【絵本の紹介】「ぞうのエルマー」【231冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は世界20か国以上で翻訳され、日本でも人気の高い「ぞうのエルマー」シリーズより第一作「ぞうのエルマー」を紹介します。

作・絵:デビッド・マッキー

訳:きたむらさとし

出版社:BL出版

発行日:2002年4月1日(新装版)

 

ぞうを主人公にした絵本は数あれど、見た目のインパクトという点ではこの「エルマー」ほど派手なキャラクターもいないでしょう。

きいろに オレンジ あかに ピンク あおくて みどりで むらさきいろで くろくて しろい

パッチワークのぞう、それがエルマー。

 

これは「ぼくはおこった」などの作品を手掛けた絵本作家のきたむらさとしさんが翻訳した新装版です(題字のレタリングがきたむらさん仕様になってますね)。

 

イラストの可愛さもあって、アニメや関連グッズも多い「エルマー」ですが、「キャラクターもの」ではなく、特にこの第一作はメッセージ性の強い内容になっています。

 

エルマーはふざけるのが好きで、周りの仲間たちも、彼といると笑顔になってしまいます。

そんな人気者のエルマーですが、実は自分だけが他のぞうと違うことに人知れず悩んでいました。

 

どうして ぼくだけ みんなと ちがっているんだろう

パッチワークのぞうなんて、へんだよね

ある日、エルマーはいいことを思いつきます。

 

こっそりと出かけて、「ぞういろをした 木のみ」でパッチワーク模様を消してしまい、みんなと同じ見た目の普通のぞうに変身します。

そのまま何食わぬ顔で群れに戻り、仲間の中に潜り込みます。

誰もエルマーに気づきません。

しかし、みんなが黙りこくって、深刻な顔をしていることに、エルマーは可笑しさをこらえ切れなくなって、大声を出して仲間たちを驚かせてしまいます。

 

雨が降ってきて、エルマーの変装をすっかり洗い流します。

いつものエルマーのいたずらだとわかった仲間たちは大笑い。

それからは仲間たちはその日を「エルマーの日」として、毎年色んな模様にそ自分を飾り立ててパレードをすることにします。

けれども、エルマーだけはふつうのぞうの模様になるので、すぐにそれがエルマーだとわかるのでした。

 

★      ★      ★

 

子どもが成長すると自我意識が芽生えますが、周囲と自分との違いを気にしたり、見た目に劣等感を持ったりするのはもう少し大きくなってからでしょう。

ですからこの絵本のテーマはわりと大きな子に向けてのものと言えます。

 

日本は特に同調圧力の強い国と言われています。

「個性を大事にした教育を」などと声を上げても、それはどこかぎこちなく、白々しい響きがあります。

そう言っている大人自身が、周囲の目を気にしているし、みんなと同じでないと生きにくいと感じているからでしょう。

 

子どもを持てばよくわかりますが、やっぱり自分の子と他の家の子を比べて、「みんなと同じでない」点を気にしてしまうものです。

その一方で「全く同じ」なのも不満で、どこかにちょっとだけ違いを求めたりする、勝手な親心。

ファッションの話みたいですが、結局それが日本人の性なのかもしれません。

 

「自分が個性的であるか」どうかを、他人を見て判断しようとする滑稽さ。

私たちはまだまだ「個」というものに対しておっかなびっくりで接しているのだと感じます。

 

佐々木マキさんの「やっぱりおおかみ」を紹介した時にも触れましたが、「個」になることと「自由」になることは密接に繋がっています。

 

≫絵本の紹介「やっぱりおおかみ」

 

集団でいれば安心だし、守られているかもしれないけれど、人間の意識は成長過程で「自由」を志向します。

それは一人の人間も、国家単位の集団でも変わりません。

 

自由になろうと思えば、「個」であることを引き受けなければなりません。

それができないのは、やっぱり我々がまだまだ精神的に未成熟だからなのです。

少なくともこの点においては、日本は後進国だと思います。

 

