【絵本の紹介】「かにむかし」【299冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

自分でも楽しみながらやってきたこの絵本紹介も、ついに299冊目ですか。

うん、まだまだ行けますね。

1000冊目くらいまではネタに困りそうにないです。

 

今回は日本昔話絵本。

木下順二さん再話・清水崑さん絵による「かにむかし」を紹介しましょう。

文:木下順二

絵:清水崑

出版社:岩波書店

発行日:1976年12月10日

 

別名「猿蟹合戦」、誰でも知っている昔話ですが、例によってストーリーの細部は地方・時代・再話者によって様々に異なります。

日本昔話史上に残る猟奇残虐復讐譚「かちかちやま」と同様、「復讐」のカタルシスが物語の芯になっており、それゆえに現代では色々と物議を醸している作品でもあります。

 

≫絵本の紹介「かちかちやま」

 

この「かにむかし」は、木下さんによる方言を使ったリズミカルな文章と木下さんの筆絵(やっぱり日本昔話には筆が合います)、それに縦30センチ、横25・5センチという大きさが特徴のロングセラーです。

 

「猿蟹合戦」絵本の中ではかなりポピュラーな一冊なんですが、実はその内容はかなりオリジナリティに溢れ、少なくとも王道とは呼べないものになっています。

 

まず、物語の発端はかにが柿の種を拾うところから。

他の絵本では大抵描かれる、さるとの「握り飯のトレード」はカットされています。

かには自分の庭に種をまき、「はよう 芽をだせ かきのたね、ださんと はさみで ほじりだすぞ」。

と、ここは定番の文句を歌いながら、三度に亘る繰り返し構成にて柿の木の成長を見せます。

 

作物に対する愛情の無さは措くとして、子ども心にも楽しい前半の山場です。

「ほじくる」とか「ぶったぎる」とか「もぎりきる」という言葉の響きが、幼い子には無条件にウケます。

 

さて、いざ柿の実が生っても、かには木に登ることができないで難渋します。

そこではじめてさるが登場。

柿の木に上り、自分だけが柿を食い、下からせがむかにに向かって青い実をぶつけて殺害。

 

ここも再話者によってニュアンスが変化する箇所でして、裁判では問題となる「明確な殺意」がさるにあったかどうか微妙な描き方をする作家もいます。

ただ青い実を放ったら、たまたまかにに命中して死んでしまった、というような。

この絵本ではさるの心情は描かれませんので、そのあたりは謎です。

 

さあ、死んだかに(♀)のお腹から生まれた無数の子がにたち。

なんと、「にっぽんいちの きびだんご」というアイテムを使い、成長し、親の仇討ちに乗り出します。

 

≫絵本の紹介「ももたろう」

 

これは木下さんの独創でしょうか。

管見の限り、「きびだんご」が登場する「猿蟹合戦」は読んだことがありません。

そして、この昔話を最も楽しいものにしてくれる、数々の奇妙な助っ人たちも、「きびだんご」を貰うことで仇討ちに加勢することになります。

「ぱんぱんぐり」「はち」「うしのふん」「石うす」。

で、もう一体「はぜぼう」なる棒っきれも仲間になります。

これも、他作品ではあまり馴染みのないキャラクターです。

 

子がにたちは大挙してさるの家に押しかけ、さるの留守中にそれぞれの持ち場に待機。

帰ってきたさるは、くり→子がに→はち→うしのふん→はぜぼう→石うすの順に制裁を受けます。

ここは見開きの絵で先に見せておいて、後から文章の補足が入るというスタイル。

ラストも作品によって様々で、さるが完全に死亡するもの、痛めつけられるが命だけは助かるもの、反省して仲直りするものなどに分かれますが、ここではさるは「ひらとう へしゃげて」しまったということで、生死は不明です。

 

★      ★      ★

 

「かに」は農民、庶民、「さる」は年貢を取り立てる権力者として解釈されることもあり、「搾取される民の怒り」を描いた民話として読むこともできます。

そういった形式の昔話は海外にもあります。

 

≫絵本の紹介「ランパンパン」

 

問題視されるのは昔話特有の残酷性で、親がにの理不尽な死があるにせよ、さるに対する執拗すぎる復讐劇は「スカッとする」よりも「嫌悪感」を抱いてしまう読者も多いのでしょう。

子どもに見せるにはあまり相応しくない、との見方もあります。

 

