらの本から伝わる文化の違いに不思議な気持ちになったものでした(ハロウィンもそうでした)。

 

神話や聖書の世界に触れるとき、それらを単なる作り話として解釈し、「昔の人間は愚かで単純だった」と思う人もいるかもしれません。

しかしそれは少々想像力不足と言わなければなりません。

 

何故なら、古代の人々は神を崇める一方で、現代でも説明困難なハイレベルの建築技術を有したりしていたからです。

昔の人間と今の人間が同じ思考を持っていたと考えること自体が想像力不足なのです。

昔の人間は彼らの思考法を持っていたはずです。

それはおそらく、論理というより感情、インスピレーションによる部分が大きかったのではないでしょうか。

 

それは古代を生きた数々の天才的芸術家が遺した作品からも想像できることです。

彼らは頭で考えて作品を作ったわけではなく、「神が降りてきた」ことによってそれらの作品を表現したと言えないでしょうか。

 

聖書や神話を現代的思考法である「論理」で解釈しようとすると落とし穴に落ちます。

それらは「感情」で読まなければ理解できない物語だと思います。

 

すでに私たちは古代の豊かな感情的思考力を失いました。

それでも、生まれてくる子どもたちにはまだその能力が残っています。

しかしそれは大事に守り育てなければ、現代の中では簡単に消滅してしまう繊細な感情です。

 

論理的思考力が重要でないと言っているわけではありません。

我々はかつて感情で理解していたものを、論理によっても理解するという課題を与えられているのです。

宗教と科学を対立させることなく、その両輪で世界と人間を観察する時、初めて血の通った理解が可能になるのです。

 

かつて人々の中に「降臨した神」は、それ以降「自我の中に生きる神」となったと考えられないでしょうか。

「神」は私たち一人一人の中にあり、真に自由な人間として目覚める時を待っているのではないでしょうか。

 

「クリスマスのものがたり」は、ホフマンさんの最後の絵本となった作品です。

ルドウィッヒ・ベーメルマンスさん、ジャン・ド・ブリュノフさんなど、不思議に「クリスマス絵本」が最後の作品となった絵本作家は多いですが、死期を予感した時、改めて「聖なるもの」を描きたい衝動を覚えたのかもしれません。

全部、私の個人的想像に過ぎませんけど。

 

≫絵本の紹介「ババールとサンタクロース」

≫絵本の紹介「マドレーヌのクリスマス」

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

聖書に触れたくなる度:☆☆☆☆☆

 

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