私たちの意識のどこかには、「自由」に対する恐れのようなものがあって、「自由」と聞くと「無法状態」を連想してしまったりします。

でも、真に自由な人間は、他者の自由を尊重しますから、本当の意味での道徳的社会を築くことができるはずなのです。

 

どんどん絵本紹介から離れてしまいそうなので「自由」問題についてはまた別の機会に。

 

「エルマー」シリーズは巻を重ねるごとに個性的で楽しいキャラクターが登場します。

是非、シリーズ通して読んでみてください。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

カラフル度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ぞうのエルマー

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「あな」【222冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんとイラストレーターの和田誠さんのタッグによる、一癖も二癖もある絵本「あな」を紹介します。

作:谷川俊太郎

絵:和田誠

出版社:福音館書店

発行日:1983年3月5日(こどものとも傑作集)

 

谷川さんに関しては、知らない人の方が少ないでしょう。

現代日本において「詩人」という肩書を持ち、詩を「生業」としている人物と言えば、もう彼以外には思いつけないくらいです。

 

絵本との係わりも深く、「フレデリック」などの海外絵本の翻訳の他、自身が文を担当した作品も多くあります。

そして、3回にわたる結婚・離婚のうち、最初の妻は「かばくん」などを手掛けた絵本作家・岸田衿子さん。

そして3人目の妻は「100万回生きたねこ」の作者・佐野洋子さんなのですね。

 

≫絵本の紹介「フレデリック」

≫絵本の紹介「かばくん」

≫絵本の紹介「100万回生きたねこ」

 

絵を担当する和田さんも、これまた有名なイラストレーター。

何かと話題の雑誌「週刊文春」の表紙は40年にわたって彼が担当しています。

イラストだけでなく、エッセイや映画など、幅広い分野でその才能を発揮しています。

 

そんな二人が作った絵本ですから、一筋縄では行きません。

まず、横に見て縦開き、という構成からして異色です。

 

見開き画面の下3分の2を茶一色として、地面の断面図を描いているのですね。

にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた

なんで? とも思うし、そういうこともあるか、とも思ったり。

 

ひろし少年は淡々とした表情で、スコップを手に深い穴を掘っていきます。

母親、妹、友だち(広島カープファン)、父親が次々とやってきて色んなことを言いますが、ひろしは取り合わず、黙々と掘り続けます。

やがて自分がすっぽり地面の中に隠れるくらいの深さに到達したとき、ひろしはスコップを置き、初めて満足げな微笑を浮かべます。

これは ぼくの あなだ

 

母親たちがまた一通り登場して、短い会話を交わします。

ひろしは穴の中に座り続け、日が暮れるころに穴から出てきます。

これは ぼくの あなだ

 

もう一度そう思ったひろしは、スコップを使って今度は穴を埋めにかかります。

最後は、扉絵と同じく、元の平らな地面のカットで終わります。

 

★      ★      ★

 

全編通して同じ横視点の構図で物語は進行しますが、地中を掘り進む芋虫や空の色など、随所の変化を楽しめます。

また、一見するとよくわからなかった表紙の絵が、内容を読むことで、穴の中から空を見上げるひろしの視点なのだと判明します。

裏表紙は外から覗いた穴の中です。

 

さて、内容については例によって様々な解釈が可能です。

 

「穴を掘る」理由は、おそらくはひろし本人にもわかっていない(訳知り顔の父親にも、たぶんわかっていない)。

その割に、ひろしは汗をかき、手に豆ができるほどに頑張ってスコップを振るいます。

 

普通に考えれば、彼の労力の先には「無」しかない。

穴を掘ることで報酬がもらえるわけでも、誰かに認められるわけでもない。

でも、それ故にひろしの努力は純粋です。

その純粋さを守るために、ひろしは妹の手伝いや「おいけに しようよ」という提案を拒絶します。

さらには、最後に穴を埋めることで、ひろしの「無償の行為」は完全化されるのです。

 

現代社会では、「無」に向かっての行為など理解されないばかりか、下手をすると憎悪の対象にすらなります。

「コスパ」という言葉が表しているように、どんな行為にも「費用対効果」をまず考えることが常識となっているからです。

 