ゆえにここを改編した作品も多いわけですが、さるとかにが仲直りするようなラストには「ぬるい」「過保護」との批評も上がります。

 

しかし、それらはすべて大人の目線です。

子どもが問題にするのは「おもしろいか、そうでないか」だけです。

 

その意味で、この昔話が圧倒的人気を保ち続けているのは、究極に洗練された物語構成や小道具や演出の力だと思います。

起承転結がはっきりしており、前半・中盤・後半のすべてが繰り返しのパターンとリズムを持っています。

 

柿の木の成長とかにの歌の滑稽さ、仇討ちに加勢する仲間たちの奇抜さ、さるへの攻撃布陣のワクワク感。

それらを破壊しなければ、この物語は必ず面白くなります。

もちろん、絵の力は重要です。

 

そもそも昔話のいいところは「原作者不明」で「著作権がない」ことで、時代によってどんどん改編されること自体は私は悪いとは思いません。

そうやって数多の脱皮を繰り返すことで、昔話は洗練され、今日まで生き残ってきたからです。

 

さて、次はいよいよ300冊目の絵本紹介。

何をやるかはもう決めてます。

お楽しみに。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

牛糞のそのまんま度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かにむかし

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「かさじぞう」【295冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今日で仕事納めの方も多いと思われます。

今年最後の絵本紹介は、暮れの定番昔話から。

瀬田貞二さん再話、赤羽末吉さん作画による「かさじぞう」です。

再話:瀬田貞二

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1966年11月1日(こどものとも傑作集)

 

昔話絵本は同じ物語でも違う作者による作品が数あり、それぞれの差異を読むのも楽しみの一つです。

そう言いつつ、その中のどれか一冊を紹介するとなると、つい無難というか王道というか、そういうタイプを持ってきてしまいます。

でも、やっぱりいい絵本です。

 

これまでも度々登場頂いている赤羽さんですが、実はこの「かさじぞう」が彼の最初の絵本になります。

墨絵による雪の描写が秀逸で、これ以外の作品にも、赤羽さんは好んで雪の舞うカットを描かれています。

 

物語については、今さら細かく紹介するまでもないでしょう。

貧乏だけど清らかな生活を送る老夫婦の、奇跡の物語。

夫婦は編み笠を作っては町で売り歩いて生計を立てています。

ある年の大晦日、じいさんは5つの笠をこしらえて町へ出ます。

しょうがつの もち かってくる。ことしこさ、いいとしをとるべな

と、ばあさんに約束して。

 

でも、年越し市は盛っていますが、じいさんの笠は見向きもされません。

雪も降ってきて、仕方なくじいさんは帰りかけます。

その帰路、6体の地蔵さまが雪をかぶって立っていました。

気の毒に思ったじいさんは、大切な売り物の笠を地蔵さまにかぶせてやります。

 

しかし、笠は5つしかないので、一人分足りません。

そこでじいさまは自分のかぶっていた笠をぬいで、それを残った地蔵さまにかぶせて帰ります。

 

もちを買ってくるどころか、一つも売れずに、笠を全部地蔵さまにあげてしまったじいさまの話を聞いても、ばあさまは少しも嫌な顔をせず、「おじぞうさまに あげて よかったな」。

すると正月の明け方、「よういさ、よういさ、よういさな」とかけ声がします。

6人の編み笠をかぶった地蔵さまたちが、じいさまの家の前に山のような俵を降ろして行ってしまいます。

 

俵には「しょうがつの もちやら さかなやら、いえに かざる たからやら こがねやら」がぎっしり。

それから二人は幸せに暮らします。

 

★      ★      ★

 

この絵本はページの中に見開きの本のような構図を用いたユニークな作りになっています。

背景に使われた和紙の切り絵が、いかにも昔話らしい味を出しています。

 

この話には日本昔話に典型的な「いじわるな隣人」が出てきません。

ただ純粋に素朴で善良な老夫婦だけが描かれます。

 

たとえ貧しくとも、心を清く生きて行けば、幸せになれる

単純にして明解なメッセージを、幾世代を超えて語り継ぐ昔話。

 

けれども、現代では「清貧」という言葉はもはや死語となりつつあります。

目まぐるしい現代社会でそんなきれいごとを言っていては生きていけないのでしょうか。

また、見方を変えればこうした徳性は権力者に都合のいい労働力を生み出すために利用されかねません。

 

