2023.04.18 Tuesday
【絵本の紹介】「コーネリアス」【450冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は久しぶりにレオ・レオニさんの絵本を紹介しましょう。
「コーネリアス」です。
作・絵:レオ・レオニ
訳:谷川俊太郎
出版社:好学社
発行日:1983年
副題は「たってあるいたわにのはなし」。
毎回可愛らしいキャラクターを主人公にしながらメッセージ性の強い寓話的作品を描くレオニさん。
主人公は小さなねずみであることが多いのですが、今回はワニです。
コラージュで造形されたワニの手足はいかにもくるくると動きそう。
無駄のないテキストはいつものレオニさんですが、今回の導入部は特に削られており、「たまごがかえると、ちいさなわにのこどもたちが かわぎしにはいだしてきた」と、いきなり始まります。
思わず最初のページを飛ばしたか、扉にテキストがあったかと戻って見直してしまいました。
そしてテキスト同様、絵の方も最初からコーネリアスは卵から立って出てきます。
徐々に立ち上がるとか、練習するとか、そういうのではなく、問答無用で立って歩くのです。
この超然たる佇まい。
しかしながらこの変わり者を、わにの仲間たちはあまり快く思っていない様子。
コーネリアスは立って歩くことで見える景色の違いを教えるのですが、仲間たちは何の興味も示さず、むしろ迷惑そう。
コーネリアスは腹を立てて群れから出ていきます。
途中、さるに出会います。
コーネリアスが自分が立って歩けることを自慢すると、さるは逆立ちしたり、木の枝にしっぽでぶら下がったりしてみせます。
すっかり感心してしまったコーネリアスは、自分も同じことがしてみたいと思い、さるに教えてくれるよう頼みます。
さるは積極的に教え、コーネリアスは懸命に練習し、ついに逆立ちやぶら下がりをマスターします。
そして仲間のところへ戻り、新たな芸当を披露します。
でも、やっぱり仲間たちの反応は冷淡です。
がっかりしたコーネリアスが立ち去ろうとして振り向くと……。
そこには、逆立ちやぶら下がりを練習しているわにたちの姿。
コーネリアスは微笑み、「かわぎしでのくらしは これですっかりかわるだろう」と満足そうにつぶやくのでした。
★ ★ ★
レオニさんはこれまでにも度々「共同体の中の変わり者」を主人公にしてきました。
詩人ねずみのフレデリック、一匹だけ真っ黒なスイミーなど。
彼らは最終的に共同体の危機を救うわけですが、今作のコーネリアスは仲間たちのために何をもたらしたことになるのでしょうか。
それは、新しい何かを学ぼうとする瑞々しい感性です。
あらゆる集団、組織、共同体には惰性が強く働いており、ある程度安定してくると新しい文化や価値観に対して拒否反応を示すようになります。
コーネリアスのような変わり種の主張はむしろ煩わしい、目障りな物として周囲の同胞を「いらいら」させるものです。
しかしながら新しいもの、未知のもの、これまでになかったものに自由で開かれた精神のないコミュニティは必ず衰退の道を辿ることは、歴史が示しています。
コーネリアスのような存在がいなければ、わにたちの集団は生気を失い、老化し、枯れていくでしょう。
ただ、コーネリアスに対し冷淡な仲間たちの態度もまた、共同体に生きるものとしては自然だとも言えます。
何でもかんでも急激な変化ばかりを主張するのは革命です。
これまで培ってきた価値観や暮らしを守ろうとする動きも、共同体には必要なのです。
この「未来へ向かおうとするもの」と「現状を維持しようとするもの」がほどよく均衡を保ち、そしていつもわずかに「未来へ向かおうとするもの」が勝利することによって人類は進歩していくのだと私は考えています。
もちろんコーネリアスのしたことは革命などという大げさなものではなく、たかだか「大きなお世話」程度です。
でも、さるが嬉々としてコーネリアスに逆立ちを教えたように、人にはどこかに「誰かに自分の知識や技術を教えたい」という欲求があるものです。
その欲求が、頼まれもしないのに教えたがるコーネリアスのような「大きなお世話」を焼かせます。
でもそれもまた共同体には必要不可欠な情熱だと思うのです。
そうでなければ「教師」という職業は共同体からなくなってしまうでしょうから。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
動きを想像できる絵の力度:☆☆☆☆☆
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