それ自体は別に悪いことではありませんが、あまりにもそうした思考に慣れすぎると、自分の中にある純粋な衝動を感じ取れなくなります。

「何の役に立つのか」という疑問を立てる前にただ行動する、その純粋さの先にあるものが、

あなのなかから みる そらは、いつもより もっと あおく もっと たかく おもえた

という光景です。

 

これは、見ようと思って見られるものではありません。

見返りや期待や打算を飛び越えて行動した者だけが辿り着くことのできる視座なのです。

 

これは、子育てに関しても当てはまることです。

子どもの教育に熱心な親は大勢いますが、彼らは将来的に子どもが思うように育たなかった時、後悔したり恨んだりしないでしょうか。

 

けれども、本当に見返りを期待せずに子どものために行動した者は、最終的には子どもに左右されることのない、自分の人生を手に入れるはずだと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

穴だけに深い度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「やっぱりおおかみ」【196冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

個性豊かな絵本作家たちの中でも、一際異彩を放つ佐々木マキさん。

作家・村上春樹氏が彼を「永遠の天才少年」と称し、自身の初めての小説のイラストを依頼したことでも知られています。

 

そんな佐々木マキさん、長新太さんや馬場のぼるさんと同じく、前身は漫画家。

「ガロ」という雑誌に、他の追随を許さぬほどに前衛的・実験的な作品を発表していました。

 

「コマとコマの間に関連性がない」漫画、それでいて全体を通して読むとひとつのまとまりが感じられる、詩のような音楽のような漫画は、「難解だ」「漫画ではない」と批判される一方、熱狂的なファンも獲得しました。

 

そんな佐々木さんが、「こどものとも」編集長の松居直さんの薦めによって初めて描いた絵本が、今回紹介する「やっぱりおおかみ」です。

作・絵:佐々木マキ

出版社:福音館書店

発行日:1977年4月1日(こどものとも傑作集)

 

以前から絵本の上質な印刷を羨ましく感じていた佐々木さんは、松居さんの依頼に応じます。

この真っ黒なシルエットおおかみは、佐々木さんが「ガロ」1968年8月号に掲載した「セブンティーン」や、同じく9月に発表した「まちのうま」に登場したキャラクターです。

 

松居さんが「このおおかみを主人公に、絵本が描けませんか」と提案したそうです。

そして絵本を作ったことのない佐々木さんに、松居さんは「こういう絵本があります」と、モーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を紹介しました。

 

コマ割りやフキダシなどのコミック・スタイルを取り入れた「まよなかのだいどころ」を読んで、こういうやり方もあるのなら、自分にも絵本が描けるかもしれないと、佐々木さんは創作を開始しました。

 

≫絵本の紹介「まよなかのだいどころ」

 

そして完成したのが、「やっぱりおおかみ」。

佐々木さんの個性が思い切り発揮された、それまでの絵本の枠組みを越えた作品でした。

その内容に「子どもらしくない」との声が(予想通り)多く寄せられたものの、子どもたちには好意を持って受け入れられたのでした。

 

いっぴきだけ いきのこって いた」子どものおおかみが、仲間を探して孤独に街をうろつく、という物語。

兎の町、豚の町、鹿の町などをさまようおおかみ。

 

どこへ行っても怖がられ、避けられます。

おおかみは、ひとこと「」と、フキダシで発します。

この「け」という言葉も、味わい深いものです。

強がり、諦め、侮蔑、寂しさ……様々な感情を含んでおり、同時に「け」という音でしかないとも取れます。

 

おれに にたこは いないかな

と彷徨い続け、

おれに にたこは いないんだ

と悟るおおかみの、壮絶とも言える孤独。

 

しかし、その認識は、むしろおおかみを「なんだかふしぎに ゆかいな きもち」にさせるのです。

飛んでいく気球を見ながら「」と呟くおおかみ。

この「」は今までの「」とはまた違った意味合いを感じさせます。

 

★      ★      ★

 

悩んだ先にある、これまでと違う景色。

確かに子ども向けとは言えないかもしれません。

 