しかし「素朴であること」は「愚鈍なままで生きること」を意味しているわけではありません。

人間は賢くならなければいけません。

その上で善良な心を持ち続けることが大切であり、難しいことなのです。

 

人は「きれいごと」を冷笑しますが、「きれいごと」で生きるということは簡単ではありません。

殺伐とした時代ですが、せめて一年の結びくらいは「きれいごと」で締めくくりたいものです。

 

みなさん、よいお年を。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

お地蔵さまの表情に注目度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おんちょろちょろ」【225冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本の民話絵本「おんちょろちょろ」を紹介します。

再話:瀬田貞二

絵:梶山俊夫

出版社:福音館書店

発行日:1970年2月1日(こどものとも)

 

「おんちょろ経」「ねずみ経」などのタイトルで、地方ごとに少しずつ細部が違う形で伝わっています。

しかしその秀逸なユーモア、痛快さ、伏線回収の見事さは全国共通です。

 

一人の男の子が道に迷ってしまうところから物語が始まります。

日が暮れてしまい、男の子は山のふもとの一軒家で、一晩泊めてもらおうとします。

 

その家のじいさんとばあさんは男の子を見て、お寺の小僧さんだと思い込み、親切にもてなしてくれます。

男の子は違うとも言えず、そのまま小僧になりすまします。

ご飯がすむとばあさんは、男の子に、「うちの ほとけさまに、ひとつ おきょうを あげてくださらんか

 

困った男の子は仕方なしに仏壇の前に座って手を合わせ、ちょうど壁の隅から出てきたねずみを見て、そのねずみの行動を即興のお経に仕立てて読み上げます。

おんちょろちょろ、でてこられそろ

おんちょろちょろ、のぞきもうされそろ

おんちょろちょろ、ささやきもうされそろ

おんちょろちょろ、ばちあたりそろ

おんちょろちょろ、でていかれそろ

 

こんなでたらめなお経でもじいさんとばあさんは有難がって、繰り返し唱えます。

次の日、男の子を町まで送ってあげた後も、じいさんとばあさんは毎日仏壇の前で「おんちょろちょろ」。

 

さて、そこへ三人組のどろぼうが忍び寄ります。

けれど、そこへじいさんとばあさんの「おんちょろちょろ、でてこられそろ」が聞こえたので、どろぼうたちはぎくりとします。

障子の破れ穴から中を窺うと、「のぞきもうされそろ」。

 

こちらの動きをすべて見通しているかのような言葉に、どろぼうたちはいよいよ驚き、小さな声で相談していると、「ささやきもうされそろ」。

いっそ二人を殺害してしまおうか、と言うと「ばちあたりそろ」。

どろぼうたちは震え上がって退散してしまいます。

 

じいさんたちは何も知らずに、「でていかれそろ」。

 

★      ★      ★

 

前段では進退窮まった男の子の機転に笑わされ、後段ではがらりと雰囲気が変わって、どろぼうたちの侵入にハラハラ。

そこで思いもよらぬ撃退劇に、感心するやら可笑しいやら。

 

実に無駄のない演出と構成です。

笑い話としてもよく出来ています。

 

「そろ」は「候」のことで、こういう言い回しは現代ではなおさら耳馴染みがなく、難しい気がしますが、それだけにもっともらしく聞こえます。

 

こういう、本人が全然そのつもりのないことで、偶然に災厄から逃れるという昔話は色々とあります(「ふるやのもり」とか)。

人生の幸運も災難も、己のあずかり知らぬところで、紙一重の差でやってくるもの。

親切や信心は、どんな形で役に立つかわからないもの。

 

じいさんとばあさんの純朴さが印象深く、そうやって純朴に生きていれば、悪いことが起こっても気づかず、悪いことの方から勝手に避けていくのだ、という慈愛のこもった人生観も見えます。

 

しかしまあ、今時はこういう老人は真っ先に詐欺被害に遭いそうですが。

それすらも、本人が気づかなければ幸せ……なのでしょうか。

 

純朴には生きにくい世の中だからこそ、こうした昔話が光を放つのかもしれませんね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

男の子の臨機応変度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「つるにょうぼう」【217冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

久しぶりに昔話絵本を紹介しましょう。

つるにょうぼう」です。

再話:矢川澄子

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1979年10月25日

 

冬の定番としてなじみ深い昔話です。

昔話というものは地域によって様々な話型に分かれるものですが、この物語は大きく「鶴女房」verと「鶴の恩返し」verに分けられます。

 

