2024.03.05 Tuesday
【絵本の紹介】「やまたのおろち」【473冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は日本神話より「やまたのおろち」を紹介します。
文は映画監督の羽仁進さん、絵は安定の赤羽末吉さん。
文:羽仁進
絵:赤羽末吉
出版社:岩崎書店
発行日:1967年
知らない人はいないほど有名な神話のひとつだと思っていますが、最近の若い人はどうなのでしょうね。
その存在くらいは知っていても、細かいエピソードについては何も知らない人も多そうです。
そういう私も別にさほど詳しいわけではありませんが。
しかしながらこのやまたのおろちの伝説を幼い頃に絵本で読んだ時の興奮とインパクトは忘れることができず、ずっと心に残っていました(その当時読んだ絵本の絵は覚えているのですが、残念ながら見つけることはできていません)。
何と言ってもやはりやまたのおろちの造形とスケールが怪獣好きの子ども心に刺さります。
かっこよすぎません?
キングギドラもびっくりの八つの頭を持ち、その巨大さたるや八つの谷、八つの峰にまたがるほど。
表面に苔や杉を生やし、生贄に女を要求し、酒も飲む。
女好きの酒好き怪獣ですね。
口から炎を吐くところも実に怪獣らしくていい。
この怪物と戦う主人公はスサノオノミコト。
神話によくある暴れ者タイプの神で、乱暴が過ぎて姉である天照大神の不興を買い、下界に追放されます。
人間臭いですね。
追放者スサノオは川を上って村へたどり着きます。
そこで泣いている村人に事情を聞くと、やまたのおろちという怪物が娘を食べにやってくるのだといいます。
その娘はクシナダヒメといい、すでに七人の姉がおろちに食われたといいます。
スサノオは自分がそのおろちを退治してやろうと引き受けます。
スサノオは乱暴者ですが兵法も心得た知恵者で、八つの瓶に毒を混ぜた強力な酒を用意しておろちを待ち構えます。
やがてその恐ろしい姿を現したやまたのおろちはあっさりとこのトラップに引っ掛かり、酒を飲み始めます。
知能のようなものはほとんどないらしい。
けれどもその生命力は半端なく、毒をもってしても死なず、ただ眠りこけてしまいます。
スサノオはそこへ襲い掛かりますが、おろちは目を覚まし、炎を吐いて応戦します。
絵本によってはここの戦闘シーンをあっさり終わらせているものもあり(眠ったおろちを切り殺すだけとか)ますが、この作品では実に6ページにわたって苛烈な戦いが描かれます。
映画監督らしい臨場感ある場面と、赤羽さんの生き生きとした絵筆が見どころです。
ついに勝利するスサノオですが全身に八十八もの傷を受けます。
八という数字にこだわるあたりも神話あるある。
クシナダヒメの賢明な看護で傷は癒え、二人は結婚します。
やがて子どもも生まれ、彼らは山の奥で鉄を見つけて道具を作り、蚕を飼って絹糸を作り、出雲の国に村を興します。
★ ★ ★
おろちの体内から発見される草薙の剣は別名雨の叢雲、有名な伝説ですね。
これについては様々な解釈がありますが、物語最後にも描かれる通り製鉄技術の発展や鉄文化との関りを指摘されています。
神話や民話は全てが象徴的ですから、八という数字や蛇、櫛、酒といったワードにも何かしらの意味があるのだと考えられます。
そうしたことも含め、想像力をかき立てられる物語です。
そして海外にも悪役としての蛇の怪物の登場する伝説は見られます。
酒を飲ませて退治する神話もあります。
こうした類似点は単純に海を渡って物語が伝わったというより、人間に共通する根源的なイメージや心魂的に通じる象徴なのだと考えられます。
などとあれこれ考察する楽しみもありますけど、やっぱりやまたのおろちの怪獣っぷりが単純に魅力的ですねえ。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
戦闘シーンの濃密さ度:☆☆☆☆☆
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