でも、子どもも大人も、絵本の内容すべてを理解しなければならないわけではありません。

大切なのは心に何かが残ることです。

 

「自由」とひとは簡単に口にしますが、本当に精神的に自由なひとは、そういるわけではありません。

自由な表現を試みれば、それは大抵の場合理解されず、時には批難されたりします。

自由であることは、「個」になることを意味します。

 

やっぱり おれは おおかみだもんな

おおかみとして いきるしかないよ

 

というおおかみの言葉は、常識の枠を飛び越えるような作品を描き続けた佐々木さん自身の声なのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うさぎの目が怖い度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「フレデリック」【193冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はレオ・レオニさんの作品の中でも「スイミー」に並んで人気の高い「フレデリック ちょっとかわったのねずみのはなし」を紹介します。

作・絵:レオ・レオニ

訳:谷川俊太郎

出版社:好学社

発行日:1969年

 

有名な絵本ですから、内容もご存知の方が多いでしょう。

これもまた、レオニさんらしい哲学的物語です(そのせいで一部の読者からは敬遠されたりもしてるようですが)。

 

なじみ深い「アリとキリギリス」っぽい寓話ですが、レオニさん特有の視点により、結末は180度違います。

 

石垣の中の隠れ家で暮らす野ねずみたち。

冬に備えて、野ねずみたちはせっせと食料を運び込みます。

けれど、「ちょっとかわった」野ねずみのフレデリックだけは、全然働かずに座り込んでぼーっとしています。

どうして きみは はたらかないの?

仲間たちに尋ねられて、

さむくて くらい ふゆの ひの ために、ぼくは おひさまの ひかりを あつめてるんだ

とフレデリック。

 

仲間たちにはフレデリックの言っていることが理解できません。

その後もフレデリックは働かずに、

いろを あつめてるのさ

ことばを あつめてるんだ

そんなフレデリックに、忙しく働く仲間たちは少々腹を立て始めます。

 

やがて冬が来て、野ねずみたちは隠れ家にこもります。

はじめのうちは暖かく、食べ物もたくさんあり、話も弾み、楽しく過ごします。

 

けれどやがて食料は尽き、寒さに凍え、口数も減っていきます。

そんな時、仲間たちはフレデリックが集めたもののことを思い出します。

きみが あつめた ものは、いったい どう なったんだい、フレデリック

 

そこでフレデリックは、お日さまの話を始めます。

すると、不思議に野ねずみたちは体が暖かくなってくるのを感じます。

色についてフレデリックが話すと、仲間たちははっきりと色どりを心に感じます。

フレデリックが四季についての詩を紡ぐと、仲間たちは拍手喝采。

おどろいたなあ、フレデリック。きみって しじんじゃ ないか!

みんなに言われて、フレデリックは恥ずかしそうに、

そう いう わけさ

 

★      ★      ★

 

コミュニティにおける異端者が、最終的にコミュニティを救う」というこのお話は、レオニさんが好んで使う物語形式です。

フレデリックのような「変わり者」が一定数含まれているほうが、社会集団としては健全であるということです。

 

それは様々な思想や価値観を互いに尊重し合う、多様性を認める寛容な社会を意味しています。

ファシズムと戦い続けた思想家であるレオニさんだからこそのメッセージでしょう。

 

また、この作品のもう一つのテーマとして「芸術家の持つ役割」というものがあります。

「飯の種」をせっせと運ぶ働き者の野ねずみたちは社会経済を担っています。

それは生きるために必要なことですが、「人はパンのみに生きるにあらず」。

詩人・画家・音楽家・作家などの芸術家たちは、人の精神生活を豊かにします。

 

しかしながら、経済発展至上主義の時代にあっては、精神生活の重要性は忘れ去られがちです。

そして芸術を「しょせんは娯楽」と軽んじ、文化を「金になるか、ならないか」のものさしで量ろうとします。

 