どちらも怪我を負った一羽の鶴を主人公が助けるところは同じですが、「鶴の恩返し」では主人公が翁、「鶴女房」では若者となります。

その後、鶴が美しい娘に化けて訪ねてきて、自らの羽を抜いて機を織り、恩を返すのですが、最終的には主人公が「見てはいけない」という約束を破ってしまい、正体の知れた鶴は飛び去ってしまう……というのが、概ね共通したあらすじです。

 

両者の一番の違いは、「鶴女房」verではタイトル通り、主人公と鶴が結婚する異類婚姻譚である点でしょう。

悲恋的要素が加わることで、より切ないラストとなります。

 

今回取り上げる「つるにょうぼう」は、再話は「ぞうのババール」シリーズなどの翻訳も多数手がける矢川澄子さん、絵は安定の赤羽末吉さんが担当しております。

最後の鶴が飛び去って行くシーンは、赤羽さん渾身の見開きカットで描かれ、非常に印象深い美しさを放っています。

貧しい独身男「よ平」が、翼に矢を受けた鶴を介抱してやります。

赤羽さんは雪の絵にはなかなかこだわりがあるようです。

 

その夜、「品よく、美しい」むすめが、よ平の家を訪ねてきて「女房にしてくださいまし」。

普通ならどう考えても新手の結婚詐欺を疑うところですが、いつの時代も男は美人に弱いのか、はたまた鶴の魔力か、雪のせいか、よ平はあっさりむすめを家に入れます。

 

それからよ平は幸せな新婚生活を送りますが、貧乏は変わらず、二人が食うのもやっと。

そこでむすめは自分に機を織らせてくれるよう、よ平に言います。

ただし、「けして のぞき見なさいませんように」と妙な条件を出されます。

 

三日三晩かかって織り上げられた一反の布は、驚くばかりの美しさでした。

織物は町で高く売れました。

 

しかしそのお金も底をつき、むすめは「もう一どだけ」と機を織ります。

出来上がった織物はさらに美しい輝きを帯びていました。

しかし反対に、むすめはやつれた痛々しい風情となっています。

 

この織物のことを知ったとなりの男が、よ平にある提案を持ちかけます。

都のお大尽のところへ織物を持って行って売れば、もっと儲かるというのです。

 

この話を聞いたむすめは、

なんでそんなにお金がいります

ふたりして暮らせさえすれば、十分ですのに

 

この言葉に、この絵本の核があるように思います。

 

しかし結局むすめは機を織ることになります。

これが最後で、そしてやはりのぞき見をしないことを条件として。

しかし、よ平はついに好奇心に負けて禁忌を犯してしまいます。

そこで目にしたものは、血にまみれながら自分の羽を引き抜いて機にかける鶴の姿でした。

 

むすめは自分の正体がいつか助けられた鶴であることを明かし、知られた以上人間界には留まれないとして、出来上がった織物を残して飛び去ります。

どうぞ、末長く、おしあわせに

と言い残して。

 

★      ★      ★

 

「見てはいけない」という類型の物語は、世界中の昔話に登場します。

古くは聖書の中にもあります。

 

見てはいけないと言われると見たくなるのは人間の性。

真実に近づくことと、幸福になることは両立しないのでしょうか。

 

おそらくは、真実を知ろうとすれば、それに相応しい準備が必要なのでしょう。

つまり、単純な好奇心や、我欲に負けて真実に近づけば、人は何かを失うということなのかもしれません。

 

バッドエンドとまでは言わずとも、少なくともハッピーエンドとは呼べないような昔話はたくさんあります。

それらを単に「悲しいおはなし」と片付けてしまうのではなく、そこから様々な感情を呼び起こしたり、考えたり、美しさに触れたりすることが、昔話絵本を読む上で大切なことであり、読み聞かせる側もそこを意識することが大事です。

 

昔話を単に教訓的な話型に落とし込むようなことをしても、子どもがそこから学ぶことは表面的な薄っぺらい倫理観だけです。

そんなものよりも、この絵本のラストのページをじっと見ることの方が、よほど深い部分で情緒に働きかける力となるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

最終シーンの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】小澤俊夫・赤羽末吉「かちかちやま」【128冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本五大昔話の一つにして、昔話史上最大の問題作でもある「かちかちやま」を取り上げます。