もう一つのテーマ、と書きましたが、「多様性を認めないファシズム」と「文化の軽視」は実はセットになっています。

独裁的な権力者は、多様な文化を好みません。

人権の軽視、差別の推進、企業の保護、メディアコントロール、軍事優先、犯罪の厳罰化なども同様です。

 

ファシズムやマッカーシズムは、遠い過去の出来事ではありません。

それらの怨念は社会の至る所に身を潜め、常に復権の機会を伺っています。

彼らはまず、フレデリックのような者を排除することを志向します。

 

私たちの社会をふと見回し、「フレデリックがいない」ことに気づいたとしたら、その時にはすでに遅いかもしれません。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

シャイな表情が素敵度:☆☆☆☆☆

 

関連記事≫絵本の紹介「スイミー」

 

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【絵本の紹介】「ひろしまのピカ」【167冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

1945年8月6日、人類が初めて原子力爆弾を落とし、落とされた日。

その時の様子を記録した絵本を紹介します。

ひろしまのピカ」。

作・絵:丸木俊

出版社:小峰書店

発行日:1980年6月25日

 

私が子どものころ、様々な形で「戦争の悲惨さ」を説かれました。

中でも、あまりの恐ろしさに気が変になりそうだったのは、「ピカドン」と称される原爆の話でした。

 

目玉が飛び出し、皮膚が灼け崩れ、水を求めて彷徨う人々の群れ。

その地獄は確かに存在し、そしていつ我が身に降ってくるかわからない。

 

あの頃、私は果てしない恐怖と無力感を持って空を見上げていました。

 

この絵本も、子どもの私はとても読むことができず、表紙絵を見ただけで吐き気を覚えて目を背けたものです。

 

大人になってから改めて読んでみても、その内容は非常にリアルで凄惨です。

7歳のみいちゃん。

一家の団欒を突如として崩壊させたのは、原爆の強烈な光線でした。

炎の中、逃げ惑う人々。

死んだ赤子を抱く母親。

翼の燃えたつばめ。

折り重なる死体。

みいちゃんは4日間もお箸を握ったままでした。

指が離れないのです。

 

髪をかき分けると、ガラスの破片が出てきます。

そして、身体の成長は7歳のまま止まってしまいます。

 

残酷すぎる現実を描き続けた最後の一文が胸に刺さります。

ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん

 

★      ★      ★

 

そんなに昔の話ではないのです。

この非人間的状態は、この日本で、実際に起きたことなのです。

 

「忘れてはいけない」

と、多くの人々が戦争の無残さ、愚かしさ、原爆の恐ろしさ、非道さを説いてきました。

 

しかしそれでも、人はこの現実を遠い世界のことのように、記号化して考えるようになっていってるのではないでしょうか。

 

日本は核兵器禁止条約に「反対」しました。

 

これがこの国の現状なのです。

 

この問題を考えるとき、私は行き場のない怒りを覚えます。

それは大人に対する怒りです。

 

戦争を起こすのは大人であり、武器を作るのは大人であり、それを罪のない子どもに向けて使用するのも大人です。

 

アメリカは北朝鮮の核開発を批判しているけれど、自分は核を手放すつもりはありません。

そして日本はその姿勢を支持している。

 

そういう大人の身勝手を、ごまかしを、子どもは見ているのです。

一体どの口で、「戦争はいけないよ」と子どもに言うつもりなのでしょうか。

 

この絵本は、大人こそが読むべきです。

子どもは何も悪くありません。

いつだって、悪いのは大人なのです。

 

大人の醜悪さは、想像力の欠如という形を取って現れます。

ここに描かれている惨状を、慟哭を、苦痛を、悲嘆を、現実のものとして感じることのできない想像力の貧しさが、過ちを繰り返させるのです。

 

自分で自分のことを「リアリスト」だと思っている大人たちが、その空疎な想像力で描いた「戦争状態」を、まるで待ち望んでいるかのような言動を取るのです。

 

我々親にできることは、そういう大人をこれ以上増やさないことです。

 

とりあえず、私は家に帰って子どもに絵本を読んであげることにします。

 

推奨年齢:9歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

重さ度:☆☆☆☆☆

 

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