再話:小澤俊夫

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1988年4月20日

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、このおはなし、実は目を背けたくなるほどの残虐かつ凄惨な描写があります。

単なる暴力描写ではなく、心理的にエグいのです。

 

これをどう子供向け絵本にするのか、再話に臨んだ作家さんたちはみんな悩んだことでしょう。

あくまで原作を大事にして、そのままにするのか。

時代や倫理観の変化を考慮して、問題の箇所を削ったり、改編するのか。

この小澤俊夫さん再話・赤羽末吉さん絵による作品は、表現方法をややオブラートに包みながらも、昔ながらのお話をそこそこ忠実に再現しております。

 

むかし、じいさまが畑へ行き、

ひとつぶのまめ せんつぶになあれ

と歌いながら豆をまいていると、切り株に座っていた狸が、

じいのまめ かたわれになあれ

と囃し立てます。

 

怒ったじいさまは狸を捕らえ、縛り上げて家に帰ります。

ばあさまに狸汁をこしらえてくれ、と言い残し、じいさまはまた出かけます。

 

狸はばあさまに粟餅つきを手伝ってやるからと言って縄を解かせ、すきを見て杵でばあさまを撲殺します。

狸はばあさまに化け、戻ってきたじいさまに粟餅と狸汁を出します。

じいさまは、

なんだか ばあさまくさいなあ

と言いながら、狸汁を完食。

 

すると狸が正体を現し、

ばあじる くったし、あわもち くった。ながしのしたの ほねを みろ

と言って逃げます。

 

じいさまが悔しさに泣いていると兎がやってきて、仇討ちを請け負います。

ここから兎は三度に亘って狸に報復を加えます。

まずは、背中に担いだ萱草に火をつけ、大やけどを負わせます。

 

さらに薬だと騙してやけど痕に唐辛子を塗り込み、最後はご存知の通り、泥船を作って狸を誘い込み、沈めてしまいます。

 

★      ★      ★

 

やっぱり、最大の問題部分は、狸がばあさまを打ち殺すばかりか、その肉で「ばあじる」をこしらえ、あまつさえそれをじいさまに食わせるという非道極まりない行為でしょう。

ちょっと、他の昔話にも類を見ないグロテスクさです。

 

いくらなんでもやり過ぎだとして、この部分を完全にカットし、単にばあさまを殺されるだけ(もしくは重傷を負わせるだけ)に改編した作品が多いのも無理からぬ話でしょう。

 

ただし、そうすると、今度は逆に兎の狸に対する仕打ちが、ひど過ぎるように見えるという問題があります。

というわけで、狸も殺されるまでは行かず、最後は改心するというオチを用意したりした作品もあります。

ですが、こうなると、もはや原作の本質部分が失われてしまうようにも思えます。

何とも扱いの難しい昔話なのです。

 

では、この昔話の本質とは何かを考えてみると、これは「量刑」の物語であるということが言えます。

 

兎は「裁判官」であり、「処刑執行人」でもあります。

じいさまが自分で仇を討つなら、それは単なる復讐ですが、代理人を立て、第三者の判断に託すことで、「私怨」を「法の裁き」に変えるわけです。

 

さて、そうなると、狸の犯した罪と兎の加える刑罰との「バランスが妥当であるかどうか」が重要になってきます。

 

そしてそれを判断するのは、読者ひとりひとりの感情です。

「法」は神様が決めるものではありません。

アダム・スミスが「道徳感情論」で指摘しているように、量刑というものは、人間の感情が「これくらいが一般に妥当であると受け入れられるだろう」という「共感」を基準に決められています。

 

ですから、人間の情緒的な進化(変化)に伴って、量刑判断も変わってきます。

昔のような、「目には目を」式の判決は、現代では通用しません。

 

だから、「そもそも最初に狸を殺そうとしたのはじいさまだし、狸は正当防衛でしょう」という意見が出たり、「兎の火責め、水責め、だまし討ちはやり過ぎ」と思われたりするわけです。

しかしここに「ばあじる事件」を加えると、一気に裁判の行方は変わるでしょう。

 

そんな風にして、我々の感情とともに様々に形を変えることは、むしろこの昔話のあるべき様相なのだと思います。

「かちかちやま」がどのように再話されているかによって、その時代の人間感情を量ることができる、という言い方もできるかもしれません。

そういう意味で、これはやはり、非常にすぐれた昔話だと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

猟奇的度:☆☆☆☆☆

 

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